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第149話 我レ丘ノ頂上ヲ奪取セリ
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時速30㎞でミスリル鉱山へ向かう街道を驀進していた朝日大尉率いる日本軍の車列は、その日の午後、鉱山を望む丘の手前まで到着した。
街道の両側は森になっており、丘は、鉱山の側が急斜面になっているため、街道は、切通しをとおって斜面を下っている。
朝日は、いったん、全車両を左側の森へ隠し、東野少尉を指揮官とする将校斥候隊を編成し、前方の丘を偵察させることにした。
◆◆◆◆
命令を受けた東野少尉は、小隊から選抜した10人の下士官兵を指揮して、ゆっくりと丘の頂上を目指して行った。
全員、全身の偽装網に草木を挟んでカムフラージュをしているが、これはまだこちらの世界の軍隊にはない習慣である。
音を立てないよう、慎重に先頭を前進していた東野は、頂上の少し手前で、前方の物音に気付いた。
彼は、後方の部下たちに、止まるよう手で合図を送り、自分は匍匐前進でそろりそろりと前へ出た。
「!?」
森の下草の間からそっと顔を出した東野の目には、僅か6~7m先で、草を刈って天幕を張り、地面に穴を掘って陣地を構築中の、ヴァナヘイム王国兵らしい10人ほどの姿が飛び込んで来た。
「やはり、いかに鈍い奴でも高所を抑える重要さに気付きやがったか。」
東野は心の中で毒付いたが、これで丘の上を密かに占領するのではなく、敵から奪取することになると思い、少し算段を練った。
後続の徒歩部隊主力の到着には、あとまるまる一昼夜はかかる。
その間に、鉱山の陣地から応援部隊が来ると、少々面倒なことになる。
だが、眼前のヴァナヘイム兵は、武装も外し、辺り構わず談笑するなど、油断し切っている。
今なら、自分たちだけでも敵全員を斃し、陣地を奪取することができる。
東野は、後方を振り返り、手招きで部下の狩野曹長を呼んだ。
「どうだ。敵さん、油断し切っているだろう。今なら、俺達だけであそこを奪取できると思わんか。」
言われた狩野は
「はあ、確かに油断し切っておりますから、十分可能と思えるであります。」
と声を抑えて答えた。
「そうだろう。今が絶好の機会だ。」
「しかし、自分らは、朝日大尉殿からは斥候を命じられております。報告を行い了承を得てからでないと、独断専行になります。」
狩野は正論を言った。
「曹長。貴様、香港攻略戦の時の若林斥候隊を知っているか?」
「はあ、将校斥候隊だけで堅固な英軍陣地の欠陥を衝き、次々と陥落させて行ったとかいう若林斥候隊のことでありますな。」
「そうだ。今、俺達が、まさに若林斥候隊と同じ場面にいるんだ。」
東野は、少し興奮気味である。
しかし狩野は
「隊長殿、落ち着いてください。状況的に寸刻を争うようには思えませんから、いったん戻って報告するか、せめて伝令を送って報告してはどうでありましょうか。」
と言った。
「貴様の言うことは分かるが…。」
東野がここまで言い掛けた時、後方の誰かが枯れ枝を踏んだ。
バキバキッ
という音が、静かだった周辺に、異音として盛大に響き渡った。
「しまった!」
前方のヴァナヘイム兵たちは、会話を止め、訝しそうにこちらを見ていたが、そのうちの2人が、こちらの方へ歩み寄って来た。
「どうする。黙って退くか、一気に方を付けるか…。」
一瞬、迷った東野であったが
「ええい、ままよ。」
とばかりに、打って出ることにした。
「曹長、行くぞ。全員発砲はするな、銃剣で突き上げろ!」
そう言うと東野少尉は、軍刀をスラリと抜き払い
「デヤーッ!」
と気合一閃、近寄って来た一人の肩口から斬り付けた。
狩野曹長も、下士官刀を抜き、同じようにもう一人に斬り付けると、二人とも、血飛沫を上げてその場に倒れた。
その後方にいて、さっきまで談笑していたヴァナヘイム兵たちは、呆気に取られている。
「全員、続け!」
東野の命令で、残りの兵たちも銃剣突撃の姿勢で飛び出す。
造りかけの塹壕の中で、ヴァナヘイム兵たちは、あたふたと剣やマスケット銃を手に取ろうとするが、その前に全員が、あっという間に、東野隊によって斬殺されるか刺殺されてしまった。
「よし!これで丘の上は奪取したぞ。」
東野は、一仕事やり終えたと宣言するように言った。
「日章旗を立てますか?」
狩野が訊くと
「莫迦を言うな。ここで日章旗を立てようものなら、すぐに敵兵が千人位で取り返しに来るぞ。」
と、東野が笑って答えた。
「それでは、報告のため、伝令を朝日大尉殿のところへ走らせます。」
「よし、そうしてくれ。」
狩野は、一人の上等兵を捉まえて、朝日大尉の許へ
「我レ丘ノ頂上ヲ奪取セリ」
との報告のため、伝令として走らせた。
伝令の後姿が草の影に消えると、東野は、双眼鏡をケースから取り出して、ミスリル鉱山の方を見下ろした。
視野に入る光景を見る限り、特に目立った動きはなく、丘の奪取には気付かれていないものと思われた。
「おっと。」
東野は、手にした双眼鏡を取り落としそうになり、思わず身を屈めたところ、首の後ろを何かが飛んで行く気配を感じた。
「何だ?」
