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第ニ章
第49話 思いと想い!!?
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座敷童の椿姐さんの言葉を思い出しながら、紅牙の記憶を取り戻すべく──篝が仲間の話、紅牙との共通の思い出を話すということになった。
……のだが、若干不安。
そんな俺に篝は小さく笑うと、
「じゃぁ……ボクが紅牙と仲良くなった頃の話とかどう?」
え……それは…ちょっと気になるな。
そんな俺の様子ににっこり微笑むと、少し遠い目をしてから話し始めた。
「──まず、ボク自身は紅牙の仲間になる前からみんなと同じように実力者で名は通ってたんだけど、鬼の上層部とは距離を置いてたの。好き勝手にやりたいから⭐︎」
なんだか篝らしい。
とはいえ、改めて仲間たちが全員実力者なことに驚くというか……少し複雑というか。
敵対している三妖の実力者が揃いも揃って何をしてたんだ、ということだからな。
「もちろん、彼方ちゃんたちのことは仲間になる前から知ってたよ、直接面識はなかったけど。まさかあんな感じの子たちとは思わなかったけどね」
そう言って楽しそうに笑う。
……まぁ、そうだろう。お互いに名の通った敵勢力で…しかも役職に就いているような実力者のイメージってものが一応あるだろうし。
ただ、きっとそれはお互い様だと思うけどな。
「あ、紅牙とはみんなと仲間になる前にちょっとだけ会ったことがあるよ。ボクら、共通の友だち…いや紅牙的には違うのかもだけど……まぁ、その繋がりでね」
篝的には友だち、紅牙的には友だちではない? 知人とかそういう感じなのか??
俺の疑問に特に答えることもなく、篝は話を続ける。
「でね、ボクが紅牙の仲間になったのは順番的には一番最後。まぁその前から、同族で他種族…しかも敵勢力の上位と一緒に暴れてるのがいるって噂は聞いてたんだ。それが昔会ったことのある紅牙が中心と知って……ボクは何だか嬉しかったんだよね」
確か、白叡も“独り言”で言っていた。
紅牙には彼方、幻夜、天音、篝の順で仲間が増えていったと。
ということは、篝は先に紅牙と会ったことがあるとはいえ仲間になったのは最後なのか。
……にしても、
「嬉しい……?」
俺の問いに篝は苦笑をうかべると、
「うん。そもそもボクが初めて会ったのは紅牙が彼方ちゃんとも出会う前──まだ盗賊と名乗る前くらいかな。でもその時、紅牙は目も合わせてくれなかったんだよ……」
そう言って盛大な溜め息をついてから、バッと俺の顔を見ると
「あの時の紅牙はね、他を寄せ付けない…全てを拒絶して生きてるような奴で、人との関わりを拒み、孤独であることが強さ! 信じるのは己の力のみッ!! みたいな感じだったの」
て、力説されたけど……え、紅牙…なんか……厨二っぽくないか…?
これは…自分の過去だと言えなくもない……となると、なんだか急に恥ずかしい気持ちになるっ!
