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第15話 交渉3 水偵飛来
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イザベラ姫の部屋へ招かれた花川以下の立検隊は、花川少尉が勧められて部屋の中央に置かれたテーブル席のドア側へ着席し、清田上等兵曹以下の9人は、その後ろにずらりと並んで立つ格好となった。
花川が、清田に向かって着席を勧めたが、清田は遠慮した。
これは、士官と下士官の格式の違いを考えてのことだった。
部屋の中には、姫のほかに、先ほどの姫から「アールト」と呼ばれた老人が姫のすぐ傍に立ち、お付きのものと思われる若い女性4人が、ドアの傍で控えている。
イザベラ姫は、花川に席を勧めた後、自分もその対面に着座した。
このとき、アールトが姫の椅子を引き、座ると同時に戻してやっている。
「改めて何ではございますが、皆様は私たちの言葉を理解なさるのですわね。」
「はい、元々は理解いたしませんでしたが、『理』とかいう魔法をかけていただき、分かるようになった次第でございます。」
花川のしゃっちょこばった話し方が可笑しかったのか、イザベラはフフッと微笑んでから
「あまり格式張った話し方はなさらくて結構ですのよ。私も肩肘を張らずにお話ししたいですもの。」
イザベラの提案に
「では、なるべくそのようにしたいと思います。」
と花川が答えた。
「今、仰いました『理』とは、『言葉の理』のことですわね。きっとソフィアね、その魔術を皆様に施したのは。」
「そのソフィアというのは、こーんな帽子を被った色っぽい、失礼、妖艶な女性のことですか。」
イザベラの問いに、花川が、頭上でとんがり帽子の形を手で真似ながら問い返すと、
「そう、そのソフィアで間違いございませんわ。」
とイザベラがクスクス笑いながら答えた。
「それで、改めてお伺いしますけれど、皆様はどこからお出でになった、どこの軍隊に所属する方々なのかしら。」
イザベラが、少し真顔になって聞いた。
「我々は、ニッポンという国の海軍に属する者です。その近海の千島列島沖を航行中、濃霧に巻かれ、おそらくはその濃霧から出る直前ころに、こちらのティアマト号…でしたか。それともう一隻の帆船や海賊船と遭遇し、霧が晴れたところで海賊船と戦闘になった、という次第です。」
花川の説明にイザベラは
「濃霧、やはり霧なのね、始まりは。私たちもそうでしたもの。」
とやや感慨深げに言った。
「姫様、本当に不躾で恐縮でございますが、お差支えなければご尊名を伺いたく存じます。」
花川が思い切って尋ねた。
「ガキの使いじゃあるまいし、『お姫様と会いました。』じゃあ済まされねえよ、こっちは。だいたい、いかにやんごとなきお生まれか知らねえが、助けてもらって名乗りもしねえなんて生意気だぜ、嬢ちゃん。」
というのが花川の本音である。
姫の傍らの老人、アールトの顔が少し歪んだが、当のお姫様はあっさりと
「命の恩人に対し、名乗りもしないとは、大変失礼申し上げました。」
割って入ろうとするアールトを手で制し、イザベラは
「私は、ミズガルズ王国第二王女イザベラ・ラーシュニン・ファン・ミズガルズと申します。どうぞお見知り置きを。」
と素直に名乗った。
「私は、第51警備陸戦隊、海軍特務少尉花川和久で、ここにいるのは、私の部下たちです。」
花川も名乗りを返した。
「ニッポン、私は聞いたことがございません。アールトは聞いたことがあって?」
イザベラはアールトに聞いたが
「いいえ、臣も聞き及びのなき国の名にてございます。」
彼は申し訳なさそうに答えてから、イザベラの耳元に顔を寄せて
「彼らは、乗る艦も、彼ら自身も、どうにもこの世のものとも思えませぬな。」
