喫茶四季成の今日のメニュー

23時のオムライス鶏肉入り

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閑話 紫陽花とトマトスープ

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 ぱらぱらと雨が降っている。目を覚まして真っ先に耳に入る雨音。今日はまだ弟が起きていないらしい。軽く伸びをしてからカーテンを開ける。朝だというのにもかかわらず少しくらい光が部屋に広がっていくと朝だという実感がじんわりと沸いてきた。今日の朝は何にしようか。昨日の残りのパンが少しあったはず。スープはあっただろうか。昨日確かリゾットにして食べきってしまった気がする。傍に畳んでおいてあったシャツとすその広がったパンツに着替えて部屋を出ていく。

 やはりなかったスープの代わりにあったのはトマト。昨日弟が買いすぎたなんて言っていた赤いトマトだ。トマトはヘタの近くまで赤い方がおいしいらしい。うん、おいしいトマトだ。今日はトマトスープにしよう。喫茶店では料理はほとんど置いていない。ケーキやクッキーと言ったスイーツは置いているもののサンドイッチやスープ、オムライスなどはどうしても自信をもって出せない。自分の味覚に自信がないということじゃない。レシピを守れば大抵の人にとってちょうどいい味になるスイーツと違って料理は育ってきた環境、食べてきたものによって好みが大きく変わってしまうと思ってるからだ。私はトマトケチャップの固めオムライスが好きで家ではいつも出している。でも最近の流行はふわトロのオムライス。チーズソースやデミグラスソースなどちょっとおしゃれなものが多く出ている。私たちからすれば食べなれない味が好みな人もいる。自信をもって出せるような、お客様に喜んでもらえるような、と考えれば考えるほどドツボにはまっていく感覚がある。スイーツはその点イメージによるずれも起きにくいと思うし、ということにしている。そこまで考えてしまえば本当に何も出せなくなってしまう。

 トマトは皮を湯剥きしたほうが触感が良くなるらしいけれども二人しか食べないのだし許してもらおう。キャベツは水につけないほうが過熱する場合は良かった気がする。ビタミンがどうだかとかなんかで。四角く小さめに切っておく。ジャガイモと玉ねぎは入れたほうが美味しいから入れる。人参も欲しかったが在庫切れ。残念。ジャガイモは大きめに切っておかないと溶けてしまうがスープだから溶けても問題はない。少し小さめの一口大にしてくし切りにした玉ねぎと炒める。玉ねぎって冷やしておくと目に沁みなくなるらしい。とはいえ冷蔵庫に保管するのはあまり良くないらしいから使う直前に冷水につけるなどをするといいと弟が言っていた。まあ忘れてたんですけれども。玉ねぎの白色が薄くなったら輪切りウインナーを入れてまた少し炒めた後トマトとキャベツ、水を加えて煮る。おしゃれにローリエとか入れるといいとか聞くけれどもハーブなんて家にはない。少なくとも調理用の物は。ハーブティは弟が好きで集めているものだ。最近のお気に入りは水出しのブレンドティー。綺麗な青色に染まるハーブとペパーミントなどのハーブを混ぜたものらしい。詳しい事は忘れてしまった。生憎こちらはコーヒー派である。スープを煮込んでいる間にパンを焼く。昨日のおすすめスイーツはパンプディングだった。甘くやわらかいパンはお腹にも溜まるしコーヒーとも紅茶とも相性がいい。反応も悪くなかったしまた出してみようか。目玉焼きは2個、ベーコンは4枚を二人で半分こに。

 トントンと小さな足音を立てて起きてきた弟。まだ眠そうに目をこすっている。ご飯の匂いにつられて起きてきたらしい。
「もうちょっと待ってちょーだい。」
「今日は何?」
「トマトスープとベーコンエッグ。」
「いいね。」
嬉しそうに軽く笑うと冷蔵庫からブレンドティーのボトルを取り出す。氷の入れたグラス二つに注いでいく。こぽこぽと注がれる青色は天井から差し込む照明の光に照らされて海のように爽やかだ。注ぎ終えるとボトルをもとの位置に戻し、グラスをテーブルに置いた。ちょうど焼き終わったパンの上にベーコンエッグと塩コショウを載せる。パンの載ったお皿はそのままだと寂しいからミニトマトも添えてみる。できたよと声をかけて皿をテーブルに運ぶ。2つのグラスと2つのお皿、2つのスープカップ。いつもの朝の光景だ。弟はいつ作っていたのか蜂蜜付檸檬の瓶を持ってきてテーブルに置いた。ラジオのてきとうな番組をかけて席に座ると弟は瓶からレモンを取り出してバタフライピーにいれていた。青い色が紫色に染まっていく。

 「いただきます。」
二つの声が重なる。二人で両手を合わせてから食べ始める。小さいころからの習慣ではあるがよくお行儀がいいと言われる。言わないと食べた気がしないと言うと不思議そうな顔をされる。そういうものなんだろうか。さて、まずはパンから食べようかと手を伸ばす。半熟の卵はとろとろだから手が汚れないように素早く食べる必要がある。がぶりと食らいつくと卵のとろっとした触感にパンのさくさくした触感がよく合う。ベーコンの脂っこさはどうしてこんなにも目玉焼きと合うのだろうか。塩コショウも絶妙で食事が進む。
「相変わらず目玉焼き食べるの下手だね。」
「え、えっ!?あ、危ない!」
トロトロと零れてしまった黄身が手を伝ってしまった。呆れたように溜め息を着くと弟はティッシュを持ってきて渡してくれた。しょんぼりしながら手を拭く。弟は何事も無かったかのようにスープを飲んでいる。気にしていない様子なのが有難いような冷たいような。気を取り直すために自分もスープ手をつける。トマトの酸味が熱を入れたことでまろやかになっている。玉ねぎやキャベツの甘みも効いているかもしれない。そしてホクホクとしたジャガイモがスープによく合う。輪切りウインナーの食感もアクセント。もうちょっと胡椒を入れても良かったかもしれない。いやでもベーコンエッグに塩コショウかけたしな。料理は奥が深いものである。まだまだ店に出すのは早そうだ。

    雨の日は嫌いな方だったけれど、こんなにも鮮やかな雨の日なら悪くない。青いグラスに口をつけながらそう思った。
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