カレイなる日々

隠井迅

文字の大きさ
138 / 209
一巡目(二〇二二)

第120匙 Aジアン・カレーの差異と特徴その4 南インド・ケララ州:三燈舎(C23)

しおりを挟む
 これまで、インドを、北インドと南インドに分けて言及した事もあったが、例えばそれは、日本を、東日本と西日本に分けただけのようなもので、実に大雑把な仕分け方だと言わざるを得ないであろう。
 
 インドは、十年前の二〇一三年まで、二十八の州、七つの連邦直轄領(UT)、一つの首都圏(NCT)から構成されており、行政区分的に言うと、インドにおける〈州〉の下には〈地方〉があり、その下には、県が存在している。そして、州が無い点を除くと、国が地方、地方が県によって構成されている点は、日本と類似している。ただし、インドには〈地方〉がない〈州〉もあるが、〈県〉は必ず存在するそうだ。

 さて、インドを東西南北に分けた場合、二〇二二年現在の〈南インド〉に属するのは、〈タミルナドゥ〉〈カルナタカ〉〈アーンドラ・プラデシュ〉〈テランガーナ〉〈ケララ〉という五つの州と、〈ポンディシェリ〉〈アンダマン・ニコバル諸島〉という二つの連邦直轄領である。

          *

 十二月の金曜日の夜、書き手は、神保町の「南インドの定食と軽食 三燈舎」を訪れた。
 この「三燈舎」の料理長の出身地は、南インドの〈ケララ州〉であるそうで、件のカレー・ガイドブックには、「南インドはケララの地方料理専門店」と書かれており、より厳密に言うと、「三燈舎」は〈南インド・ケララ〉の料理店だと言えよう。
 
 この店の名には「三燈舎」という漢字が当てられているのだが、その読みは「さんとうしゃ」である。
 店のホームページの「三燈舎について」によると、店名をラテン文字のスペルに置き換えると「SANTOSHAM」、これは、マラヤーラム語で「幸せ」という意味であるらしい。

 幸せを意味する「三燈舎」のホームページの「MENU」の項目によると、店のモットーは、ケララ州の料理を「現地のスタイル」、例えば、定食の〈ミールス〉、軽食の〈ティファン〉で提供する事だそうだ。
 そして、お米のクレープである、〈ドーサ〉も様々な種類が提供可能であるらしい。

 さて、南インド料理の代名詞でもある〈ミールス〉とは小さな器に盛られた、お米、カレー、副菜などが、大きなお皿の上に載せられている、そういったタイプの〈定食〉の事である。
 
 ミールスは、日本の定食にスタイルが似ているようにも思えるが、日本の場合、給食教育の影響で、三角食べのように順番に食べてゆくのが当たり前のように刷り込まれてしまっている。これに対して、南インドのミールスは、小さな器の中身を全て大きな皿の上に出し、それらを混ぜながら食べるのだ。そして、かくの如く混ぜる事によって、味のバランスが取れるようになっているのだそうだ。

 さらに言うと、本場のミールスでは、バナナの皮を大皿に使う場合もあるらしいのだが、日本の南インド料理店では、銀の大皿の上にバナナの皮が敷かれている店が多いようだ。

 どうせなら、この南インドならではの〈バナナの皮〉を使った料理を食したいと考え、書き手は、夜の八時半頃に店を訪れた。
 さて、常に階段で入店順を待たねばならない印象の「三燈舎」なのだが、ラスト・オーダーの三十分前に来店したという事もあってか、書き手は、すんなりと入店〈は〉できた。

 だがしかし、円滑な入店ができた反面、バナナの皮を使った「海老カレーバナナの葉包み」は既に品切れになってしまっていた。
 そこで、この日の書き手は、「ビーフカレー」を注文する事にしたのであった。

 いかにも南インドっぽい、バナナの皮を使った料理は、次の機会にこそ絶対に食したいものである。

〈訪問データ〉
 南インドの定食と軽食 三燈舎;神保町・小川町
 C23
 十二月九日・金・二十時半
 ビーフカレー:一七三〇円(現金)

〈参考資料〉
 「南インドの定食と軽食 三燈舎」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十三ページ。 
〈WEB〉
 「三燈舎について」「MENU」、『南インドの定食と軽食 三燈舎』、二〇二三年八月八日閲覧。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...