127 / 163
第127話 神雷部隊転移セリ
しおりを挟む
金貨10万枚を積み込んだ空母蛟龍と戦艦出雲、駆逐艦葉月は、出港ラッパの音も高らかにナルヴィック港外を後にし、一路、デ・ノーアトゥーン港を目指した。
翌々日、デ・ノーアトゥーン港に到着した4艦であるが、やはり、金貨10万枚は艦体独自で保管する訳にも行かず、属領首府ケッペル庶務尚書、ハーン商務尚書らと協議の結果、いったん属領首府の金庫に預けることにした。
その上で、根拠地隊将兵のための宿泊、飲食代金に充てるほか、ギムレー飛行場の整備、ギムレー湾周辺での根拠地隊将兵用宿舎建設、更には、同地域に今までなかった料理屋を設けることとした。
その他、根拠地隊各艦艇、航空機、車輛の燃料を精製するための製油所建設が、急ピッチで進められ、2月中には、相当量の供給が始まる見込みとなった。
なお、航空機用ガソリンについて、添加剤のテトラエチル鉛が必要となるが、これについては、商工ギルドから紹介された錬金術ギルドが、相当な化学知識と技術を持っていることが判明したことから、根拠地隊の整備員の中で知識を持つ者と共同で、製造に乗り出すことになった。
今後の話がトントン拍子で進み、数日が過ぎた。
その日は、朝から今までの好天が打って変わってどんよりとした曇り空で、沖合の方には、霧が発生しているのが見えた。
「おい、霧が出ているぜ。」
「本当だ。何だか、こちらの世界に飛ばされたときを思い出すな。」
「まったく、嫌な霧だぜ。」
根拠地隊の兵たちは、縁起でもないものを見た様に、話し合った。
「180度方向に機影、こちらに向かう。」
突然、出雲の対空見張り員が叫んだ。
「何い!」
「敵性のワイバーンか!」
「対空戦闘用意!」
奇襲攻撃でも受けた様に、各艦では慌ただしく将兵が配置に着く。
しばらくして
「只今の機影、一式陸攻のほか零戦と思われる。」
と見張りからの追加報告が入った。
「なあんだ、味方か。」
「人騒がせな。」
安堵の声が広がる中で、出雲の白石艦長は
「ところで、今日、陸攻は飛んでいるのか?」
と副長に訊いた。
「いえ、聞いておりません。陸攻は燃料をドカ食いしますから、あまり飛ばしてはいないようですが。」
副長の答えに、白石は
「じゃあ、あれは何なんだ?」
と呟いた。
やがて、南の空から爆音が近付きて来て、一式陸攻と零戦が一機ずつ姿を現した。
「なんだ、あの陸攻。胴体の下に翼があるぞ。」
「本当だ、何かぶら下げているぞ。」
確かに、その陸攻は、胴体下に翼の付いた何かを懸吊している。
「あれは桜花だ。」
蛟龍の防空指揮所で、南の空を双眼鏡で見ていた桑園少将が言った。
「はあ、桜花ですか。」
傍らにいた稲積艦長が訊くと
「うむ。神武作戦でも、本艦の艦載機による特攻に呼応して、桜花隊も出撃する予定もあったんだ。輸送中に艦ごと沈められて比島に届かなかったから、沙汰止みになったんだがね。」
桑園が説明した。
「その話は、私も聞いたことがあります。ただ、今飛んでいるアレは、訓練飛行でしょうか。」
稲積が訊き返すと
「直掩の零戦がいるところを見ると、実戦だろうね。いずれにせよ、また新たに、こちらの世界へ転移した者が現れたということだ。」
と桑園は応じた。
爆音と機影はどんどん大きくなって、いよいよデ・ノーアトゥーン港に接近して来た。
「上空の陸攻と零戦に連絡して、このままのコースで何とかギムレー飛行場へ向かわせろ。」
発光信号と無線の呼び掛けで、何とかこちらの意図は伝わったらしく、2機はギムレー飛行場へ向けて飛び去って行った。
「あの搭乗員には、戦局など聞きたいことは色々ある。落ち着いたら、デ・ノーアトゥーンまで来るように手配してくれ。」
「承知しました。」
桑園は、稲積に言った。
一方、蛟龍から
「北方二飛行場アリ」
