日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨

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第160話 片桐伍長、やくざ者に体落一本

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 いきなり直に回答されて驚いた片桐伍長であるが

「ああ、これが魔法なんだ。」

と納得して、会話を続けた。

「そいつは失礼した。赤ん坊を背負っているから、てっきり親子かと思ってしまった。えーっと…。」
「アタシはルシア、ルシア・イコット。一応、ヤコブ焼き屋の女将ってことになるわ。」

 女性は、名乗って自己紹介をした。

「ルシアさんね。俺は片桐、日本陸軍伍長だ。」
「二ホン…。聞いたことがない国ね。どこにある国かしら。」

 ルシアは、木のヘラを鉄板の上でトントンしながら不思議そうな表情をしている。

「ここは王都だから色んな国の人が来るけれど、二ホンていうのは聞いたことがないわ。」
「日本ていう国は、異世界にあるんだ。」

 片桐がそう言うと

「異世界?からかってもらっちゃ困るわ。異国の人はともかく、異世界って聞いたこともない。」

 ルシアが反論した。

「あれ、ルシアさん。異世界から来た軍隊って噂を聞いたことないのかい?ブリーデヴァンガル島じゃ、知らない者はいないくらいなんだぜ。」

 片桐が思わせ振りに訊いたが

「知らないわねぇ。そんな辺境の島で有名って言われても、分からないわ。」

と、つれない返事である。

「辺境の島か、あの島は。王都から見ればそんな程度なのかな。」

 片桐をはじめ、根拠地隊将兵は、あまりブリーデヴァンガル島を客観的に見ていなかったのかも知れない。

「おい姉さん。また、誰に断って商売をしてるんだ、ああ?」

 片桐が振り向くと、巨躯で長髪に長い髭を生やし、腕と胸、首筋にかけて刺青を入れた、いかにもやくざ者的な風体の男が、ルシアに向かって凄んだ。

「何度因縁をつけても同じだよ!みんな王都商業ギルドから鑑札をもらって商売をしているんだから、アンタらに文句を言われる筋合いはないってもんだ。」

 ルシアは、相手に気圧されることなく、気丈に言い返している。

「ああ~ん?聞こえねえな、姉さん。このストリートりで商売をするにゃ、俺たちアルバラード・ファミリーに、を依頼する仁義を切らなきゃならねぇことになっているんだ。」
「アンタらが勝手に決めたことに、何だってアタシらが従わなきゃならないってのさ。」

 彼女は、やくざ者の脅しに屈することなく、強気に対応している。

「おい、ガキがいるから優しくしてりゃ付けあがりやがって!舐めるんじゃねえぞ!」

 そのやくざ者は、鉄板越しにルシアに掴み掛ろうとした。

「おいおい、大の男が何だ。みっともないから止めときな。」

 遣り取りを見ていた片桐が、我慢できなくなって口を出し、ルシアに掴み掛ろうとした男の手を掴んで止めた。

「何だ、テメエは?痛い目に遭いたくなかったら黙ってな!」

 やくざ者は、片桐にも凄んだ。

「そうはいくか。貴様のような卑怯者は、見逃すわけには行かん!」

 片桐も負けじと言い返す。

「なら、テメエからブッ飛ばしてやらぁ!」

 やくざ者は、片桐に向かって拳を振り上げ、殴りかかって来た。

 片桐は、やくざ者の内懐へ入り込むと、その左袖を右手で、奥襟を左手で掴み、相手の体勢を前に崩してから自分の左足を伸ばして相手の左足を掛けて払い、気合一閃引き落とし、地面に背中から投げ落とした。

 柔道技の「体落」である。

 片桐は東京下町の生まれ育ちであるが、町内に柔道場があり、子供の頃、たまたま道場を覗いていると、師範から

「坊主、いっちょうやってみないか。」

と声を掛けられたのがきっかけで柔道を始め、兵隊に取られる頃には黒帯になっており、おかげで、軍隊に入営してからは、何かと上官に目を掛けられることが多かったのである。

 投げ飛ばされたやくざ者は、背中を強打して呼吸が困難になっている。

 いつの間にか周囲には見物人が集まっており、片桐がやくざ者を投げ飛ばした時には、一斉に歓声と拍手が沸き上がった。

「畜生、覚えていろよ。王都の影の実力者、アルバラード・ファミリーを敵に回したことを後悔させてやるぜ!」
「おお、覚えておいてやるとも。俺は日本帝国陸軍片桐伍長だ。貴様こそ忘れるな!」

 捨て台詞を残して立ち去るやくざ者に、片桐も見得を切った。

「ルシアさん、大丈夫だったかね?」

 片桐がルシアに声を掛けると

「アタシは大丈夫さね。カタギリさんこそ何ともないの?あの投げ技、凄かったわねぇ、びっくりしちゃった。」

と、ルシアは逆に訊いて来た。

「何ともないさ。あれは柔道っていう体術の技だけれど、あんなの稽古のうちにも入らんよ。」

 片桐は平然として答えた。

「でもルシアさん。後でアイツがお礼参りに来やしないかね。」
「何、心配は要らないわよ。今度はアタシが追い払ってやるんだから。」

 彼が気掛かりを言うと、ルシアも平然と答えた。

 確かに、多少の事で怯んでいては、ここで商売などできないのかもしれない。

「じゃあ、ルシアさん。『ヤコブ焼き』美味かったよ。また機会があったら会おう。」

 片桐は、ルシアに暇を告げた。

「あら、もう行かれるのね。アタシ、夜はこの先の『ロゼッテ』っていう酒場にでてるから、気が向いたら寄ってみてね。」

 ルシアは、そう言って明るく応じた。

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