俺の前世が『あやかしの秘宝を奪って人間に転生逃亡した戦闘狂の鬼』と言われても、全く記憶がございません!

紫月花おり

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第ニ章

第46話 人の常識×妖の常識!!?

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 人界で人間に紛れて潜伏し、鬼上層部への復讐の機会を狙っていた艮。
 艮を紅牙覚醒のキッカケに利用しようとした星酔。
 その二人の思惑は同じ──“紅牙の抹殺”?

 おそらく星酔はいくら戦闘の場を用意しようと、俺が覚醒できるとは思っていなかっただろう。
 覚醒できずに死んでも構わない……所謂、未必の故意。
 だがそうならずとも、あの場に幻夜が助けに来るだろうことも容易に想定できたはず。
 助けに来るという前提だとしても、少なくとも星酔の手引きだということは幻夜に伝わる──がどういう結果になるか、どんな意味を持つか…考えないはずはない。あの星酔が思いつきでやるとは思えない。
 
 おそらく幻夜も思っているはずだが…もしや、幻夜は星酔の考えに最初から気づいてたのか?
 ……いや、幻夜の反応を見るに、さすがにここまではだった…のか?
 それでも、あの“無事で良かった安堵の言葉”だけは本心からだった……ような気がする。
 ということは、幻夜の想定以上の動きを星酔がしてしまっているのかもしれない。
 
 ──そして星酔の思惑とは別に、俺にはもう一つ気になることがある。
 
「……なぁ、さっき星酔から聞いたんだけどさ……彼方が星酔の仇だ、って」

 確認せずにはいられなかった俺の言葉に幻夜はもちろん、篝と白叡の視線もこちらへ向いた。
 そして暫しの沈黙の後、幻夜が静かに口を開く。

「…………で、聞きたいんだい?」
 
 え……?
 その表情も声音も“だからどうした”くらいの感じ…?
 
 隠すような事でもない、ということなのか。
 だが、まさかそんな聞き返され方をするとは思わず、咄嗟に言葉が出なかった俺に幻夜は小さく溜め息をつくと、

「……僕たち…紅牙も含めてが知っている話なんだけど」

 そう前置きをし、静かに語り出した。

「もうだいぶ以前まえ…僕も彼方クンも紅牙にはまだ出会っていない、それこそ彼方クンが副大将になったばかりの頃の話。元々獏の一族は少数で妖力や戦力もそれほど強くないのだけど、そのな能力に目を付けた天狗たちは獏を自分たちの傘下にしようと考えた。……でも抵抗されてね、実力行使に出ることになった」

 天狗はプライドが高く少数精鋭、傘下も少ない…とは言っていたが、獏の能力は欲しかったのか。
 だがそれが叶わなわければ…幻妖界三妖の一角である天狗を敵に回してしまった獏に待っているのは……
 
「天狗は獏の主要な集落を一つ潰してにすることにした。そこへ派遣されたのが天狗軍副大将……彼方クン、だった」

 それほど強くないとはいえ、主要な集落…人数もいるだろうし実力のある奴らが集まっていたとしてもおかしくはない。てことは、それなりの規模の集落のはず。
 そんなところの壊滅命令にたった一人で……?

 一応、当時その場にいた一緒だったであろう白叡にチラッと目をやると、俺の視線に小さく溜め息をつきながら頷いて、
 
『主要とはいえ獏の集落壊滅なんて…彼方アイツにとっては造作もないことだ。実際、一瞬で集落は消えた。正確にはそこの獏たちごと…星酔以外が、だがな。──……あの時、彼方は星酔が生きていることに気付いたが瀕死の状態だったし、命令自体は集落壊滅だったから構わないと見逃した。まさか幻夜キツネが拾うとは思わなかったが……やはり、トドメを刺すようもっと強く言うべきだった』

 そう言って忌々しそうに幻夜に視線を向けた。が、幻夜はいつもの笑顔で受け流すのみ。
 
 そんな白叡の話を聞きつつも、俺の中では星酔の言葉が忘れられずにいた。 
 
“彼方が天狗軍副大将として戦場に立てばそこには何も残らない”

