日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨

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第64話 異世界と貨幣経済

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「オーイ、みんな無事か!」
 
 辛うじて海面に浮かんでいる龍の死体の上で、ヴァナヘイム王国准騎士ペレス・カストロは、胸甲を脱ぎ捨てながら同乗していた4名の兵士の安否を確認した。
 弱々しく返って来た返答から、全員の無事が分かった。

 そして彼は、現状が信じられないというように

「バカな、バカな、バカな。こんなことがあるはずはない。」

と繰り返した。

 大型龍は、今まで、一度たりとも失われたことはない。
 常に敵を圧倒する存在だった。

 それが、たかだか数匹の小型ワイバーンに、寄ってたかって墜とされてしまった。

「何なんだ、あのワイバーンは。肌は気味の悪い緑色の斑で、ブンブンと小煩い音を立てて飛び回ったかと思うと、威力のデカい火箭を撃ち込みやがった。あれは、この世の物なのか。」

 上空を見上げると、もう一頭の龍が、ワイバーンに寄ってたかって攻撃されている。
 カストロの龍と同じ様にあちこちから火箭を撃ち込まれ、苦しそうに喘いでいるように見える。

「ああ、あいつも同じ運命を辿るのか。」

 そう思ったカストロが前方の海上を見ると、帆のない灰色の船が近付いて来るのが見えた。


 日高軍曹の屠龍が、火を噴く大型龍の頭に機首37粍機関砲3発と、尻尾から首にかけての裏側に20粍斜め銃を1航過撃ち込んだところで、妹背牛曹長も攻撃に加わり、頭部に37粍機関砲を1発撃ち込むと、これが止めになったかのように、龍はガクンと頭を垂れて降下して行った。

 先ほど、別の龍を攻撃した時もそうだったが、不思議と、騎乗している兵士を直接撃とうという気は起きなかった。

「身を晒している相手は、撃ち辛いのだろうか。」

 B24やB29を攻撃する時、操縦席は真っ先に攻撃する箇所の一つであったことに比べると、ひどく不思議な気がした。

 ともあれ、大型龍を2頭撃墜である。

 妹背牛が海面を見下ろすと、墜落して海面に浮かんでいる龍の方へ、海防艦が近付いて行くところであった。
 生存者を救助するためか、艦上では、カッターを降下させる準備が始まっている。

「後はよろしく!」

 妹背牛機と日高機は、きれいな編隊を組み、広尾曹長、大濱伍長の隼が組んだ編隊がこれに続き、高度を100mほどの低空にまで下げ、まずはデ・ノーアトゥーン港外に停泊中の蛟龍、出雲の上空に飛んで行った。

 艦上では、艦橋や甲板に鈴なりの将兵たちがこちらに手を振っている。

 妹背牛たちは翼を振ってこれに応え、次にデ・ノーアトゥーンの街の上空へ向かった。

 撃墜現場は、街からもさほど遠くない距離だったはずなので、住民たちも空戦を見ていたはずである。

 妹背牛たちは、トゥンサリル城の上空は避け、南方から市街地上空へ入って行った。

 屠龍2機と隼2機が、低空から爆音を轟かせて飛行すると、街の通りや家の窓などから、大勢の住民たちがこちらに向かって手を振ってくれた。

「曹長殿、実に気分が良くあります。」

 後部座席の坂田伍長が、伝声管で話し掛けて来た。

「まったくだ。凱旋飛行だからな。お伽噺の主人公にでもなった気分だぜ。」

 妹背牛も、実に気分爽快だった。
 
 もっと高度を下げてサービスしようと思ったが、隼のうち1機は、の操縦だったことを思い出し、危険なので止めておくことにして、時計回りでぐるりと街の南部へ戻り、同じ高度でもう一度凱旋編隊飛行を行った。

 街の住人たちは、より盛大に手を振ってくれた。
 中には旗や布を振り回す者もいて、妹背牛たちは、住民たちの大歓迎に満足し、翼を振って挨拶を返してから、ギムレー飛行場へ戻って行った。

 脅威が去ったことで、半舷上陸の将兵たちも、安心してデ・ノーアトゥーンの街へ繰り出すことができるようになった。
 港には、臨時のゲートが数か所設けられ、将兵たちは、ここで小遣い銭を受領して街へ入って行った。

 ブリーデヴァンガル属領の通貨は、大雑把に区別して銅貨、銀貨、金貨があり、通貨単位はミズガルズ本国と共通で

 1レル 銅貨(穴開き)
 1レルト(10レル)青銅貨
 1レルフント(100レル)銀貨
 1フントダート(10,000レル)金貨

となっている。

 山花と大谷地がハーン商務尚書から受けた説明では、庶民の、夫婦と子供4人の一般的な家庭では、1か月1レルフントで生活が賄え、フントダートは、一応存在する単位ではあるが、市中で流通することはほぼないもので、庶民の中には見たことがない者も多く、よく偽造品が詐欺の手段に用いられる、とのことであった。

 今回の上陸に当たり、属領主府からは、士官(将校)は一律一人2レルト、下士官兵は同様に1レルトが支給された。

 庶民の生活水準からすれば結構な額ではあるが、山花が

「属領主府の金庫は大丈夫ですか?」

とハーンに質問すると

「なに、皆様のためであれば安いものでございます。それに、皆様に街でお使いいただければ、そのうち回り回って戻って参ります。」

 ハーンはシレっと回答して寄越した。

「天下の回りもの、か。」

 異世界でも貨幣経済は生きている。
 
 山花は、鎌倉時代の武士青砥藤綱の、銭10文に松明50文の逸話を思い出した。

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