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第77話 ハンターキラー作戦開始
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「水偵は敵潜を仕留め損ねたようだな。」
駆逐艦葉月の艦橋で、艦長の上川中佐が航海長の二木大尉に向かって言った。
「重油を漏洩させたようですから、一定の打撃は与えたのでしょう。常時、索敵機を飛ばしているようですから、迂闊に浮上できないでしょうね。」
「昼間ならそうだろうが、夜間、索敵機は飛ばせないだろうし、仮に飛ばせても、電探がなければ水上航行中でも発見は難しいぞ。」
「敵は、暗闇でも霧の中でもドンドン撃ってきますがね。」
軽い遣り取りの後、上川中佐は
「ところで、アスターテ号はどこに向かっていたのでしょう。」
と艦橋で傍らにいた紳士に聞いた。
「ブリーデヴァンガル島の南南西の海上にある、ヴェスターンラントへ向かっているところでした。」
答えた紳士は、属領主府海事・軍務尚書レンダール男爵の補佐官で、秘書でもあるエギル・ヘズ・ファン・ハッケン准男爵である。
「定期連絡船のようなものですか。」
二木が尋ねる。
「いいえ、一般商船としてではなく、王国本土からの使者と貴族を何人か乗せた公用艦として派遣される途中でした。ブリーデヴァンガル島までは、ティアマト号の純粋な護衛艦で、ブリーデヴァンガル島からは、公用使と貴族を乗せ、公用艦となったものです。」
「では、米軍潜水艦が狙ったのは、その使者と貴族が目当てだったという訳でしょうか。」
ハッケンの答えを聞いた二木が、重ねて聞いた。
「おそらくは、そうでしょうな。」
「それでは、聞いたところの旧公国派の連中なりが米軍の背後にいる、ということでしょうか。」
「いかにも。今回の一連の騒動の背後にいると目されている、あの現属領主の出来損ない息子フレデリクめが、トゥンサリル城の支城に追い詰められながら逃げ果せたのは、海からの支援と考えられます。海上は我らが警戒しておりましたが、海に潜る船、センスイカンでしたか…であれば、夜陰に紛れて逃げることも可能だったでしょう。」
ハッケンは、少し間を置いてから、再び語り始めた。
「加えて、ヴェスターンラントのさらに西側には、水中種族のメロウがおります。」
「水中種族、ですか。」
上川が聞くと
「そうです。先祖が人魚とも言われており、海上や海辺で生活を営んでいる種族で、水中での活動を得意としており、外見上は、緑色の髪と瞳が特徴です。おそらくは、彼らもあの出来損ないと組んでおったのでしょうな。」
「なるほど。漠然とですが、今回の一連の騒ぎの全貌が見えたような気がいたします。」
上川は、そう言ってから
「策源地があるとなると、いったん取り逃がせば厄介事が増える。とにかく先を急ぎたいが…。」
先を急ぎたいのは皆同じであるが、新造海防艦と駆潜艇の足の遅さは如何ともし難い。
「水偵から入電。敵潜の足が鈍りつつあり。現在、速力3ノット。」
通信士から報告が入る。
報告通りであれば、帆船は、敵潜の速力の倍である約6ノットの速力で航行しているため、このまま行けば、自然と敵潜を引き離すであろう。
逆に、こちらと敵潜の距離は、予想より縮まることとなり、会敵が早くなる。
「よし。日没までに何とか追い付けるぞ!」
上川は弾んだ声で言った。
一方、上空では、零式観測機は引き返し、航続距離の長い零式水偵が重油の帯を監視し続けていた。
先刻、押っ取り刀で駆け付けた瑞雲が25番を投下したが、改めて損害を与えるには至らなかったようである。
新たに6番2号爆弾を搭載した零式観測機と、25番2号爆弾を搭載した零式水偵が2機ずつ派遣され、敵潜が浮上の気配を見せた場合、直ちに攻撃できるように、常時、重油の帯の先端上空で旋回を続けていた。
対潜掃討艦隊の各艦では、ジリジリとした時が流れて行ったが、日が傾いてきたころ、ようやく敵潜が漏出させる重油の帯に追い付いて来た。
各艦の将兵は、上空の水偵と観測機に向かって帽子や手を振り、水偵と観測機は、歓迎するように翼を振って応えた。
敵潜が潜航してから6時間余り、かなり蓄電池も消耗してきたであろう頃合いである。
