俺の前世が『あやかしの秘宝を奪って人間に転生逃亡した戦闘狂の鬼』と言われても、全く記憶がございません!

紫月花おり

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第一章

第25話 敵は正義のミカタ!!?

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 不安と疲労感いっぱいの中、やっとの思いで森を抜けると──…
 目の前に広がっていたのは…そびえ立つ山々だった。

「ここの山を越える方が近道だよ」

 にっこりと言う彼方。
 だが、すでに俺の体力も気力もカスカスな状態で…こんな山を越えるだなんて……
 いくら近道だとしても──
 俺にとっては試練なんてのを通り越し、壊滅的に無謀な挑戦以外の何モノでもない!
 ……無理だッ!!

 絶望しかけた俺。そこに追い討ちをかけるように、 

「まぁ……山二つくらいだから、すぐだよ」

 幻夜が…少なくとも俺にはニヤリと笑ったように見えた……!?

 なんだか、だんだん幻夜の性格も見えてきた気がする。
 ……やはり、妖怪というのはS気質が多いものなのだろうか?
 妙な納得はあるが、まぁいい──自分にその矛先が向かなければ、だが。

 もういろんな意味で凹んだ俺に、

「ゆっくりで大丈夫だよ。休み休み行こ?」

 そう言って優しく励ましてくれた篝(本性はS)。
 俺にとっては素直に、自分からは言い出しにくいことだっただけに有り難い言葉だったが、

「近道は近道だが…道自体はちょっと険しいかもな……」

 ぼそりと言った天音の言葉に嫌な予感が……?
 ……たぶん、険しくてキツいと感じるのは俺?? というか、俺だけだろ!?
 しかも、

「一応…極力ゆっくり行くつもりだが……実際、時間はあまりないということを忘れないでくれよ?」

 しっかりと幻夜に釘を刺されたのだった。 

 ──そんなわけで。
 山に入った俺たちだが…それは予想通り、俺にとって険しい道のりだった……。

 これはハイキングではなく……明らかに登山!?
 そして、行く道はいわゆる登山道ではなく、贔屓目に見ても獣道……いや、下手したらそれ以下だ。
 一応俺が歩けるように、前を行く二人が“道”にしてはくれている…のだろうが、それでも岩や石がゴロゴロしていたり、草木が生い茂っていたり──何が出てくるかも分からない。
 あの森の中とそう変わらないかもしれないが、今歩いているのは山道だ。
 それが急だろうが、なだらかだろうが…けして楽な道のりではない……!
 
 ある程度は覚悟を決めて臨んだ山道だったが……やっぱり無理があった。
 早くも挫けてきた…が、俺は何度となく転びそうになりながらも、必死に前についていくことを考え…なんとか足場を確保しながら登っていく──。
 なのに…前の二人は、ヒョイヒョイ身軽に登っているし、後ろの二人からは……どうも煽られている気がしてならない?

 一応、自分では体力や運動神経に自信はあったのだが……こいつらと関わってからはそれが大したことないのだと痛感している。
 所詮、一般人人間と比べてであって、本物の妖怪相手に通用する訳がないのだ。
 この道のりだって、こいつらにとっては大したことないかもしれないが、俺は息も苦しくなるし、足だって上がらなくなる──。

「宗一郎、大丈夫? もう少し行くと川があるから、そこで一度休憩しようね」

 ふいに俺を振り返り、優しく言った彼方。
 だが、その言葉に幻夜はチラリと…面倒そうに振り向いたが……小さく溜め息をつくと、

「……そうだね、そうしようか…」

 ──助かったぁッ!!
 どれほど面倒そう…迷惑そうに言われようが、諦めが入っていようが…先頭を行く幻夜が了承すれば休憩決定だ!!

 待ちわびた言葉に、俺が密かにホッとしていると、

「良かったね、宗一郎っ」

 コソッと篝が耳打ちしてきた。その後ろで、

「たぶん、彼方が休憩したかった……て言うか、腹減っただけだな」

 天音が苦笑をうかべ、溜め息混じりにそう付け加え…篝も同感とばかりに頷いた。
 ……まぁ、この際どんな理由であろうと、休ませてくれるなら、俺はそれでいい!
 こんな時は彼方の燃費の悪さに感謝したい気分にすらなる。

 もう限界は越えてるんだ……ッ
 “休憩”という最大の励みを得た俺は、かすかな気力と体力を必死にかき集めて歩くだけだ……!