と小声で囁いた。
「我が日本は、地球という一つの惑星…世界の中にあります。地球は、海洋と、主たる七つの大陸及び大小の島々から成っており、百余りの国が存在いたしますが、日本はその最も東の方にございまして、現在は、世界の大国を相手に戦争の真っ最中でございます、王女殿下。」
花川は、イザベラたちへ、自分たちの世界情勢を簡単に説明した。
「そう硬くならないでくださいまし。でも、戦というものは、どこの世界でもあるものなのですね。」
イザベラは、少し視線を外し、遠くを見る目になって言った。
彼女は、花川に呼応するように、こちらの世界を説明する。
「私どもが住んでいるのは、グローブという世界で、パンサラッサと呼ばれる海洋が大部分を占め、その中に、北大陸ローラシア、南大陸ゴンドワナという2大大陸のほか、幾つかの小振りな大陸と数えきれない島々から成っております。」
イザベラが話し始めた頃に、室内に良い香りが漂い始めていたが、ここまで話したところで頃は良しと見たのか、アニタがトレイに載せたティーカップを3つ、運んで来た。
アニタは、まず花川の前にカップを置き、次いでイザベラの前にカップを置いた後、立ったままのアールトに向かい
「どうぞ。」
と言って、トレーに載せたカップを差し出した。
彼は、やはり立ったまま
「うむ。」
と言ってカップを受け取り、中身を啜り始めた。
茶を啜りながら、アールトは
「このニッポン人というのは、実に顔が平べったい連中だ。」
距離が近くに寄った花川たちの顔を見て、率直にそう思った。
この間に、ドーラ、ハンナ、ヒルダの3人が、手分けをして9つのティーカップを用意し、花川の後ろで、アールト同様、立ったままでいる清田上曹以下の立検隊員に配った。
さすがに人数が多いので、同じ模様のカップにはならなかったが、色とりどりの装飾が施され、それはそれで上品、かつ、美しかった。
立検隊員たちが、思い思いにカップの中身を飲み始めたのを見たイザベラは、改めて話を始めた。
「私は、ローラシア大陸にございます、偉大なるミズガルズ王国の王族に名を連ねる者でございますところ、この王国は、北部連合5王国と呼ばれております5つの王国から成っており、ミズガルズ王を伝統的に王として戴いております。」
ここでイザベラの口調に力が入った。
生まれが5王国の王を務める王家、というのが誇りであるらしい。
「まあ、イギリスみたいな国ってことか。」
花川は一人で納得し、ティーカップの中身を啜った。
「何だべ、これ。コーヒーではなく、紅茶のようだが、少し違う気もするな。」
北海道出身の花川は、つい出た北海道弁で独り言ちた。
それから続けてイザベラは、
・ローラシアでは、西部のミズガルズ王国と東部のヴァナヘイム王国が覇を競っていること
・北部にアールヴヘイム精霊国というエルフによる神秘の国があること
・さらに、南のゴンドワナ大陸には、比較的小規模な10の国々があり、合従連衡を繰
り返しながらも北大陸諸国に対抗していること
など、グローヴ世界のあらましを語った。
「いやいやいや、聞いたことのない国々に、エルフとかいう訳の分らん人種かや。やっぱり俺たちは全然違う世界、異世界に来たんでないべか。」
花川は、また北海道弁で独り言ちた。
ここでアールトが口を挟んだ。
「皆様が、今、居られるこの海は、南北大陸を隔てるビフレスト海峡で、イザベラ姫は、海峡西部にございます王国の属領土ブリーデヴァンガル島へ赴く途上でございました。」
「ブ、ブリーデ…?」
手帳にメモを取っていた花川が、メモを取る姿勢のまま新聞記者のように問い返すと
「ブリーデヴァンガル島でございます。」
とアールトが繰り返してくれた。
「あ、すみません。どうぞ。」
花川が先を促すと、アールトが説明を再開した。