と伝えられた陸攻では、そのとおり暫時北上すると飛行場らしきものが見えたので、乗員たちは正直驚いた。
第七二一海軍航空隊、通称「神雷部隊」に所属し、田岡中尉が機長を務めるその陸攻は、比島の航空兵力が消滅に近い状態となってしまったため、最後の攻撃隊として、訓練中の百里原基地からクラーク基地に進出、ここからレイテ付近の米軍艦船を攻撃すべく、直掩の零戦とともに出撃したのであった。
桜花とは、機首部分に爆薬を装備し、母機である一式陸上攻撃機に懸吊されて目標に接近、切り離された後は搭乗員が操縦し、ロケット推進で加速、敵の防空網を突破し目標に体当たりする、有人特攻兵器である。
田岡中尉の陸攻は、出撃後、信じられない程の濃霧に突入した後、機位を失い、見えた陸地に接近したところ、記憶にない大きな島が見え、西洋の城下町のような街が見えたかと思うと、友軍の空母、戦艦が停泊しているのが見えた。
「こんなところに、友軍の空母や戦艦が…。」
と思ったところ、飛行場の存在を教示されたのである。
一度、飛行場の上空を低空で通過してみたが、確かに友軍機が並んでいたものの、一式陸攻や陸軍の重爆、戦闘機のほか、海軍の艦載機が並べられており、要するに通常の航空隊と違って、統一性がないように見え、不思議に思えた。
「陸海軍混成か。どこの部隊だろう。」
田岡は、奇妙に思いながらも、機体を着陸態勢に入れた。
桜花の機首弾頭の信管は、振動で起爆する着発信管であるから、着陸に失敗すれば、機体ごと木端微塵である。
「滑走路は草地だから、細かな振動があるな。」
彼は、ヒヤヒヤしながら、慎重に着陸して行った。
翌々日、デ・ノーアトゥーン港に到着した4艦であるが、やはり、金貨10万枚は艦体独自で保管する訳にも行かず、属領首府ケッペル庶務尚書、ハーン商務尚書らと協議の結果、いったん属領首府の金庫に預けることにした。
その上で、根拠地隊将兵のための宿泊、飲食代金に充てるほか、ギムレー飛行場の整備、ギムレー湾周辺での根拠地隊将兵用宿舎建設、更には、同地域に今までなかった料理屋を設けることとした。
その他、根拠地隊各艦艇、航空機、車輛の燃料を精製するための製油所建設が、急ピッチで進められ、2月中には、相当量の供給が始まる見込みとなった。
なお、航空機用ガソリンについて、添加剤のテトラエチル鉛が必要となるが、これについては、商工ギルドから紹介された錬金術ギルドが、相当な化学知識と技術を持っていることが判明したことから、根拠地隊の整備員の中で知識を持つ者と共同で、製造に乗り出すことになった。
今後の話がトントン拍子で進み、数日が過ぎた。
その日は、朝から今までの好天が打って変わってどんよりとした曇り空で、沖合の方には、霧が発生しているのが見えた。
「おい、霧が出ているぜ。」
「本当だ。何だか、こちらの世界に飛ばされたときを思い出すな。」
「まったく、嫌な霧だぜ。」
根拠地隊の兵たちは、縁起でもないものを見た様に、話し合った。
「180度方向に機影、こちらに向かう。」
突然、出雲の対空見張り員が叫んだ。
「何い!」
「敵性のワイバーンか!」
「対空戦闘用意!」
奇襲攻撃でも受けた様に、各艦では慌ただしく将兵が配置に着く。
しばらくして
「只今の機影、一式陸攻のほか零戦と思われる。」
と見張りからの追加報告が入った。
「なあんだ、味方か。」
「人騒がせな。」
安堵の声が広がる中で、出雲の白石艦長は
「ところで、今日、陸攻は飛んでいるのか?」
と副長に訊いた。
「いえ、聞いておりません。陸攻は燃料をドカ食いしますから、あまり飛ばしてはいないようですが。」
副長の答えに、白石は
「じゃあ、あれは何なんだ?」
と呟いた。
やがて、南の空から爆音が近付きて来て、一式陸攻と零戦が一機ずつ姿を現した。
「なんだ、あの陸攻。胴体の下に翼があるぞ。」
「本当だ、何かぶら下げているぞ。」
