俺の前世が『あやかしの秘宝を奪って人間に転生逃亡した戦闘狂の鬼』と言われても、全く記憶がございません!

紫月花おり

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第ニ章

第45話 絡み合う思惑!!?

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 星酔の手引きによりやってきた鬼の艮。
 もちろん、艮の目的は鬼の宝…ではなく紅牙の命。
 公園に張られた結界の中、繰り返される一方的な艮の攻撃を何とか回避するだけだった俺が唯一できたのは、砂を蹴りかけて一瞬の隙を作ることだけ。だが、その一瞬に賭けた白叡の攻撃は失敗し、より艮の殺意を煽ってしまった!

 もう絶対絶命……ッ!?
 絶望と焦りが脳内を駆け巡った、その時。
 ……は一瞬の出来事だった。

 ガラスの割れるような乾いた音が辺りに響いたのとほぼ同時。
 俺たちの前をがすごいスピードで通り過ぎたと思ったら、鈍い不快な音とともに艮の首が消えた──としか俺には認識できなかった。

 どういうことだ……何が起こった!?
 俺は…俺たちは助かったのか!!?
 
 あまりの出来事に驚く俺の目の前で、艮の肉体が首のあったところから大量の血飛沫を上げながら崩れ落ち、そのまま黒い霧となって消えていく。
 そしてその少し先に立っていたのは、背の高い男(?)……の後ろ姿。
 男の手には艮の頭部が鷲掴みにされていたが、胴体から少し遅れて頭部そちらも同じように黒い霧となり……そのまま全て消え去った。
 
 あの男が助けてくれた……のか?
 さっきの音…結界を外から破って助けに来てくれた、てことか?
 ということは……味方…??
 ──まさか、新たな敵!??

 俺が動揺している間にも、外部からの侵入で綻びかけていた結界は艮の死により俺たちの頭上付近から全体へ一気に亀裂が広がっていき、砕け散るように消失した。
 そんな中、ゆっくりとこちらを振り返ったのは──
 
「大丈夫だった? 宗一郎」

「え……篝!?」

 長身で服装はおしゃれ男子な着こなし、少し長めの栗色の髪に夕陽のような茜色の瞳、そして綺麗な顔立ち──幻妖界の温泉で見た人間成人verの篝だ。
 黙って立っていればそれだけで華があり人目を惹く、女性ウケしそう…そういうタイプ。

 篝は笑顔のまま、いろんな意味で驚いている上に複雑な気持ちの俺に向かい、

「いやぁ、首へし折るくらいのつもりだったんだけど…もぎ取っちゃったよ。力加減まちがえちゃった⭐︎」

 ──怖っ!?
 少々返り血を浴びた頬を拭い、にっこり微笑んで怖いことを言う篝。
 敵……あんなに如何にもな鬼の首をいきなりもぎ取る荒技…というかあまりの力業に言葉を失っていたが、

「──にしても…やりすぎだよ、篝。宗一郎がびっくりしているだろう?」

 聞き慣れた声に振り返ると……こちらへ向かって歩いてくるのは、
 
「幻夜……!」

「遅いよ、幻夜くん」

「篝一人で問題なかったろ?」

 幻夜の言葉に“まぁね”と笑顔で答えると、急に思い出したように、
 
「あ、宗一郎たち…もしかしてケガとかしてる!? 大丈夫?」

 心配され、慌てて無事を伝える。
 俺と白叡を軽く目視で確認しつつ、なら良かったと篝は微笑みながら取り出したハンカチ(?)で手や返り血を拭く──と、拭き終わったハンカチが一瞬で青い炎を纏い…そのまま全て燃え切った!?
 その光景に俺が驚いていると、

「え、だってこのまま持ってるのイヤじゃない?」

 “汚くない?”と、当然のように言われたが……確かにそれはそうかもしれない。
 だが、本人は使い終わったティッシュを捨てるような感覚で妖気で燃やしたのかもしれないが、急に燃えたら驚くだろ!?

 ……何はともあれ、みんな無事で良かった。
 どうやら、妖気を察知し駆けつけてくれた二人は、結界を幻夜が破ったのと同時に篝が助けに入り…艮の首をもぎ取って瞬殺した、ということらしい。
 助けてくれたことには心から感謝するが言動は驚くし、怖いんだよな……。
 いや、それはそうと!
 
「……幻夜、星酔が…」

 俺がそう言いかけた時、幻夜は無言のまま左手で言葉の先を制止するようなジェスチャーをした。
 そして、小さく溜め息をつくと、

「とりあえずこの場を離れよう。 人が集まってきたら厄介だ」

 幻夜の言うとおり、確かにこのままここに居るのはまずい。
 先程まで公園だったこの場ここ元遊具瓦礫だけでなく地面もひび割れたり陥没していたり……とにかくひどい惨状なのだから。
 おそらく結界のせいで普通の人間には“いつもの公園が一瞬で破壊された状態になった”という認識になるはず。
 気づかれて人が集まってきたり通報されて巻き込まれるのはものすごく面倒だ!

