千円交渉

徹頭徹男

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能力付与

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「はぁ、結局なんでもありかよ。」
なろう小説を読み終えた木村は呟いた。

俺だけに与えられる特別なスキルとか。
俺だけに認められる特別な地位とか。
俺だけが享受する特別な経験とか。
俺だけが気づける特別な視点とか。
俺だけが生まれながらにして特別とか。

俺だけが認められる転生世界。
設定次第。全てご都合主義ではないか。

本を閉じれば現実世界。何も変わっていない日常。
誰かが創作した世界に没入し、時間だけが過ぎゆく。

本当は皆、日常の中で非日常を体験したいのだ。
無論、メディアを通した擬似体験ではなく、他人の活躍の威を借るでもなく、
自分の肉体を通した経験として。

だが、その欲求を現実世界で満たそうとすると、

金がいる。
人脈がいる。
能力がいる。
才能がいる。
技術がいる。

つまり不断の努力が必要。
この四十代半ばを迎えようとしている身には、今さらハードルが高い。

なろう小説を読むという行為に時間を費やしていることが、自分がある類のグループに属する人間であることを証左している気になる。

犯罪行為に手を染めるつもりは毛頭ない。でも違法なことに手を染めるくらいでなければ現状は変わらないのでは?現実世界は完成され過ぎている。いや、そのように錯覚して飼い慣らされているだけ?

結局、満たされない欲求の捌け口として、咀嚼しやすい創作物を消費する側に身をやつしている訳だが、これは欺瞞だ。

などと、いつものように答えのない知的風自虐問答を脳内で繰り広げる。この思想に取り憑かれるのも何回目だろう。全く成長していない。

「もし?」

「は?」

「もしもし?」

木村の脳内で声がする。

「何だ?!」

「わしじゃ。記念仙人じゃよ。そなたがこの思想に取り憑かれたのはこれで1000回目。それを記念しに来たのじゃ。」

「は?桃鉄かよ。」

「聞こえとるぞ。何じゃその『ももてつ』とやらは?」

「心読む系かよ。でも一体心を読むとはどの段階まで読めるんだ?俺がふと考える、もの凄く不謹慎なことも暴かれてしまうのか?今、考えている事と心の中にある事との違いは何だ?」

「その類の思想に取り憑かれるのも769回目じゃが。まぁ細かいことを考えるでない。
とにかくお主のその自虐的な思想の試行回数を記念してプレゼントじゃ。」

「これって世界中、誰でも1000回…」

「もうよい!話を聞け!記念して、とある能力をプレゼントじゃ!」

面倒になったのか、脳内に語りかけてきた仙人とやらは矢継ぎ早に説明し始めた。

「能力とは、名付けて『千円で交渉成立』じゃ。
お主が誰かに交渉ごとを持ちかけて千円でどう?というとあら不思議、交渉成立じゃ!
これ使ってもう少し人生楽しむのじゃぞ~」

「ちょ、なんで千円?回数制限あり?」
もう返答はなかった。

なろうの読み過ぎで頭がおかしくなったか?
眼前にはパソコンがあり、六畳半のいつもの部屋だ。
「はぁ、何だよもう。アホらし。」
腹が減ったし、コンビニにでも行くことにした。
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