艦隊は、初期の予定の通り、ハンターキラーの陣形編成に取り掛かったが、消耗した敵潜の状況から、爆雷搭載数の少ない駆潜艇59号を艦隊から外してこのまま前進させ、安全確認までの間、アスターテ号の護衛を行わせることとした。
駆逐艦葉月と海防艦天売は、速度を6ノットに落とし、徐々に距離を詰めて行く。
海防艦利尻と第83号、駆逐艦櫟は、そのままの16ノットで重油の帯の先端、即ち、敵潜の前方へ進出し、十分な距離を取ってから反転した。
3艦は、反転の後、海防艦第83号が先頭に立ち、その後方を利尻と櫟が並行する鏃の隊形を組んだ。
これは、海防艦第83号は、艦尾の爆雷投下軌道が2基あり、加えて、両舷に6基ずつ計12基の爆雷投射機を持ち、かつ、120発の爆雷を搭載しているため、後方と両舷を一度に14発の爆雷でカバーできるほか、最新式の三式探信儀を装備するなど、対潜攻撃力が充実していることが最大の理由である。
櫟は、艦尾爆雷投下軌道を2基持つが、両舷用爆雷投射機が2基のみで、搭載爆雷数も60発と、対潜攻撃力に劣り、利尻は、爆雷搭載数は80発とやや多いものの、爆雷投射機を1基しか持たず、対潜攻撃力に劣っていたことから、両艦が並行して航行し、片舷側をそれぞれカバーすることにした。
やがて、ハンターキラー戦の陣形は整い、ハンター役の葉月と天売が並走し、速度を4ノットまで落とした。
上川は、敵潜が損傷し重油を漏洩しているため、そこまでやらなくてもという気持ちもあったが、念には念を入れることにしたのである。
水測員からは、敵潜の推進器音を捉えたとの報告が入っている。
敵潜も水中聴音器でこちらのスクリュー音や機関音を捉え、位置や艦数を掴もうとしているはずである。
「敵潜の推進器音途絶えました。注水音探知、潜航する模様。」
水測員から、続けて報告が入った。
機関を停止し音を出さないようにして、深々度へ逃れる算段である。
「水測、目標の探知始め。探信儀発振。」
上川が下令した。
プィ―ン プィ―ン
という音波が発振され始める。
ハンターの役割は、発振音で敵潜を追い詰めて行くことではあるが、水測員のレシーバーがその反射波を捉え、敵潜の位置を割り出し、キラー役に伝達して行く。
複数の艦が音波を発振すると、干渉してしまうので、今、音波を出しているのは葉月だけである。
「さあ、狩りの始まりだ。」
上川は、前方の海面を見つめながら呟いた。
駆逐艦葉月の艦橋で、艦長の上川中佐が航海長の二木大尉に向かって言った。
「重油を漏洩させたようですから、一定の打撃は与えたのでしょう。常時、索敵機を飛ばしているようですから、迂闊に浮上できないでしょうね。」
「昼間ならそうだろうが、夜間、索敵機は飛ばせないだろうし、仮に飛ばせても、電探がなければ水上航行中でも発見は難しいぞ。」
「敵は、暗闇でも霧の中でもドンドン撃ってきますがね。」
軽い遣り取りの後、上川中佐は
「ところで、アスターテ号はどこに向かっていたのでしょう。」
と艦橋で傍らにいた紳士に聞いた。
「ブリーデヴァンガル島の南南西の海上にある、ヴェスターンラントへ向かっているところでした。」
答えた紳士は、属領主府海事・軍務尚書レンダール男爵の補佐官で、秘書でもあるエギル・ヘズ・ファン・ハッケン准男爵である。
「定期連絡船のようなものですか。」
二木が尋ねる。
「いいえ、一般商船としてではなく、王国本土からの使者と貴族を何人か乗せた公用艦として派遣される途中でした。ブリーデヴァンガル島までは、ティアマト号の純粋な護衛艦で、ブリーデヴァンガル島からは、公用使と貴族を乗せ、公用艦となったものです。」
「では、米軍潜水艦が狙ったのは、その使者と貴族が目当てだったという訳でしょうか。」
ハッケンの答えを聞いた二木が、重ねて聞いた。
「おそらくは、そうでしょうな。」
「それでは、聞いたところの旧公国派の連中なりが米軍の背後にいる、ということでしょうか。」
「いかにも。今回の一連の騒動の背後にいると目されている、あの現属領主の出来損ない息子フレデリクめが、トゥンサリル城の支城に追い詰められながら逃げ果せたのは、海からの支援と考えられます。海上は我らが警戒しておりましたが、海に潜る船、センスイカンでしたか…であれば、夜陰に紛れて逃げることも可能だったでしょう。」
ハッケンは、少し間を置いてから、再び語り始めた。
「加えて、ヴェスターンラントのさらに西側には、水中種族のメロウがおります。」
「水中種族、ですか。」
上川が聞くと
