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第13話 交渉1 状況把握
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艦内の騒ぎはさておき、内火艇で大型帆船、つまりティアマト号を目指している、特設水上機母艦令川丸副長大谷地中佐ほかの立入検査隊は、夕刻にしては明る過ぎることや、気温の高さを訝しく思いながらも、相手の出方を用心しながら、帆船にゆっくりと近付いて行った。
気になるのは、帆船から降ろされたボートの動向である。
そのボートは、海軍式に言えばカッターであり、10人の水夫が両舷5人ずつ分かれてオールを漕いでおり、船尾には艇長らしき者が舵を取り、先頭には身なりの良い男性数人と甲冑姿の兵士5、6人に、ダボっとした服にとんがり帽子を被った奇抜な服装の女性が見える。
「変わった服装だなぁ。」
双眼鏡でボートを観察していた花川少尉が、思わず漏らした感想である。
変わったというよりも、古風と言った方が良い。西洋絵画や童話の挿絵に登場する、何百年か昔の人物といったスタイルである。
「俺たちは、ひょっとしたらえらく昔の世界に来ちまったんじぁないだろうか。」
花川がそう思ったとき、内火艇がぐぐっと速度を落とした。少しよろけた彼であったが、すぐに体勢を立て直した。
それから大谷地に向かって
「どうしたんですか?」
と質問した。
「せっかくお出でいただいたんだから、まず、ボートの皆さんにお話を伺おうじゃあないか。」
大谷地は、帆船から降ろされたボートの方を指差しながら答えた。
「話を伺うって、言葉が通じるとは思えませんが。」
「それなら、あれだ。ボディランゲージとかいうやつだ。」
「なんですか、それ。」
「身振り手振りだよ。」
花川の問いに、大谷地は冗談めかしてサラッと答えた。
やがて内火艇は、舳先が反対方向、つまり、相手のボートの右舷とこちらの右舷が向き合うように、1mほどの距離を置いて停泊した。
互いが互いにまじまじと見合っている。
「お見合いじぁあるまいし。」
花川は、そう思いながらも、むこうのボートの面々をじぃーっと見てしまう。
会話は大谷地が口火を切った。
まず、ボートの一同に向かって挙手の礼(敬礼)を行ってから
「大日本帝国海軍、特設水上機母艦令川丸副長の、海軍中佐大谷地茂です。」
と歯切れよく名乗りを上げた。
大谷地の敬礼に合わせて、内火艇の将兵たちも一斉に敬礼をし、同じタイミングで旧に復した。
花川も、名乗りを上げようかと思ったが、差し出がましそうなのと、どうせ言葉が通じないと思ったので、やめておいた。
相手のボートでは、大谷地の名乗りに呼応するように、長身で痩身、上品そうな、しかし古風な服を身にまとい、左腰に細い剣を帯刀した口髭の男性が進み出て
「〇★▽$*~@%#▲<・¥&?!」
と何かはわからない言葉を、それと分かる丁寧な態度で発した。
「やっぱり、ちっとも分からないですね、何を言っているのか。」
「まあ、敵意はなさそうだがな。」
花川の問いに、大谷地が答えた。
しかし、敵意がないのは理解できても、それ以上、話が進まない。
「『ボディランゲージ』とやらでも、やればいいのに。」
花川は、多少焦れながら思った。
どうしたら良いか誰も分らず、気まずく白けた空気が現場に漂う。
そのとき、相手のボートで動きがあった。
人影をかき分けるようにして、どんがった鍔の広い帽子を被った人物が前へ出てきたのである。
「おおっ。」
内火艇にどよめきが広がった。
それもそのはず、進み出てきたのは妙齢の女性で、帽子からこぼれるような金髪にボン・キュッ・ボンのナイスバディ、しかも、一見ダボっとした服は、裾がチャイナ服のように割れており、長い脚がはみ出していて、何とも艶やかなのである。
一瞬、ボートがパーッと煌めいたように思われた。
その女性は、右手にオーケストラの指揮者のような棒を持ち、左手には、開かれた厚めの本を抱えるように持っていた。
「何だろう。」
内火艇の一同が見守る中、その女性は何かをブツブツと唱えていたが、10秒くらいが経ったであろうか、突如として本から黄色い光が飛び出し、次の瞬間、「指揮棒」の先からも黄色い光が迸り出て、さらに次の瞬間、空中で2つの光が合わさったかと思うと、内火艇の真上まで飛んで来て光の輪を形成した。
