八卦は未来を占う

ヒタク

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一章 遭遇⑪

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「たっだいまー」

 千歳が俺の家の扉を開きながら挨拶をする。そこには他人の家に来るようなよそよそしさは全くなく、自身の家に帰ってきたような気軽さがあった。靴を適当に脱ぎ捨てて家の中に上がる千歳。
 声に反応するかのように家の中からパタパタとスリッパで歩く音が聞こえてきた。

 すでに学校から帰っていたらしく、私服に着替えていた雫が俺たちを出迎えに来てくれたようだ。雫は千歳の靴を脱ぎ散らかした玄関を見るなり、呆れたような顔をした。

「全く。千歳さんはいつもそうですね」

「千歳さんなんてよそよそしいじゃない、雫ちゃん! 私のことは愛を込めて、なーさんとかちーちゃんとか呼んでよ! いや、むしろお姉ちゃんって言いなさい!」

 千歳はにひひと笑っている。それを見ていた雫はまたもや呆れた顔をしていたが、先ほどと違って嬉しそうでもあった。口では呆れたように言っていても、千歳と一緒にいるだけで嬉しいのだろう。
 雫が千歳の靴を丁寧に玄関へ並べ直している間に千歳は中へ入っていく。
 その様子を後ろから見ていた俺もただいま、と雫に言うと家の中へ入っていった。



 俺の家は二階建てだ。一階にリビングとキッチンと両親の部屋。二階には俺の部屋と雫の部屋と物置にしている部屋がある。

 周りの家と比べるとちょっと大きなこの家のリビングで俺と千歳はくつろいでいた。雫は千歳が早くご飯を食べたい、と急かしたためにキッチンで料理を作っている。エプロンを身に着け、楽しそうに料理をしている。雫のことだ。下準備は済んでいるに違いない。
 きっと、もうしばらくするとキッチンからおいしそうな匂いがしてくるだろう。

「――巷ではこの事件のことを通り魔事件と――」

 テレビからはニュースが流れている。どうやら、最近起きた事件を流しているようだった。

「物騒だねぇ」

 眺めていた千歳が呟く。起こっている場所が俺たちの住んでいる町と離れているためにあまり気にしていないようだ。
 俺もよほど事件が近くなければ心配にならないのだから、千歳と似たようなものだった。

「圭くんは最近変な出来事とかに遭ってない?」

「変な出来事? ……別に遭っていないよ」

「ふーん」

 聞いてはみたが、あまり興味はないようだ。適当に口にした話題だったのだろう。
 一瞬、八卦のことを思い出し、口ごもってしまったが千歳には気づかれなかったようだ。
 ソファで寝転がっていた千歳は自身の足をバタバタとさせる。顔が少しにやけた。何か悪戯を考えた時の子供みたいな顔だった。

「……で、圭くんは八卦ちゃんのことどう思ってるのかな?」

「ど、どうって言われても……」

 急に言われて返答に困った。今日、転校してきたばかりの八卦にさほど思うところはなかった。しいて言えば、変わっているやつとの認識があるぐらいか。

「うーん。なんかあるでしょ? 可愛い子だったとか、放っては置けない子だったとか。色々とさ! 正直、八卦ちゃんは私から見てもかなり印象強い子だったし!」

「うーん。そうだなあ」

 俺が考え込む様子を見た千歳は身を少し乗り出した。目があからさまに私は興味を持っていますと語っていた。

「まだ会って間もないから何とも言えないけど」

「けど?」

「変な奴って印象が強いかなぁ」

「……ふーん。他には?」

「別にないかなぁ」

 一気に興味を失っていく千歳。しかし、同時にうれしそうな表情も浮かべていた。俺の方を見ていた体勢をちょうど逆向きになるように動き、自らの顔をソファに押し付ける。
 そして、ひとしきりもごもごと何か言うと顔を上げ、俺の方を見た。

「じゃ、じゃあ、圭くんはその子のことを好きなんてことはないんだねっ?」

「……へ?」

「あ、い、いや! 何でもない!」

 顔を真っ赤に染め、両手を目の前で大きく振る千歳。そんな様子を見て、訳が分からなかった俺は首を傾げた。

「兄さん、千歳さん。料理ができましたよ」

 そんな時、雫の声がキッチンから聞こえた。その声に千歳が飛びつく。

「待ってましたぁ!」

 さっきまでの慌てぶりが嘘のように雫の元へ向かい、配膳を手伝い始めた。
 そんな千歳の様子を見て、俺はもう一度首を傾げた。
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