日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨

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第145話 帝国軍人とは

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 国王は、桑園少将に向かって微笑みながら

「ヘネラールソウエン、あるいはお察しかも知れぬが…。」

と言い始めた。

「ああ、やっぱりそうか。」

 桑園は嬉しくない予想の的中に複雑な心境であった。

「東の隣国であるヴァナヘイム王国とは、国境が定まらぬ地域が何か所かあるのじゃが…。」

 そう言うと国王は、盃の酒をクイッと飲み干した。

 背後に控えた侍従が、すかさず酒を注ぐ。

「一週間ほど前になる。その紛争地域で我が国が開発し、ミスリル採掘の緒に就いたばかりの鉱山が、突如として侵攻して来た、彼の国の軍に奪取された。」

 国王の声色が高くなり、表情が険しくなる。

「ミスリスは希少かつ貴重なもので、採掘される鉱山は多くない。また、これを加工する技術も貴重なものであるのじゃ。」
「はあ、まあ、さぞお悔しいものと思われ、心中お察しいたします。」

 桑園は、国王の口調に合わせて、残念そうに言った。

「うむ、そうじゃろう。ヘネラールならお分かりいただけるものと思うておった。」

 国王の表情が緩む。

「さて、奪われたものを放置しておくわけには行かぬ。我が国の沽券に係わるし、貴重な資源が奪われたままでは、敵を利するばかりであるからのう。」

 国王は、一息ついて身を乗り出した。

「そこでじゃが、ヘネラール。貴殿の軍隊に助力をいただきたい。」
「あーあ、やっぱりそうなったか。だから嫌だったんだ。」

 予想どおりの展開に、桑園はげんなりする思いであったが、無論、表情には出さない。

「陛下の仰るところは分かりますが、我が軍は海軍中心でありますから、陸地奥深くの戦闘においては、さほどの力を発揮できないと存じます。ご期待に沿えず残念ではありますが。」

 桑園の言っているところは、事実である。

 これまでは、艦艇と航空機の威力により敵を圧倒したほか、確かに陸上戦闘でも勝ちを収めてはいるが、基本的に局地の防衛戦であることが利しているもので、攻勢に出るとなると、まるで勝手が違う。

「そう謙遜なさるな、ヘネラールソウエン。貴殿らの軍は、陸上にあっても鉄の戦車や圧倒的な火砲により敵を倒すと聞き及んでおる。それを少しばかり借りたい、と言っておるに過ぎない。」

 桑園は、かなり無責任で虫の良い国王の発言に、腹が立ってきた。

「それで、鉱山を守る敵軍の数はいかほどでございますか。」
「およそ3~4千人と見積もられております。」
「それで、こちらの兵力は、如何に?」
「敵と同数程度になると思われます。」

 いつの間にか国王の後方に立っていた幕僚が口を挟んだ。

「3~4千人…。敵とは同数…。」

 桑園は開いた口が塞がらなかった。

 攻める場合、攻撃3倍の原則があるから、敵が4千人であれば、少なくともこちらは1万2千の兵力が必要である。

 仮に、こちらの火力が優勢であることを加味しても、2倍程度の兵力は必要となるだろう。

「とんだ無知の王様だ。付き合い切れん。」

 桑園は段々と頭に血が上って来たが、それを抑えつつ

「ご無礼を承知で申し上げますが、陛下。『攻撃3倍の原則』はご存じでしょうか。」
「攻撃3倍…とな?」
「いかにも。敵を攻める場合、攻撃側は敵の3倍の兵力を擁さなければ勝利は望めない、という兵学の基礎でございます、陛下。」

 赤裸様に無知を指摘された格好となった国王は、不機嫌な顔つきとなり、背後の幕僚に向かい

「只今のヘネラールソウエンの話、卿は知っておるか。」

などと確認している。

「まあ、兵学については、軍人たる卿の方が豊富な知識を持っているのは当然の事じゃ。さはさりながら、余の頼み事を聞き入れてくれるかどうかを回答願いたい。国王たる余の願いを、じゃ。」

 国王の物言いが、完全に上から目線になっている。

 内心では

「ブリーデヴァンガル属領首府の食客風情めら。」

と思っていることが透けて見える。

 王である以上、相手に媚びないのは仕方がないが、桑園たちは、国王の臣下ではない。

 無理無体な要求に屈する謂れはない。

 桑園は腹を括った。

 ミズガルズ王国と縁が切れればそれまでの事で、この世界では無双の武力を携えていれば、いずこかの国が迎え入れてくれるのは間違いない。

「国王陛下に言上申し上げる。我々は大日本帝国の軍人であり、畏れ多くも…。」

 ここで、同じテーブルの3艦長と、玉座の間の片隅のテーブルに座っていた護衛の将兵たちが一斉に立ち上がり、不動の姿勢を取った。

 ほかの招待客たちが、その行動に驚いている。

「…畏れ多くも、天皇陛下の軍人であって、国王陛下の臣下でも軍人でもない。ブリーデヴァンガル属領首府には、一宿一飯の恩義に報いるため、これまで協力を惜しまなかったものである。而して、国王陛下は、何をもって我々を臣下の軍扱いされるのか!」

 言い終わった桑園は、テーブルをドンッと拳で叩いた。

 国王は、口をへの字に結んだまま黙り込み、王妃や王子、王女たちは驚きの表情のまま固まっており、周囲にいる列席者の貴族たちの中には、青ざめている者もいる。  

「よろしい。この地に軍を派遣せよ、と申されるのであれば派遣しよう。だが、鉄の戦車や軍勢が目指すのは、ミスリル鉱山とは限らない。この王都や王宮を目指して進軍することもあり得るものと、御覚悟召されよ!」

 桑園は、自分としては大そうな啖呵を切ったものだと思った。

 この桑園の啖呵を聞いて、周囲の近衛兵たちが、サーベルやレイピアの柄に手を掛け、桑園たちを睨んでいる。

 一方、桑園の護衛の将兵たちも、それぞれ銃を取って、その近衛兵たちに銃口を向けた。

 列席者たちは顔面蒼白である。

 女性の中には、今にも悲鳴を上げそうな者もいて、もし、誰かが悲鳴を上げようものなら、それを合図に壮絶な撃ち合い、斬り合いが始まりそうな緊迫感が漂っている。

 ここで国王がスッと立ち上がり、周囲を手で制しながら

「皆の者、落ち着け。ヘネラールソウエン、カピタンの皆様もどうか落ち着かれよ。」

と声を出した。
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