「貴様、何をしよるか!」
叫んだ花川が拳銃嚢からサッと銃を取り出し構えると、ほかの兵隊たちも各々銃を構えた。
「撃つな。撃ってはならんぞ!」
大谷地が慌てて立検隊を制止する。
光の輪は、内火艇の真上で直径10mほどの円を描いて回り、その内側では、文字らしきものと幾何学的文様が浮かび上がって、こちらも回っている。
内火艇の面々が上を見上げていると、今度は、その円が内火艇を包み込むようにストンと落ちて来て、海面に落下すると同時に消えて失くなった。
「何だったんだ、今のは。」
「光の輪が空中で回っていたよな。」
皆が不思議さを口にする。
すると
「…の皆様、お分かりになりますか。私は、ミズガルズ王国公艦ティアマト号艦長付士官の准男爵ラース・ヘンリット・ファン・アナセンと申します。私の申し上げていることが、お分かりになりますか。」
という男性の声が聞こえてきた。
「あれ、誰の声だい?」
「いや、俺じゃないよ。」
「確かに聞こえたよな。」
などと兵たちが囁きあう。
大谷地が一歩前へ進み出て
「只今、発言されたのは貴殿でありましょうか。」
と腹に力を込めてアナセンと名乗った男性に向かって言った。
「いかにも、私、アナセンがお話しした。」
その男が再び口を開いた。
「先刻は、海賊どもを退けるに当たりご助力賜ったこと、深く感謝申し上げまする。」
これを聞いた花川が
「よく言うよ。あんたらが何をしたってんだ。全部俺たちの艦隊がやったんじゃねえか。」
と周囲に聞こえないように呟いた。
大谷地は、そこはスルーをして、差し当たりの疑問をぶつけていった。
「我々は、貴殿らの言葉を理解できるようになっていると思われるが、これは如何なる理由によるものかご教示願いたい。」
「これは『言葉の理』という魔術でございます。」
「魔術とは何か。魔法のようなものでしょうか。」
「貴公は、魔術をご存じないのでしょうか。」
「残念ながら存じ上げません。我々の常識では、魔術や魔法は想像上のもので、実在はしません。」
「はてさて面妖なり。この世界に生れ落ちながら、魔術を知らぬ御仁がおわすとは。」
大谷地は、『この世界』という文言に引っ掛かりを感じた。
「まるで、俺たちが『この世界』の人間じゃないみたいな、ひどい言われようだ。」
そう思って、彼は質問を続けた。
「先ほど、そこの女性が光を放ったように見受けられましたが、あれが、今仰った…ええっと『言葉の理』とかいうものでしょうか。」
「いかにも、あれが『言葉の理』の魔術にてございます。」
アナセンが我が意を得たりとばかりに回答した。
「『理』というからは、何か仕組みのようなものがあるのでしょうか。」
「理とは森羅万象に共通するものであり、種族、民族、はたまた時代を超えた真理にてございます。」
傍で聞いていた花川は
「うわぁ、禅問答になってきたぞ、こりゃ。」
と思った。
アナセンが続ける。
「例えば、ヒトというものはいつの時代、どの民族にあってもヒトでございます。この概念を、言葉の上で便宜上『ヒト』と定義付けております。ですから、『ヒト』についての共通概念を魔術をもって置き換えれば、他の言語での『ヒト』に当てはめることができます。ですから、魔術というものは、いわば道具のようなもの、とお考えいただければ、よろしいかと存じます。」
アナセンの説明を聞いた大谷地は
「うむ、全然分らん。」
と言って、取りあえず魔術の理解を放棄し、懸案の質問に移ることにした。
「ところで、先ほど貴殿は『ミズガルズ』という国名を称されたが、私の承知する限り、我々の世界にはそのような国家は存在しなかった。また、国家が運用する重要な船舶が帆船というのも、今日的にはあり得ないのが常識であります。そこで逆にお伺いするが、ニッポンという国をご存じか。あるいはアメリカやイングランド、ドイツといった国は如何でしょう。」
この大谷地の質問を聞くと、ボートの一同は、驚いたように顔を合わせて何やら囁き合っている。
再びアナセンが口を開いた。
「残念ながら、ニッポンやアメリ…カでしたか。そういった国は存じません。却って、我がミズガルズ王国は、この世界で屈指の大強国であり、その名を知らぬとは、にわかには信じられません。皆様は、いったいいずこから参られたのですか。」
「いえ、逆にまた問いたい。ここはどこなのですか、と。」
