八卦は未来を占う

ヒタク

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三章 事件③

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「本当にごめんなさいでした!」

 家に着いた俺たちに向かって言った夢の第一声がそれだった。

「え? いったい、どうしたの?」

 困惑する千歳に謝り続ける夢。
 よほど千歳に罪悪感がたまっていたのだろう。

「圭、お前は知ってるんだろう?」

「あ、ああ」

 こうなっては仕方がない。
 寛太に促された俺は、夢の謝罪を聞きつつ千歳の猫について説明した。
 話を聞き終えた千歳は黙っていた。
 その沈黙がいったい何を考えているのか。

 俺は不安になった。

 もし、千歳が夢のことを強く責めたら。
 もし、千歳が夢のことを許せなかったら。
 もし、千歳が夢を嫌うことになってしまったら。

 俺はきっと夢と千歳の仲を戻そうと奮闘するだろう。夢は妹のような存在だし、千歳もまた小さいころから一緒に育ってきた家族のようなものなのだから。
 そこまで考えた俺は思い出した。
 先に来ているはずの雫は一体どうしたのだろう。近くを見回しても姿は見えなかった。

「馬鹿ね……」

 千歳が夢に向かって言う。

「え……?」

「確かにみぃちゃんは大切だよ。何かあったら私は心配でたまらないと思う」

 でもね、と千歳は続けて言った。

「夢ちゃんのことも同じぐらい、いやそれ以上に心配していたんだよ。それにみぃちゃんも助かったじゃない」

「――っ! でも、それは結果的にそうなっただけ――」

「いいのよ。夢ちゃんは気にしなくてもいいの」

「で、でも、私のせいで――」

 また自分を責めようとした夢を千歳が胸に抱いた。

「大丈夫。だから、もう自分のことは責めないで」

「……ふぇ」

 我慢が出来なくなったのだろう。夢は小さな声で泣き始めた。そんな夢を千歳は優しく頭を撫で続けた。
 俺はその光景を見て、頬を掻いた。
 千歳が夢を嫌うはずがなかったのだ。千歳が夢を大事にしていたことを知っていたのに何を心配していたのだろう。

「ちょっといいか」

「なんだ?」

 何故か寛太が俺の腕をつかみ、千歳たちから少し離れた場所へ移動した。
 いったいどうしたのだろう。俺がそう思うほどに寛太は真剣な顔をしていた。

「さっきの話を聞いたが、本当に八卦さんが解決したのか?」

「ああ、そうだよ」

 俺の言葉に寛太は目を閉じ、何かを考えるような仕草をした。

「それがどうしたんだよ」

「ああ……。俺が女子の情報を集めていることは知っているよな?」

 俺は頷いた。寛太が女子にモテたいあまりに色々な情報を探っていることは知っている。集めすぎて女子に引かれていることも知っている。

「実はその集めていた情報の中に八卦さんの情報もあったんだ」

 八卦に会う前に寛太が騒いでいたことを思い出した。

「それでな。俺が集めた情報によると、八卦さんは今までに夢ちゃんのような現象に何度も関わっているんだよ」

「……こんなおかしなことが他にも起きていたのか」

 確かに八卦の言う通りなら、穢れのバランスが崩れることによってこんな出来事が起こるのは分かる。
 しかし、同時に八卦は言っていたはず。
 穢れのバランスが乱れるなんてことはめったに起こらない、と。

「八卦さんは少なくとも五回はこんな現象に関わっているらしい。そして、俺が驚いたのは、どの現象も八卦さんが引き起こした、と言われていることなんだ」

「八卦が、引き起こした……?」

「ああ。だから、お前から八卦さんによって現象を解決された、と聞いた時に正直信じられない気持ちでいっぱいだったんだ。俺の予想が正しければ、今回もまた八卦さんによって引き起こされているんだからな」

「…………」

 正直、信じたくなかった。
 八卦に夢を助けてもらったことは事実なのだから。
 しかし、今までにあることさえ知らなかった現象が、八卦が来てから起こった。そのことが俺に一抹の不安を与えていた。

「それとな。調べていく中で信じられないことが分かったんだよ」

「何があったって言うんだ……?」

 寛太は言うのを戸惑っている。それほどまでに信じられないことなのだろうか。

「八卦さんが関わった現象では被害がどんどん大きくなっているみたいなんだ。そして、一番最近の現象ではとうとう死人も出たらしい」

「――ッ!」

 それを聞いて俺は思い出してしまった。

『――あなたには死が見えたから……』

 初めて八卦に会ったときに言われた言葉を。その時はまるで信じていなかった。
 しかし、寛太が教えてくれた情報が言葉の信憑性を高めていた。

(……俺は死ぬ、のか……?)

 目の前の光景が音を立てて崩れていくような気がする。

「お、おい! 大丈夫か、圭!」

「あ、ああ」

 倒れる寸前で寛太に声をかけられ、俺は何とか踏みとどまった。

「……もしかして、お前は何か聞いているのか?」

「いや、何も聞いていないさ。ただ、死人が出ているなんてことに気が遠くなっただけだ」

「……そうか」

 俺は黙っておくことに決めた。言ったとしても無駄に心配させてしまうだけだ。そもそも今までに死人が出たことがあったとはいっても、今回も死人が出るとは限らないのだから。
 そして、何より八卦は言っていたではないか。

 未来が決まっていたとしたら何をする、と。
 その時に俺は何て答えたか。もしも本当に俺の運命が決まっていたとしても、それこそ俺は未来を変えるために行動すべきなのではないか。

「……絶対に乗り越えてやる」

「何か言ったか?」

 つい声を漏らしてしまったために寛太がこちらを不思議そうに見ていた。
 そんな時、血相を変えた雫が駆けてきた。

「兄さん!」

「どうしたんだよ?」

 かなり急いでいたのだろう。息を荒々しく吐いている雫の背をさすり、ひとまず落ち着かせる。しばらくすると雫は息を整えられたようで、口を開いた。

「八卦さんが刺されたとのことです!」

 雫の言葉に千歳が息を飲んだ。

「なっ! そもそも八卦は体調が悪くて家にいるはずだろ! 今日はそれで学校を休んでいるはずだ!」

「それなんですが……。ちょっと聞きたいのですが、昨日本当にお兄さんは八卦さんと一緒にいたんですよね?」

「ああ。確かに昨日は一緒にいたぞ」

 八卦がいてくれたおかげで夢が助かったことを思い出しつつ、俺は言った。

「私が聞いた話では昨日の夜に刺されたらしいんです。兄さんは何か知りませんか?」

「昨日の夜……?」

 俺と別れた後に八卦は事件に巻き込まれたということだろう。
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