魔王として転生したはいいけれど無理ゲー過ぎて心が折れそうな俺とサディスティックな勇者の異世界戦記

よすけ

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魔族最強の酒飲みは誰だっ!!吐いたら負けよ酒飲みデスマッチ 決勝戦 その1

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「第463回魔族最強の酒飲みは誰だっ!!吐いたら負けよ酒飲みデスマッチもいよいよ残すのは決勝戦のみになりんした。⋯⋯並み居る強豪、酒豪が挑んでは散り、挑んでは散っていきました。そして残ったのは我らが酒呑フェリス。黒髪の新星と呼ばれてから早170年その強さは未だ衰えず。本日も見せてくれましょう。酒呑たる強さを。」

進行役のタマの声が王間に響く。

大会は最終局面に入っていた。タマの声に応えるかの様に黒髪の美女フェリスが王間にいる魔族達に頭を下げる。
その姿は優雅だ美しく、体幹のブレもない。
予選で飲みきった魔王殺しの影響などまるでないかの様だ。

「「「フェリスさまぁぁぁぁっ!!」」」

王間に大歓声が響き渡る。その歓声、声には絶対王者、酒呑フェリスへの絶大なる信頼、支持があふれていた。

(物凄い声援だな。きっとそれ程までに圧倒的で、栄誉たる称号なんだろう。ははっまさか酒も殆ど飲めなかった俺が戦うなんて何だか変な感じだよ⋯⋯それに後ろめたいなやっぱり。)

そう、浩介は決勝まで勝ち上がったのはいいが、後ろめたさを感じていた。

理由は予選の時に判明した酒を飲んでも酔わないという状態。勿論飲めば胃は膨らむのだが、アルコールで酔う事はない。この状態なら酒の勝負というよりは胃袋の限界の勝負でない限り負ける事はないだろう。
対するフェリスはいくら酒呑といっても飲めば酔わない事はないだろう。その為浩介との勝負は負け戦の様なものだ。浩介はその事にたまらなく胸を痛めていた。

「対ちて!まちゃかまちゃか!!あの数々の魔王ちゃまを屠ってきまちた魔王殺しを小樽一気に飲みほちて、見事に決勝に進みまちた我らが新王浩介ちゃまぁぁっ!!クスはハッキリといいまちゅっ!小樽ごと飲み干した浩介ちゃまは不正をしているんじゃないかと思ってちまちましたっ!!そのくらいありえない事何でちゅっ!!⋯⋯えっえっ?不敬だっ?⋯⋯ぴぃっ!言葉のあやでちゅ!!あやっ!!浩介ちゃまクスは本心では思ってないでちゅからねっ!!」

まさかクスにバレているとは思わないが、事実をいきなり当てられた内心浩介はテンパっていた。

(⋯⋯言うべきか、言わないべきか。言うなら今のタイミングが一番言いやすいぞ!⋯⋯ただ)

なかなか言い出せない浩介。それには理由があった。
魔族達がみんな浩介に好意的で、歓迎してくれていて、不正などありもしないと言う様に信じた顔をしている。魔王として召喚された浩介を信じきっている魔族達に不正をしてました何て余程の覚悟がないと言えない。

その覚悟が浩介にはまだ無かった。打ち明けてもきっと魔族達は笑って許してくれるのだろうが。
浩介は心のどこかでまだ彼等を信じきれていない部分があるのだろう。

結局浩介は自らの体質を伝える事なくフェリスと同様に壇上で手を上げながら魔族達に挨拶をし席に腰をかけた。

(⋯⋯この体質は誰にも言わずにしよう。きっとそれがいいんだ。)

「それでは決勝のルールを説明致しんす。決勝は至ってシンプル。まずフェリスが出てきた酒を飲み干しんす。
飲み干したら同じものを浩介殿も飲み干す。ただそれだけでありんす。酒呑のフェリスが酒に口をつけられなくなったらフェリスの負け、逆に浩介殿が口をつけられなくなったら浩介殿の負け。

⋯⋯新たな酒呑は現在の酒呑を超えなければ酒呑たらない。浩介殿。魔族の伝統みたいなものです。ルールは以上でございますが何か質問はありんすか?」

(確かにこのやり方なら挑戦者が勝てばそれは酒呑を超えたと同意だ。理にかなってる。)

「いいえ、ありません」
「私も大丈夫です」

2人の返答に大きく頷くタマ。そして
パチンと手を叩く。

「クスやクス。酒の用意を頼みんす」

「はぁぁぁいっ!」

クスが返事をすると

ガラガラガラガラと何かの音が聞こえ始める。音のなる方へ視線を移すとそこには1人の魔族が巨大な樽が置かれている台車を押し、会場まで運ぼうとしていた。
樽上にはクスが座っており、足をプランプランとしている。男は台車を押すのが辛いのか