「ここは、そう、具体的に申し上げるならば、グローブという世界の、ローラシア大陸とゴンドワナ大陸の間にある、ビフレスト海峡ということになります。」
ここまで聞いた大谷地は、思わず花川と顔を合わせた。
「ローラシア?ユーラシアじゃなくて、ですか。ビフレスト海峡って何でしょう。」
花川の問いに大谷地は
「いや、俺だってさっぱりだぜ。訳が分からん。」
と答えるのが精いっぱいである。
「逆にお伺いするが、魔術をご存じないことは置くとして、皆様はどこから参られたのか。いずれの軍隊でいらっしゃるのか。何のために、今、ここに居られるのか。」
大谷地は一つ大きく深呼吸をした。
「我々は、日本帝国海軍に所属する軍人です。日本の大湊から千島列島の幌筵島を目的地として移動中、濃霧に突入、霧が晴れたところ、貴殿の乗艦や海賊船に遭遇したもので、先ほど現在地を具体的にご教示いただいたが、まったく初めて聞く大陸や海峡の名です。」
そこまで一気に説明すると、再び呼吸を整え話し始めた。
「私が乗っていいるのは、特設水上機母艦令川丸で、副長を務めております。本艦の艦長で、艦隊の指揮官も務めているのは桑園大佐ですが、現在、艦で指揮を執っております。」
これに対して、アナセンが今一つ艦名の飲み込みが悪そうだったので
「艦名は、単に令川丸といいます。」
と、大谷地は訂正して付け加えた。
「なるほど、レイカワマルという艦名なのですね。当方は、ミズガルズ王国公艦、つまりは軍艦でございますが、艦名はティアマトといいます。今般、王国のさる貴人をお乗せし、ブリーデヴァンガル島へお連れする途上でございました。」
「なるほど。それで海賊が出現した、ということですな。」
「さようでございます。」
これで、海賊が現れたことについては納得がいったが、「さる貴人」という言い方に、まだ用心されている、完全に信用されていないという気配を感じ取った大谷地であった。
大谷地は、ここで艦長宛てにいったん中間報告をすることにして、花川に向かって
「花川少尉、艦長宛てに現在までの状況を報告せよ。無線電話で構わんぞ。どうも俺たちは米軍なんかいそうにない世界に来てしまったらしいからな。」
と命じた。
命じながら、大谷地は、自分で言ったことの奇妙さに苦笑した。
「何となく状況が理解しかけたところだが、これからが本番だ。」
大谷地は、ティアマト号のボートを見ながら少し気を引き締めた。
気になるのは、帆船から降ろされたボートの動向である。
そのボートは、海軍式に言えばカッターであり、10人の水夫が両舷5人ずつ分かれてオールを漕いでおり、船尾には艇長らしき者が舵を取り、先頭には身なりの良い男性数人と甲冑姿の兵士5、6人に、ダボっとした服にとんがり帽子を被った奇抜な服装の女性が見える。
「変わった服装だなぁ。」
双眼鏡でボートを観察していた花川少尉が、思わず漏らした感想である。
変わったというよりも、古風と言った方が良い。西洋絵画や童話の挿絵に登場する、何百年か昔の人物といったスタイルである。
「俺たちは、ひょっとしたらえらく昔の世界に来ちまったんじぁないだろうか。」
花川がそう思ったとき、内火艇がぐぐっと速度を落とした。少しよろけた彼であったが、すぐに体勢を立て直した。
それから大谷地に向かって
「どうしたんですか?」
と質問した。
「せっかくお出でいただいたんだから、まず、ボートの皆さんにお話を伺おうじゃあないか。」
大谷地は、帆船から降ろされたボートの方を指差しながら答えた。
「話を伺うって、言葉が通じるとは思えませんが。」
「それなら、あれだ。ボディランゲージとかいうやつだ。」
「なんですか、それ。」
「身振り手振りだよ。」
花川の問いに、大谷地は冗談めかしてサラッと答えた。
やがて内火艇は、舳先が反対方向、つまり、相手のボートの右舷とこちらの右舷が向き合うように、1mほどの距離を置いて停泊した。
互いが互いにまじまじと見合っている。
「お見合いじぁあるまいし。」
花川は、そう思いながらも、むこうのボートの面々をじぃーっと見てしまう。
会話は大谷地が口火を切った。
まず、ボートの一同に向かって挙手の礼(敬礼)を行ってから
「大日本帝国海軍、特設水上機母艦令川丸副長の、海軍中佐大谷地茂です。」
と歯切れよく名乗りを上げた。
大谷地の敬礼に合わせて、内火艇の将兵たちも一斉に敬礼をし、同じタイミングで旧に復した。