確かに、その陸攻は、胴体下に翼の付いた何かを懸吊している。
「あれは桜花だ。」
蛟龍の防空指揮所で、南の空を双眼鏡で見ていた桑園少将が言った。
「はあ、桜花ですか。」
傍らにいた稲積艦長が訊くと
「うむ。神武作戦でも、本艦の艦載機による特攻に呼応して、桜花隊も出撃する予定もあったんだ。輸送中に艦ごと沈められて比島に届かなかったから、沙汰止みになったんだがね。」
桑園が説明した。
「その話は、私も聞いたことがあります。ただ、今飛んでいるアレは、訓練飛行でしょうか。」
稲積が訊き返すと
「直掩の零戦がいるところを見ると、実戦だろうね。いずれにせよ、また新たに、こちらの世界へ転移した者が現れたということだ。」
と桑園は応じた。
爆音と機影はどんどん大きくなって、いよいよデ・ノーアトゥーン港に接近して来た。
「上空の陸攻と零戦に連絡して、このままのコースで何とかギムレー飛行場へ向かわせろ。」
発光信号と無線の呼び掛けで、何とかこちらの意図は伝わったらしく、2機はギムレー飛行場へ向けて飛び去って行った。
「あの搭乗員には、戦局など聞きたいことは色々ある。落ち着いたら、デ・ノーアトゥーンまで来るように手配してくれ。」
「承知しました。」
桑園は、稲積に言った。
一方、蛟龍から
「北方二飛行場アリ」
と伝えられた陸攻では、そのとおり暫時北上すると飛行場らしきものが見えたので、乗員たちは正直驚いた。
第七二一海軍航空隊、通称「神雷部隊」に所属し、田岡中尉が機長を務めるその陸攻は、比島の航空兵力が消滅に近い状態となってしまったため、最後の攻撃隊として、訓練中の百里原基地からクラーク基地に進出、ここからレイテ付近の米軍艦船を攻撃すべく、直掩の零戦とともに出撃したのであった。
桜花とは、機首部分に爆薬を装備し、母機である一式陸上攻撃機に懸吊されて目標に接近、切り離された後は搭乗員が操縦し、ロケット推進で加速、敵の防空網を突破し目標に体当たりする、有人特攻兵器である。
田岡中尉の陸攻は、出撃後、信じられない程の濃霧に突入した後、機位を失い、見えた陸地に接近したところ、記憶にない大きな島が見え、西洋の城下町のような街が見えたかと思うと、友軍の空母、戦艦が停泊しているのが見えた。
「こんなところに、友軍の空母や戦艦が…。」
と思ったところ、飛行場の存在を教示されたのである。
一度、飛行場の上空を低空で通過してみたが、確かに友軍機が並んでいたものの、一式陸攻や陸軍の重爆、戦闘機のほか、海軍の艦載機が並べられており、要するに通常の航空隊と違って、統一性がないように見え、不思議に思えた。
「陸海軍混成か。どこの部隊だろう。」
田岡は、奇妙に思いながらも、機体を着陸態勢に入れた。
桜花の機首弾頭の信管は、振動で起爆する着発信管であるから、着陸に失敗すれば、機体ごと木端微塵である。
「滑走路は草地だから、細かな振動があるな。」
彼は、ヒヤヒヤしながら、慎重に着陸して行った。
20
あなたにおすすめの小説
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
異世界帰りのハーレム王
ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。
で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか?
異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕!
異世界帰りのハーレム王
朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
ファンタジー
日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる