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一巡目(二〇二二)
第105匙 個性的なスパイス炊き込みご飯、ピラオ:マンダラ(D19)
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十一月末の火曜日の夜、書き手が訪店したのは、神保町駅の〈A6〉出口から出てすぐ、すなわち、先日、訪れた「メナムのほとり 神保町本店」の道向かいの建物の地下一階に入っているインド料理店、「マンダラ」である。
実は、この「マンダラ」は、対〈岸〉にある「メナムのほとり」と同じ『西インド会社』に属している店なのだ。
無論、この『西インド会社』は、歴史上、ネーデルランド連邦共和国(オランダ)のアムステルダムに、一六二一年に設立された会社と同じ物ではない。
ちなみに、オランダの〈西インド会社〉は、一六〇二年に設立された〈東インド会社〉と、その会社の機構や運営は同じであったそうだ。つまり、こう言ってよければ、同じ会社の東方面部門、インドや東南アジアの貿易を扱う方が〈東インド会社〉で、これに対して、オランダからみて西方面、アメリカ大陸やアフリカとの交易を行うのが〈西インド会社〉だったのだ。
ちなみに、この場合の〈西インド〉とは、いわゆる〈西インド諸島〉だけではなく、オランダからみて〈西〉に位置する、南北アメリカを指し示す地域名で、これにアフリカさえも含まれていたのは、〈西インド会社〉では、〈東インド会社〉が管轄していた地域以外の全てをカヴァーしていたからであった。
さて話を、現在の神保町に戻そう。
この神保町の『西インド会社』の本社は、神保町の〈A6〉出口に直結している「岩波ビル」に入っており、この『西インド会社』が経営しているのは、インド料理店の「マンダラ」やタイ料理店の「メナムのほとり」だけではなく、「ムアン・タイ」「タマリンド」「ジンギスカン神保町マカン」「羊福」、そして、渋谷にあるテイクアウト専門店の「メナム」などである。
神保町の『西インド会社』は、アメリカやアフリカを対象にしていた〈西インド会社〉というオランダの会社と同名なので、この点から考えると、神保町の『西インド会社』もまた、インド・東南アジア以外の、例えば、アメリカやアフリカの料理店を経営しているかと思いきや、そのラインナップは、タイ、インド、中国といったように、〈東インド会社〉が取り扱っていた地域の方である。
それでは、何故に、「マンダラ」の親会社は、会社名に『西インド会社』という名を用いているのであろうか。
実は、答えは『西インド会社』のホームページの中にあり、その「社名の由来」にはこう書かれている。
「16世紀、イギリスが東インド会社を設立し、香料貿易を行い始めたことは、歴史の教科書にも出てくる有名な話だと思います。私達は、インドレストラン『マンダラ』からスタートしました。日本から西にあるインドの香辛料の魅力とその素晴らしい文化を広げていき、いつかは世界のマーケットビジネスをしようという信念と願いから、この社名をつけました」
なるほど、である。
再確認になるが、インドやオランダの〈東インド会社〉は、自国からみて東に位置しているインドと貿易を行うので、〈東〉インドという名であった。
つまり、日本からみて、中国もタイも、もちろん、インドも〈西〉に位置している。だから、その名の由来は、株式会社『西インド会社』で、歴史上実在した、オランダの〈西インド会社〉とは、ここにおいては全く無関係だった分けなのだ。
とまれ、一九九〇年設立の『西インド会社』は、老舗のインド料理店「マンダラ」から始まり、その「マンダラ」のホームページでは、「本場インドの料理人が作る、まろやかスパイシーな本格カレー」、これが店のキャッチコピーになっており、これによって、書き手の期待感は、訪店前から早くも昂まっていた。
地下鉄の出口を出て、「メナムのほとり神保町本店」の前を走っている、河の如き道路を渡り、そこにあった建物の地下へと続く階段に足を踏み入れると、階段の途中に、店名の由来になっている〈曼荼羅〉があって、その下り階段の先に位置しているのが「マンダラ」である。
店の扉を開けると、そこに漂うは高級料理店の如き雰囲気で、たしかに、店にドレスコードは無かったはずなのだが、とはいえども、この日、仕事上、スーツを偶々着ていた自分の選択を書き手は誉めたくなった。
献立表に並ぶ料理のラインナップも、実に多彩だったのだが、この日の書き手の目を特に惹きつけたのは、三種類の豆のカレーである「ダールマカニ」であった。
直感でカレーを決めた後、次に考えるべきは、主食を何にするかである。
そしてこの時、ライス・メニューの中で、書き手の目に止まったのが「ピラオ(PILLAO)」という品であった。
その献立表の説明によると、その「ピラオ」とは「カシミール風ライス」であるらしい。
「ピラオ」がどんなものか想像できなかったものの、これまた直感が、書き手にこの「ピラオ」を選択させた。