「クスさまっ!クスさまって!!ただでさえ魔力が切れててこの樽を押すのしんどいんですから、樽の上からおりてくんせぇっ!!いくらこのチャキチャキの俺でもなかなかにしんどいですぜっ!!」

物凄い力を入れてるのだろう。顔は真っ赤。額には玉の様な汗が浮き出ている。

「頑張れ頑張れカチムさんっ!!頑張れ頑張れカチムさん!凄く高いでちゅぅぅ!!」

しかし、返って来た反応はこの通り。

無邪気にキャッキャと笑うクスにカシムは何を言ってます無駄だと思ったのだろう。ため息を一つつくと腕をまくり

「こうなりゃやけだっ!⋯⋯てやんでえっ!!このカシム様の自慢の酒だぃ!!フェリスっ!浩介様っ!!いまお持ちしやすっ!!」

そう言いながら台車を精一杯押し続け二人の前まで押し終わる。

「ふふっカシムさんったら相変わらずなんですから」

「今回の決勝でお二人に飲んで頂く酒は【魔王殺し】を更に熟成した一酒。【神殺し】でありんす。⋯⋯この酒は殆どの魔族も知らないでしょう伝説の酒といわれております」

タマの説明に頷く魔族達。
その反応にタマと何故かカシムが気を良くした顔をしお互い見合い頷くと

「魔王殺しはその性質柄熟成させるのが物凄く難しく、数々のの酒職人が断念したんす。それを」

「この俺カシムが成功させたんでぃ!!いやぁぁ魔王殺しだけでも金がかかるし、難しいのにタマ様から魔王殺しを超す酒を魔王殺しを使って作ってくれと言われた日にやぁ何事かとおもったが、数々の苦悩を乗り切り⋯⋯できちまった、、できちまったぜ【神殺し】がよぅっ!!フェリスっ!!とうとう俺ぁ完成させたぜぃ!!」

そう言いフェリスの方へとサムズアップするカシム。
そんなカシムにフェリスも目に少し涙を浮かべ祝福をする。

「カシムさん⋯⋯良かったですね!!⋯⋯本当にっ!!」

(フェリスさんとカシムさんは知り合いか?酒呑と酒職人、常連客みたいな関係かな。)

そんな事を考えてた浩介だが、カシムの説明が続く

「この神殺しはなぁっ!魔王殺しの数倍強ぇし、酔いが回りやすい。一滴を薄めて水割りにすれば適度な酒、二滴を薄めてお湯割りにすりゃ身体がポカポカ酔っ払いの出来上がり。三、四は抜かして五滴を薄めて飲みゃ⋯⋯酒に弱ぇやつぁ⋯⋯死ぬぞ⋯⋯ってなっ!!わっはっはっは!!」

(((笑い事じゃねぇぇぇぇっ!)))

カシムの説明にドン引きする魔族達。
それ程までに強いと言う事を言いたいのだろうが飲んだ事がない酒なのでカシムの説明が誇張されているのかどうかの判断がつかない。
当然魔族達の目は皆特大樽に釘付けになるが

「フンフンフン~」

そこにはクスが樽の上で鼻歌を歌っている姿があるだけで緊張感が一切なくなる絵となり魔族達に映る。

「今回はその神殺しを10滴垂らしたものを水割りにして飲んで頂くでありんす。⋯⋯今の説明を聞き、10滴がどれ程のものか⋯⋯皆もわかるでありんしょう?」

カシムの説明、クスの鼻歌、タマの煽りが見事に統合され群集の心理を鷲掴みにする。

ゴクリッ

誰かの唾が喉を通る音がした。

「フェリス、浩介殿準備はいいかえ?後、無理してはダメでありんす。一応倒れた時のために魔族達を数名待機させてはおりんすが、それは出来れば使いたくありません。」

「はい」
「ありがとうございます。タマさん」

二人の言葉を聞き頷くタマ。

そして、タマは壇上から、クスは樽の上からまるで一つの生き物かのようにピッタリと声高々と

「「第463回魔族最強の酒飲みは誰だっ!!吐いたら負けよ酒飲みデスマッチ決勝戦開始でありんす。」ちゅ!」

そう宣言し決勝が始まった。



「まずは先行。我らが酒呑フェリスに神殺しを飲み干して頂きんす。」

タマがそういうとカシムが特大樽から一滴、まだ一滴と神殺しをグラスへ垂らす。その滴はこれから神に挑む者達に対する祝福かはたまた地獄へと向かう者達への涙か。

一滴垂れる度にその強さのせいか王間に酒の匂いが立ち込める。
魔族達はその量で王間にこれ程までに匂いが充満するとは思ってもいなかったのだろう。身を見開きカシムと神殺しを見つめている。

