俺の前世が『あやかしの秘宝を奪って人間に転生逃亡した戦闘狂の鬼』と言われても、全く記憶がございません!

紫月花おり

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序章

第14話 人は見かけによらない!!?

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 小さな公園の片隅で、俺と彼方(+白叡)……そして、背後からいつの間にか現れた獏の星酔。

 ゆっくりと近づいてくる……その口元にかすかな笑みをうかべている星酔とは対照的に、彼方の表情はいつもと違い、険しい。

「……宗一郎のことは…から聞いたの?」

 彼方は星酔を見据えたまま……だが、星酔は微笑むのみで何も答えようとしない。
 
 ……て、幻夜から!?
 星酔と幻夜は繋がっているのか──?

 疑問に思っても聞き返せる雰囲気は全くない。
 今あるのは、俺を挟んでの張り詰めた緊迫感!
 そして、どうしていいのか分かない俺!
 というか……俺の存在は無視されてそうなんだけど?

「星酔が何を考えてるか知らないけど……白叡にいきなり術かけてくれたみたいだね?」

 おそらく白叡からも話を聞いたのだろう。
 彼方が怒る理由は……俺と白叡に術をかけたこと?
 俺にはともかく、戦った後で疲れてただろう白叡にいきなり術をかけられたとあっては……そりゃあ、主としては怒る…よな。

 というか、いつもにこやかな彼方が怒るなんて……俺から見ててもコワイ。
 だが、その怒りの矛先…星酔は平然と、

「……だって、邪魔をするでしょう? 紅牙が記憶を取り戻すことを誰より望んでいるのは貴方のはずなのに……紅牙自身にそれを委ねるような、悠長なことを言う──相変わらずですね」

 星酔の言葉は彼方にとっては図星だ。
 だが、彼方は尚も星酔を見据えたまま。……それでも、

「私はただ──紅牙に早く思い出してもらいたいだけです」

「──何が目的?」

 彼方と星酔の視線が真っ向からぶつかり合う。
 まるで火花が見えそうな勢いだ……ッ!

 一人その間であたふたする俺。
 でも問題の根本原因も俺??

 星酔は微笑みをたたえ、黙ったまま──。
 それが余計に彼方の怒りを買いそうなんだけど??
 俺にまで一触即発感がビシビシ伝わってくるんだけど!!?

 ……その緊張した沈黙を破ったのは星酔だった。
 星酔の微笑みが苦笑に変わり、

「……まぁまぁ、天狗貴方に敵うわけないでしょう? 最初から勝負にならない……貴方とやり合う気はありませんよ」

 星酔の様子からは本当に戦う気はないようだった。
 力関係でいうと獏より天狗が上、てことか。
 まぁ、天狗は三大勢力の一つと言っていたしな。

 星酔の言葉に怒りを静める気はなさそうだったが……彼方は気を取り直すように、小さく溜め息をつくと、

「……じゃあ、何しに来たの?」

「私は宗一郎に会いに来たんですよ」

「え!? 俺??」

 やっぱり、俺なの??
 
 星酔は彼方から改めて俺に視線を移すと、まるで観察するように見つめ……

「……ですが、この様子では…やはりそう簡単には思い出してはいただけなかったようですね」

 残念そうに言う星酔。
 昨夜の夢をきっかけにどれだけ俺に変化があったか確認しにきた……てことだろうか?

 そんな……ッ
 いくら気になる映像を見たとはいえ、一晩で劇的変化するわけないだろう……!!?

 もしかして、意外とせっかちなのか?
 獏ってのんびりしてそうなのに……。

「……まぁ、またそのうちお会いしましょう」

 そう俺に向かいにっこり微笑むと、星酔の姿が霧のように消えていった──!
 ──と、それとほぼ同時。

「ここにいたのか! 彼方!!」

「え?」
「ん?」

 突然頭上から聞こえた男の声に、俺と彼方が声のした方を見上げる……と、

「……探したぞ!」

 そう言ってシュタッと着地し、その男はゆっくりと俺たちを振り返った。
 
天音あまね……!?」

 彼方が気まずそうに呟いたそいつの名前。
 その男……天音は細身の長身で、黒く長めのウルフヘアに灰色の瞳をしていた。

 というか、また妖怪出現か?
 しかも空から??
 ……もう慌てるというか、ややうんざりしてきた俺。
 
「……誰だ?」

 あちゃー…と言わんばかりの表情をうかべている彼方に、説明を促すように視線を送ってみたが……それより早く天音は至近距離で覗き込むように俺をじぃっと見ると、
 
「あぁ──お前が紅牙の?? ……本当に覚えてないのかよ?」

「……」

 聞き飽きた言葉と無遠慮な視線を浴び…たところで俺には答えようがない。
 そんな俺に、天音は盛大な溜め息をつくと、

「オレは天狗…鴉天狗の天音。紅牙とは……まぁ、友人かなぁ?」

 なんで……疑問形??
 天音の言葉に、思わず彼方に視線を移すと……苦笑をうかべて頷いた。
 どうやら、“紅牙の友人”ってことらしい。
 そして鴉天狗てことは天狗である彼方とも関係者仲間だな。探してたっぽいし。

