とある団地にて

由井実緒

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一章

始まりは (須藤和夫視点)

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「気持ち良くしてあげるから、ね?」
 

 昼下がりの団地の一室。目の前には三十半ばの男性が一人、肉付きの良い体を密着させ、ズボン越しにこちらの陰茎を撫でさすっていた。

 男の名は津村仁美。大きな垂れ目と柔らかな笑み、整えた短めの顎ひげがチャームポイントの壮年男性だ。

 今日、自身は彼に想いを伝えるべく勇気を振り絞り、家を訪問した。その矢先の出来事であった。

 男の顔が下を向く。しゃがみ込み、両の手でズボンの金具を外したかと思うと、そのまま下着越しに昂りを口に含んだ。

「アッ……、ぅ」
 
 既に先走りでびしょびしょになった布地を舌先でくすぐり、唇で形を確かめるよう食む。上目遣いにこちらを見やる想い人の姿。興奮で頭がどうにかなりそうだった。

 ゴミ出しですれ違った折、愛らしい笑顔をこちらに向けてくれた彼。町内会の草むしりで、冷えたペットボトルを差し出し優しく声をかけてくれた、自身より一回り小柄な年上の男。穏やかで人当たりが良く、壮年の男性でありながらどこか清楚な雰囲気を纏っている。

 彼の清らかな美しさに触れるたび、己の内で膨らみ続けたのは浅ましいまでの情欲で、初めて会った時からずっとそうだった。だから。

「つ、津村さん」

 無意識に、口が男の名を紡ぐ。彼は視線で以て続きを促した。それに応えるまま、己が欲望を舌に乗せ吐き出す。

「じ、直に舐めて、吸ってください、ッはぁ、オ、おねがいします……」

 興奮のあまり声が上擦る。彼は何も言わなかった。代わりに窮屈になった下着を両手でずり下ろすと、育ちきった陰茎をためらいなく口内に含み、喉奥まで飲み込む。

 ちかちかと視界に無数の火花が散った。人より小ぶりな唇が、赤黒く血管の浮いた性器をめいいっぱいに咥えストロークを繰り返す様を、目に焼き付けたいのに視界が白む。

 きゅうきゅうと締め付ける喉奥も、幹を這う舌の動きも、吸い上げる唇も全てが堪らなく心地良い。もっと味わっていたいという心に反し、興奮しきった体はとうに限界を迎えていた。

 ずるりと引き抜く際にこすれる内頬と、先端をえぐる舌先に腰が震えた刹那。膨大な快楽の奔流が腰骨から全身を伝い、そうして弾けた。

「~~ッ、ぅ、ン、ん」 

 温かい粘膜の中に射精する感覚が心地良く、舌の上に陰茎を擦り付けるよう腰を動かす。彼もはじめは体を強張らせていたが、やがてこちらの精を残らず絞るよう、唇をすぼめて陰茎を吸い上げる。

 ああ、堪らなく良い。こんなに気持ち良いことは生まれて初めだった。

 長い射精が終わり、男が口から陰茎を引き抜く。そうして手のひらを受け皿に、零すよう口内に溜まった精を吐き出す。

 男の童顔はほんのりと薄赤に染まり、甘く垂れた目元は涙で潤んでいた。その柔らかな唇と舌と手のひらを汚している白濁が、今まさに自身の吐き出したそれであると認識した途端。全身の血がカッと燃えるかのようにたぎった。

「アッ、ちょっと」

 もっとぐちゃぐちゃに汚したい。所有の証を刻み、その身を抱いて犯して文字通り己のものにしたい。欲望に駆られるまま、肩を掴もうとした手を男によって制される。

「ね、そんなに慌てないで。今日は何も準備してないから、続きはまた今度にしよ?」
「今度っていつですか」
「来月……二週間。ううん、一週間後」

 上目遣いにこちらを見る彼の瞳は、うっすらと浮かぶ涙で潤みきらきらと輝いていた。その目に満ちているのは期待か、それとも別の何かか。

 家を訪れ、想いを告げて早々、自らこちらにしなだれかかり誘惑してきた年上の男。自身の想い人は、清楚な見た目からは想像もつかないほどに淫靡で、大胆で。そうして抗えない程に蠱惑的だった。

 一週間。短いようで長いその時間の後、訪れるであろう享楽の気配に、ごくりと大きく一つ生唾を飲んだ。
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