やがて、サーヴされた「カシミール風ライス」たる「ピラオ」とは、我々日本人にも馴染み深い単語に置き換えてよいのならば、まあ要するに、〈ピラフ〉である。
あとで調べてみたのだが、そもそも、フランス料理である〈ピラフ〉の語源は、トルコにおいて〈ピラウ〉と呼ばれている米料理であるらしい。そして、そのトルコの〈ピラウ〉は、『マハーバーラタ』の中で、「pulao」あるいは「pallao」として出てくる、インドの伝統的な米料理である〈プラ(ー)オ〉がその起源という説もあるそうで、つまるところ、インドの〈プラオ〉がトルコに入り、そのトルコの〈ピラオ〉がフランスの〈ピラフ〉となり、我々の知る所になっているようだ。
だがしかし、『マンダラ』のライスの名は、〈ピラフ〉でも〈プラオ〉でもなく、「ピラオ」という、マンダラ独特の料理名になっている。その理由は何なのか真相は藪の中で、もしかしたら、インドのとある地方では〈プラオ〉を「ピラオ」と発音しているのかもしれない。
料理名の由来に関しては、もっと調べてみる必要がありそうだが、とにもかくにも、目下の問題は、ピラオの味である。
一匙、口に運んだ途端、書き手は、自分の直感の正しさを確信した。
提供された黄色いライス、「ピラ〈オ〉」は、いわば、各種スパイスによる炊き込み御飯で、カレーと一緒に匙を口に運ぶ度に、口内で異なる香辛料の味が感じられ、つまり、これまで経験した事のないような刺激的な〈ピラフ〉だったのだ。
翌年、二〇二三年の四月末に、「マンダラ」を再訪した際、書き手は、カレーに関しては、一回目の時の豆カレーとは違って、海老と茄子のカレーを注文したのだが、この時も、迷うことなく「ピラオ」を注文した。
いつかまたマンダラを訪れる事があった時、書き手は、このオリジナリティ溢れるスパイス炊き込みご飯、〈ピラオ〉を、再び注文してしまうに違いない。
あっ、そうか。
マンダラのオリジナル〈プラオ〉だから、「〈ピ〉ラオ」という独特の名になっているんだ、と、この時、そう直観した書き手であった。
〈訪問データ〉
インドレストラン マンダラ;神保町・神保町
D19
十一月二十九日・火・十九時
ダールマカニ(一一〇〇);ピラオ(五〇〇):一六〇〇円(QR)
〈再訪データ〉
二〇二三年四月二十五日・火・十八時四十五分
プローンパティヤ(一三〇〇);ピラオ(五〇〇):一六〇〇円(クレカ)
〈参考資料〉
「インドレストラン マンダラ」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、二十九ページ。
〈WEB〉
「店名由来」、『西インド会社』、二〇二三年七月七日閲覧。
「西インド会社/オランダ西インド会社」、『世界史の窓』、二〇二三年七月七日閲覧。
実は、この「マンダラ」は、対〈岸〉にある「メナムのほとり」と同じ『西インド会社』に属している店なのだ。
無論、この『西インド会社』は、歴史上、ネーデルランド連邦共和国(オランダ)のアムステルダムに、一六二一年に設立された会社と同じ物ではない。
ちなみに、オランダの〈西インド会社〉は、一六〇二年に設立された〈東インド会社〉と、その会社の機構や運営は同じであったそうだ。つまり、こう言ってよければ、同じ会社の東方面部門、インドや東南アジアの貿易を扱う方が〈東インド会社〉で、これに対して、オランダからみて西方面、アメリカ大陸やアフリカとの交易を行うのが〈西インド会社〉だったのだ。
ちなみに、この場合の〈西インド〉とは、いわゆる〈西インド諸島〉だけではなく、オランダからみて〈西〉に位置する、南北アメリカを指し示す地域名で、これにアフリカさえも含まれていたのは、〈西インド会社〉では、〈東インド会社〉が管轄していた地域以外の全てをカヴァーしていたからであった。
さて話を、現在の神保町に戻そう。
この神保町の『西インド会社』の本社は、神保町の〈A6〉出口に直結している「岩波ビル」に入っており、この『西インド会社』が経営しているのは、インド料理店の「マンダラ」やタイ料理店の「メナムのほとり」だけではなく、「ムアン・タイ」「タマリンド」「ジンギスカン神保町マカン」「羊福」、そして、渋谷にあるテイクアウト専門店の「メナム」などである。
神保町の『西インド会社』は、アメリカやアフリカを対象にしていた〈西インド会社〉というオランダの会社と同名なので、この点から考えると、神保町の『西インド会社』もまた、インド・東南アジア以外の、例えば、アメリカやアフリカの料理店を経営しているかと思いきや、そのラインナップは、タイ、インド、中国といったように、〈東インド会社〉が取り扱っていた地域の方である。
それでは、何故に、「マンダラ」の親会社は、会社名に『西インド会社』という名を用いているのであろうか。
実は、答えは『西インド会社』のホームページの中にあり、その「社名の由来」にはこう書かれている。
