俺の前世が『あやかしの秘宝を奪って人間に転生逃亡した戦闘狂の鬼』と言われても、全く記憶がございません!

紫月花おり

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序章

第9話 俺は俺らしく!!?

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 公園からの帰り道──三体の人形の結界に閉じ込められた俺。
 結界から脱出することも、反撃するどころか逃げることも出来ないまま、腕を負傷し命の危機にさらされている。
 ……というか、もう絶体絶命だ!

 ただそこに立っていることで精一杯の俺。
 残酷な笑みをうかべる人形たち──。

『何を弱気なことを言っている? その位の傷で……』

 呆れたようにそう言う白叡に、俺はあえて叫びたい……!
 “その位だろうが何だろうが、痛いもんは痛いんだよッ!!”
 と。

 ……いや、心の中で叫んだだけでも十分白叡には聞こえているはずだが。

 そんな俺らのやり取りなんて知る由もない人形たちは、俺の周りを旋回するのを止め、動きを止める。
 そして、日本人形がクスクス笑いながら、俺を見下ろし……

「紅牙ァ~早く言っちゃいなヨ~? 今言えば、まだ楽に殺してあげんヨ??」

 ──結局、答えた…答えられたとしたって、俺には死が待っている!!?

 それでも、知らないものは答えようがない。
 そう言っても見逃してはくれないだろうけど。

 ……俺は、どうしたらいい?
 このまま大人しく殺される?

 いや、それは嫌だ!
 絶対に嫌だ……!!

 傷の痛みに耐えつつ……俺は黙ったまま、人形たちを(弱気ながらも)見上げるように睨みつけた……!

 ──しかし
 俺が睨みつけたところで……怯むような人形妖怪たちではない。

 むしろ、逆効果……か?

 そんな考えがふとよぎった時、

「──……反抗的な目だな。……どうしても言わないつもりか? 貴様」

 フランス人形が苛立ちと怒りを滲ませつつそう言うと、とうとう今まで無言だったうさぎが口を開いた……!

「──どうやら楽に死ぬ気はないようだね。まぁ、その方が丁度良い──じっくりと…いたぶって……殺してあげるよ」

 低くて艶やかな声──そして、造りこそ可愛らしいが小汚いうさぎのぬいぐるみ……とは思えないS的セリフ!!

 ──やはり、逆効果だった。

 どうやら俺は火に油を注いでしまったようだ。
 しかも、何か別のスイッチまで入れてしまったかもしれない……!?

 恐怖と悪寒を覚えた俺。
 それを見て、このSうさぎは残酷な笑みをうかべている!

 ──……最悪だ。いろんな意味で。

「恐怖と絶望に染め上げてあげるよ……それが私の至高の悦び……ッ!!」

 Sうさぎは高らかにそう言い放ったが……
 お前のは“至高”というか……“嗜好”だろ?

 だが、俺はそのツッコミをぐっと我慢するしかなかった。

 そして、残酷な笑みをうかべたままのSうさぎの前には……まるでナイフのような光がいくつも出現した!!

 もちろん、その鋭い切っ先は俺に向けられ、いつ飛んできてもおかしくはない。
 そして、他二体も同様に光のナイフを出現させている……!?

 このままでは、俺は切り刻まれて……!??

 いやいやいや……ッ
 Sうさぎはもちろん、他二体まで悦らせる気はないぞ!!

 だけど……は、避けられそうにない。
 いつ、どこから飛んでくるかすらも分からない。

 容易に出来た、俺の死亡予想図──!?

 ──ッ!
 もう……
 もうダメだよッ
 ……助けてくれ!!
 白叡!!

 ──……ツナ缶あげるからッ!!!

『…………まぁ、これは今のお前じゃ……無理だな』

「!!」

 ツナ缶報酬が効いたのだろうか、ぼそりと聞こえた白叡の溜め息混じりな声……!
 だが、同時に俺目掛け光のナイフが次々に飛んできた!!

 俺には絶対に避けることなんて出来ないスピード。
 しかもこの数は、たとえ俺が俊敏だとしても避けようがない!?

 人形たちから放たれた光のナイフは、ものすごい勢いで俺に迫る……!!

 俺まであとほんの数ミリ……!
 もう刺さるッ!!?

 命の危機に、まるでスローモーションのように見えた視界……──その時だった。

 ポゥ……

「……え??」

 俺の体から淡い光が──!?

 次第に増す光に、迫る光のナイフ──!
 だが……

 パシィ…ッ!