 の知らない彼方──…

「彼方ちゃんは天狗軍の副大将だからね、命令があればそういうこともあるよ」

 篝は仕方なさそうに苦笑をうかべてそう言った。
 彼方にも立場がある、基本的には上からの命令は絶対だと。
 
「…そんな……」

 獏の一族は妖力や戦力もそれほど強くない、ということは……もしかしなくても集落にいたのは元より戦うすべのない者たちが多かったはず。
 そもそも戦闘で獏は天狗に敵わない。加えて、天狗の実力者とはいえたった一人に主要集落を壊滅させられるという精神的ダメージも大きかっただろう。
 圧倒的な実力差。それは獏が…というより、天狗彼方があまりにも強かったのかもしれない。
 むしろ、よく星酔が生き残れたというか……いや、だから見逃したのか。
 だが、やはり皆殺しということに恐怖や憤りがあるのも事実で。

 モヤモヤ…葛藤と困惑。
 そんな俺の様子に篝が苦笑をうかべ、あくまでも優しく言った。
  
「うーん…まぁ人間として過ごしてきたには分からない感覚かもだけど、敵の一人でも生き残りがいたら……自分がその一人ならどうする?」

「……」

 答えを出せない俺に、白叡がどこか冷めたように言った。
  
『妖はな…殺される恐怖に震えるより、仇討ちや裏切りを目論む』

 そして篝が続ける。
 
「性別年齢、種族や実力は関係ない…今は弱小な存在だったとしても、先にどうなるかは分からないからね。なら、最初からそんな危険因子は消してしまう方が早いんだ」

 だから──皆殺しにする。

「そこに個人の意思は関係ない。少なくとも、これは何も天狗だろうが鬼や妖狐だろうが…妖ならのことなんだよ」

 あくまでそれがセオリーであるように言う幻夜に、
 
「ただこの件に関しては、あくまでも見せしめ目的…集落一つで済んだのだからまだマシだとは思うけどね。結果的に獏は妖狐の傘下に入って天狗とは敵対してるけど一族を滅ぼされたわけじゃないし」

 そう付け加えた篝の言うことは分からないわけじゃない。妖の常識や彼方の立場も分かる。
 ただ、言ってしまうと“一般人を一方的に殺戮する”ということ、それを実行した彼方をどう見ればいいのか……まだ俺の中の“人間の部分常識”が納得しきれない気がした。

 未だ複雑な心境の俺に白叡は小さく溜め息をつくと、

『まぁ……普段のアイツしか知らなければ…想像しづらいかもしれんな』

 そう、あのホワホワした雰囲気の彼方が本当に戦闘うのかすら想像しづらいのもある。
 役職の通りなら軍No.2の実力──それがどれほどの強さなのかは分からないが、少なくとも今まで俺が見た奴らとは比べものにならないはずなのだろうけど。
 だからこそ…あくまでも“命令”があって“仕事”としてやったことではあっても、やられた方は堪らないだろう……いくらが当たり前の世界であっても。
 仕方がない、で片付けることができるのか──今の俺にはまだ分からない。

 ともかく、俺は頭を整理するように一つ一つ確認する。
  
「つまり…獏は天狗の傘下になることを拒んで揉めて、見せしめで獏の住むの集落を副大将である彼方が襲撃、壊滅させ……星酔だけが生き残った。そしてその星酔を助けたのが妖狐幻夜──」

 俺の呟きに幻夜が頷き…篝と白叡は黙って聞いてくれていた。
 そして、現状や事実を確認していく中で俺が引っかるのは、
 
「上手く言えないけど、それって天狗彼方が殺すはずだった星酔妖狐幻夜が助けたってことだろ?」

 それは天狗の邪魔を妖狐がしたことにならないか?
 妖狐が天狗にというももちろんあるが、幻夜が彼方の邪魔をしたことに……敵対したことにならないのか??
  
「……あぁ、そういうことか。一応言っておくと、当時は天狗軍副大将として存在は知っていたけど直接面識はない……彼方クンと出会うのはもう少し先の話だよ」

 つまりこの件に関しては二人のやりとりはないし、無関係の出来事。
 仲間としての関係が拗れるようなことはない、と?