「そのブリーデヴァンガル島には、此度、5王国の一つグリトニルより属領主代官に就任するグリトニル辺境伯が着任されまして、我が姫は、辺境伯との婚約が相成っていることから、着任式にご参加あらせられるところでございます。」
婚約と聞いた花川が
「ああ、婚約なさっていたのですか。これはこれは衷心よりお祝い申し上げる次第でございます、姫殿下。」
敬語の使い方が間違っていないか不安になりながら、花川が慣れない祝辞を述べた。
「あら、どうもありがとう。フフフ。」
微笑みながらイザベラが礼を述べた。
そこまで一同が話を進めたところで、靴音や話し声などで、上甲板が騒がしくなっているのが伝わってきた。
イザベラとアールト、4人の侍女たちも顔を見合わせ不安気な表情である。
「おい、先任。ちょっと様子を見て来てくれないか。」
花川が清田に向かって命じた。
清田上曹は、警備隊陸戦隊の先任下士官なので、上官も部下たちも、彼のことを「先任」と呼ぶことが多い。
「分かりました。おい、田岡上水。一緒に来い。」
清田は、横にいた無線担当の田岡上等水兵に同行を命じた。
いきなり命じられた田岡は、飲みかけのカップの中身を慌てて飲み干すと、ドア横のテーブルに置き、勢いよく
「はい。」
と返事をして、清田に続き貴賓室を出ようとしたが、清田がいきなり立ち止まったので背中にぶつかってしまった。
「先任、どうしたんですか。」
そう言った田岡が、清田の体越しに前を見ると、大谷地がドア前の通路に立っていた。
「少尉、何か出たらしいぞ。『わいばーん』でしたか、艦長。」
大谷地が隣にいるらしいバース艦長に確認し
「ワイバーンとかいう空飛ぶ竜が出たらしいぞ。」
と改めて花川に告げた。
「はあ?空飛ぶ竜、ですかぁ。」
あまりの突拍子のなさに、思わず言葉が間延びしてしまう。
「艦長。それは真にございまするか!」
アールトが、また血相を変えていった。
「ワイバーンとは如何なるものでございましょう。」
花川が質問すると、アールトは、何をのんびりとしてやがる、といった風に説明をはじめた。
「ワイバーンとは、小振りの翼竜のことで、竜騎士が跨乗し戦に参加しまする。戦場から戦場を一飛びし、上空から槍を投げ、弓を射、焙烙玉を放り込んでくる、まことに厄介な相手でございます。しかし、なぜこのように陸地から遠く離れた場所に現れるのかが解せぬ。そういえば、皆様のレイカワマルの後部に積んでいるもの、ずっと気にはなっておりましたが、あれは翼竜ではございませぬのか。」
と最後は反問で締めくくった。
「それについては後ほどゆっくりと。とにかく、様子を確認させます。さあ、行け。」
急かされた清田と田岡が貴賓室を飛び出し、上甲板へ向かった。
「姫様、今度こそは危のうございますぞ。」
外が気になってそわそわしていたイザベラは、アールトから早々に釘を刺されてしまった。
ところが、大谷地と花川たち立検隊には、何か覚えのある音が聞こえた気がした。
「あれっ?!爆音じゃあないですか?」
兵隊のうちの一人が声を上げた。
アールトたちは相変わらず不安そうである。
そこへ、田岡上水が息を切らせて戻ってきた。
「報告。上空に友軍機飛来、水偵瑞雲であります!」
「何だと!」
花川は思わず椅子から立ち上がり、危うくカップを床に落としそうになった。
大谷地は
「本当か。よし、俺も見に行くぞ。艦長、参りましょう。」
と言ってバース艦長を促し、連れ立って上甲板へ向かって行った。
「水偵瑞雲か。」
花川は喜びが湧いてくるのを抑えられなかった。
花川が乗艦している令川丸に搭載しているのは、零式水上観測機、零式水上偵察機と二式水上戦闘機だけで、水上偵察機瑞雲は積んでいない。
言い換えれば、瑞雲の行動半径内に、友軍基地か艦艇が存在するということになる。
「畜生、俺たちだけじゃなかったんだ。いや、帆船が俺たちの世界に飛ばされて来た可能性だってあるじゃないか。」
