魔王として転生したはいいけれど無理ゲー過ぎて心が折れそうな俺とサディスティックな勇者の異世界戦記

よすけ

文字の大きさ
6 / 8

閑話 伝説への軌跡

しおりを挟む
これは1人の幼子が酒呑へと至る物語。
そのプロローグ



昔、魔族領の最東端に位置する町バーバラで泣きながら立ち尽くす幼子が見つかった。
まだ年は3、4歳くらいだろう。その綺麗な黒髪と泣き噦りながらも可愛らしい顔は将来彼女が美女になる事を物語っている。服装は白のワンピース。そのきめ細やかな布地は決して安い物ではないと主張していた。近くの住人は幼子を見つけると直ちに警備兵へ報告する。

バーバラでは人間領との国境に近いため、魔族、人族共に色々な理由から捨てられる者が多い。
その日国境付近を警備していた魔族カシムもまたかと思いながらも現場へと向かい。そこで泣き噦る幼子を見た。

(かぁぁぁっっ!最近は年老いた人族や魔族が多かったが、今度は幼子かぁっ!!⋯⋯色々な理由があるだろうが世も末だねぇ)

その幼子を見ると、居た堪れなくなり愚痴も言いたくなるカシム。

「おいっ!嬢ちゃんっ!!そんな所で泣いていてどうしたんだぃ?親父さんやお袋さんはどこにいるよ?」

そう聞き出すカシムだが幼子にはまだ言葉の意味があまりわからないらしい。こぼれ落ちる涙を左右の手で必死に拭いながら

「あ、、あのね、、グスンッ!起きたらっ、スンっ、ここにいたのっ!!パパとママいなくなっちゃった⋯⋯うっうっう~ビェェェェン」

(こりゃっ状況をこの子に詳しくは聞けないな。確か⋯⋯あった!)

警備服のポケットをガサゴソとするカシム。するとお目当ての物が見つかった。

「ほらぁっ!飴ちゃんだぞ!いるかい?嬢ちゃんっ!美味しいぞぉ!」

見つかったのはまん丸の飴玉。子供といったら飴玉だとカシムの頭の方程式は完成している。数々の子供達をこの飴玉と共に篭絡してきた。まさに子供対応のエキスパート、飴玉は今ではカシムの相棒だった。

(今回も頼むぜっ!飴様っ!!)

そう言いながら幼子へ飴を手渡すカシム。
泣きじゃくりながらも幼子は手を伸ばし飴を受け取るが
なかなか食べない。

「嬢ちゃん。どうした?食べていいんだぞ?」

今までの子供達は受け取りすぐ口に含み、笑顔を見せてくれていた。当然カシムは幼子もそうだろうと期待していたのだが中々に口に含まない。
幼子もきっと飴を食べたいのだろう。飴玉とカシムを交互に見ながらもモジモジと

「⋯⋯パパが知らない人から物もらっちゃ、、グスンッ。ダメっって⋯⋯」

(⋯⋯いい所の嬢ちゃんか?あまりいないタイプの子だな)

「嬢ちゃんっ!大丈夫だっ!パパの事おじさん知ってっからっ!おじさんはパパの友達なんだ。だから知らない人じゃないぞぉ!」

まさか幼子がそう返してくると思っていなかったカシム。苦し紛れの言い訳は大人には通じないだろうが子供には通じたようで

「⋯⋯本当?」
「あぁ本当だとも!だから美味しく食べるんだぞ?」
「⋯⋯うんっ!!」

パクリッ!
笑顔で手に持っていた飴玉を頬張る幼子

(ふぃ~危ねぇ危ねぇ。何とかごまかせた。しかし笑うとなまらめんこい幼子だ。⋯⋯なんで捨てられるたんだろうな。こんな可愛い子を⋯⋯っといけねぇいけねぇっ!飴玉くって機嫌良くなったら上へ保護の申請しに行かないとな。)

この後の事後処理のスケジュールを頭に入れ、機嫌が良くなった幼子を誘導しようとするカシムだが実はこの時カシムは致命的なミスを犯していた。

幼子に与えていた飴玉だが実は魔族の酒飲みに当時大流行していた飴玉なら【酒玉】だったのだ。
【酒玉】は一粒飲めば酒好きが酔っ払い、二粒飲めば千鳥足、三粒飲めば夢の世界へというキャッチフレーズが特徴の飴でそのフレーズ通りかなりアルコールが入っている。

ただ、現時点でカシムはその事実に気がついていない。
飴玉を口でコロコロと転がしながらキャッキャと走り回る幼子に

(飴様⋯⋯流石だぜっ!あんなに泣いてた子が笑いながら走り回ってやがるっ!おっ!!フラフラと酔っ払いのように走る子だなぁ!!⋯⋯ん?酔っ払い?まさかっ!!)

ようやく事態に気がついたのかカシムは顔を青くしながらもポケットを確認する。ただ出てきたのは飴玉だ。酒玉ななくなっている。

「⋯⋯嬢ちゃんっ!!大丈夫かぃっ!!ほら飴玉、いや酒玉を吐き出すんだっ!!」

自分の確認不足が原因で幼子に酒玉を与える。バレたら懲戒処分決定案件にカシムはあせる。それに幼子の体調も心配だ。カシムはフラフラと走り回る幼子に駆け寄り抱きとめる。少し強引に口を開けさせると

「酒くせぇぇぇっ!」

幼子に似合うことのない酒臭さとその口内に飴玉ならぬ酒玉を見つける。幼子は何が可笑しいのかキャッキャと喜んでいるが、それは酔っているからだろう。
カシムは幼子の背中を強めに叩き酒玉を吐き出させる。

ポンッと飛び出し地面に転がる酒玉。

カシムはその酒玉を足で踏みながら幼子の様子を見るが、意外にもヘラヘラしてるがその瞳には理性が残っている。

「⋯⋯嬢ちゃん?酔ってないのか??」

一粒で酒飲みが酔っ払う酒玉をまだ3、4歳の幼子が食べて酔わないはずがない。全部食べていないとしてもそんな物を食べ含んだら必ず何かしら支障が出る。場合によっては懲戒処分覚悟で医療所へと考え始めていたカシムだが幼子の反応に驚き聞いてみたのだが

「ん~わからないけど、ちょっとフラフラして面白かったよ!今はもうフラフラなくて寂ちいけど⋯⋯おじちゃんありがと!!」

首を傾げ満天の笑みで答える幼女

「⋯⋯そ、そうかぃ!、い、いやぁ良かった良かったっ!!面白かったかっ!⋯⋯まじかよ、、」

(酒に強いといっても度がすぎるぞこの幼子っ!!⋯⋯もし将来魔族領で生活するなら酒呑⋯⋯いやいやっ!!考えすぎかっ!!今はこの子の今後を考えてやらないとな)

微笑んでいる幼子=フェリスにカシムは手を差し伸べるとフェリスは素直に握り返してくれる。そうしてカシムとフェリスは歩き出した。

カシムがこの時考えた事が、後で現実になるとは思ってもいなかっただろう。



数年後、突如新星の如く現れた黒髪の美女が酒呑へと至った。その物語を語るのはまた次の機会としよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

処理中です...