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ヘンリー・グレイ公爵令息
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長い、長い、沈黙渦中、ジェマイマは己の有意義だったアマベルと過ごした学生時代やキャンベル領改革、自身の立ち上げた商会運営の思い出を、特別総編集動画のように脳内再生していた。
目の前の御方は、知らぬ間にメデューサにでも見つめられてしまったのだろうか。
「グレイ公爵令息、御用が御済みであればそろそろお暇を、」
先程の挨拶から更に30分経っている。
充分待った、もう良いだろうとジェマイマが暇を告げると、
石像になっているのでは、と心配するほど動かなかった男が、ガバッと身を乗り出して、
「キャンベル伯爵令嬢、単刀直入に伺うが、君はヒューム男爵令息かマーチモント伯爵令息のどちらかと婚約をするのだろうか」
比較的大きめな声でそう聞いてきた。
「は?」
ジェマイマは目を瞬かせて、淑女にあるまじき低い声を出してしまった。
「いや、君の友人のアマベル嬢は同窓の子爵家へと嫁いだだろう。さて、君はどちらの家へと、」
「致しませんが。どちらとも婚約する予定は御座いませんが。と言うか各々もう既に婚姻しておいでですが」
沈黙の後の不可解な問いに、つい話している男の言葉に被せて返答してしまった。
「ああ、そうであったか、では、君は誰と婚約する予定なのだろうか」
しつこく婚約婚約と聞いてくる男に、え?さっきまでの長い沈黙なんだったんだ?とイライラが募る。
「まったく予定は御座いませんが。この年のわたくしに今さら婚約を聞くなど、一体全体どう言ったご了見で?
グレイ公爵令息、どうしてわたくしの婚約についてお聞きになるのでしょう。
いったいこのご招待は何の為の機会なのでしょうか。貴方様から頂いたお手紙には『将来について希望を聞きたい』とあったので伺ったのですが、それはわたくしの商会との取引、という理解でよろしいですか?」
ジェマイマは、同窓生とは言え、初めましてと挨拶したこの男になんの思いも持っていない。
今日は偶々、公爵家から手紙で問い合わせが来たので、商売の話しかと思って出掛けて来ただけである。
それを長く待たされた(無言で目の前にいたけれども)挙げ句、プライベートなこと、今さら婚約婚約と、世間的には行き遅れと呼ばれる年の令嬢に直接問うとはなんと非常識、デリカシーの無い奴め、しつこく何度も聞くとはどう言う事だ、とジェマイマの憤りは瞬間的に沸点へと到達したのだった。
「あ、いや、実は、君のご実家のキャンベル伯爵家へと予てより、いや、先日も婚約の打診を父から行ったのだが、『娘は政略結婚はせず、自身で決めた道を歩んで行く所存につき、お断り申し上げます』と毎回断られており、」
「へ?」
また淑女にあるまじき(以下略)、公爵からの、王弟からの、婚約の打診をそんな簡単に断れるんだ、毎回とか断られても打診するのもすごいが、とジェマイマは遠い目をしながら、心の中で父にサムズアップを送った。
「だから、学生時代仲の良かった二人のうちどちらかと婚約するのだろうかと、そう思って。いや、違うな、私は卑怯だな、彼らの事は関係ない。どうしても君の口から返事が聞きたくて、来て貰ったんだ。すまない」
そう言うと、目の前の男が居住まいを正して、ジェマイマの目を見つめ、
「ジェマイマ・キャンベル伯爵令嬢、どうか私、ヘンリー・グレイと婚約、いや結婚してもらえないだろうか」
そう熱い告白をしたのだった。
その声や振る舞いは、自身の美しさを正しく理解しているもので、それはもう美しい演目のようであった。
ジェマイマも先程からの、は?だの、へ?だの、と言う気の抜けた言葉を発して乱れた姿勢を正して、デフォルトの能面微笑を装備して、
「お断り致します」
そう無機質な声色で答えたのだった。
目の前の御方は、知らぬ間にメデューサにでも見つめられてしまったのだろうか。
「グレイ公爵令息、御用が御済みであればそろそろお暇を、」
先程の挨拶から更に30分経っている。
充分待った、もう良いだろうとジェマイマが暇を告げると、
石像になっているのでは、と心配するほど動かなかった男が、ガバッと身を乗り出して、
「キャンベル伯爵令嬢、単刀直入に伺うが、君はヒューム男爵令息かマーチモント伯爵令息のどちらかと婚約をするのだろうか」
比較的大きめな声でそう聞いてきた。
「は?」
ジェマイマは目を瞬かせて、淑女にあるまじき低い声を出してしまった。
「いや、君の友人のアマベル嬢は同窓の子爵家へと嫁いだだろう。さて、君はどちらの家へと、」
「致しませんが。どちらとも婚約する予定は御座いませんが。と言うか各々もう既に婚姻しておいでですが」
沈黙の後の不可解な問いに、つい話している男の言葉に被せて返答してしまった。
「ああ、そうであったか、では、君は誰と婚約する予定なのだろうか」
しつこく婚約婚約と聞いてくる男に、え?さっきまでの長い沈黙なんだったんだ?とイライラが募る。
「まったく予定は御座いませんが。この年のわたくしに今さら婚約を聞くなど、一体全体どう言ったご了見で?
グレイ公爵令息、どうしてわたくしの婚約についてお聞きになるのでしょう。
いったいこのご招待は何の為の機会なのでしょうか。貴方様から頂いたお手紙には『将来について希望を聞きたい』とあったので伺ったのですが、それはわたくしの商会との取引、という理解でよろしいですか?」
ジェマイマは、同窓生とは言え、初めましてと挨拶したこの男になんの思いも持っていない。
今日は偶々、公爵家から手紙で問い合わせが来たので、商売の話しかと思って出掛けて来ただけである。
それを長く待たされた(無言で目の前にいたけれども)挙げ句、プライベートなこと、今さら婚約婚約と、世間的には行き遅れと呼ばれる年の令嬢に直接問うとはなんと非常識、デリカシーの無い奴め、しつこく何度も聞くとはどう言う事だ、とジェマイマの憤りは瞬間的に沸点へと到達したのだった。
「あ、いや、実は、君のご実家のキャンベル伯爵家へと予てより、いや、先日も婚約の打診を父から行ったのだが、『娘は政略結婚はせず、自身で決めた道を歩んで行く所存につき、お断り申し上げます』と毎回断られており、」
「へ?」
また淑女にあるまじき(以下略)、公爵からの、王弟からの、婚約の打診をそんな簡単に断れるんだ、毎回とか断られても打診するのもすごいが、とジェマイマは遠い目をしながら、心の中で父にサムズアップを送った。
「だから、学生時代仲の良かった二人のうちどちらかと婚約するのだろうかと、そう思って。いや、違うな、私は卑怯だな、彼らの事は関係ない。どうしても君の口から返事が聞きたくて、来て貰ったんだ。すまない」
そう言うと、目の前の男が居住まいを正して、ジェマイマの目を見つめ、
「ジェマイマ・キャンベル伯爵令嬢、どうか私、ヘンリー・グレイと婚約、いや結婚してもらえないだろうか」
そう熱い告白をしたのだった。
その声や振る舞いは、自身の美しさを正しく理解しているもので、それはもう美しい演目のようであった。
ジェマイマも先程からの、は?だの、へ?だの、と言う気の抜けた言葉を発して乱れた姿勢を正して、デフォルトの能面微笑を装備して、
「お断り致します」
そう無機質な声色で答えたのだった。
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