彼は、小躍りしたい心境であったが、今、彼が存在する場所の緯度・経度を知ったら、単純に喜んでいられないことに気付いたはずである。
花川が、清田に向かって着席を勧めたが、清田は遠慮した。
これは、士官と下士官の格式の違いを考えてのことだった。
部屋の中には、姫のほかに、先ほどの姫から「アールト」と呼ばれた老人が姫のすぐ傍に立ち、お付きのものと思われる若い女性4人が、ドアの傍で控えている。
イザベラ姫は、花川に席を勧めた後、自分もその対面に着座した。
このとき、アールトが姫の椅子を引き、座ると同時に戻してやっている。
「改めて何ではございますが、皆様は私たちの言葉を理解なさるのですわね。」
「はい、元々は理解いたしませんでしたが、『理』とかいう魔法をかけていただき、分かるようになった次第でございます。」
花川のしゃっちょこばった話し方が可笑しかったのか、イザベラはフフッと微笑んでから
「あまり格式張った話し方はなさらくて結構ですのよ。私も肩肘を張らずにお話ししたいですもの。」
イザベラの提案に
「では、なるべくそのようにしたいと思います。」
と花川が答えた。
「今、仰いました『理』とは、『言葉の理』のことですわね。きっとソフィアね、その魔術を皆様に施したのは。」
「そのソフィアというのは、こーんな帽子を被った色っぽい、失礼、妖艶な女性のことですか。」
イザベラの問いに、花川が、頭上でとんがり帽子の形を手で真似ながら問い返すと、
「そう、そのソフィアで間違いございませんわ。」
とイザベラがクスクス笑いながら答えた。
「それで、改めてお伺いしますけれど、皆様はどこからお出でになった、どこの軍隊に所属する方々なのかしら。」
イザベラが、少し真顔になって聞いた。
「我々は、ニッポンという国の海軍に属する者です。その近海の千島列島沖を航行中、濃霧に巻かれ、おそらくはその濃霧から出る直前ころに、こちらのティアマト号…でしたか。それともう一隻の帆船や海賊船と遭遇し、霧が晴れたところで海賊船と戦闘になった、という次第です。」
花川の説明にイザベラは
「濃霧、やはり霧なのね、始まりは。私たちもそうでしたもの。」
とやや感慨深げに言った。
「姫様、本当に不躾で恐縮でございますが、お差支えなければご尊名を伺いたく存じます。」
花川が思い切って尋ねた。
「ガキの使いじゃあるまいし、『お姫様と会いました。』じゃあ済まされねえよ、こっちは。だいたい、いかにやんごとなきお生まれか知らねえが、助けてもらって名乗りもしねえなんて生意気だぜ、嬢ちゃん。」
というのが花川の本音である。
姫の傍らの老人、アールトの顔が少し歪んだが、当のお姫様はあっさりと
「命の恩人に対し、名乗りもしないとは、大変失礼申し上げました。」
割って入ろうとするアールトを手で制し、イザベラは
「私は、ミズガルズ王国第二王女イザベラ・ラーシュニン・ファン・ミズガルズと申します。どうぞお見知り置きを。」
と素直に名乗った。
「私は、第51警備陸戦隊、海軍特務少尉花川和久で、ここにいるのは、私の部下たちです。」
花川も名乗りを返した。
「ニッポン、私は聞いたことがございません。アールトは聞いたことがあって?」
イザベラはアールトに聞いたが
「いいえ、臣も聞き及びのなき国の名にてございます。」
彼は申し訳なさそうに答えてから、イザベラの耳元に顔を寄せて
「彼らは、乗る艦も、彼ら自身も、どうにもこの世のものとも思えませぬな。」
と小声で囁いた。
「我が日本は、地球という一つの惑星…世界の中にあります。地球は、海洋と、主たる七つの大陸及び大小の島々から成っており、百余りの国が存在いたしますが、日本はその最も東の方にございまして、現在は、世界の大国を相手に戦争の真っ最中でございます、王女殿下。」