彼が後ろを振り返った時、天幕の中で女性の悲鳴のような声が聞こえ、これをどやし付ける部下の声が聞こえた。
「何があった?」
東野は、天幕の方を見た。
街道の両側は森になっており、丘は、鉱山の側が急斜面になっているため、街道は、切通しをとおって斜面を下っている。
朝日は、いったん、全車両を左側の森へ隠し、東野少尉を指揮官とする将校斥候隊を編成し、前方の丘を偵察させることにした。
◆◆◆◆
命令を受けた東野少尉は、小隊から選抜した10人の下士官兵を指揮して、ゆっくりと丘の頂上を目指して行った。
全員、全身の偽装網に草木を挟んでカムフラージュをしているが、これはまだこちらの世界の軍隊にはない習慣である。
音を立てないよう、慎重に先頭を前進していた東野は、頂上の少し手前で、前方の物音に気付いた。
彼は、後方の部下たちに、止まるよう手で合図を送り、自分は匍匐前進でそろりそろりと前へ出た。
「!?」
森の下草の間からそっと顔を出した東野の目には、僅か6~7m先で、草を刈って天幕を張り、地面に穴を掘って陣地を構築中の、ヴァナヘイム王国兵らしい10人ほどの姿が飛び込んで来た。
「やはり、いかに鈍い奴でも高所を抑える重要さに気付きやがったか。」
東野は心の中で毒付いたが、これで丘の上を密かに占領するのではなく、敵から奪取することになると思い、少し算段を練った。
後続の徒歩部隊主力の到着には、あとまるまる一昼夜はかかる。
その間に、鉱山の陣地から応援部隊が来ると、少々面倒なことになる。
だが、眼前のヴァナヘイム兵は、武装も外し、辺り構わず談笑するなど、油断し切っている。
今なら、自分たちだけでも敵全員を斃し、陣地を奪取することができる。
東野は、後方を振り返り、手招きで部下の狩野曹長を呼んだ。
「どうだ。敵さん、油断し切っているだろう。今なら、俺達だけであそこを奪取できると思わんか。」
言われた狩野は
「はあ、確かに油断し切っておりますから、十分可能と思えるであります。」
と声を抑えて答えた。
「そうだろう。今が絶好の機会だ。」
「しかし、自分らは、朝日大尉殿からは斥候を命じられております。報告を行い了承を得てからでないと、独断専行になります。」
狩野は正論を言った。
「曹長。貴様、香港攻略戦の時の若林斥候隊を知っているか?」
「はあ、将校斥候隊だけで堅固な英軍陣地の欠陥を衝き、次々と陥落させて行ったとかいう若林斥候隊のことでありますな。」
「そうだ。今、俺達が、まさに若林斥候隊と同じ場面にいるんだ。」
東野は、少し興奮気味である。
しかし狩野は
「隊長殿、落ち着いてください。状況的に寸刻を争うようには思えませんから、いったん戻って報告するか、せめて伝令を送って報告してはどうでありましょうか。」
と言った。
「貴様の言うことは分かるが…。」
東野がここまで言い掛けた時、後方の誰かが枯れ枝を踏んだ。
バキバキッ
という音が、静かだった周辺に、異音として盛大に響き渡った。
「しまった!」
前方のヴァナヘイム兵たちは、会話を止め、訝しそうにこちらを見ていたが、そのうちの2人が、こちらの方へ歩み寄って来た。
「どうする。黙って退くか、一気に方を付けるか…。」
一瞬、迷った東野であったが
「ええい、ままよ。」
とばかりに、打って出ることにした。
「曹長、行くぞ。全員発砲はするな、銃剣で突き上げろ!」
そう言うと東野少尉は、軍刀をスラリと抜き払い
「デヤーッ!」
と気合一閃、近寄って来た一人の肩口から斬り付けた。
狩野曹長も、下士官刀を抜き、同じようにもう一人に斬り付けると、二人とも、血飛沫を上げてその場に倒れた。
その後方にいて、さっきまで談笑していたヴァナヘイム兵たちは、呆気に取られている。
「全員、続け!」
東野の命令で、残りの兵たちも銃剣突撃の姿勢で飛び出す。
造りかけの塹壕の中で、ヴァナヘイム兵たちは、あたふたと剣やマスケット銃を手に取ろうとするが、その前に全員が、あっという間に、東野隊によって斬殺されるか刺殺されてしまった。
「よし!これで丘の上は奪取したぞ。」
東野は、一仕事やり終えたと宣言するように言った。
「日章旗を立てますか?」
狩野が訊くと
「莫迦を言うな。ここで日章旗を立てようものなら、すぐに敵兵が千人位で取り返しに来るぞ。」
と、東野が笑って答えた。
「それでは、報告のため、伝令を朝日大尉殿のところへ走らせます。」
「よし、そうしてくれ。」
狩野は、一人の上等兵を捉まえて、朝日大尉の許へ
「我レ丘ノ頂上ヲ奪取セリ」
との報告のため、伝令として走らせた。
伝令の後姿が草の影に消えると、東野は、双眼鏡をケースから取り出して、ミスリル鉱山の方を見下ろした。
視野に入る光景を見る限り、特に目立った動きはなく、丘の奪取には気付かれていないものと思われた。
「おっと。」
東野は、手にした双眼鏡を取り落としそうになり、思わず身を屈めたところ、首の後ろを何かが飛んで行く気配を感じた。
「何だ?」
彼が後ろを振り返った時、天幕の中で女性の悲鳴のような声が聞こえ、これをどやし付ける部下の声が聞こえた。
「何があった?」
東野は、天幕の方を見た。
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