俺の前世が『あやかしの秘宝を奪って人間に転生逃亡した戦闘狂の鬼』と言われても、全く記憶がございません!

紫月花おり

文字の大きさ
34 / 58
第一章

第34話 戦闘(ケンカ)上等!!?

しおりを挟む
 こいつらの覚悟は分かった。
 俺も覚悟を決めた。
 そこに、迷いはない──。

「さて、ここからが問題だ。──今後どうするか」

 そう天音が切り出すと、幻夜は改めて俺を見つめ直す。

「まず宗一郎には紅牙としての……少なくとも最小限の記憶は取り戻してもらいたいところだね」

 宝の在処は紅牙しか知らない。
 それがそもそもの原因なのは俺にだって分かっている。
 だからといって…今の俺に……どうすれば記憶を取り戻せるかなんて──分からない。

「思い出してもらったところでどうするか……ってのは紅牙…宗一郎の意思だけど」

 苦笑混じりに言う篝に、彼方も同様に苦笑をうかべて頷いた。
 だが、幻夜の表情は厳しい。

「そもそも、何で急にそんな危険なモノに手を出したのか、それもたった一人…独断で起こしたこと──何か理由わけがあったとしか思えない」

 その言葉に天音も溜め息混じりに頷くと、 

「オレらにも何も言わずにやったことだ。オレらはその理由が知りたい……ってのもあるんだがな」

 ──それはもしかしたら、最大の屈辱だったのかもしれない…仲間こいつらにとっては。
 だからこそ待っていてくれた…それでも、今でも仲間であると教えてくれた──? 

「まぁ…もう動き出してしまったことに変わりはない。僕たちはもう一度仲間として紅牙…宗一郎についていくつもりでいるんだよ」

「幻夜……?」

「これからどんなことになるか分からない。どんな危険が待っているか分からない……でも、今度こそ死なせない」

「……彼方…」

「オレたちは皆そう思っているよ」

 “だから信じて…思い出して…… 仲間オレたちのことを”

「まぁ、そういうわけだから……宗一郎、頑張って思い出してね」

 その真っ直ぐで、強い意志を宿した瞳から視線を逸らせないまま、見つめ返すしかない俺。
 それに彼方はにっこりと微笑み返した。

「三妖の均衡は崩れかかっている。もう何時大きな戦いに発展してもおかしくない。それを左右するのが紅牙と鬼哭の存在なんだ……分かってくれたかい?」

 幻夜からダメ押しとばかりにそう言われ、俺は少々の躊躇いはあったものの…頷くしかなかった。

 この日はこのまま、この場で野宿──。
 見張りに一人が着き、あとは仮眠という形式は変わらず……そんな中で俺はまたもや眠りづらい気分で横になっていた。

 もちろん、連日の疲れも手伝って…眠りに落ちるのも今までより早そうだ。 
 だが、重い話を聞いた直後なだけあっていろいろ頭の中を整理するのに時間がかかっていた。

 とにかく、俺の意志はもちろんだが……最早義務でもある、紅牙の記憶を取り戻さないことには前へ進めないのは分かっている。
 ただ…世界がどうなるかということより、仲間あいつらのためにも早く思い出したい。 

 運命だろうが宿命だろうが、ここまで巻き込まれたからには全て立ち向かってやろう──!
 俺はそう心に決めていた。

 徐々に遠退いていく意識……。
 ようやく眠りに着きかけた時、俺の耳に届いたのは彼方と天音の会話だった。

「……どうせオレたちのことは気付かれてるんだろうし、もうオレが動いてもいいかなぁ?」

「……そりゃあ、確認じゃねぇだろ?」

「あはは…分かった?」

 相変わらず話の内容に対して軽いノリで言う彼方に、天音の盛大な溜め息が聞こえた。 

「まぁ、上の連中は黙ってねぇだろうなぁ……」

「最初から本気で忠誠なんて誓った覚えはないけどね、オレは」

「分かってるよ。だがそうは言っても……あの時は仕方がなかったし、お前の父親だって重臣、何より……軍には…総大将には、違うだろ?」

 確かさっき、一族の意向に従っていたって言っていたし、無理矢理にでも忠誠を誓わせられていたとしてもおかしくない。
 加えて、彼方の父親は重臣……てことは天狗の上層部の一人ということか。またしても初耳な情報だ。
 それでも、二人が微妙な状況と立場であることは再確認できた。
 そして、二人の立場を決定的に変えてしまった…“あの時”というのは、17年前の事件で間違いない──。

 天音の言葉に、少しだけ間をおいて聞こえた彼方の答えは……

「……そうだね」

 その声音は、低く…戸惑いや迷いが混じっているようにも感じられた。

 特に他の二人からの言葉は聞こえない。
 二人の間に流れる重い沈黙──それを破ったのは、天音。

「……で? 実際どうするつもりなんだ、副大将殿?」

 改めて言った天音の問いは、役職…立場上の答えを求めたもの──それを含めた上での彼方自身の“答え”。

「父上はどうでもいいけど…総大将である獅威しいのためにオレが軍にいるのは事実だね」

 父親はどうでもいい、というのも彼方らしい気がしたが、父すらもどうでもいいというのに……そんなに総大将・獅威の存在…絆は彼方にとって大きいものなのか?