むず痒くなっている俺の気持ちを知ってか知らずか、
「──確かに、当時から実力もあったし実際に強かった。なのに、どこか危うい感じだったんだよ。そんな紅牙に仲間ができて一緒に暴れてるっていうんだから……興味もわくでしょ? 最初は様子見のつもりだったけど…紅牙もみんなもすごく楽しそうでさ、ボクも仲間に入りたくなったんだ」
そう言って篝はいつもの明るい笑顔を見せた。
そして、当時に思いを巡らせるような少々の沈黙の後、改めて俺を見つめると、
「……紅牙は盗賊として…と言うより、戦闘メインで戦利品としてお宝を奪う感じだったから、仲間たちも一緒に戦闘うことが多かったの。もちろん、みんな自分の立場があったからいつも一緒というわけにもいかなかったし、誰かしら不在いこともあった。それでも自然と集まって一緒に楽しくやってたんだよ」
そう言う篝は本当に楽しそうで……懐かしむというよりも、これからも…いつでもまたそうしたいのだという気持ちが伝わってくる。
──うん、分かるよ。お前らを見ていれば。
そのメンバーに紅牙が入っている…中心にいたのかは、まだ自信がないけれど。
きっと、そうなんだろうな。
「ボクは紅牙に会えて、みんなに会えて良かったと思ってるよ。本当に楽しくてね…大事な、大切な仲間だし居場所なんだよ。それはこの先も変わらないと信じてる」
まっすぐ見つめてくる瞳から目を離せない──逃れられない。
そうだ、篝は最初に会った時からそうだったな。
成人姿でも変わらない、その強い瞳。
茜色の大きな瞳が見つめるのは俺……の奥、紅牙であろうことが伝わってくる。痛いほど。
「篝……」
「こんな機会がなければ、直接紅牙に話すことはなかったと思うよ」
そう照れくさそうに笑った。
そもそも仲間内で相手への気持ちやらを話すことなんて、そうそうないだろう。
それを俺越しとはいえ、本人に向かって話しているのだから。
何だか俺まで気恥ずかしくなっていると、
『──おい、紅牙に関してはダメだと言ったろ』
「あー、つい口が滑っちゃったなぁ⭐︎」
それまで黙って聞いていた白叡にダメ出しされてもまるで悪びれる気のない篝……というか、確信犯だろう。
まぁ確かに、さっきも篝は“彼方の気持ちは尊重する”とは言っていたが、言わないとは言ってない…な。
そういえば以前“篝から見た紅牙”については聞いたことがあったけど……今思えばギリギリの質問だったかもしれない。そして、その時の篝の答えは“不器用な生き方してる”だった。
厨二感のある話を聞いてしまうと更に不器用な生き方というのも信憑性があるな。
『…………』
白叡はジトッとした視線を篝に向けるが、
「まぁまぁ、一応共通の思い出ってことでギリセーフにしといてよ」
篝は相変わらず笑って誤魔化すだけだった。
だが、おそらく白叡も分かっているはず──このままでは埒が明かないことも、ある程度踏み込まないと覚醒は難しいのだろうということも。
白叡は諦めの溜め息をつきつつもそれ以上言い返すことはなかった。
そんな白叡から俺の方へ向き直ると、
「まぁ、何にしてもさ」
強い瞳が俺をまっすぐに見つめてくる。
「……前にも言ったけど、キミはもっとボクを…ボクたちを頼っていいんだよ、仲間なんだからね」
────!?
微笑む篝の顔に、本来の姿が重なって見えた……気がした。
いや、見えた。
俺の脳裏に蘇る映像── たとえ断片的なものであっても、これは確かな記憶。
あぁ。篝は前からこうやって仲間を… 紅牙を支えてくれていた。
……そうだったな。
確かに、お前は前にも俺に同じことを言ってたな。
鮮明に蘇った、篝との思い出。
ほんの一瞬だったけど、紅牙にとっては大事なものだったはず──。
ただ、相変わらずそれ以上のことは変わらないし、何も起こらない……?
「……宗一郎? 大丈夫??」
俺の様子に気づいた篝が心配そうに声をかけてくれたが、何と言っていいか分からず必死で言葉を探る。
「あ……えっと…映像が重なって見えたりすることがあるんだけど、今もそれが……」
「え!? それって……記憶が蘇った…思い出したってこと?」
驚きと喜びが入り乱れたような表情の篝……だが、
「あ、いや…っ……そうとも言い切れないというか…」
紅牙の記憶だとは思うが、あくまでも断片的なものだと伝える。と、篝は苦笑をうかべ、
「あぁ……まぁ、うん。少しでも何か思い出せたなら良かった! 焦らずいこうね!」
そう言って励ましてくれるけど、ガッカリしているのは伝わるよ?