 頑張れ、俺!
 とりあえずその川まで!!

 そう何度も自分を励まし、まだ尚続く山道を進む。
 挫けそうになるたびに、
 “もう少し、もう少し!”
 そう言い聞かせながら──。

 ……そうやって何とか歩いていた俺に、再び彼方が振り返り… 

「ほら、もう水の音が聞こえるでしょ?」

 そう言って微笑むが、改めて耳を澄ませてみても……俺には聞こえてこなかった。
 乱れた自分の息を抑えてみたって聞こえない。
 俺が正直に首を振ると、 

「……聴力はまだ戻ってないみたいだね」

 明らかに苦笑が混じった篝の言葉が、後ろから聞こえた。
 ──やはり、妖ってのは人間よりも感覚がはるかに鋭いものなんだろうな。

「ま、そのうち戻るんじゃね?」

 楽天的な天音の言葉に彼方も苦笑をうかべ、頷く。

 そんなものなんだろうか──?
 そういえば……前に白叡から、現在の俺は“妖に戻る途中”と言われ、ひどく落ち込んだんだった。
 もちろん、今だってそんなことは不本意ではあるが。 

「とりあえず、もう少しだよ! 頑張って、宗一郎」

 そう彼方はにっこりと微笑んで俺を励ますと、また歩き出した。
 俺は微妙な気分を敢えて無視し、再び自分を励ましながら……はぐれないように、その後ろを行く。 

 ──それから、どの位歩いたかは分からないが、ようやくこの耳に水の音がかすかに聞こえてくると、俺のやる気も少しではあるが復活してきた…!

「もうだいぶ近いよ。ここまでくれば、水音も聞こえてきたでしょ?」

 後ろから篝に明るく声をかけられ、俺は力強く頷いた!

 あとちょっとで川に着く!
 川に着いたら休憩できる──!!

 それが、今の俺にとって最大の活力、原動力だ…!
 流れる汗も、乱れる息も、上がらない足も……あと…あと少しの辛抱だ……ッ 

 自分を励ましつつ、何とか…無理やり歩いていた俺。
 それでも、この耳にも水音が届いてきた瞬間から、自然と早足気味(気分的には)になっている!
 次第に音が確実になっていくにつれ、俺の気持ちは辛さより“川での休憩”への期待一色になっていた。 

 そして、鬱蒼とした木々が開け…俺の目に飛び込んだのは──

「わぁ……っ」

 そう思わず感嘆の声がもれるほど、キレイな川だった。
 山の中に流れる川…つまり上流なだけあって、それほど川幅が広いわけでもないし岩が多いものの、サラサラと流れる水は澄んでいて、水深の深そうなところは青く透き通り…泳ぐ魚の群れまではっきりと見える……!

 俺が目の前に広がる大自然と川の美しさに見とれていると、

「キレイな川でしょ?」

 微笑む篝に声をかけられ、素直に頷いた。 

 こんなにキレイな川なんて……実際に見たことなんてなかった。
 少なくともは。

 これが…自然の川なのか──…

 幻妖界に来て、何度となく…自分が大自然真っ只中に居ることを実感し、改めて自然そのものの美しさと、それ以上の厳しさを学んだ気がする。 

 ──まぁ、いい。
 とりあえず休憩だ!!

 俺たちは比較的岩の少ない平らな河原で休憩することになった。
 大自然の川なんて初めての俺は…ちょっとドキドキしながら、そっと……その澄み切った水に手を入れてみる…と、 

「! 冷た…っ!?」

 その冷たさにびっくりした…が、それがまた気持ち良さそうな気もする……!?
 ふいに後ろから、

「宗一郎、ここの川の水は飲んでも大丈夫だよ」

 篝はにこやかにそう言った。 

 なら……ノドも渇いてるし…せっかくだから飲んでみるか??
 生水への不安感はあったものの、もう一度冷たいその水をすくい上げ、口へもっていく──

「…おいしい……!」

 森や山道を歩いて来たからという以前に、その水はとても冷たくて美味しかった。 
 さすが、天然水……! 幻妖界の、だが。

 とりあえずノドの渇きを潤し、軽く顔を洗って…顔を上げると、彼方が靴を脱ぎ、ズボンの裾をめくりつつ……

「……宗一郎、魚捕れる?」

「え…魚!? …つ…釣りで……なら?」

 あくまでも“たぶん”だが。
 そのくらいの気持ちで答えてみたが、

「違うよぉ、手でに決まってるじゃない」

 ──はい?
 釣りですらもたぶんなのに、手で??