花川は、イザベラたちへ、自分たちの世界情勢を簡単に説明した。
「そう硬くならないでくださいまし。でも、戦というものは、どこの世界でもあるものなのですね。」
イザベラは、少し視線を外し、遠くを見る目になって言った。
彼女は、花川に呼応するように、こちらの世界を説明する。
「私どもが住んでいるのは、グローブという世界で、パンサラッサと呼ばれる海洋が大部分を占め、その中に、北大陸ローラシア、南大陸ゴンドワナという2大大陸のほか、幾つかの小振りな大陸と数えきれない島々から成っております。」
イザベラが話し始めた頃に、室内に良い香りが漂い始めていたが、ここまで話したところで頃は良しと見たのか、アニタがトレイに載せたティーカップを3つ、運んで来た。
アニタは、まず花川の前にカップを置き、次いでイザベラの前にカップを置いた後、立ったままのアールトに向かい
「どうぞ。」
と言って、トレーに載せたカップを差し出した。
彼は、やはり立ったまま
「うむ。」
と言ってカップを受け取り、中身を啜り始めた。
茶を啜りながら、アールトは
「このニッポン人というのは、実に顔が平べったい連中だ。」
距離が近くに寄った花川たちの顔を見て、率直にそう思った。
この間に、ドーラ、ハンナ、ヒルダの3人が、手分けをして9つのティーカップを用意し、花川の後ろで、アールト同様、立ったままでいる清田上曹以下の立検隊員に配った。
さすがに人数が多いので、同じ模様のカップにはならなかったが、色とりどりの装飾が施され、それはそれで上品、かつ、美しかった。
立検隊員たちが、思い思いにカップの中身を飲み始めたのを見たイザベラは、改めて話を始めた。
「私は、ローラシア大陸にございます、偉大なるミズガルズ王国の王族に名を連ねる者でございますところ、この王国は、北部連合5王国と呼ばれております5つの王国から成っており、ミズガルズ王を伝統的に王として戴いております。」
ここでイザベラの口調に力が入った。
生まれが5王国の王を務める王家、というのが誇りであるらしい。
「まあ、イギリスみたいな国ってことか。」
花川は一人で納得し、ティーカップの中身を啜った。
「何だべ、これ。コーヒーではなく、紅茶のようだが、少し違う気もするな。」
北海道出身の花川は、つい出た北海道弁で独り言ちた。
それから続けてイザベラは、
・ローラシアでは、西部のミズガルズ王国と東部のヴァナヘイム王国が覇を競っていること
・北部にアールヴヘイム精霊国というエルフによる神秘の国があること
・さらに、南のゴンドワナ大陸には、比較的小規模な10の国々があり、合従連衡を繰
り返しながらも北大陸諸国に対抗していること
など、グローヴ世界のあらましを語った。
「いやいやいや、聞いたことのない国々に、エルフとかいう訳の分らん人種かや。やっぱり俺たちは全然違う世界、異世界に来たんでないべか。」
花川は、また北海道弁で独り言ちた。
ここでアールトが口を挟んだ。
「皆様が、今、居られるこの海は、南北大陸を隔てるビフレスト海峡で、イザベラ姫は、海峡西部にございます王国の属領土ブリーデヴァンガル島へ赴く途上でございました。」
「ブ、ブリーデ…?」
手帳にメモを取っていた花川が、メモを取る姿勢のまま新聞記者のように問い返すと
「ブリーデヴァンガル島でございます。」
とアールトが繰り返してくれた。
「あ、すみません。どうぞ。」
花川が先を促すと、アールトが説明を再開した。
「そのブリーデヴァンガル島には、此度、5王国の一つグリトニルより属領主代官に就任するグリトニル辺境伯が着任されまして、我が姫は、辺境伯との婚約が相成っていることから、着任式にご参加あらせられるところでございます。」
婚約と聞いた花川が
「ああ、婚約なさっていたのですか。これはこれは衷心よりお祝い申し上げる次第でございます、姫殿下。」