『それとこれとは別ということだな。少なくとも彼方は気にしてない…と言うか、元からアイツは種族とかあんまり気にしてない。良くも悪くもな』

 白叡の言葉に幻夜は小さく苦笑をうかべて頷くと、
 
「さっきも言ったけど…この件は僕はもちろん、彼方クンも紅牙の仲間になる前の話だからね」

 そう前置きしつつ、 
 
「僕や妖狐たちがあの場で天狗彼方クンと直接対峙するようなこともなかったし、あの件自体は天狗と獏の問題。で、もっと言うと僕が星酔を助けたのは。壊滅した集落の様子を見に行った時、まだ息があった住人がいたから助けただけだよ」

……ね』

 白叡のうんざりした呟きに幻夜はいつもの笑顔で応えるだけ。
 その笑顔に舌打ちすると、

『天狗に襲撃された集落の生き残り…星酔を助けて獏たちに恩を売り、妖狐の傘下にした……てことだろうが』

「結果的にだけだよ」

 幻夜の言葉に、白叡は呆れたような溜め息で不毛な会話を終わらせた。
 おそらく…幻夜のところはもう分かっているのだろう。加えて、何を言っても無駄だということも。

 すると、幻夜は苦笑をうかべたまま話を聞いていた篝に視線を移し、 
 
「──それはそうと篝、情報通友だちは他に何て…?」
  
「あぁ……一応、鬼の現状はチラッと聞いてきたよ。やっぱり上層部はで紅牙を殺す前提で強いのが動き始めてるし、人界にも何人か来てるって。艮はまた特殊な気がするけど、元からこっちにいる奴らにも紅牙抹殺その話は伝わってると思っていいね」

 確かに、復讐の機会を狙っていた艮だが、本来は紅牙が宝を奪って逃亡しているということしか知らなかった可能性がある。そこに星酔が人界に紅牙がいるからと居場所を伝えれば利用しようとするだろう。

 問題は、ガチの鬼相手なんて…艮一人でもやばかったのに実力者が次々に現れたら命がいくつあっても足りない……!!
 
「どうせ邪魔になるだろうし、別にこっちからりに行っても良いけど……」

 怖い怖い怖い……!
 発想も怖いけど、実際にやりかねない!!
 ……いや、篝なら負けない大丈夫な気はするけど、あえて危険を冒しに行くところが怖いんだよ!
 
「篝」

 案の定、幻夜に制止の視線を向けられ、

「分かってるって」

 そう言って笑った。
 ……信用はできないけど。
 たぶん、幻夜も白叡も信用してないと思う……冷たいそういう視線を篝に向けているから。
 改めて篝に制止しつつもチラッと時計を確認すると、
 
「僕はまたちょっと出てくるよ。篝はしばらくこっちにいるんだろう?」

 幻夜に言われ軽く頷く篝。

「……大丈夫とは思うが、あんまり派手にやらかさないでくれよ?」

「人聞きが悪いなぁ。大丈夫だよ!」

「──どうだかな」

 疑いの視線を向ける幻夜だが、半ば篝に押し出されるように部屋を出て行った。
 そして幻夜が出たのを確認すると、篝は気持ちを切り替えるように、
 
「さて! ボクとしては人界こっちで宗一郎を守りながら記憶が戻るお手伝いをしようと思うのだけど……宗一郎はご飯食べたいよね?」

 時間を確認すると午後3時を回ったくらい。
 確かに艮に襲われる前におにぎりは食べたけど…少なくとも夕飯のあてはない。
 篝はチラッとキッチンの方を見たがすぐに俺の方へ向き直ると、
 
「……そもそもここ、水と酒しかないし、人界の台所は使い方よく分からないから…ご飯食べに外出ようよ。ついでに、この近くにボクの古い友だちがいるから挨拶しに行きたいんだよね⭐︎」

 篝の古い友人?
 それってやっぱり……妖怪だよな?
 
「心配しなくても大丈夫だって。あ、外出るから白叡は一応宗一郎の中にいてね」

 篝はそう言ってにっこり微笑んだ。
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