千円交渉

徹頭徹男

文字の大きさ
1 / 5

能力付与

しおりを挟む
「はぁ、結局なんでもありかよ。」
なろう小説を読み終えた木村は呟いた。

俺だけに与えられる特別なスキルとか。
俺だけに認められる特別な地位とか。
俺だけが享受する特別な経験とか。
俺だけが気づける特別な視点とか。
俺だけが生まれながらにして特別とか。

俺だけが認められる転生世界。
設定次第。全てご都合主義ではないか。

本を閉じれば現実世界。何も変わっていない日常。
誰かが創作した世界に没入し、時間だけが過ぎゆく。

本当は皆、日常の中で非日常を体験したいのだ。
無論、メディアを通した擬似体験ではなく、他人の活躍の威を借るでもなく、
自分の肉体を通した経験として。

だが、その欲求を現実世界で満たそうとすると、

金がいる。
人脈がいる。
能力がいる。
才能がいる。
技術がいる。

つまり不断の努力が必要。
この四十代半ばを迎えようとしている身には、今さらハードルが高い。

なろう小説を読むという行為に時間を費やしていることが、自分がある類のグループに属する人間であることを証左している気になる。

犯罪行為に手を染めるつもりは毛頭ない。でも違法なことに手を染めるくらいでなければ現状は変わらないのでは?現実世界は完成され過ぎている。いや、そのように錯覚して飼い慣らされているだけ?

結局、満たされない欲求の捌け口として、咀嚼しやすい創作物を消費する側に身をやつしている訳だが、これは欺瞞だ。

などと、いつものように答えのない知的風自虐問答を脳内で繰り広げる。この思想に取り憑かれるのも何回目だろう。全く成長していない。

「もし?」

「は?」

「もしもし?」

木村の脳内で声がする。

「何だ?!」

「わしじゃ。記念仙人じゃよ。そなたがこの思想に取り憑かれたのはこれで1000回目。それを記念しに来たのじゃ。」

「は?桃鉄かよ。」

「聞こえとるぞ。何じゃその『ももてつ』とやらは?」

「心読む系かよ。でも一体心を読むとはどの段階まで読めるんだ?俺がふと考える、もの凄く不謹慎なことも暴かれてしまうのか?今、考えている事と心の中にある事との違いは何だ?」

「その類の思想に取り憑かれるのも769回目じゃが。まぁ細かいことを考えるでない。
とにかくお主のその自虐的な思想の試行回数を記念してプレゼントじゃ。」

「これって世界中、誰でも1000回…」

「もうよい!話を聞け!記念して、とある能力をプレゼントじゃ!」

面倒になったのか、脳内に語りかけてきた仙人とやらは矢継ぎ早に説明し始めた。

「能力とは、名付けて『千円で交渉成立』じゃ。
お主が誰かに交渉ごとを持ちかけて千円でどう?というとあら不思議、交渉成立じゃ!
これ使ってもう少し人生楽しむのじゃぞ~」

「ちょ、なんで千円?回数制限あり?」
もう返答はなかった。

なろうの読み過ぎで頭がおかしくなったか?
眼前にはパソコンがあり、六畳半のいつもの部屋だ。
「はぁ、何だよもう。アホらし。」
腹が減ったし、コンビニにでも行くことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...