70 / 172
55. シュルツの朝練
シュルツと俺の仲はおおむね順調だ。
時折羽目を外しすぎることはあれど、毎晩健やかに夫婦としての営みを送り、日々満たされている。ゼルフィから戻って数日が経ち、互いの生活も落ち着きつつある頃だった。
「っん、シュルツ様……?」
普段、俺は割と寝汚い方で、ぎりぎりまで惰眠を貪るのが常なのだが。今日は珍しく隣から聞こえる物音に目を覚ました。
「こんな時間から、一体どこに」
「ああ、朝の鍛錬だ。お前はもう少し寝ていると良い」
そう言ってこちらの頭を撫でる手に、絆されそうになるのを寸での所で堪える。鍛錬。そんなことをしてるとは初耳だ。
「俺も行きます」
「……そんなに大層なものでもない。部屋の外の離れた場所で、少し素振りをするだけだ。警護のこともあるからな」
俺とシュルツの部屋の警備は、現状ダミアンとロミアスを初めとした数名の護衛が交代で行っている。以前はもう少し緩かったそうだが、昨今の事情から致し方ないことなのだとか。
「……以前は何処かに行かれていたのですか」
「中庭にダミアンを伴い、時折手合わせなどもしていた」
「今日の警備担当はたしか彼ですよね。俺も一緒に行くなら問題はないと思うのですが、どうでしょう?」
彼は少し考えた後、「それもそうだな」と俺の言葉に頷く。
やった。我が自慢の伴侶、シュルツの肉体は美しくも実用的な筋肉に覆われよく鍛えられている。そんな彼が汗を流し鍛錬する姿は、さぞや目の保養になることだろう。
シュルツが静かに扉を開けると、そこにはすでにそばで控えているダミアンの姿。彼に連れられるまま、俺たちは城の中庭へと移動した。
ヴェイルセル王城。この城にはいくつもの庭園や中庭が存在し、今ここに立つ場所は城内でもっとも広く人目も多いところにある。
現に離れた場所では、城の兵士たちが集まって日々の鍛錬を行っていた。朝からみんなご苦労なことで。
「早朝、ここを訪れるのは久しいですね殿下。体が温まって参りましたら、一度手合わせをいたしましょう」
「ああ、頼む。ダミアン」
そういってシュルツは練習用の木剣を手に、幾度か構えを変えながら素振りを行う。
はぁ、カッコ良い……本当に好き……。
長年練習してきたのだろう。シュルツの動きは全てが堂に入っていて、彼の男振りに一層の磨きをかけていた。
しばらく絶世の美丈夫が鍛錬を積む姿を目に焼き付け、だがふと気付けば、先ほどと異なる視点で彼の動きに魅入る己を自覚する。
武術に関しては全く素人の筈なのだが、不思議と彼の目にも止まらぬはずの剣さばきを、俺は自身の目で追うことができた。
「重心も刃先も全くブレてない。すごいですね、シュルツ様の剣の腕前は。ダミアンさんが一人で教えていたんですか」
「ええ。私も祖父の受け売りではありますが、多少剣の心得がありますので」
「……ゼルフィで賊に襲われた時も、シュルツ様は剣一本で複数の刺客をいなしたと聞きました。あなたの教えた剣のおかげで、彼はこうして生きて俺の側にいる。改めてありがとうございます」
そう俺が礼を口にした途端、普段表情の乏しい彼の顔が一瞬微かに歪んだように思えた。少しの躊躇いの後、ダミアンが口を開く。
「こんな事を……ユウマ様の前で申すのは大変おこがましいと承知の上なのですが。私は己の非力をこれまでずっと恥じておりました。もし私がたった一人で、あの時ユウマ様をお守り出来るだけの力があれば。ロミアス殿をシュルツ王子の側に向かわせ、主君の命を危険に晒すことも無かったと……」
ダミアンの声は、今までに聞いた事がないほど震えたものだった。
そうだよな。俺もあの日シュルツが何者かに攫われたと聞いた瞬間、文字通り血の気の引く思いがした。
ダミアンとは短い付き合いだが、彼が生真面目で責任感の強い性格をしてることはすぐ理解が出来た。そうして同時に、自身の護衛対象であるシュルツのことをとても大切に思っていることも。
だから、俺はあえて明るく軽い調子を装い口を開く。
「……ま、これからは大丈夫ですよ! 俺は天の魔力持ちで、伝説の勇者と同じ異邦人で。おまけにマンティコアとグリフォンも倒した。俺もこれからずっと、シュルツ様のお側にいますから。その上貴方やロミアスさんがいれば怖いものはありません」
ダミアンは俺の言葉に目を見開いた後、やがてその精悍な面立ちに不器用な微笑みを浮かべて、言葉を紡いだ。
「まこと、ユウマ様のおっしゃる通りでございます……私は未だ若輩の身なれど、今後ともシュルツ殿下とユウマ様に、変わりなき忠誠を捧げることをここに誓います」
あなたにおすすめの小説
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと
mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36)
低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。
諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。
冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。
その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。
語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください
東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。
突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。
貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。
お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。
やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。