「16世紀、イギリスが東インド会社を設立し、香料貿易を行い始めたことは、歴史の教科書にも出てくる有名な話だと思います。私達は、インドレストラン『マンダラ』からスタートしました。日本から西にあるインドの香辛料の魅力とその素晴らしい文化を広げていき、いつかは世界のマーケットビジネスをしようという信念と願いから、この社名をつけました」
なるほど、である。
再確認になるが、インドやオランダの〈東インド会社〉は、自国からみて東に位置しているインドと貿易を行うので、〈東〉インドという名であった。
つまり、日本からみて、中国もタイも、もちろん、インドも〈西〉に位置している。だから、その名の由来は、株式会社『西インド会社』で、歴史上実在した、オランダの〈西インド会社〉とは、ここにおいては全く無関係だった分けなのだ。
とまれ、一九九〇年設立の『西インド会社』は、老舗のインド料理店「マンダラ」から始まり、その「マンダラ」のホームページでは、「本場インドの料理人が作る、まろやかスパイシーな本格カレー」、これが店のキャッチコピーになっており、これによって、書き手の期待感は、訪店前から早くも昂まっていた。
地下鉄の出口を出て、「メナムのほとり神保町本店」の前を走っている、河の如き道路を渡り、そこにあった建物の地下へと続く階段に足を踏み入れると、階段の途中に、店名の由来になっている〈曼荼羅〉があって、その下り階段の先に位置しているのが「マンダラ」である。
店の扉を開けると、そこに漂うは高級料理店の如き雰囲気で、たしかに、店にドレスコードは無かったはずなのだが、とはいえども、この日、仕事上、スーツを偶々着ていた自分の選択を書き手は誉めたくなった。
献立表に並ぶ料理のラインナップも、実に多彩だったのだが、この日の書き手の目を特に惹きつけたのは、三種類の豆のカレーである「ダールマカニ」であった。
直感でカレーを決めた後、次に考えるべきは、主食を何にするかである。
そしてこの時、ライス・メニューの中で、書き手の目に止まったのが「ピラオ(PILLAO)」という品であった。
その献立表の説明によると、その「ピラオ」とは「カシミール風ライス」であるらしい。
「ピラオ」がどんなものか想像できなかったものの、これまた直感が、書き手にこの「ピラオ」を選択させた。
やがて、サーヴされた「カシミール風ライス」たる「ピラオ」とは、我々日本人にも馴染み深い単語に置き換えてよいのならば、まあ要するに、〈ピラフ〉である。
あとで調べてみたのだが、そもそも、フランス料理である〈ピラフ〉の語源は、トルコにおいて〈ピラウ〉と呼ばれている米料理であるらしい。そして、そのトルコの〈ピラウ〉は、『マハーバーラタ』の中で、「pulao」あるいは「pallao」として出てくる、インドの伝統的な米料理である〈プラ(ー)オ〉がその起源という説もあるそうで、つまるところ、インドの〈プラオ〉がトルコに入り、そのトルコの〈ピラオ〉がフランスの〈ピラフ〉となり、我々の知る所になっているようだ。
だがしかし、『マンダラ』のライスの名は、〈ピラフ〉でも〈プラオ〉でもなく、「ピラオ」という、マンダラ独特の料理名になっている。その理由は何なのか真相は藪の中で、もしかしたら、インドのとある地方では〈プラオ〉を「ピラオ」と発音しているのかもしれない。
料理名の由来に関しては、もっと調べてみる必要がありそうだが、とにもかくにも、目下の問題は、ピラオの味である。
一匙、口に運んだ途端、書き手は、自分の直感の正しさを確信した。
提供された黄色いライス、「ピラ〈オ〉」は、いわば、各種スパイスによる炊き込み御飯で、カレーと一緒に匙を口に運ぶ度に、口内で異なる香辛料の味が感じられ、つまり、これまで経験した事のないような刺激的な〈ピラフ〉だったのだ。
翌年、二〇二三年の四月末に、「マンダラ」を再訪した際、書き手は、カレーに関しては、一回目の時の豆カレーとは違って、海老と茄子のカレーを注文したのだが、この時も、迷うことなく「ピラオ」を注文した。
いつかまたマンダラを訪れる事があった時、書き手は、このオリジナリティ溢れるスパイス炊き込みご飯、〈ピラオ〉を、再び注文してしまうに違いない。
あっ、そうか。
マンダラのオリジナル〈プラオ〉だから、「〈ピ〉ラオ」という独特の名になっているんだ、と、この時、そう直観した書き手であった。
〈訪問データ〉
インドレストラン マンダラ;神保町・神保町
D19
十一月二十九日・火・十九時
ダールマカニ(一一〇〇);ピラオ(五〇〇):一六〇〇円(QR)
〈再訪データ〉
二〇二三年四月二十五日・火・十八時四十五分
プローンパティヤ(一三〇〇);ピラオ(五〇〇):一六〇〇円(クレカ)
〈参考資料〉
「インドレストラン マンダラ」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、二十九ページ。
〈WEB〉
「店名由来」、『西インド会社』、二〇二三年七月七日閲覧。
「西インド会社/オランダ西インド会社」、『世界史の窓』、二〇二三年七月七日閲覧。
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