こいつらのガッカリした感じ……むしろ隠す気はないのだろうな。
罪悪感がすごいが、俺にはどうしようもない。
「落ち込まないで? 大丈夫、確実に前には進んでるよ!」
『…………』
明るく言う篝の言葉に、白叡からは呆れたような溜め息が漏れていた。
いたたまれない俺。そんな俺を篝は改めてじっくりと観察するように見つめてから、
「にしても、見た目って妖的にあんまり関係ないとはいえ…宗一郎は見た目が全然紅牙とは違うんだよねぇ……。せめて見た目が似てたら分かりやすかったかもだけど、宗一郎は小っちゃいし可愛いもんね」
この話、もはやイチャモンに近い文句だと思う。
「み…皆して俺のこと小さいとか可愛いとか言うけど、そこまで言うほど……」
「いや、宗一郎は小さいし、可愛いと思うよ。少なくとも紅牙よりっ」
食い気味でそう断言した上、ビシッと指をさされた。
……篝の言葉通りならば、紅牙は今の俺より“デカくて可愛いくない”ということなのだろう。
もうここまでくると、実際の紅牙の見た目が気になってくる。
少なくとも、美形揃いの仲間の中で気まずくないといいな…。
というか、紅牙の見た目の話はNGだろうに、白叡はもう止める気もない様子。一応篝をジロリと見てはいるけど。
「まぁ見た目もそうなんだけど、ボクにしてみたら……今はともかく、最初会った時は結構近付いてからじゃないと紅牙だとは確信が持てないくらいだったよ。ほんと、よく見つけたな…て感じ」
そう言って苦笑をうかべた篝に、白叡は無言のまま小さく溜め息をつく。
篝の話では、ここ以外にも幻夜が用意した各地の拠点で捜索をしていたらしい。
一応、鬼の捜査網がどの辺に展開されているか様子見をしながら。
が、そもそもほとんど感じられない鬼の気配を辿るのはこいつらだって大変だったはず──
『妖が人間に転生──前代未聞の体と魂を持った状態なんて初めて見るのだから、分かりにくくて当たり前だ』
確かにそうだな。誰も見たことがないのだから。
白叡の言葉に篝も頷くと、
「白叡の言うとおり、ほぼ人間の状態の紅牙を本当に見つけられるのか…正直ボクには自信がなかった。この辺だってボクたちみんなで探してはいたけど……彼方ちゃんが一番に見つけたでしょ、宗一郎のこと」
確かに、最初に見つけてくれたのは彼方だった。
「彼方ちゃんが一番頑張って探してたからね。そもそもこの辺にアタリを絞ったのも彼方ちゃん…と白叡だよ」
篝はそう言って白叡に視線を向けたが、白叡はプイッと顔を背けた。……照れ隠しにも見えたけど。
そして少しの沈黙の後、白叡はポツポツ話し始めた。
『オレ様は彼方が…命令で仕方なく手伝っただけだ。アイツが転生したはずの紅牙…宗一郎からほんの微かに漏れ出ていた妖気を辿ったんだ。結果的に先に接触できたのは鬼の連中だったけどな』
転生が成功した確証もない、成功していても記憶もない、覚醒もしていない状態──
それでも決して諦めずに、信じて探し続け……そして、見つけてくれたんだ。
確かに、俺からわずかに漏れ出た妖気のせいで鬼たちには襲われたのかもしれないが、同時にこいつらが見つけてくれた。順番は問題ではない。
すると、篝は俺に視線を戻し、
「──宗一郎の言うように、仲間…というか彼方ちゃんとの思い出が鍵になるのは間違いないと思う」
それは篝の優しくも、だが確信を持った言葉。
俺が頷くと、篝はまるで俺越しに紅牙を見つめるような優しい眼差しを向け、
「ボクらは……特に紅牙は彼方ちゃんと出会ったことで世界が変わったんだと思うよ」
彼方との出会いで紅牙の…世界が……変わった?