そして、十滴垂らし終わった後、水で薄めて出来上がった。

カシムはその酒をフェリスへと運びテーブルへと置く。

コトッ

「神殺し10滴水割りだ⋯⋯死ぬなよフェリス」

「はいっ!カシムさん。酒呑の名にかけて美味しく頂きます。」

(もう酒飲み大会というより戦地に赴く者への掛け言葉じゃないですかっ!)
浩介の突っ込みはもっともだ。

そう告げカシムがテーブルから離れるとフェリスはグラスを片手に持ち、神殺しを口内へと運ぶ。食道へと侵入した神殺しは魔王殺しとは比較にならない地獄の業火でフェリスの食道を焼き切ろうと猛威を振う。

固唾を飲む魔族達と浩介っ!!
 
⋯⋯しかし

「⋯⋯!!ングングングッ!⋯⋯はぁ⋯⋯カシムさん神殺し美味しくいただきましたっ!」

カシムの説明やタマの煽りはなんのその。酒呑フェリスは笑顔で神殺し10滴水割りを飲み干した。

「⋯⋯な、なぁ、、」

口をあんぐり開けて驚いているカシムだが魔族達はちがっていた。

「フェリスちゃまっ!!!すごぉおぉぉいっ!!すごいすごいでちゅ!!!」

樽の上からのクスの声を皮切りに

「「「オォォォォォォォッ!!フェリス!フェリス!フェリス!!」」」

王間が大歓声に包まれる。イキナリの大歓声にキョトンとしていたフェリスだがにこやかに笑い魔族に礼をする。

「⋯⋯フェリスや。妾とカシムの説明が嘘だと思われてるようなので反応はやめてたもう。⋯⋯本当に大丈夫かえ?」

「はいっ!確かに強いお酒ですが美味しかったですっ!」

「⋯⋯まったく我らが酒呑ときたら」

そう珍しく苦笑いするタマがフェリスの異常さを物語っていた。

決勝戦、神殺しと言う未知の酒、それを飲み干した酒呑。これで会場が盛り上がらないはずがない。大盛り上がりする王間だが、魔族達の視線は徐々にフェリスから浩介へと移っていく。それに伴い、歓声も徐々に収まり。逆に不気味な程の静けさに王間が包み込まれた。

次は挑戦者にして新王浩介の番。先ほどの予選では魔王殺しを樽ごとラッパ飲みと言う前代未聞の飲み方をした浩介が神殺しを飲めるのか、そしてその時の反応はどうか。
その一挙一動が注目されている。

(⋯⋯気が重いけど仕方ないよな。ここまできたら。)

そして

「続きまちて!我らが新王浩介ちゃまの番でちゅゅゅゅ!!魔王殺しを殺した浩介ちゃまっ!そんな浩介ちゃまが今度は神に挑みまちゅ!!浩介ちゃまは神殺しを殺せるのでちょうかぁぁ!⋯⋯って今思ったんでちゅが、魔王殺しを殺すとか神殺しを殺すって何だがわかりじゅらくないでちゅか??物騒でもありまちゅし⋯⋯えっえっ?良いから早く始めろ??⋯⋯ぶぅっ!!クス自分の意見言っただけでちゅっ!!!プンプンっ!タマ様っ!!クス悪くなっ⋯⋯ぴいっ!!ごめんなちゃい~!!進めますねっ!カチムちゃまお願いしまちゅ!!」

タマに助けを求めたクスだがタマが笑顔のまま早く進めろと無言の圧力をかけると悲鳴をあげながら進行を指示しだした。

クスに指示され特大樽から神殺しを10滴グラスに注ぎフェリスと同じようにテーブルへ持っていくカシム。

コトッ

「神殺し10滴水割りです浩介様。魔王殺しとは比較になりませんのでお気をつけて下さい。」

そう浩介を心配し、注意を促してくれるカシム。またカシムの後ろに見えるフェリスも心配そうに浩介を見ていた。

(カシムさん、フェリスさんありがとうござます。⋯⋯ ⋯⋯)

