160 / 163
第160話 片桐伍長、やくざ者に体落一本
しおりを挟む
いきなり直に回答されて驚いた片桐伍長であるが
「ああ、これが魔法なんだ。」
と納得して、会話を続けた。
「そいつは失礼した。赤ん坊を背負っているから、てっきり親子かと思ってしまった。えーっと…。」
「アタシはルシア、ルシア・イコット。一応、ヤコブ焼き屋の女将ってことになるわ。」
女性は、名乗って自己紹介をした。
「ルシアさんね。俺は片桐、日本陸軍伍長だ。」
「二ホン…。聞いたことがない国ね。どこにある国かしら。」
ルシアは、木のヘラを鉄板の上でトントンしながら不思議そうな表情をしている。
「ここは王都だから色んな国の人が来るけれど、二ホンていうのは聞いたことがないわ。」
「日本ていう国は、異世界にあるんだ。」
片桐がそう言うと
「異世界?からかってもらっちゃ困るわ。異国の人はともかく、異世界って聞いたこともない。」
ルシアが反論した。
「あれ、ルシアさん。異世界から来た軍隊って噂を聞いたことないのかい?ブリーデヴァンガル島じゃ、知らない者はいないくらいなんだぜ。」
片桐が思わせ振りに訊いたが
「知らないわねぇ。そんな辺境の島で有名って言われても、分からないわ。」
と、つれない返事である。
「辺境の島か、あの島は。王都から見ればそんな程度なのかな。」
片桐をはじめ、根拠地隊将兵は、あまりブリーデヴァンガル島を客観的に見ていなかったのかも知れない。
「おい姉さん。また、誰に断って商売をしてるんだ、ああ?」
片桐が振り向くと、巨躯で長髪に長い髭を生やし、腕と胸、首筋にかけて刺青を入れた、いかにもやくざ者的な風体の男が、ルシアに向かって凄んだ。
「何度因縁をつけても同じだよ!みんな王都商業ギルドから鑑札をもらって商売をしているんだから、アンタらに文句を言われる筋合いはないってもんだ。」
ルシアは、相手に気圧されることなく、気丈に言い返している。
「ああ~ん?聞こえねえな、姉さん。この通りで商売をするにゃ、俺たちアルバラード・ファミリーに、保護を依頼する仁義を切らなきゃならねぇことになっているんだ。」
「アンタらが勝手に決めたことに、何だってアタシらが従わなきゃならないってのさ。」
彼女は、やくざ者の脅しに屈することなく、強気に対応している。
「おい、ガキがいるから優しくしてりゃ付けあがりやがって!舐めるんじゃねえぞ!」
そのやくざ者は、鉄板越しにルシアに掴み掛ろうとした。
「おいおい、大の男が何だ。みっともないから止めときな。」
遣り取りを見ていた片桐が、我慢できなくなって口を出し、ルシアに掴み掛ろうとした男の手を掴んで止めた。
「何だ、テメエは?痛い目に遭いたくなかったら黙ってな!」
やくざ者は、片桐にも凄んだ。
「そうはいくか。貴様のような卑怯者は、見逃すわけには行かん!」
片桐も負けじと言い返す。
「なら、テメエからブッ飛ばしてやらぁ!」
やくざ者は、片桐に向かって拳を振り上げ、殴りかかって来た。
片桐は、やくざ者の内懐へ入り込むと、その左袖を右手で、奥襟を左手で掴み、相手の体勢を前に崩してから自分の左足を伸ばして相手の左足を掛けて払い、気合一閃引き落とし、地面に背中から投げ落とした。
柔道技の「体落」である。
片桐は東京下町の生まれ育ちであるが、町内に柔道場があり、子供の頃、たまたま道場を覗いていると、師範から
「坊主、いっちょうやってみないか。」
と声を掛けられたのがきっかけで柔道を始め、兵隊に取られる頃には黒帯になっており、おかげで、軍隊に入営してからは、何かと上官に目を掛けられることが多かったのである。
投げ飛ばされたやくざ者は、背中を強打して呼吸が困難になっている。
いつの間にか周囲には見物人が集まっており、片桐がやくざ者を投げ飛ばした時には、一斉に歓声と拍手が沸き上がった。
「畜生、覚えていろよ。王都の影の実力者、アルバラード・ファミリーを敵に回したことを後悔させてやるぜ!」
「おお、覚えておいてやるとも。俺は日本帝国陸軍片桐伍長だ。貴様こそ忘れるな!」
捨て台詞を残して立ち去るやくざ者に、片桐も見得を切った。
「ルシアさん、大丈夫だったかね?」
片桐がルシアに声を掛けると
「アタシは大丈夫さね。カタギリさんこそ何ともないの?あの投げ技、凄かったわねぇ、びっくりしちゃった。」
と、ルシアは逆に訊いて来た。
「何ともないさ。あれは柔道っていう体術の技だけれど、あんなの稽古のうちにも入らんよ。」
片桐は平然として答えた。
「でもルシアさん。後でアイツがお礼参りに来やしないかね。」
「何、心配は要らないわよ。今度はアタシが追い払ってやるんだから。」
彼が気掛かりを言うと、ルシアも平然と答えた。
確かに、多少の事で怯んでいては、ここで商売などできないのかもしれない。
「じゃあ、ルシアさん。『ヤコブ焼き』美味かったよ。また機会があったら会おう。」
片桐は、ルシアに暇を告げた。
「あら、もう行かれるのね。アタシ、夜はこの先の『ロゼッテ』っていう酒場にでてるから、気が向いたら寄ってみてね。」
ルシアは、そう言って明るく応じた。
「ああ、これが魔法なんだ。」
と納得して、会話を続けた。
「そいつは失礼した。赤ん坊を背負っているから、てっきり親子かと思ってしまった。えーっと…。」
「アタシはルシア、ルシア・イコット。一応、ヤコブ焼き屋の女将ってことになるわ。」
女性は、名乗って自己紹介をした。
「ルシアさんね。俺は片桐、日本陸軍伍長だ。」