 一旦白叡には俺の中へ入ってもらい、俺たちは急いでこの場を離れる。
 少し離れたところで公園方面を確認した時には…もう人が集まり騒がしくなり始めていた上、パトカーのサイレンがだいぶ近くで鳴り響いていた。
 まぁ、当然ではあるな。
 少々申し訳ない気もするが、俺のせいではない。少なくとも、俺が破壊したわけじゃないからな。
 
「ここまで離れれば…とりあえず大丈夫かな」

 にこやかに言う篝の言葉に、ようやく鬼襲撃や公園破壊から解放された気がして一安心。
 ……このまま俺たちは幻夜のマンションへ向かうことになり、ようやく人通りのある道に出たところでふと思った。
 
「そういえば……今日は篝、大人verなんだな」

 てっきり人間仕様でも子どもの姿でいると思っていたこともあって、何気なく呟いてしまったが、篝は当然とばかりに、
 
「え? だってせっかく人界に来たんだからねっ」

 ……ってどういうことだよ。

 そんな他愛もない(?)話をしながら、無事に幻夜のマンションに戻った俺たち。
 部屋に入った篝がキョロっと室内を見回し苦笑をうかべる。
 
「相変わらず…綺麗だけど何にもない部屋だねぇ……」

 どうやら初めてきたわけではなさそうな呟きに、思わず頷いてしまう。
 生活感皆無だもんな…高級ではあるが家具家電も最小限だし。
 まぁ、家主である幻夜がほとんど滞在していないから仕方ないのかもしれないが。
 
 とりあえず俺は、先程砂と土で汚れた服を着替えてから二人が待つリビングへ。
 リビングではソファに各々適当に座り、俺の中から再び出てきた白叡は俺の膝の上に陣取った。

 暫しの沈黙の後、俺に視線を向けた篝がミネラルウォーターのペットボトル片手に口を開く。

「……で、さっきのは誰だったの?」

 咄嗟だったのかもしれないけど…相手が誰かも分からず、いきなり首をもぎ取ったのか!?
 助けてもらっておいてなんだが、やっぱり怖い……。

「鬼の…艮って名乗ってた」

「艮……?」

 俺の言葉に何か記憶を辿るような表情を見せた後、その名に思い当たることがあったのか、

「……あぁ、聞いてたヤツらの一人だね」

「聞いてた?」

「うん。こっちに来る前にすでに人界にいる、今後行くだろう実力者のことを友だちから聞いてきたんだよ」

 つまり、篝がそのから聞いた鬼たちの中に艮の名が入っていたということか。
 というか…鬼上層部の情報や実力者たちの現状に詳しい篝の友だち、とは?
 おそらく、俺たちと紅い荒野で別れた後に会ってきたのだろうけど……
 
「あ…一応言っておくと、綺紗ちゃんも情報通だけど違うよ。というか……綺紗ちゃんを探すのも、情報料見返り要求されるも面倒だからねぇ…」

 篝は苦笑をうかべたまま、溜め息混じりにそう言った。
 いや、すでに俺も面識のある綺紗から聞いたのなら、綺紗から聞いたとそのまま言うだろう……なら。
 
 確かに以前、綺紗は情報網が広いとも言っていたし上層部の動きも知っているふうではあった。それに、こちらの事情も把握されているんだから綺紗から聞いた方が何かと早そうではある。……が、(やむをえず?)今回は別ルートからの情報らしい。

 そして篝はペットボトルの水を少し飲んでから、
 
「……話を艮に戻すと、ボクは面識も興味もなかったから全く存在を知らなかったんだけど」

 そう前置きして、
 
「聞いた話…艮はそれなりの実力者ではあるんだけど、以前上層部と揉めて人界に逃げてた鬼みたい。たぶん紅牙を倒せば再び上層部に取り入る……いや、復讐の機会を狙えるとでも思ってたのかもね」

 列挙されるような実力者なのに相変わらずの物言い…篝からしたら格下扱いだし、実際そう通りなのだろうけど。
 そういえば紅牙から見ても…ということだったな。

 ともかく。篝の話のとおり、艮は状況的には現在上層部と直接の繋がりはなさそうだった。
 もちろん鬼の動向は把握していて、宝の在処は確認したが…宝というより紅牙の命を手土産に上層部に売り込む気だったように思えた。それが良いか悪いかは置いといて、俺にとっては最悪でしかない。

 だが、に目を付けたのが星酔──……そうだ!!

「艮を手引きしたのは星酔だよ」

「…………」

 意外にも、篝は形の良い眉を少し動かしただけ……幻夜に至っては、俺の言葉を聞いても特に反応はなかった。

 星酔と艮は確かに繋がっていた。
 星酔は俺が…紅牙が戦闘に直面した方が覚醒のキッカケになると言った。
 だが、初めて化け物に襲われたあの時から変わらない。
 命を狙ってくる敵から必死に逃げ回っていただけだ。
 確かに反応速度や身体能力的にはだいぶ良くなってきた実感はあった……だが
 たとえ身体が妖に近づいていたとしても、肝心の覚醒はもちろん…記憶の断片すら蘇らなかった。

 ──星酔は、最初からそんなこと分かっていたのでは?
 紅牙の覚醒ではなく、別の目的…例えば、を殺す気だったのでは??

 “紅牙抹殺”
 
 それが星酔と艮の共通の目的。
 だからこそ手を組み、お互いを利用したのか?
 もしかして、幻夜はに気づいて……??

 幻夜はしばらく…なんなら公園を出てからずっと黙ったままだったが、

「信じてもらえるかは任せるが……」

 そう呟くように切り出した。

「星酔とその艮との関係つながり、そして今回の件…その目的も僕は関知していない」

 改めて俺を見つめた眼鏡越しの紫の瞳に偽りは感じられない……おそらくその言葉通りなのだろう。
 少なくとも、公園での襲撃時点までは。
 ただ幻夜の場合、直接指示しないで星酔を意のままに動かすような言い方をするようなので完全には信用できないかもしれない。だがそれでも、今回は少し事情が違うのか、

「…………とりあえず、宗一郎たちが無事で良かったよ」

 どこかホッとしたように小さくそう呟くと、再び黙ってしまった──。
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