花川も、名乗りを上げようかと思ったが、差し出がましそうなのと、どうせ言葉が通じないと思ったので、やめておいた。
相手のボートでは、大谷地の名乗りに呼応するように、長身で痩身、上品そうな、しかし古風な服を身にまとい、左腰に細い剣を帯刀した口髭の男性が進み出て
「〇★▽$*~@%#▲<・¥&?!」
と何かはわからない言葉を、それと分かる丁寧な態度で発した。
「やっぱり、ちっとも分からないですね、何を言っているのか。」
「まあ、敵意はなさそうだがな。」
花川の問いに、大谷地が答えた。
しかし、敵意がないのは理解できても、それ以上、話が進まない。
「『ボディランゲージ』とやらでも、やればいいのに。」
花川は、多少焦れながら思った。
どうしたら良いか誰も分らず、気まずく白けた空気が現場に漂う。
そのとき、相手のボートで動きがあった。
人影をかき分けるようにして、どんがった鍔の広い帽子を被った人物が前へ出てきたのである。
「おおっ。」
内火艇にどよめきが広がった。
それもそのはず、進み出てきたのは妙齢の女性で、帽子からこぼれるような金髪にボン・キュッ・ボンのナイスバディ、しかも、一見ダボっとした服は、裾がチャイナ服のように割れており、長い脚がはみ出していて、何とも艶やかなのである。
一瞬、ボートがパーッと煌めいたように思われた。
その女性は、右手にオーケストラの指揮者のような棒を持ち、左手には、開かれた厚めの本を抱えるように持っていた。
「何だろう。」
内火艇の一同が見守る中、その女性は何かをブツブツと唱えていたが、10秒くらいが経ったであろうか、突如として本から黄色い光が飛び出し、次の瞬間、「指揮棒」の先からも黄色い光が迸り出て、さらに次の瞬間、空中で2つの光が合わさったかと思うと、内火艇の真上まで飛んで来て光の輪を形成した。
「貴様、何をしよるか!」
叫んだ花川が拳銃嚢からサッと銃を取り出し構えると、ほかの兵隊たちも各々銃を構えた。
「撃つな。撃ってはならんぞ!」
大谷地が慌てて立検隊を制止する。
光の輪は、内火艇の真上で直径10mほどの円を描いて回り、その内側では、文字らしきものと幾何学的文様が浮かび上がって、こちらも回っている。
内火艇の面々が上を見上げていると、今度は、その円が内火艇を包み込むようにストンと落ちて来て、海面に落下すると同時に消えて失くなった。
「何だったんだ、今のは。」
「光の輪が空中で回っていたよな。」
皆が不思議さを口にする。
すると
「…の皆様、お分かりになりますか。私は、ミズガルズ王国公艦ティアマト号艦長付士官の准男爵ラース・ヘンリット・ファン・アナセンと申します。私の申し上げていることが、お分かりになりますか。」
という男性の声が聞こえてきた。
「あれ、誰の声だい?」
「いや、俺じゃないよ。」
「確かに聞こえたよな。」
などと兵たちが囁きあう。
大谷地が一歩前へ進み出て
「只今、発言されたのは貴殿でありましょうか。」
と腹に力を込めてアナセンと名乗った男性に向かって言った。
「いかにも、私、アナセンがお話しした。」
その男が再び口を開いた。
「先刻は、海賊どもを退けるに当たりご助力賜ったこと、深く感謝申し上げまする。」
これを聞いた花川が
「よく言うよ。あんたらが何をしたってんだ。全部俺たちの艦隊がやったんじゃねえか。」
と周囲に聞こえないように呟いた。
大谷地は、そこはスルーをして、差し当たりの疑問をぶつけていった。
「我々は、貴殿らの言葉を理解できるようになっていると思われるが、これは如何なる理由によるものかご教示願いたい。」
「これは『言葉の理』という魔術でございます。」
「魔術とは何か。魔法のようなものでしょうか。」
「貴公は、魔術をご存じないのでしょうか。」
「残念ながら存じ上げません。我々の常識では、魔術や魔法は想像上のもので、実在はしません。」
「はてさて面妖なり。この世界に生れ落ちながら、魔術を知らぬ御仁がおわすとは。」
大谷地は、『この世界』という文言に引っ掛かりを感じた。
「まるで、俺たちが『この世界』の人間じゃないみたいな、ひどい言われようだ。」
そう思って、彼は質問を続けた。
「先ほど、そこの女性が光を放ったように見受けられましたが、あれが、今仰った…ええっと『言葉の理』とかいうものでしょうか。」
「いかにも、あれが『言葉の理』の魔術にてございます。」