「そうです。先祖が人魚とも言われており、海上や海辺で生活を営んでいる種族で、水中での活動を得意としており、外見上は、緑色の髪と瞳が特徴です。おそらくは、彼らもあの出来損ないと組んでおったのでしょうな。」
「なるほど。漠然とですが、今回の一連の騒ぎの全貌が見えたような気がいたします。」
上川は、そう言ってから
「策源地があるとなると、いったん取り逃がせば厄介事が増える。とにかく先を急ぎたいが…。」
先を急ぎたいのは皆同じであるが、新造海防艦と駆潜艇の足の遅さは如何ともし難い。
「水偵から入電。敵潜の足が鈍りつつあり。現在、速力3ノット。」
通信士から報告が入る。
報告通りであれば、帆船は、敵潜の速力の倍である約6ノットの速力で航行しているため、このまま行けば、自然と敵潜を引き離すであろう。
逆に、こちらと敵潜の距離は、予想より縮まることとなり、会敵が早くなる。
「よし。日没までに何とか追い付けるぞ!」
上川は弾んだ声で言った。
一方、上空では、零式観測機は引き返し、航続距離の長い零式水偵が重油の帯を監視し続けていた。
先刻、押っ取り刀で駆け付けた瑞雲が25番を投下したが、改めて損害を与えるには至らなかったようである。
新たに6番2号爆弾を搭載した零式観測機と、25番2号爆弾を搭載した零式水偵が2機ずつ派遣され、敵潜が浮上の気配を見せた場合、直ちに攻撃できるように、常時、重油の帯の先端上空で旋回を続けていた。
対潜掃討艦隊の各艦では、ジリジリとした時が流れて行ったが、日が傾いてきたころ、ようやく敵潜が漏出させる重油の帯に追い付いて来た。
各艦の将兵は、上空の水偵と観測機に向かって帽子や手を振り、水偵と観測機は、歓迎するように翼を振って応えた。
敵潜が潜航してから6時間余り、かなり蓄電池も消耗してきたであろう頃合いである。
艦隊は、初期の予定の通り、ハンターキラーの陣形編成に取り掛かったが、消耗した敵潜の状況から、爆雷搭載数の少ない駆潜艇59号を艦隊から外してこのまま前進させ、安全確認までの間、アスターテ号の護衛を行わせることとした。
駆逐艦葉月と海防艦天売は、速度を6ノットに落とし、徐々に距離を詰めて行く。
海防艦利尻と第83号、駆逐艦櫟は、そのままの16ノットで重油の帯の先端、即ち、敵潜の前方へ進出し、十分な距離を取ってから反転した。
3艦は、反転の後、海防艦第83号が先頭に立ち、その後方を利尻と櫟が並行する鏃の隊形を組んだ。
これは、海防艦第83号は、艦尾の爆雷投下軌道が2基あり、加えて、両舷に6基ずつ計12基の爆雷投射機を持ち、かつ、120発の爆雷を搭載しているため、後方と両舷を一度に14発の爆雷でカバーできるほか、最新式の三式探信儀を装備するなど、対潜攻撃力が充実していることが最大の理由である。
櫟は、艦尾爆雷投下軌道を2基持つが、両舷用爆雷投射機が2基のみで、搭載爆雷数も60発と、対潜攻撃力に劣り、利尻は、爆雷搭載数は80発とやや多いものの、爆雷投射機を1基しか持たず、対潜攻撃力に劣っていたことから、両艦が並行して航行し、片舷側をそれぞれカバーすることにした。
やがて、ハンターキラー戦の陣形は整い、ハンター役の葉月と天売が並走し、速度を4ノットまで落とした。
上川は、敵潜が損傷し重油を漏洩しているため、そこまでやらなくてもという気持ちもあったが、念には念を入れることにしたのである。
水測員からは、敵潜の推進器音を捉えたとの報告が入っている。
敵潜も水中聴音器でこちらのスクリュー音や機関音を捉え、位置や艦数を掴もうとしているはずである。
「敵潜の推進器音途絶えました。注水音探知、潜航する模様。」
水測員から、続けて報告が入った。
機関を停止し音を出さないようにして、深々度へ逃れる算段である。
「水測、目標の探知始め。探信儀発振。」
上川が下令した。
プィ―ン プィ―ン
という音波が発振され始める。
ハンターの役割は、発振音で敵潜を追い詰めて行くことではあるが、水測員のレシーバーがその反射波を捉え、敵潜の位置を割り出し、キラー役に伝達して行く。
複数の艦が音波を発振すると、干渉してしまうので、今、音波を出しているのは葉月だけである。
「さあ、狩りの始まりだ。」
上川は、前方の海面を見つめながら呟いた。
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