そして浩介はそのグラスを取り、一気に飲み干す。

「ングングングッ!!ぷはぁぁあ。⋯⋯ご馳走様でした。」

神殺しは浩介の口内へと侵入したが、アルコール分が全て水へと変わる。苦しさも何も感じずに飲み干す浩介へ魔族達やフェリスは驚きの声をあげた。

「「「おおぉぉぉぉぉぉっ!!」」」

「な、な、なんと浩介ちゃまも神殺しを殺しまちたぁぁぁ!!!⋯⋯えっえっ?神殺しを殺したって言ってるじゃないか?もー⋯⋯もうっ!細かい事をきにちないで下ちゃいっ!!」

「浩介様っ!凄いです!!結構強いお酒なのに」

「おいっ!フェリス!俺ぁの渾身の神殺しを結構強い酒だぁぁ??聞きづてならねぇなっ!おいっ!!⋯⋯こうなったらタマ様っ!!この2人は別格だっ!神殺しをペロッて飲んでやがるっ!!このままじゃ俺ぁの神殺しが実は案外思ってたほどでも無かったなんて思われちまう!!次は20滴でやらさせてくれっ!!」

カシムもまさか神殺し10滴水割りを2人とも何事もないように飲み干すとは思ってもいなかっただろう。自分のプライドをかけてこの神殺しを魔族に良い意味で広げる必要がある。もうこれは酒職人としてのプライドの問題だった。

そんなカシムへ

「カシムや。妾も驚いでいます。神殺しの強さはその酒を作るのう依頼した妾が一番よくしっておりんす。10滴を20滴へも勿論でありんすが、一度2人以外の魔族が飲むとどうなるか見せた方が神殺しの凄さ、そしてあの2人の強さが客観滴にみて分かると思いんすがいかがでしょうか。」

タマの提案は確かに的を得ており、神殺し、2人の異常さを周りに知らしめるにはピッタリだった。
勿論この提案をカシムは断る訳もなく

「ありがてぇっ!⋯⋯して、誰が飲んでくれるんだ神殺しを??」

カシムは王間を見渡すが、皆が皆顔を背けたり、下を向いたりしており、誰も立候補してこない。魔王殺しでさえ予選のアレなのに。それ以上の神殺しを誰が好き好んで飲もうか。そんな雰囲気が王間に漂う。

「かぁぁぁっ!粋な奴がいねぇやっ!まぁ、仕方ねぇけどな⋯⋯」

カシムが諦め半分でタマを見つめると、タマは意地の悪い笑みを浮かべながら

「浩介殿の異常さや偉大さを伝える⋯⋯こんな栄誉な事ないよなぁ。レオよ。」

ビクンッ

名前を呼ばれたレオは跳ね上がる。
まさか自分の名前が出てくるとは考えてもいなかったはずだ。

あたふたと面白いくらいに狼狽しているレオだったが、浩介の方を見つめると決心したようで。

「⋯⋯タマ様っ!喜んでっ!このレオ・アグシム浩介様の偉大なるお力を皆に伝えさせて頂きます!!」

(本当は飲みたくないがタマ様が言う通り浩介様の凄さ、異常さを皆に知ってもらい、浩介様への更なる忠誠心と畏敬の念を抱かせる。⋯⋯俺がやらないでどうするよ!レオ・アグシムっ!!)

「そうかぇ?流石浩介殿の忠臣よのぅ。妾は感動したでありんすよ。⋯⋯ほれっ!カシムよ。レオが飲んでくれるんじゃ。準備を」

「⋯⋯は、はいっ!」

王間下座から壇上へと向かうレオ。その顔は例え死するとも浩介の為に自分がやるんだというまさに漢の顔。
対してそんなレオを見送る魔族達は哀れみの表情とタマに対する畏敬の念をうかべていた。

(レオさん⋯⋯タマさんにのせられて⋯⋯大丈夫かな。まぁ何か起きてもタマさんならそこまで見越してそうだけど。)

浩介の心配をよそに鼻息を荒くし少し興奮気味のレオが壇上に立つ。そして浩介へ向かい膝を降り頭を下げて

「浩介様、このレオ・アグシム御身の偉大さを魔族の皆に伝える為やって参りました。」

レオの意気込みに若干ひきながら浩介はタマに視線を向けると、また腹を抱えて笑っている。

(ちょっ!タマさぁぁぁぁん!⋯⋯レオさんはいたって真面目なんだから全く困ったものです。)

