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第3章 メッセージ
4. つながる想い
しおりを挟む負傷退場した弓月に代わり、代走・神矢がアナウンスされると、弓月のケガの状況を心配する空気で球場内はざわついた。
しかし、幸いなことに肋骨にも心臓にも異常はなかったようで、弓月は痛みもだいぶ軽くなってきたことから、病院には行かず、そのまま最後まで試合を見届けることを許可してもらうことができた。
神矢が勢いよくベンチを飛び出して行くと、ふいにライト方向から、一陣のさわやかな風が吹き抜けた。
――いつも応援してます。神矢くんらしい全力プレーでがんばって――
寄せ書きにあった彼女のメッセージが声となり、風に乗って耳に届いたような気がした。
強い西日に向かい、風を切るように駆けて行く神矢の後ろ姿を見送りながら、弓月は胸の中に、なにか熱いものがこみあげてくるのがわかった。
神矢が二塁に到着すると、球審の「プレー!」というかけ声とともに、ノーアウト二塁の場面から試合は再開した。
暁星国際はそこでセオリー通りバントを選択し、プレッシャーのかかる場面ながら5番が見事に送りバントを決め、神矢は無事に三塁に到達することが出来た。
しかし、ここでつづく6番が犠牲フライを打つことが出来ず、一気に状況は苦しくなった。
(ツーアウトか……)
ベンチで見守る弓月の表情は厳しくなった。
次の7番バッターは、今大会打撃が振るわず、特にチャンスの場面での勝負弱さが目立っていた。
ベンチから送り出す時は弓月も声をかけ、鼓舞したものの、打席に立っているその姿からは、「またチャンスで凡退してはいけない」という過剰なプレッシャーで、硬くなりすぎている様子が伝わって来た。
(……頼む!)
ベンチから懸命に声援を送る仲間たちの中で、祈るように両手を組んだ弓月は、ふと、その視線の端で、三塁走者の神矢が大きくリードを取っていることに気がついた。
(……え?)
よく見ると、ツーアウトまで来た投手は、あとひとりを打ち取ることに気を取られ、三塁走者の神矢をまったく見ていなかった。
次の瞬間、投手が大きなモーションで振りかぶると、神矢は土煙をあげながら、猛烈なスピードでホームに向かって駆け出していた。
(……ホームスチール!?)
サインではなかった。
誰もが信じられない思いで目を見開き、立ち上がっていた。
目の前の光景がスローモーションのようにコマ送りで展開して見えた。
ダイナミックなストライドで駆け抜け、弾丸のように飛び込んだ神矢のヘッドスライディングは、ボールがキャッチャーのミットに収まるより早く、あざやかに本塁を陥れていた。
「……セーフ!」
両腕を水平に大きく広げた球審のコールがグラウンドに響き渡ると、球場全体が波打つようにどよめき、ベンチも観客席も熱狂的な興奮に包まれた。
(……やりよった……)
歓喜に沸く仲間たちの中で、弓月は衝撃と感動で声も出ず、呆然としたまま、その光景を眺めていた。
(……あの状況でサインなしで走るとか、ウソやろ……)
(……ありえへんって……心臓強すぎや……)
仲間たちに次々と手荒な祝福を受け、神矢は照れくさそうな笑顔を浮かべながら、ベンチに戻って来た。
最後に神矢が弓月の前までやってくると、ふたりは言葉もなく、熱い興奮に潤んだ瞳で見つめあい、泥だらけのユニフォームで、想いのこもった力強いハグを交わした。
(……それでこそ、俺の見込んだ男や……)
結局、神矢のこのビッグプレーが、シーソーゲームだった試合の流れを変えることになった。
ここで勢いを得た暁星国際は、完全にその後の試合の主導権を握り、ついに、地区大会優勝を勝ち取ることになったのだった。