「──無理だよっ!」

 そんなこと、俺に出来るはずがないだろうが……!!

「だよねぇ…」

 そう言って苦笑をうかべつつも、川に入っていく彼方…!
 まさか、本当に素手で魚を捕るつもり!?
 俺の脳裏には…熊が鮭を捕る映像が……!?

「宗一郎は、そこで休んでていいよ」

 口調だけはいつもどおりだったが、すでに狩りモードの彼方の言葉に、俺は頷いて立ち上がるしかなかった。すると、

「じゃあ、天音は木の枝ね。幻夜くんも魚よろしく」

「「はいはい…」」

 篝の指示に、天音と幻夜の返事が重なる。
 いかにも、慣れているかんじ??

「宗一郎はボクと魚焼く準備してようね」

 付け加えるようにそう言われ…俺は篝とともに、辺りにある適当な石を集め、火を起こす準備をすることになった。 
 ……その間。

 川では彼方が本当に素手で川魚を捕っていた……!

 やはり、熊が手で魚を捕るようなイメージ…に近いが、いわゆる掴み取りではなく、たぶん一瞬のうちに掴むのか弾くのか…片手で捕ってこちらへ投げてきてる!?
 そして、その少し下流の浅瀬でも幻夜があの黒い錫杖を銛がわりに魚を捕っていた。

 俺が驚いて呆然と見つめる中──見た目的な違和感はともかく、面白いくらいに魚が捕れていく…!
 二人の無駄のない動きも、見た目とのギャップもすごかったが……次々にこちらへ投げられてくる魚の数が増し、ビチビチ跳ねる魚の山が出来つつあった。 
 これはもはや魚捕り…ではなく漁? いや、乱獲??

 この二人にかかれば動きの早い川魚でもひとたまりもないな……。
 驚きと、やや呆れた気分で見ていた俺。

 ──と、その時。

「コラーッ! 貴様らぁ―ッ!!」

 どこからか聞こえてきた大きな怒鳴り声にビックリして、声のした方に視線を向けると……ん?
 川の上流から、尚も叫びながら川の中をバシャバシャ物凄い勢いでこちらへ向かってくる大男が!?

「ぁ…また出た……」

 ボソッと面倒そうに呟いた彼方。
 ……ということは、知り合いか??

 どう見ても厄介そうな気もするが……その大男は俺らのところまで来ると、

「また貴様らか!? 何度言えば分かるんだッ!!?」

 明らかに怒っている……俺たちに対して。
 怒り狂う…その2メートルを超えるその大男は、筋肉ムキムキで顔も強面だし、頭はスキンヘッドだし……正直、怒ってなくてもコワイかんじだ。
 なのに、直接怒鳴られている彼方は平然としているし…幻夜はこの状況を無視して魚捕りを続行している……!?

 そんな様子に、俺の方がドキドキして、思わず篝へと視線を移す。
 ……と、篝は面倒そうな表情をうかべつつ、

「…アイツは河童のながれ。川の平和を守る、自称正義のミカタだよ」

 ──え? 河童!?
 しかも名前が
 “河童の流”というフレーズもどうかと思うが、俺の河童イメージとはまた随分かけ離れている……。

 “河童”といえば──
 頭にお皿があって、川に住んでる子供みたいな小柄な緑色の生物……と思っていた。
 だが、今目の前に現れたのは…… 

 スキンヘッドで褐色肌のボディービルダーみたいな大男だ……!
 河童というより、海坊主の方が近いんじゃ…??

 しかも、一触即発の雰囲気を醸し出している上、如何にも強そうな自称正義のミカタ・流に対し、ヤル気…いや、構う気ゼロな彼方と幻夜。 

 まぁ……川の平和を守ってるんなら…この乱獲状態は許せないだろうな。

 目の前では怒り狂う自称正義のミカタと、それを無視し川魚乱獲中の二人。
 アンマッチな…微妙な状況……!?

 俺は、ビチビチしている魚の山をチラッと見て…思わず溜め息を着いたのだった──。
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