夏に一人の猫がいた

神酒 佐久良

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パンチラ

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「あっち~」

 颯太は、自分の部屋で夏休みの宿題をしていた。
 トントン
 誰かが、部屋の扉をノックした。

「入っていいか?」

「どうぞ……」

 力が抜けてしまったかのような応答をした。

「元気か颯太?」

「諒助、これが元気に見えるか……」

「ん~? 元気そうで何よりだ」

 と、笑顔で答えた。
 つかさず、颯太は――、

「元気じゃねぇよ……」

 と、だるそうに突っ込みを入れる。

 颯太の部屋に入ってきたのは、同じクラスの堺諒助。
 諒助は、家庭内暴力から逃げて一人で生活していた。そのときに、ファミレスでバイトをして生活費を稼いでいた。寮内では、料理当番をしている。

「お前の部屋、今エアコン壊れているからな」

「ああ、だから部屋の中サウナみたいだ」

「新しいエアコンいつ届くん?」

「明後日に来るらしい」

「明後日か、なら俺の部屋で勉強するか?」

 と、諒助は颯太を、自分の部屋に誘った。

「マジで、いいのか⁉」

「いいよ」

 さらに、颯太は諒助に――、

「ついでに、勉強教えて」

「ああ、いいよ」

「ありがとう諒助」

 そう言い、二人は102号室に向かった。
 すると――、

「私にも、勉強教えて」

 と、階段の上の方から声がしたため、二人は、階段を見る。
 そこには、珍しくスカートをはいている、美波が立っていた。
 すると、

「受け止めてね」

 そう言って、いきなり二人の方に向かって飛び込んできた。

「……はぁ⁉」

 二人は、いきなりのことで動揺する。
 しかし、颯太は、目を大きくし、顔を真っ赤にした。

「しっ、しろ!」

 反射的に、言ってはいけないことを言ってしまった。
 美波は、顔を真っ赤にした。

「バカ~~!」

 と、強く言い放った。
 そして、とんだ勢いのまま、颯太の顔めがけて、思いっきりけりを入れた。
 颯太は、蹴られた勢いで吹っ飛んだ。
 きれいに着地した美波は、倒れた颯太の方を見た。

「……変態」

 つかさず諒助も、

「自業自得だな、颯太」

 そう言い残した二人は、102号室に入って行った。
 颯太は、気を失った。

「ただいま」

 そう言って、誰かが帰ってきた。
 誰の声もせず、静かであった。
 中に入って、辺りを見渡した。
 すると、倒れている颯太に気が付いた。

「長谷君、大丈夫?」

 と言いながら、近づいて体をゆする。
 颯太は、目を覚ました。

「……ああ、おかえり北川」

 彼女は、北川鈴で、201号室の住人で、中学三年のときに、両親を事故で亡くして、祖父も祖母も、すでに他界していたため、生活が苦しかったころに、この学校の事を知って入学を決意した。

 颯太は、体を起こす。

「大丈夫なの?」

「少し顔が痛い」

「冷やそうか?」

「そんなに痛くはないよ」

「そう? それならよかった」

 そう言い、鈴は胸を撫で下した。
 そういうやり取りをしながら、颯太は玄関の方を見た。
 すると、玄関からオレンジ色の光が差し込んでいた。

「えっ、もう夕方⁉」

「うん、もう六時過ぎだよ」

 颯太は、気絶してから五時間ほどたっていたのだ。

「今日一日、宿題ほとんどできなかった……」

 そう告げる颯太に、

「夜にやれば」

 と、鈴が言った。

「いや、今からする」

 そう告げた途端、颯太の腹が鳴った。

(長谷君、意外とかわいいかも)

 鈴が、少し笑いながら、

「今からする?」

 と、からかうように言った。
 颯太は、少し顔を赤くしながら、

「夜からします」

 そう言って、自分の部屋に帰った。
 鈴も、自分の部屋に帰って行った。
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