その晩、祝勝会を兼ねたホテルの夕食会場では、いつもより少し豪華な献立が用意されていた。
喜びにあふれ、笑い声の絶えないその会場で、弓月は部員たちをねぎらうため、飲み物の入ったガラスピッチャーを手に、各テーブルを回っていた。
とはいっても、健康管理のため、炭酸飲料やカフェインの入った飲み物は用意されておらず、弓月のガラスピッチャーに入っていたのは、常温の麦茶だった。
弓月は部員一人ひとりのグラスに麦茶を注いでは、笑顔を浮かべながらこれまでの働きを称え、背中を叩いて回った。
そして、やっと最後に神矢のいるテーブルまでやってくると、照れくさそうな顔をしている神矢のグラスに麦茶を注ぎ、弓月はやわらかい表情で笑った。
「……ようやったな。お前を野球部に連れて来た俺も、鼻が高いわ」
神矢はうれしそうに「あざっす」と言って酌を受けながらも、すぐに心配そうな顔を浮かべて、弓月の顔を見上げて来た。
「……胸のケガ、ほんまに大丈夫なんすか?」
大きな体をしているくせに、そんな神矢の表情が少しあどけなく、可愛く見えて、弓月は微笑みに目を細めると、神矢の耳元に唇を近づけ、囁いた。
「……お前が診てくれたら、早よようなるかも……」
そのとたん弓月は、右手首をものすごい握力で鷲掴みにされた。
「……広太、痛い……!」
そんな弓月の訴えに構う様子もなく、神矢は猛然と椅子から立ち上がると、弓月の手首を掴んだまま、まるで巨体の犬がリードごと飼い主を引きずるように、弓月を夕食会場の外へと連れ出していた。
部屋の浴室は、バス・トイレがセパレートタイプで、洗い場がついていた。
ガラスの仕切り越しの脱衣所に、自分たちが乱雑に脱ぎ散らかした衣類が見えた。
備え付けのボディソープのシトラスの香りが、湯気とともに洗い場に満ちていく。
洗面台の鏡は、立ったまま絡み合うふたりの姿を隠すかのように、白く曇りはじめていた。
仄暗い中で、激しく交わされる口づけからこぼれる、淫靡な音だけが響いていた。
「……胸の傷、俺にしっかり見して……」
耳もとで熱っぽく囁く神矢のかすれた声にたまらず、弓月の背は蕩けるようにしなった。
神矢が薄青く痣になった胸の傷に顔を近づけ、興奮気味に凝視しているのを感じ、弓月は恥ずかしさで一層頬が紅潮した。
「……恥ずい……そんな、見んといて……」
「……痣、なってるすね……けど……」
ひとりごとのようにそうつぶやいて、神矢はごくりと唾を飲みこんだ。
「……ココはもっと、腫れてヤバなってるす……」
そう言って、神矢はぴんと勃ちあがった弓月の右の乳首を唇に咥えてねっとりと舐め、左の乳首を指で意地悪くはじいた。
「……ひゃッ……あぁん……っ」
瞬間、頭のてっぺんからつま先まで、信じられないような甘い電流が走り、弓月は悦びのあまり、はしたなく声をあげた。
「……あんっ……あかん……ソコ……っ!」
卑猥な弓月の声に煽られるように、神矢は荒い息を吐きながら床の上に膝立ちになり、夢中で弓月の乳首を舌で転がし、指の腹で圧し潰すようにこねまわした。
「……どんどん腫れて……ヒクヒクしてるっす……」
神矢は見惚れるようにうっとりと目を細めてからかった。
「……やらしい……こんなん……あかんすよ……」
「……いや……っ……ゆうな……っ」
憎らしいことをいう神矢の口をふさごうと、弓月も腰を下ろして床の上に膝立ちになり、愛らしく噛みつくように神矢に口づけた。
ふたたび浴室の中は、甘い口づけを貪るふたりの唇から漏れる、ピチャピチャという湿った音に満ちた。
しっとりと汗を刷き、熱を持った肌をもどかしげにまさぐりあうと、たがいの体の間に挟まれたふたりの快楽の中心が、ぬるぬると先走りをあふれさせながら、いやらしく勃ち上がった。