俺が答えを見つける前に、
『──それは、彼方にとっても同じだと思うぞ』
白叡がポツリとそう呟いた。
それはどういう……
真意を尋ねようとしたのとほぼ同時、篝と白叡が玄関の方に視線を移す……と、すぐ後にガチャリと音がした。
……のだが、若干不安。
そんな俺に篝は小さく笑うと、
「じゃぁ……ボクが紅牙と仲良くなった頃の話とかどう?」
え……それは…ちょっと気になるな。
そんな俺の様子ににっこり微笑むと、少し遠い目をしてから話し始めた。
「──まず、ボク自身は紅牙の仲間になる前からみんなと同じように実力者で名は通ってたんだけど、鬼の上層部とは距離を置いてたの。好き勝手にやりたいから⭐︎」
なんだか篝らしい。
とはいえ、改めて仲間たちが全員実力者なことに驚くというか……少し複雑というか。
敵対している三妖の実力者が揃いも揃って何をしてたんだ、ということだからな。
「もちろん、彼方ちゃんたちのことは仲間になる前から知ってたよ、直接面識はなかったけど。まさかあんな感じの子たちとは思わなかったけどね」
そう言って楽しそうに笑う。
……まぁ、そうだろう。お互いに名の通った敵勢力で…しかも役職に就いているような実力者のイメージってものが一応あるだろうし。
ただ、きっとそれはお互い様だと思うけどな。
「あ、紅牙とはみんなと仲間になる前にちょっとだけ会ったことがあるよ。ボクら、共通の友だち…いや紅牙的には違うのかもだけど……まぁ、その繋がりでね」
篝的には友だち、紅牙的には友だちではない? 知人とかそういう感じなのか??
俺の疑問に特に答えることもなく、篝は話を続ける。
「でね、ボクが紅牙の仲間になったのは順番的には一番最後。まぁその前から、同族で他種族…しかも敵勢力の上位と一緒に暴れてるのがいるって噂は聞いてたんだ。それが昔会ったことのある紅牙が中心と知って……ボクは何だか嬉しかったんだよね」
確か、白叡も“独り言”で言っていた。
紅牙には彼方、幻夜、天音、篝の順で仲間が増えていったと。
ということは、篝は先に紅牙と会ったことがあるとはいえ仲間になったのは最後なのか。
……にしても、
「嬉しい……?」
俺の問いに篝は苦笑をうかべると、
「うん。そもそもボクが初めて会ったのは紅牙が彼方ちゃんとも出会う前──まだ盗賊と名乗る前くらいかな。でもその時、紅牙は目も合わせてくれなかったんだよ……」
そう言って盛大な溜め息をついてから、バッと俺の顔を見ると
「あの時の紅牙はね、他を寄せ付けない…全てを拒絶して生きてるような奴で、人との関わりを拒み、孤独であることが強さ! 信じるのは己の力のみッ!! みたいな感じだったの」
て、力説されたけど……え、紅牙…なんか……厨二っぽくないか…?
これは…自分の過去だと言えなくもない……となると、なんだか急に恥ずかしい気持ちになるっ!