「レオさん。ありがとうございます。無理しないでくださいね。」

浩介の労いの言葉にビクンと一瞬震えレオは立ち上がる。

「勿体無きお言葉。では行って参ります。」

そう言い残しカシムの前へ移動する。
その後ろ姿は死地へ赴く戦士のそれだった。

レオはカシムの待つ特大樽の前へ移動する。そこにはカシムが準備してたであろう。神殺し10滴水割りが用意されていた。

「レオっ!お前さんの粋な姿久々に俺あっ!目頭が熱くなっちまったよ。⋯⋯ほらっ!!神殺し10滴水割りだっ!!⋯⋯生きて帰ってこいよっ!」

そう言いながらグラスをレオへ渡すカシム。
そしてレオの手に収まるグラスだが、その水面が小刻みに波打っていた。

(へへっ!情けねぇ震えてやがるぜ。こぇぇ⋯⋯こえぇよ。)

その震えを認知出来たのはレオと、目の前にいるカシムだけ。遠く離れている魔族達には揺れは確認できない。
レオのプライドはそのおかげでまだ折れてはいなかったが、震えが段々と大きくなってきた。このままだと同族にまで認知されてしまうが、なかなかに一歩を踏み出せないレオ。

そんなレオの震えが暖かな手の温もりを感じた途端ピタッととまった。

「おぃ!レオよ!!くよくよせずに逝ってこいっ!!俺が骨くらい拾ってやるぜぃ!!」

レオの手にカシムの手が重なっている。

(情けねぇっ!情けねぇっ!情けねぇっ!情けねぇつ!!俺には戦友がいるじゃねぇかっ!ブルってんじゃねぇぞ!レオ・アグシムっ!!!)

レオの瞳に怯えの色がなくなったのを察したカシムは手を離す。すると

「⋯⋯ングングングっ!!!」

神殺しを一気に飲み干すレオ。

《⋯⋯ ⋯⋯ ⋯⋯

「「「おおおおおおおおおぉぉぉ!」」」

王間に歓声があがりレオの挙動に浩介も含め注目をすると

「ウォォォーンッ!!神殺し討ち取ったりぃっ!!

レオが遠吠えをあげ高らかに宣言する。その宣言と共に

「「「レーオッ!レーオッ!レーオッ!」」」

爆発的なレオコールが王間にこだました。

そんな中、パチパチと拍手はしながらレオの元へと降り立つ浩介。

「見事だ。レオ・アグシムよ。流石我が忠臣だ。」
「いえっ!!忠臣として当然な事をしたまでです。」

浩介の労いにかしこまるレオだがその顔は得意げだ。

さらに目の前でレオの飲みっぷりを見ていたカシムからも祝福がはいる。

「かぁぁっ!!俺ぁ自慢の神殺しだったんだけどなぁ!!いやっ!!流石レオだっ!!しかしいい飲みっぷりだったぜえっ!!惚れ惚れしたぞぃ!!」
「いえっ!カシム殿の後押しが無ければ俺は一歩踏み出せなかったです。ありがとうございました!!」

「よしっ!忠臣がここまでやってくれたんだ。後は俺に任せろ。必ず酒呑になってやる。お前には特別に特等席を用意してやるからそこで見てろ。」

浩介の思ってもいなかったサプライズにレオは感激に身を震わす。

「あっありがとうございますっ!!このレオ・アグシム御身に仕えられ至極でございます!!」

うむっと浩介が頷き。決戦の舞台へと歩き出した。その後ろをレオは歩き続く。主人の戦をその目に焼き付けるために。

浩介とレオの後ろからは鳴り止まぬ歓声が続いていた。



「⋯⋯浩介殿っ!!ゲヘヘッ!!⋯⋯忠臣で、すからね。⋯⋯いえ、⋯ ⋯⋯ ⋯」

カシムの目の前には口から泡を出して白眼で倒れているレオの姿がある。

そう、神殺しを口に含みが飲み込んだ瞬間レオは皆が見ている目の前で卒倒したのだった。そして何やらその口からは意味不明な言葉が流れ出てくる。きっといい夢を見ているのだろう。

「⋯⋯ ⋯⋯ ⋯⋯」

会場に沈黙が流れる。そんな中タマが腹を抱えて笑いながら救護班へと指示をだした。

「ふふっ!!あははっ!おかしいでありんす!ふふっふふふ。救護班やレオを任せたでありんすよっ!あはははっ!」

タマのその姿に魔族達は何とも言えない顔をするしかない。救護班に運ばれるレオを憐れみの目で見ながら見送る魔族達。そしてひとしきり笑い気が晴れたのかタマが進行を続け出す。

「⋯⋯神殺しの強さわかったでありんしょ?あれが普通の反応なんでありんす。フェリスと浩介殿の異常さわかりんしたかえ??」

タマのその時にまるで一つの生物かのように一斉に頷く魔族達。そんな様子を見て満足したのだろう。タマは今までのニヤついていた顔を引き締めて決勝戦第二ラウンドのアナウンスへ移るのだった。

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