 ──ズキン…ッ

 胸の奥…魂に感じた……微かな痛み。 
 それは、罪悪感にも似ていた。

 俺じゃない…紅牙の感覚……?

「オレもまぁ…そんなとこだな……かわいい部下もいるし?」

 敢えて明るく言った天音のやんちゃな…だが仕方なさそうな笑顔が瞼にうかぶ。

 上の連中より、身近な上司・部下への想いの方が強い──それは、こいつららしいとも思えた。
 短い会話で垣間見えた俺の知らない“絆”に、いっそ何も考えないように……いや、感じないように硬く目を閉じ、無理矢理眠りにつくしかなかった。

 ──その時、俺が見たモノは、まるでフラッシュバックするように一コマ一コマが目まぐるしく、しかし印象的に映り変わる場面。
 俺が出会ってからのこいつらの……仲間たちの姿。
 そして、最後に映ったのは…俺が彼方に初めて会ったあの日の、悲しげな…あの笑顔──…

「──ッ!?」

 反射的に目が覚めたのは朝も明けきらない中で、しかも俺は彼方に抱え上げられている状態だった。

「あ、目が覚めた?」

 いつもの調子で言う彼方だが、周囲は緊迫ムード……?

 俺は下ろしてもらい、辺りを見回しながら、 

「…な……何があったんだ…?」

 いや、その前に…誰だッ? そいつは!??

 すでに俺たち…正確には、篝と天音と臨戦態勢に入っている、その先に立つのは──うっすらと明るくなりかけている空を背景に、緑…黄緑色にも見える長い髪に、はっきりと二本の角がある若い男だった。つまり…… 

「……鬼??」

 だがやはり、鬼とはいえゴツイイメージではなく、どちらかといえば細身でキレイ系かもしれない。
 それでもこの状況から考えられるのは…敵で間違いない。

 どうやら、この敵の出現で寝ていた俺を抱き上げて避難してくれていたらしい……。
 起こしてくれれば自分で逃げたのに、妙な気遣いのおかげで生まれて初めてのお姫様だっこを経験するはめになった…。
 まぁ、危険を回避してくれたのはありがたいので良しとするとして、今はこの状況と目の前の敵に集中しよう……恥ずかしい気持ちになっている場合ではないし!

 俺の目の前には敵であろう鬼と、そいつと対峙する天音と篝。
 そして、その後ろで俺を護るようにそばには彼方と幻夜。

 今更確認するまでもない俺の言葉に、

「うん、ボクと同族だよ。アイツは……確か、浅葱あさぎだったかなぁ?」

 そいつ…浅葱と対峙したまま、記憶を辿るように言った篝に、俺の横にいた幻夜も軽く頷くと、

「一応実力者の一人…と聞いてるよ。噂に聞く彼の性格は自信家で野心家……まぁ、あんまり頭が良い印象はないね」

 その言葉に同意するように篝も頷いた。 

「ボクもあんまり眼中になかったし、興味もなかったなぁ……面識もほぼ皆無だし?」

 そうはっきり言うなよ…。
 本人を目の前にしてのこの酷い言いようは、当然怒りを買うだけだろうに……同族の篝のみならず、幻夜にまで全否定されるのも少々かわいそうな気がした。

「──だが、これだけあからさまにケンカ売られたら買わねぇわけにはいかねぇだろ?」

「うん、それはもちろん」

 最前線に立つ天音の答えが分かりきっている問いに、篝は頷いたものの、

「でも……天音…本当に良いの?」

 それは、天狗である天音が参戦することの意味──それを確認するように言った篝の言葉に、天音は不敵な笑みをうかべ、 

「ケンカ売ってきたのはアッチ、売られたのはコッチ。別に普段だってケンカなら有り得る事態だろ?」

「まぁ、それはそうだけど……」

 これはただの他族間の争いじゃすまされない──ここにがいる限り。
 紅牙の仲間として戦うことになるのだから……三妖の争いの火種にもなりかねない?

「仲間ってのは事実だから仕方ねぇだろ──それに、我らが副大将殿も了解済だし、解禁だろ?」

 ニヤリとした天音に、その視線の先…天狗軍副大将・彼方は小さく溜め息をつくと、

「別に了解した覚えはないよ……もういいよね、て言っただけで」

「副大将殿がそうするなら、部下の俺がやってもOKだろ?」

 おそらく天音はこいつらの中でも好戦的な方だろう──天狗軍でも自他ともに認める特攻隊長らしいし。
 それを我慢してたなら尚更、彼方の参戦解禁宣言を待っていたはず……

「まぁ……かまわないけど」

 彼方の言いようは、本当に“構わない”=“関心がない”くらいの様子だったが、言葉の意味としては了解ということ。
 それを確認した天音は、俄然ヤル気で好戦的な笑みをうかべたまま篝へ向かい、

「まぁ、アッチの狙いは宗一郎と篝みたいだしな。一応メインは譲ってやるよ」

 あからさまにウキウキした様子の天音に、

「それはどうも」

 溜め息混じり言った篝だが、何だか楽しそうに見えた──。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

処理中です...