71 / 172
56. 俺 VS シュルツ
あの後一通りの鍛錬をこなしたシュルツは、休憩を挟んだ後、中庭の一角にて同じく木剣を構えたダミアンと向かい合っていた。
勝負の始まりを告げた後も、両者が動く事はない。緊迫した空気が続き、最初に一歩を踏み出したのはシュルツの方であった。
地面を蹴って正面から切り込み、大ぶりな動きでダミアンの頭上に剣を振り下ろす。
その動きを見切った彼が体を逸らすと同時、シュルツは素早く剣の持ち手を切り替え、ダミアンの首筋めがけ木剣の刃先を当てようとする。
途端、シュルツの持つ剣が上に弾かれ宙を舞った。
ヒュンヒュンと音を立てそれが地面に突き刺さると同時。彼の太く逞しい首筋にはダミアンの持つ木剣がぴたりと押し当てられていた。
…………いや強っっよ。シュルツのそれと異なり、彼の剣筋は俺でも全く目で追うことが出来なかった。
「……参った。降参だ、ダミアン」
「貴方にしては珍しく、功を焦りましたな。戦いの場においては、いついかなる時も平静を保たねばなりません。シュルツ王子」
その言葉に、男が長い灰色のまつ毛を伏せ俯く。いやシュルツも良く頑張ってたよ。それにほら、俺の目の保養にもなったし……そうだ。
「あ、あの。俺も一度戦ってみたいです。シュルツ様と」
俺がそう言うと、シュルツとダミアンは驚いた表情でこちらを振り返った。いやそうだよな、俺だって驚いてる。でも。
「……剣を握った経験はあるのか」
「無いんですが、何かいけそうな気がするんですよね。あ、ありがとうございます」
ダミアンから木剣を受け取り、シュルツの前に立つ。心の赴くままに武器を構えた。多分これで合ってるよな。うん、大丈夫そうだ。
俺の構えに、シュルツの顔が驚きから微かな緊張を帯びたものへと変わる。俺も剣の柄を握りしめ、一定の間合いをとりながら、自らの足を動かした。
……どう崩すか。角度とタイミングはここかな。そい!
「ッおわっ!」
シュルツの攻撃を誘った後、隙を見計らい下から切り返そうとしたその時だった。互いの刃がぶつかり合った瞬間、凄まじい力で木剣が地面に弾かれ勢いのまま自身もすっ転ぶ。お、お、尻が痛い。剣をはたき落とされた利き手が、じんじんと痺れていた。
「……! 大丈夫か、ユウマ!?」
シュルツはハッとした後、慌てた様子でこちらへと駆け寄る。いやあ……ハハ。すみませんね俺みたいなオジサンが調子乗っちゃって。やっぱめちゃくちゃ強いじゃん俺の伴侶。惚れ直した。いってて。
「……驚きました。その技をどこで学ばれたのですか、ユウマ様」
「いや、本当に経験はないんです。でも何故か、今しがたフッと頭に思い浮かんだんだよなぁ」
「その構えと剣筋は、我が祖父を最後に絶たれた古の剣。私も数えるほどしか見た事はありませんが、かつてグーリン家が食客として抱えていた異邦人により伝えられたものです」
何それ知らん。そうなの?
「……剣と魔法の力により、エンシェントドラゴンを単身討伐したシュヴァン・グーリンの師か」
ああー……それは何かの本で読んだ気がする。八百五十年も昔。魔王亡き後もまだ人々が魔物の支配を脱しきれていなかった時代。最強の竜種たるエンシェントドラゴンをたった一人で討伐し、その他多くの強大な魔物を一人でに葬ったとされる稀代の怪物……いや英雄。シュヴァン・グーリン。
一説では魔王の生まれ変わりだの何だの言われ、その凄まじい経歴故、時に実在したかすらも危ぶまれる伝説の人物だ。
……え、そんな化物の師匠とか言われてる人間と同じ技使っちゃってたの俺? こ、こわぁ。
「異邦人ササキ。剣の侮られるこの世界において、彼の技だけは後世にまで讃えられ、祖父の代まで伝えられてきた。我が剣の師の技に、ここで合間見えたことを光栄に思います。ユウマ様」
「いや、俺は本当に何も……」
「シェルフのグリフォン討伐の折もそうでしたが、こたびの件で確信いたしました。ユウマ様には天から授けられし戦いの才がある。ランバルの地へ赴くシュルツ王子の元に、私が随伴出来ぬことをいたく口惜しく思っていましたが。貴方のおっしゃるよう、勇者の同胞たるユウマ様が王子の側にいて下さるのであれば、私も安心して自らの新たな任に邁進できるというものに御座います」
今ランバルって言ってた? え、来れないのダミアン? 俺たち三日後、敵地に赴くというのに?
「……シュルツ様」
「ダミアンには今回、スーデンでの任務を命じている。ランバル家とグーリン家の当主は犬猿の仲でな。その家の者が、互いの領地に出入りする事を禁じている」
えぇー……だからって王子の護衛が出禁になることある?
まあただ、今回のランバル領訪問の目的を考えれば、シュルツの判断もあながち間違いではないのだろう。
ランバル家は、エクス王子を擁立する第二王子派の要石といって良い存在。将来エクスを王とした後、俺たちが気ままに過ごす為には、まずランバルの家の長と親交を深める必要がある。
『中立派のほとんどは、第一王子派と第二王派子双方に血縁者が存在する。どちらかが王となった時、例えば第二王子の派閥が第一王子の派閥を害するような事態が予想されるなら、我々はシュルツ様を王に推すことでしょう』
かつてフラミスが俺に言った言葉だ。
この課題は、当然シュルツにも共有している。二人で幸せな異世界ライフを送る為にも、ここでの失敗は許されなかった。
あなたにおすすめの小説
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと
mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36)
低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。
諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。
冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。
その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。
語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください
東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。
突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。
貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。
お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。
やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。