むず痒くなっている俺の気持ちを知ってか知らずか、
「──確かに、当時から実力もあったし実際に強かった。なのに、どこか危うい感じだったんだよ。そんな紅牙に仲間ができて一緒に暴れてるっていうんだから……興味もわくでしょ? 最初は様子見のつもりだったけど…紅牙もみんなもすごく楽しそうでさ、ボクも仲間に入りたくなったんだ」
そう言って篝はいつもの明るい笑顔を見せた。
そして、当時に思いを巡らせるような少々の沈黙の後、改めて俺を見つめると、
「……紅牙は盗賊として…と言うより、戦闘メインで戦利品としてお宝を奪う感じだったから、仲間たちも一緒に戦闘うことが多かったの。もちろん、みんな自分の立場があったからいつも一緒というわけにもいかなかったし、誰かしら不在いこともあった。それでも自然と集まって一緒に楽しくやってたんだよ」
そう言う篝は本当に楽しそうで……懐かしむというよりも、これからも…いつでもまたそうしたいのだという気持ちが伝わってくる。
──うん、分かるよ。お前らを見ていれば。
そのメンバーに紅牙が入っている…中心にいたのかは、まだ自信がないけれど。
きっと、そうなんだろうな。
「ボクは紅牙に会えて、みんなに会えて良かったと思ってるよ。本当に楽しくてね…大事な、大切な仲間だし居場所なんだよ。それはこの先も変わらないと信じてる」
まっすぐ見つめてくる瞳から目を離せない──逃れられない。
そうだ、篝は最初に会った時からそうだったな。
成人姿でも変わらない、その強い瞳。
茜色の大きな瞳が見つめるのは俺……の奥、紅牙であろうことが伝わってくる。痛いほど。
「篝……」
「こんな機会がなければ、直接紅牙に話すことはなかったと思うよ」
そう照れくさそうに笑った。
そもそも仲間内で相手への気持ちやらを話すことなんて、そうそうないだろう。
それを俺越しとはいえ、本人に向かって話しているのだから。
何だか俺まで気恥ずかしくなっていると、
『──おい、紅牙に関してはダメだと言ったろ』
「あー、つい口が滑っちゃったなぁ⭐︎」
それまで黙って聞いていた白叡にダメ出しされてもまるで悪びれる気のない篝……というか、確信犯だろう。
まぁ確かに、さっきも篝は“彼方の気持ちは尊重する”とは言っていたが、言わないとは言ってない…な。
そういえば以前“篝から見た紅牙”については聞いたことがあったけど……今思えばギリギリの質問だったかもしれない。そして、その時の篝の答えは“不器用な生き方してる”だった。
厨二感のある話を聞いてしまうと更に不器用な生き方というのも信憑性があるな。
『…………』
白叡はジトッとした視線を篝に向けるが、
「まぁまぁ、一応共通の思い出ってことでギリセーフにしといてよ」
篝は相変わらず笑って誤魔化すだけだった。
だが、おそらく白叡も分かっているはず──このままでは埒が明かないことも、ある程度踏み込まないと覚醒は難しいのだろうということも。
白叡は諦めの溜め息をつきつつもそれ以上言い返すことはなかった。
そんな白叡から俺の方へ向き直ると、
「まぁ、何にしてもさ」
強い瞳が俺をまっすぐに見つめてくる。
「……前にも言ったけど、キミはもっとボクを…ボクたちを頼っていいんだよ、仲間なんだからね」
────!?
微笑む篝の顔に、本来の姿が重なって見えた……気がした。
いや、見えた。
俺の脳裏に蘇る映像── たとえ断片的なものであっても、これは確かな記憶。
あぁ。篝は前からこうやって仲間を… 紅牙を支えてくれていた。
……そうだったな。
確かに、お前は前にも俺に同じことを言ってたな。
鮮明に蘇った、篝との思い出。
ほんの一瞬だったけど、紅牙にとっては大事なものだったはず──。
ただ、相変わらずそれ以上のことは変わらないし、何も起こらない……?
「……宗一郎? 大丈夫??」
俺の様子に気づいた篝が心配そうに声をかけてくれたが、何と言っていいか分からず必死で言葉を探る。
「あ……えっと…映像が重なって見えたりすることがあるんだけど、今もそれが……」
「え!? それって……記憶が蘇った…思い出したってこと?」
驚きと喜びが入り乱れたような表情の篝……だが、
「あ、いや…っ……そうとも言い切れないというか…」
紅牙の記憶だとは思うが、あくまでも断片的なものだと伝える。と、篝は苦笑をうかべ、
「あぁ……まぁ、うん。少しでも何か思い出せたなら良かった! 焦らずいこうね!」
そう言って励ましてくれるけど、ガッカリしているのは伝わるよ?