「!?」

 人形たちから放たれた光のナイフが、この光に触れ……次々に砕け散った!!

「何ッ!??」

 人形たちも驚きを隠せずにいるが、俺も十分驚いている。
 ……どうやら、間一髪で間に合ったのか!?

 まるで、バリアのように俺を守っている光──……もちろん、白叡のおかげ。

 だが、人形たちがこれで諦めるわけがない!

 さらに出現した光のナイフ……!
 その数は先ほどよりはるかに多い!
 そして、息も着かせぬ勢いで次々に飛んでくる!!

 ──だが、それでも。
 人形たちの攻撃はバリアを破ることも出来ず、俺まで届くことなく……すべて砕け散っていく。

 やがて──……人形たちの顔色が変わった。

「……やってくれるじゃない?」

「──流石は紅牙……姿でもこの妖力……」

 日本人形とフランス人形が、そう忌々しそうに言うが……
 “いや、俺の力じゃないから”
 とは、言えない雰囲気……?

「──これは……殺し甲斐がある!」

 殺気のこもる声音に、妖しく光ったSうさぎの瞳……!

 明らかにヤバそうな予感??
 血の気が引くような思いでいた俺だが……白叡は黙ったまま。

 そして予想どおり、さらに最悪な事態に──…!?

「──来い!」

 Sうさぎの言葉と同時に、日本人形とフランス人形から、何か人魂(?)のような青い光の塊が出てきたかと思うと……そのままSうさぎに吸い込まれた!??

 そして、光を失い抜け殻となった二体の人形は力なく地面に落ち、黒い霧になって散っていった……──!

「……最悪だ…」

 見るからにヤバそうな雰囲気に思わず呟きがもれた俺。

 目の前には、三体の妖怪が合体したS…いや、スーパーうさぎとなったソレ。

 さらに燃え上がるような妖気(?)と殺気を放ちながら……
 俺を射抜くように見据えていた──!

 ──これは……本気で俺を殺すモード?

『……まぁ、そうだろうな。だが……一体化してくれたほうが都合がいい』

 いやいやいや……!
 俺にとっては何一つ良くないよ!?

 たとえ一体でも、パワーアップした一体ではバラの時よりはるかに厄介だぞ!??

 焦る俺に、白叡は改めて……

『……宗一郎、お前は自分の身を守ることだけ考えてろ』

 ……ッ

 その言葉は…声音こそいつもどおりだったが、どこか重いものがあった。
 どう捉えていいか分からないほどに……。

 “自分の身は自分で”
 もちろん、それが基本的なことだと分かってるけど──

『──余計なことを考えなくていいと言っている。殺られたくはないだろ?』

 そりゃあ、もちろん!
 こんなところで死ぬ気はない……!

『……なら、とにかく避けろ』

 そう念を押され、我に返った俺が改めて、スーパーうさぎに視線を戻せば……

 妖気も殺気もMAX状態──?
 もう確実に、一撃必殺の構えだ!!

 ──……こいつの攻撃を避けるのか?
 避けきれるのか??

 自分に問いかけてみても……

 ──やっぱり、無理??

 いや! 避けろ!! 俺ッ!!

 そう奮い立たせるように、俺は自分に言い聞かせた。

 だが、それとほぼ同時に、Sうさぎ…いや、大きな光の玉となったそれが俺に向ってものすごいスピードで突進してきた──!!

 迷いを捨てろ! 俺!!
 避けろッ! 俺ッ!!

 迫り来る光の玉に…避けることに全神経を集中させる──!

 ……今だッ!!

「──ッ!!!」

 俺は間一髪……かなりギリギリで身をかわした!!

 ──その瞬間。

『よくやった、宗一郎』

 白叡の声──!?
 その言葉が聞こえたのと同時に

 シュッ……

「え……?!」

 俺の左手からようやく白叡が飛び出した……!

 その間、Sうさぎは俺に攻撃を避けられ再度攻撃態勢に入ろうとしていた。
 そこへ、白叡の鋭い攻撃が──!!

 ガッ……!

 それは、高エネルギー体同士のぶつかり合い──

「なっ……!??」

 Sうさぎが吹っ飛んだ!!

 だが、すぐさま体勢を立て直そうとするSうさぎ。
 それより早く、白叡の次の一撃が……!

 ザシュ……ッ

 ──一閃。
 白叡の一撃はSうさぎの首を妖気ごと切り裂いた。

「……ま…さか……飯綱が…──??」

 驚愕した表情で、呟くように最期の言葉を残し……Sうさぎは黒い霧となって消えていった──。
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