敬語の使い方が間違っていないか不安になりながら、花川が慣れない祝辞を述べた。
「あら、どうもありがとう。フフフ。」
微笑みながらイザベラが礼を述べた。
そこまで一同が話を進めたところで、靴音や話し声などで、上甲板が騒がしくなっているのが伝わってきた。
イザベラとアールト、4人の侍女たちも顔を見合わせ不安気な表情である。
「おい、先任。ちょっと様子を見て来てくれないか。」
花川が清田に向かって命じた。
清田上曹は、警備隊陸戦隊の先任下士官なので、上官も部下たちも、彼のことを「先任」と呼ぶことが多い。
「分かりました。おい、田岡上水。一緒に来い。」
清田は、横にいた無線担当の田岡上等水兵に同行を命じた。
いきなり命じられた田岡は、飲みかけのカップの中身を慌てて飲み干すと、ドア横のテーブルに置き、勢いよく
「はい。」
と返事をして、清田に続き貴賓室を出ようとしたが、清田がいきなり立ち止まったので背中にぶつかってしまった。
「先任、どうしたんですか。」
そう言った田岡が、清田の体越しに前を見ると、大谷地がドア前の通路に立っていた。
「少尉、何か出たらしいぞ。『わいばーん』でしたか、艦長。」
大谷地が隣にいるらしいバース艦長に確認し
「ワイバーンとかいう空飛ぶ竜が出たらしいぞ。」
と改めて花川に告げた。
「はあ?空飛ぶ竜、ですかぁ。」
あまりの突拍子のなさに、思わず言葉が間延びしてしまう。
「艦長。それは真にございまするか!」
アールトが、また血相を変えていった。
「ワイバーンとは如何なるものでございましょう。」
花川が質問すると、アールトは、何をのんびりとしてやがる、といった風に説明をはじめた。
「ワイバーンとは、小振りの翼竜のことで、竜騎士が跨乗し戦に参加しまする。戦場から戦場を一飛びし、上空から槍を投げ、弓を射、焙烙玉を放り込んでくる、まことに厄介な相手でございます。しかし、なぜこのように陸地から遠く離れた場所に現れるのかが解せぬ。そういえば、皆様のレイカワマルの後部に積んでいるもの、ずっと気にはなっておりましたが、あれは翼竜ではございませぬのか。」
と最後は反問で締めくくった。
「それについては後ほどゆっくりと。とにかく、様子を確認させます。さあ、行け。」
急かされた清田と田岡が貴賓室を飛び出し、上甲板へ向かった。
「姫様、今度こそは危のうございますぞ。」
外が気になってそわそわしていたイザベラは、アールトから早々に釘を刺されてしまった。
ところが、大谷地と花川たち立検隊には、何か覚えのある音が聞こえた気がした。
「あれっ?!爆音じゃあないですか?」
兵隊のうちの一人が声を上げた。
アールトたちは相変わらず不安そうである。
そこへ、田岡上水が息を切らせて戻ってきた。
「報告。上空に友軍機飛来、水偵瑞雲であります!」
「何だと!」
花川は思わず椅子から立ち上がり、危うくカップを床に落としそうになった。
大谷地は
「本当か。よし、俺も見に行くぞ。艦長、参りましょう。」
と言ってバース艦長を促し、連れ立って上甲板へ向かって行った。
「水偵瑞雲か。」
花川は喜びが湧いてくるのを抑えられなかった。
花川が乗艦している令川丸に搭載しているのは、零式水上観測機、零式水上偵察機と二式水上戦闘機だけで、水上偵察機瑞雲は積んでいない。
言い換えれば、瑞雲の行動半径内に、友軍基地か艦艇が存在するということになる。
「畜生、俺たちだけじゃなかったんだ。いや、帆船が俺たちの世界に飛ばされて来た可能性だってあるじゃないか。」
彼は、小躍りしたい心境であったが、今、彼が存在する場所の緯度・経度を知ったら、単純に喜んでいられないことに気付いたはずである。
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