こいつらのガッカリした感じ……むしろ隠す気はないのだろうな。
罪悪感がすごいが、俺にはどうしようもない。
「落ち込まないで? 大丈夫、確実に前には進んでるよ!」
『…………』
明るく言う篝の言葉に、白叡からは呆れたような溜め息が漏れていた。
いたたまれない俺。そんな俺を篝は改めてじっくりと観察するように見つめてから、
「にしても、見た目って妖的にあんまり関係ないとはいえ…宗一郎は見た目が全然紅牙とは違うんだよねぇ……。せめて見た目が似てたら分かりやすかったかもだけど、宗一郎は小っちゃいし可愛いもんね」
この話、もはやイチャモンに近い文句だと思う。
「み…皆して俺のこと小さいとか可愛いとか言うけど、そこまで言うほど……」
「いや、宗一郎は小さいし、可愛いと思うよ。少なくとも紅牙よりっ」
食い気味でそう断言した上、ビシッと指をさされた。
……篝の言葉通りならば、紅牙は今の俺より“デカくて可愛いくない”ということなのだろう。
もうここまでくると、実際の紅牙の見た目が気になってくる。
少なくとも、美形揃いの仲間の中で気まずくないといいな…。
というか、紅牙の見た目の話はNGだろうに、白叡はもう止める気もない様子。一応篝をジロリと見てはいるけど。
「まぁ見た目もそうなんだけど、ボクにしてみたら……今はともかく、最初会った時は結構近付いてからじゃないと紅牙だとは確信が持てないくらいだったよ。ほんと、よく見つけたな…て感じ」
そう言って苦笑をうかべた篝に、白叡は無言のまま小さく溜め息をつく。
篝の話では、ここ以外にも幻夜が用意した各地の拠点で捜索をしていたらしい。
一応、鬼の捜査網がどの辺に展開されているか様子見をしながら。
が、そもそもほとんど感じられない鬼の気配を辿るのはこいつらだって大変だったはず──
『妖が人間に転生──前代未聞の体と魂を持った状態なんて初めて見るのだから、分かりにくくて当たり前だ』
確かにそうだな。誰も見たことがないのだから。
白叡の言葉に篝も頷くと、
「白叡の言うとおり、ほぼ人間の状態の紅牙を本当に見つけられるのか…正直ボクには自信がなかった。この辺だってボクたちみんなで探してはいたけど……彼方ちゃんが一番に見つけたでしょ、宗一郎のこと」
確かに、最初に見つけてくれたのは彼方だった。
「彼方ちゃんが一番頑張って探してたからね。そもそもこの辺にアタリを絞ったのも彼方ちゃん…と白叡だよ」
篝はそう言って白叡に視線を向けたが、白叡はプイッと顔を背けた。……照れ隠しにも見えたけど。
そして少しの沈黙の後、白叡はポツポツ話し始めた。
『オレ様は彼方が…命令で仕方なく手伝っただけだ。アイツが転生したはずの紅牙…宗一郎からほんの微かに漏れ出ていた妖気を辿ったんだ。結果的に先に接触できたのは鬼の連中だったけどな』
転生が成功した確証もない、成功していても記憶もない、覚醒もしていない状態──
それでも決して諦めずに、信じて探し続け……そして、見つけてくれたんだ。
確かに、俺からわずかに漏れ出た妖気のせいで鬼たちには襲われたのかもしれないが、同時にこいつらが見つけてくれた。順番は問題ではない。
すると、篝は俺に視線を戻し、
「──宗一郎の言うように、仲間…というか彼方ちゃんとの思い出が鍵になるのは間違いないと思う」
それは篝の優しくも、だが確信を持った言葉。
俺が頷くと、篝はまるで俺越しに紅牙を見つめるような優しい眼差しを向け、
「ボクらは……特に紅牙は彼方ちゃんと出会ったことで世界が変わったんだと思うよ」
彼方との出会いで紅牙の…世界が……変わった?
俺が答えを見つける前に、
『──それは、彼方にとっても同じだと思うぞ』
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