それがどくどくと脈打ちながら、粘液にまみれて擦れては離れ、ぶつかりあう感覚は、ふたりの脊髄に痛みにも似た強烈な快楽をもたらした。
「……ぁあん……っ!あッ……くぅ……っ」
「……うッ……ふ……っ」
あまりの心地よさに意識が飛びそうになっていた弓月は、さっきから執拗に自分の背中から尻にかけて撫でまわしていた神矢の大きな手が、とうとう両手で思い切り尻肉を左右に押し広げたことに気づいて、小さく悲鳴を上げた。
「……アッ……」
いままで秘められていた場所をむき出しにされ、弓月は羞恥と不安で一層顔を紅潮させた。
しかし、神矢は弓月の動揺に構うことなく、思いつめたような真剣な表情のまま、試すように自分の節くれだった太い人差し指を、弓月のきつく閉ざされた秘部に挿入した。
「……っくう……っ!……っぐ」
太い異物が押し入ってくる未知の感覚に、感じやすくなっていた弓月の肉体は怯え、おののいた。
しかし、弓月の肉体はそれを退けようと生理的な反射を見せたが、弓月の精神は、それを必死に受け入れようとしていた。
きついがまだ痛くはなく、異物感があるだけで、いつか神矢のすべてを受け入れることができるのなら、このくらいは簡単に乗り越えてやろうと思った。
「……痛い……っすか……?」
「……へいき……や……」
けなげに自分を受け入れようとしている弓月の切なげな表情に、たまらず神矢はその唇にいとおしげに口づけながら、もう片方の手で、粘液に濡れたお互いの肉棒をぬちゃぬちゃとしごいた。
快楽の中心をゆるゆると慰撫され、秘部を太い指で奥深く犯されると、弓月は前と後ろへの同時の責めに、どっちが気持ちいいのかわからなくなってきた。
やがて、迷子のように弓月の内部をあちこち探っていた神矢の指は、偶然ある点を探り当て、突いた。
「……アッ……ぁあんッ!」
その瞬間、弓月は目の前に火花が散るような感覚がし、激しい性感に襲われ、大きくのけぞった。
神矢の手の中で、弓月の肉棒は震えながら快楽の証を解き放っていた。
法悦の余韻に目をとろんとさせたままの弓月の姿に煽られたように、神矢も、唾液に濡れて光る弓月の口腔を舌で犯しながら、自らの性器を荒々しくしごいて、満足げに絶頂を迎えた。
「……そろそろ早瀬、戻って来るかな」
「……平気っすよ。バスルーム、鍵かけてるすから」
「……そうゆう問題か?」
大の男ふたりで入るには明らかに小さいバスタブに、神矢にバックハグされる形でおさまった弓月は、お湯の温かさと神矢の大きな体に包まれながら、うっとりと目を閉じた。
そんな弓月の耳元で、甘えるように神矢が囁いた。
「……あれ、もっかい言うてください」
「……ん、なに……?」
まどろむように答える弓月に、神矢は少しはじらいながら小さく笑みをこぼした。
「……昨日の晩、公園で俺に言うてくれたやつ」
「……ああ」
少し恥ずかしかったが、今日の神矢の活躍に免じて、もう一度言ってやってもいい、と弓月は思った。
「……俺にはお前が必要なんや」
喜びに震えるように、神矢が自分を抱きしめ、首に顔を埋めてくるのが分かった。
その様子に微笑みを浮かべ、弓月は囁くようにつぶやいた。
「……ずっと一緒におってや」
(END)
↓↓↓
(作者からのごあいさつ)
これで弓月と神矢のお話はおしまいです。
最後まで読んでくださって本当にありがとうございました。
「読んでくださっている方がいるようだ」と思えなければ、ここまで書いてくることは出来なかったと思います。
またどこかでお会いできれば幸いです。
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