僕らのイヴェンター見聞録

隠井迅

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LV1.2 パンデミック下のヲタ活模様

第24イヴェ 二十一日の朝だョ!〈惑星集合〉

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 冬人は、オンデマンド講義の視聴動画を一本見終わった後で、息抜きがてら、パソコンのページ・ダウン機能を使いながら、SNSのタイム・ラインを流し読みしていた。
 その時、一つの呟きが目に留まったのである。
 それは、こんな内容であった。

 二〇二〇年七月四日土曜日に、五百年に一度の天体現象が起こるらしく、それが〈惑星直列〉だそうなのだ。
 惑星直列とは、太陽から見て、惑星が、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星といったように、一直線に並ぶ天体現象である。

 こんなツイートを偶々見かけた冬人は、この天体ショーの事を、少し興奮気味に秋人に語り聞かせたのであった。
  星空には、ヲタク心を掻き立てる〈マロン〉がある。
 そんな冬人に、秋人は、「明け方の空で惑星を全部見よう」と題された『国立天文台』のページを示した。

「今回の現象は、〈惑星直列〉ではなく、〈惑星勢揃い〉ってのが実情じゃないかな?
 惑星が一直線に並ぶのではなく、夏空に惑星が勢揃いするように見えるって話なんだよ。
 つまりさ、七月下旬の明け方の空に全ての惑星が出揃う分けで、まず、西南西の地平線近くに、木星が見え始め、それから、空を横切るように、土星、海王星、火星、天王星、金星が並んで、東北東の地平線に水星が見えるってサイトでは説明されていたぜ。
 そもそも、〈惑星直列〉だと、地球を含めて、惑星が一直線に並んでいる分けだから、逆に、空に見えるはずの惑星が見えなくなるか、あるいは、僅かにずれて重なって見えるんじゃないかな?
 てことは、空に全ての惑星が出揃う天体現象は〈惑星直列〉ではないって話。
 しかも、この現象が起こるのも、七月四日ではなく、七月下旬らしいし。
 さらに、別に五百年に一度でもないみたいだよ。
 なんで〈五百年に一度の惑星直列〉って誤情報が拡散したのかは謎だけれど、とまれ、こんな風に、空に全ての惑星が集合するのが珍しいのは確からしいけどな」

「今度の天体現象の呼び名が、〈惑星直列〉にせよ、〈惑星集合〉にせよ、そして、たとえ僕がにわかだとしても、ワクワクしている気持ちは本物だよ」
「今日の夜空に、惑星は勢揃いはしないけれど、この週末は、去年開催のアニソン・フェスの配信があるから、代わりに、それでも観れば、フユ」
「フェスって、アニソン・アーティスト勢揃いだし、なんか惑星勢揃いに似ているよね、シューニー」

「たしかに。
 話を戻すけれど、七月は特に、アニソン・ヲタクの関心が空に向きやすい時期だよな。『今夜星を見に行こう』ってね」
「そして、星座を指さしながらこう言うんだよね。『あれがデネヴ、アルタイル、ベガ。君が指差す〈夏の大三角〉ってね」
「それな。
 ところで、フユ、わし座のアルタイルと、こと座のベガって、東洋において、どの星に対応しているか分かってる?」
「あったり前だよ。
 『ハルヒ』にも出て来ていたしね。ベガが〈織姫〉、アルタイルが〈彦星〉だよね」
「おっ、基本はおさえているな。
 一年に一度、七月七日にしか逢うことが許されない彦星と織姫の七夕伝説を知らない人はいないけれど、星に関しては、知らない人もいるし、知っていても、どっちがどっちか分からない人って実際多いみたい」
「シューニー、地球からアルタイルまでが十六光年、ベガまでが二十五光年ってのもおさえているよ。ソースは『ハルヒ』だけど」
「ははは、フユはアニヲタの鑑だな」

〈参考資料〉
〈WEB〉
 「東京の星空・カレンダー・惑星(2020年7月)」;「明け方の空で惑星を全部見よう」、「ほしぞら情報」、『国立天文台』、二〇二三年四月四日閲覧。
〈楽曲〉
 supercell、「君の知らない物語」(『化物語』ED)、レーベル:Sony Records、二〇〇九年八月十二日リリース。
〈アニメ〉
 「第8話 笹の葉ラプソディ」、『涼宮ハルヒの憂鬱』(2009年版)、制作:京都アニメーション、二〇〇九年五月二十二日初回放映。
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