夏に一人の猫がいた

神酒 佐久良

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ラジオ体操

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 午前五時、颯太はまだ寝ていた。
 すると――、

「起きろ~」

 と、美波が、颯太の寝ているベッドに向かって、飛び込んだ。

「な、なんだ⁉」

 突然のことで、驚いた。

「早く起きなよ」

「美波か、びっくりしたな~」

「そんなこといいから、早く起きて」

「なんで?」

「理由は後で話すから、早く着替えて」

 そう言いながら、颯太のズボンを引っ張る。

「引っ張るな、大事なものが見えるから!」

「私は、気にしないから」

「俺が気にするは~!」

 美波が、ズボンを脱がせた。
 颯太は、顔を赤くした。

「……変態」

 と、つぶやいた美波に――。

「お前が言うな!」

 と、突っ込んだ。
 颯太は美波を、部屋から追い出して着替えた。
 着替え終わって、部屋を出た。

「で、なんでこんなに早く起こす?」

 美波を見て、颯太は問う。

「夏の朝だよ」
「どういうこと?」

「ラジオ体操だよ、ラジオ体操」

「そういう事か」

 颯太は、ようやく早く起こされた、理由を知った。

「それじゃ~、レッツゴ~」

「……って、俺だけ?」

「そうだよ」

「なんで、俺だけなんだよ!」

「みんな、前に誘ったときに、断られたから」

 美波は、少し落ち込みながら言った。

「はぁ……、わかった、一緒に行くよ」

「ありがと~颯太」

 そう言って、二人は近くの公園へ向かった。

「そういえば、ラジオ体操なんて久しぶりだな」

「そうなん、実は私もなんだ」

「えっ、じゃあなんで行く」

 と、颯太は突っ込んだ。

「だって、今年の夏は、いっぱい楽しみたいから」

「なんで?」

「今までより、学校生活が楽しいから」

「そうだな、確かに、この高校に入ってから楽しい事ばかりだからな」

 と、話しているうちに公園に付いた。
 子供たちがたくさんいた。

「ついた~」

 美波が、縮まった羽を伸ばすように言った。
 二人は少し休憩してから、子供たちが並んでいる後ろに並んだ。

「ラジオ体操第一――」

 と、ラジオから声と歌が流れ出した。
 二人は、ラジオ体操第二までして、公園のベンチに座る。
 子供や、その親は終わり次第、家に帰って行った。
 美波が急に、

「両親って、なんで選べないだろう?」

 颯太は、驚いたが、

「確かに、なんで選べないだろうな」

 と、答えた。
 すると、美波が、我に返って、

「あっ、ごめん変なこと言って」

「大丈夫、でも急にどうした?」

「えっ……、それは……」

 美波が、うつむいた。

「言いたくなかったら、別に言わなくてもいいよ」

 颯太が、そう言いながら立ち上がる。

「誰にも言わないって、約束するなら……」

 と、言いながら、颯太の服をつかむ。

「ああ、誰にも言わないよ」

 そう言いながら、颯太は、もう一度ベンチに座る。

「実は、私の母親って、離婚してから生活が苦しくて、仕事ばかりするようになって、過労で倒れたのよ」

「えっ……」

 颯太は、驚きを隠せなかった。

「でも、初めて倒れた時は、休めばすぐ回復していたけど、それが続いたせいで、過労で亡くなったの」

「初めて会ったとき、そんなこと言って無かったよな」

「うん、心配かけたくなかったから、嘘をついていたのよ」

「そうだったんだ」

「だけど、この間引き取りたいっていう人がいて、私その人と会ってきたの」

「もしかして、スカートはいていたのって……」

「そうだよ。あの時、午前中にあってきたの、でも、あの人怖かったのよ」

「どうして?」

「トイレに連れて行かれて、その人が、本当の姿を見せたのよ。その時、すごく怖くて、逆らえなかったの」

 そう言いながら、その時のことを思い出して、涙を流した。

「大丈夫か⁉」

「う、うん。今は大丈夫」

 颯太は、一瞬ホッとした。

「そうか。それで、いつ引き取られる予定なん?」

「今のところ、来年には転校することになっている」

「高校卒業までに引き延ばせないのか?」

「うん、引き取り手の人が、すぐにでも引き取りたいと言っているから」

「そんなの、絶対だめだ!」

 と言いながら、颯太は立ち上がった。

「えっ」

 美波は、びっくりして顔を上げた。

「本人の気持ちも考えずに、勝手に決めるなんてダメに決まってる」

「それは、そうだけど……」

「みんなに相談して、一緒に考えよ」

「で、でも……、あまり心配かけたくないし」

 美波は、またうつむいた。

「友達だから、迷惑かけあっても普通だろ」

「そうなの……?」

「ああ、助け合ってこそ、友達だろ」

 そう言って、美波に、手を伸ばす。

「ありがとう颯太」

 と、うれし涙を流しながら、笑って手を握った。
 二人は、急いでカツラ荘に帰った。
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