アナセンが我が意を得たりとばかりに回答した。
「『理』というからは、何か仕組みのようなものがあるのでしょうか。」
「理とは森羅万象に共通するものであり、種族、民族、はたまた時代を超えた真理にてございます。」
傍で聞いていた花川は
「うわぁ、禅問答になってきたぞ、こりゃ。」
と思った。
アナセンが続ける。
「例えば、ヒトというものはいつの時代、どの民族にあってもヒトでございます。この概念を、言葉の上で便宜上『ヒト』と定義付けております。ですから、『ヒト』についての共通概念を魔術をもって置き換えれば、他の言語での『ヒト』に当てはめることができます。ですから、魔術というものは、いわば道具のようなもの、とお考えいただければ、よろしいかと存じます。」
アナセンの説明を聞いた大谷地は
「うむ、全然分らん。」
と言って、取りあえず魔術の理解を放棄し、懸案の質問に移ることにした。
「ところで、先ほど貴殿は『ミズガルズ』という国名を称されたが、私の承知する限り、我々の世界にはそのような国家は存在しなかった。また、国家が運用する重要な船舶が帆船というのも、今日的にはあり得ないのが常識であります。そこで逆にお伺いするが、ニッポンという国をご存じか。あるいはアメリカやイングランド、ドイツといった国は如何でしょう。」
この大谷地の質問を聞くと、ボートの一同は、驚いたように顔を合わせて何やら囁き合っている。
再びアナセンが口を開いた。
「残念ながら、ニッポンやアメリ…カでしたか。そういった国は存じません。却って、我がミズガルズ王国は、この世界で屈指の大強国であり、その名を知らぬとは、にわかには信じられません。皆様は、いったいいずこから参られたのですか。」
「いえ、逆にまた問いたい。ここはどこなのですか、と。」
「ここは、そう、具体的に申し上げるならば、グローブという世界の、ローラシア大陸とゴンドワナ大陸の間にある、ビフレスト海峡ということになります。」
ここまで聞いた大谷地は、思わず花川と顔を合わせた。
「ローラシア?ユーラシアじゃなくて、ですか。ビフレスト海峡って何でしょう。」
花川の問いに大谷地は
「いや、俺だってさっぱりだぜ。訳が分からん。」
と答えるのが精いっぱいである。
「逆にお伺いするが、魔術をご存じないことは置くとして、皆様はどこから参られたのか。いずれの軍隊でいらっしゃるのか。何のために、今、ここに居られるのか。」
大谷地は一つ大きく深呼吸をした。
「我々は、日本帝国海軍に所属する軍人です。日本の大湊から千島列島の幌筵島を目的地として移動中、濃霧に突入、霧が晴れたところ、貴殿の乗艦や海賊船に遭遇したもので、先ほど現在地を具体的にご教示いただいたが、まったく初めて聞く大陸や海峡の名です。」
そこまで一気に説明すると、再び呼吸を整え話し始めた。
「私が乗っていいるのは、特設水上機母艦令川丸で、副長を務めております。本艦の艦長で、艦隊の指揮官も務めているのは桑園大佐ですが、現在、艦で指揮を執っております。」
これに対して、アナセンが今一つ艦名の飲み込みが悪そうだったので
「艦名は、単に令川丸といいます。」
と、大谷地は訂正して付け加えた。
「なるほど、レイカワマルという艦名なのですね。当方は、ミズガルズ王国公艦、つまりは軍艦でございますが、艦名はティアマトといいます。今般、王国のさる貴人をお乗せし、ブリーデヴァンガル島へお連れする途上でございました。」
「なるほど。それで海賊が出現した、ということですな。」
「さようでございます。」
これで、海賊が現れたことについては納得がいったが、「さる貴人」という言い方に、まだ用心されている、完全に信用されていないという気配を感じ取った大谷地であった。
大谷地は、ここで艦長宛てにいったん中間報告をすることにして、花川に向かって
「花川少尉、艦長宛てに現在までの状況を報告せよ。無線電話で構わんぞ。どうも俺たちは米軍なんかいそうにない世界に来てしまったらしいからな。」
と命じた。
命じながら、大谷地は、自分で言ったことの奇妙さに苦笑した。
「何となく状況が理解しかけたところだが、これからが本番だ。」
大谷地は、ティアマト号のボートを見ながら少し気を引き締めた。
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