 ──まぁ確かに“鴉天狗”と言われれば、そんな感じに見える……かもしれない。
 別に嘴があるわけではないけど、頭からつま先まで黒一色……一見ビジュアルパンクな兄ちゃんで、シルバーアクセがじゃらじゃらしてはいるけど。
 なんか……空からの登場だしな。
 
 お互いに観察するように見てしまっていたが、天音が俺に改めて確認してきた。

「紅牙のこと、覚えてないんだよな? ……とりあえず、なんて呼べばいい?」

「宗一郎だよ」

 俺が答えるより早く彼方が答え、軽く頷く天音──たぶん、悪い奴じゃなさそうな気がする。

「じゃあ改めて、よろしくな。宗一郎」

 そう笑顔で言う天音。
 怖そうな雰囲気かと思ったが意外と懐っこく笑うんだな。
 彼方の雰囲気もこいつの登場でいつもの感じに戻ったようだし……。
 だが、ホッとしたのも束の間、

「……ところで天音、何しに来たの?」

 そんな彼方の言葉に、天音は勢いよく彼方の方を振り向くと……
 
「いや、何しにじゃねぇよ! お前が軍議すっぽかしたおかげでこっちが迷惑しただろうがッ!!」

「あ~……ごめんねぇ」

 ものすごい勢いでまくし立てる天音に、全然悪びれない様子の彼方……ん?
 
「軍議?」

「あ……うん、天狗には軍があるからね」

 面倒そうに答える彼方。
 そうか、確か鬼・天狗・妖狐の三妖は敵対してるんだっけ?
 じゃあ……軍もあるのか。
 
「お前、何他人事のように……ッ! 立場を考えろよ!?」

「いやぁ……別にオレは好きでなったわけじゃないし……白叡の方が大事…」

 ……あ。
 なんか今日の俺、無視されること多いな?
 だが、とりあえず……ッ

「ちょっと待て、彼方は出なきゃ困るような立場なのか?」

 俺の問いに彼方は苦笑をうかべ、代わりに天音が溜め息混じりに……

「……コイツは天狗軍の副大将だ」

「はぁ!???」
 
 副大将だと!?
 ……てことは、軍No.2だよな?
 え? 彼方こいつが??

 驚きと疑いの眼差しを彼方に向けると……

「……まぁ、いいじゃない。そんなことは」

 にっこりそう言って……会話終了?
 何だか、にわかには信じられないことを聞いてしまった気分だ……。

 思わず言葉を失う俺。
 変わらず笑顔で何も言わない彼方。

 天音は諦めに似た溜め息を再び盛大につくと……

「──良くねぇよ。てか、次こそは出てくれよ?」

「あはは」

 念を押すように言われても、彼方は気のない笑顔でかわすのみで、けして“うん”とは言わない……!
 ──何だか天音…いや、白叡を含めて、天狗軍も彼方のマイペースぶりに苦労してそうだなぁ。

「たくッ……で、どうなんだよ? 白叡の様子は」

 不毛なやり取りを諦めた天音の問いに、
 
「……うん、まぁ大丈夫。でも、もう少し休ませないとダメっぽいかなぁ」

 そう困ったように答えた彼方。
 やっぱり……目が覚めたとはいえ、白叡には相当ダメージが?

 心配になって彼方に視線を向けると……
 
「ちょっと頑張って妖力使い過ぎたみたいだねぇ」

 彼方は苦笑でそう答えた。

 妖力アップした後だったとはいえ、Sうさぎとの戦いに引き続いて、星酔の術の影響なのかな?
 だとしたら、原因は間違いなく俺なのに……俺には何も出来ない。
 
「宗一郎は気にしなくていいよ。──でもしばらく白叡は使いモノにならないし…どうしようかねぇ」

 何気にひどい言いようだった気もするが……星酔へのキレようといい、彼方なりに心配してるんだろう。
 ……たぶん、きっと。

 すると、急に天音が俺を振り返って、

「なぁ、どうせなら……行ってみるか?」

「……へ?」

 あっち……??

「ん? ……そうだねぇ…気は進まないけど……まぁ、オレらが着いてれば平気かなぁ?」

「大丈夫だろ? 転生っていっても…… 宗一郎紅牙は紅牙だし耐えられるだろ。何ならアイツにも声かけて……」

 何? 何ッ!??
 勝手に話が俺抜きで進んでる!??
 しかも耐えられるかどうかって……?

 嫌な予感とともに慌てる俺に向かい……

「……じゃあ、宗一郎! 行ってみるか」

「幻妖界に♡」

 う……嘘だろォォォ!!???

 急遽決まった幻妖界行き!?
 俺のものすごい不安をよそに、マイペース天狗二人は笑顔で手を差し出したのだった──。
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