日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨

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第81話 石炭確保から若殿様水偵試乗へ

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 石油調査隊兼挺身隊捜索隊を見送った山花大佐であるが、彼がトゥンサリル城内の根拠地隊事務室に戻ると、通信士が、空母蛟龍にある根拠地隊司令部からの電報を書き留めたメモを寄越した。
 
 内容は、というと

「石炭ノ入手ヲ手当テサレタシ」

であった。

「やれやれ。石油の次は石炭と来たもんだ。」

 そう言ってから、間宮型給糧艦の浦賀は、石炭焚きであることを思い出した。

「どのくらいの石炭を積んでいるんだろう。」

 山花には正確な知識がなかったものの、通信兵の一人に、浦賀ではないが間宮での勤務歴があり、聞いてみると、艦の燃料用石炭が1,700トン、補給用の石炭が1,500トン搭載とのことだった。

 ちなみに、間宮型給糧艦は、補給用の重油を2,100トンも積んでいるらしい。
 飲食料品だけの補給に止まらない、間宮型給糧艦の凄さである。

 山花にも、こちらの世界では「コーラ」と呼ばれる石炭が、調理や暖房の熱源として広く用いられていることが、お城や料理屋の調理場、暖炉の脇の石炭バケツなどを見て、直ぐに分かった。
 デ・ノーアトゥーン港の波止場には、運搬船から降ろされたであろう石炭が野積みされていたし、石炭を運搬する馬車が、街の中を動き回っているのも見た。
 
 つまり、石炭は、こちらの世界でもポピュラーな燃料であり、比較的入手し易いものと推測された。

「あとは、結局、量の問題になるということか。」

 山花は、例によって、属領主府商務尚書ハーン准男爵に会い、情報を求めた。

 ハーン准男爵によると、「コーラ」、つまり石炭は、ブリーデヴァンガル島の炭鉱でも採掘されるが、最も生産量が多いのは、先にアスターテ号が向かっていたヴェスターンラントという島で、地下の鉱脈を掘り進む炭鉱というよりも露天掘りで、良質の石炭が大量に採掘される、ということだった。

 肝心の生産量は、というと

 中型の専門運搬船が、3~4日に一度はデ・ノーアトゥーン港に石炭を陸揚げしており、時として輸送し切れいない程の余剰生産量がある、とのことだった。

 山花が、デ・ノーアトゥーン港に在港中の船舶をざっと見渡した限りでは、中型の船舶であれば、一度に7~800トンの物資を運搬できると思われた。

 仮に、この程度の船舶が運搬に当たるとすれば、一週間でおよそ1,500トン以上、即ち、浦賀の燃料炭と同等量の石炭が運搬されて来ていることになる。
 しかも、余剰生産量があるということだから、運搬船を待たずとも、浦賀が直接ヴェスターンラントへ赴いて、石炭を搭載すれば間に合うと思われた。

 山花は、ハーン准男爵に事情を話し、属領主代官のグリトニル辺境伯の許可を取ってもらってから、根拠地隊宛てに

「石炭入手ハ比較的容易ナリト思ハル二 浦賀ヲ『ヴェスタアンラント』へ派遣ノ上 コレヲ搭載セシムルヲ得」

という電文を送った。 

 この電文を受けた根拠地隊では、浦賀に護衛の海防艦利尻を付け、ヴェスターンラントへ向かわせることに決め、案内役として、先のハンターキラー作戦に同行した軍務尚書補佐官ハッケン准男爵に、再度の同行を依頼し、快諾を得たほか、航路に通暁した商船の航海士に、浦賀と利尻にそれぞれ乗艦してもらった。

 また、搭載機は、汎用性が高く残置の要望が多かった九四式水偵はギムレー湾に残し、零式観測機と水偵瑞雲を1機ずつ搭載することとした。

 準備を終えた浦賀と利尻は、1月4日の早朝、在泊艦艇乗組み将兵の帽振れに送られ、デ・ノーアトゥーン港を出港した。
 ヴェスターンラントまでは、帆船が順風で概ね4日の航海とのことなので、およそ1,000㎞強の距離と推測され、12ノットの速力であれば2日の行程である。

 天気は快晴、海は凪、絶好の航海日和である。
 ただ、潜水艦出没騒ぎの直後だったので、両艦の目視による見張りのほか、電探を持たない浦賀の代わりに、利尻が電探で対空と水上の見張りを引き受けた。

 天候悪化の兆しはなく、まずは目的地のヴェスターンラントに安着が見込まれた。

 その頃、デ・ノーアトゥーンというよりトゥンサリル城で、ちょっとした問題が持ち上がっていた。
 あの若くて血気盛んな属領主代官セーデルリンド・グレーゲルソン・ファン・グリトニル辺境伯が

「飛行機で空を飛びたい。」

と言い始めたのである。

 海軍の艦載機が寄せて来る敵の船団を壊滅させ、空から襲って来たワイバーンやハーピーの殲滅に一役買い、飛来したドラゴンを撃墜した日本軍機の働きを直接見聞したのであるから、グリトニル辺境伯が空を飛びたがるのも無理はなかった。

 しかし、要請を受けた根拠地隊は困惑してしまった。

 飛行機自体、その発展は事故の連続でもあったし、特に軍用機は、戦闘で失われる機体よりも事故による喪失の方が多いという統計すら存在するのである。

「属領主府どころか王国の重要人物に何か起きたら大変。」

というのが、根拠地隊の偽らざる本音であった。

 しかし、グリトニル辺境伯も簡単には引き下がらない。
 今まで行い、そして現に行っている根拠地隊への様々な「便宜的サービス」の縮小や停止を言い出しかねない勢いである。

「困ったなあ。支援を止められたら、後は力尽くで押し通るしかない。そうしたら海賊と変わらないことになってしまう。」

 桑園少将と稲積大佐は、頭を抱えてしまった。

「仕方がない。安全には安全を期してお乗りいただくこととするか。」

 桑園は、やむを得ず決断した。

「どの機体に乗っていただきますか。重爆と陸攻は論外ですし、今、多くを陸に揚げている艦載機も止した方が良さそうに思います。」

 稲積が言うと

「そうだね。練習機があれば最良なんだが…。」

 ここまで言い掛けた桑園が、ハッと気付いたように

「確か浦賀が載せて来た九四式水偵があったね。今回の石炭積みには置いて行っていると聞くが、あれはどうだろう。」

と言った。

「そうだ、そうですね。あれがあった。九四式水偵ならば、飛行も水上滑走も安定していますし、事故の可能性は、ほかの機体より格段に低いと思います。」

 桑園の提案をを受けて、稲積が愁眉開く様に言った。

「しかし、あの若殿様、旧式の機体で満足しますかね。格好の良い艦載機や大型の機体に乗せろ、とか駄々をこねませんかね。」
「その時は、実情を説明して納得いただくより仕方がない。逆に言えば、九四式水偵は、今の我々にはあの1機しかない貴重品なんだぞ。」
「そうですね。属領主府に話を通してみます。」

 稲積は、ようやく納得したように言った。

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