「二ホン…。聞いたことがない国ね。どこにある国かしら。」
ルシアは、木のヘラを鉄板の上でトントンしながら不思議そうな表情をしている。
「ここは王都だから色んな国の人が来るけれど、二ホンていうのは聞いたことがないわ。」
「日本ていう国は、異世界にあるんだ。」
片桐がそう言うと
「異世界?からかってもらっちゃ困るわ。異国の人はともかく、異世界って聞いたこともない。」
ルシアが反論した。
「あれ、ルシアさん。異世界から来た軍隊って噂を聞いたことないのかい?ブリーデヴァンガル島じゃ、知らない者はいないくらいなんだぜ。」
片桐が思わせ振りに訊いたが
「知らないわねぇ。そんな辺境の島で有名って言われても、分からないわ。」
と、つれない返事である。
「辺境の島か、あの島は。王都から見ればそんな程度なのかな。」
片桐をはじめ、根拠地隊将兵は、あまりブリーデヴァンガル島を客観的に見ていなかったのかも知れない。
「おい姉さん。また、誰に断って商売をしてるんだ、ああ?」
片桐が振り向くと、巨躯で長髪に長い髭を生やし、腕と胸、首筋にかけて刺青を入れた、いかにもやくざ者的な風体の男が、ルシアに向かって凄んだ。
「何度因縁をつけても同じだよ!みんな王都商業ギルドから鑑札をもらって商売をしているんだから、アンタらに文句を言われる筋合いはないってもんだ。」
ルシアは、相手に気圧されることなく、気丈に言い返している。
「ああ~ん?聞こえねえな、姉さん。この通りで商売をするにゃ、俺たちアルバラード・ファミリーに、保護を依頼する仁義を切らなきゃならねぇことになっているんだ。」
「アンタらが勝手に決めたことに、何だってアタシらが従わなきゃならないってのさ。」
彼女は、やくざ者の脅しに屈することなく、強気に対応している。
「おい、ガキがいるから優しくしてりゃ付けあがりやがって!舐めるんじゃねえぞ!」
そのやくざ者は、鉄板越しにルシアに掴み掛ろうとした。
「おいおい、大の男が何だ。みっともないから止めときな。」
遣り取りを見ていた片桐が、我慢できなくなって口を出し、ルシアに掴み掛ろうとした男の手を掴んで止めた。
「何だ、テメエは?痛い目に遭いたくなかったら黙ってな!」
やくざ者は、片桐にも凄んだ。
「そうはいくか。貴様のような卑怯者は、見逃すわけには行かん!」
片桐も負けじと言い返す。
「なら、テメエからブッ飛ばしてやらぁ!」
やくざ者は、片桐に向かって拳を振り上げ、殴りかかって来た。
片桐は、やくざ者の内懐へ入り込むと、その左袖を右手で、奥襟を左手で掴み、相手の体勢を前に崩してから自分の左足を伸ばして相手の左足を掛けて払い、気合一閃引き落とし、地面に背中から投げ落とした。
柔道技の「体落」である。
片桐は東京下町の生まれ育ちであるが、町内に柔道場があり、子供の頃、たまたま道場を覗いていると、師範から
「坊主、いっちょうやってみないか。」
と声を掛けられたのがきっかけで柔道を始め、兵隊に取られる頃には黒帯になっており、おかげで、軍隊に入営してからは、何かと上官に目を掛けられることが多かったのである。
投げ飛ばされたやくざ者は、背中を強打して呼吸が困難になっている。
いつの間にか周囲には見物人が集まっており、片桐がやくざ者を投げ飛ばした時には、一斉に歓声と拍手が沸き上がった。
「畜生、覚えていろよ。王都の影の実力者、アルバラード・ファミリーを敵に回したことを後悔させてやるぜ!」
「おお、覚えておいてやるとも。俺は日本帝国陸軍片桐伍長だ。貴様こそ忘れるな!」
捨て台詞を残して立ち去るやくざ者に、片桐も見得を切った。
「ルシアさん、大丈夫だったかね?」
片桐がルシアに声を掛けると
「アタシは大丈夫さね。カタギリさんこそ何ともないの?あの投げ技、凄かったわねぇ、びっくりしちゃった。」
と、ルシアは逆に訊いて来た。
「何ともないさ。あれは柔道っていう体術の技だけれど、あんなの稽古のうちにも入らんよ。」
片桐は平然として答えた。
「でもルシアさん。後でアイツがお礼参りに来やしないかね。」
「何、心配は要らないわよ。今度はアタシが追い払ってやるんだから。」
彼が気掛かりを言うと、ルシアも平然と答えた。
確かに、多少の事で怯んでいては、ここで商売などできないのかもしれない。
「じゃあ、ルシアさん。『ヤコブ焼き』美味かったよ。また機会があったら会おう。」
片桐は、ルシアに暇を告げた。
「あら、もう行かれるのね。アタシ、夜はこの先の『ロゼッテ』っていう酒場にでてるから、気が向いたら寄ってみてね。」
ルシアは、そう言って明るく応じた。
20
あなたにおすすめの小説
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
異世界帰りのハーレム王
ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。
で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか?
異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕!
異世界帰りのハーレム王
朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
ファンタジー
日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる