3 / 5
序章
0-3
しおりを挟む
やや釣り上がった目、深紅の髪は毛先に移るほど濃くなっている。間もなく7歳になるから幼い容姿なのは当たり前なのだが、間違いなく私が好きだったゲームのライバル役だな、と鏡を見つめながらぼんやり思った。リディシア=ハウルムトはゲームの世界では第二王子の婚約者だっけ。
他には宰相の息子、騎士団長の息子、王立図書館長の息子、第二王子の側近が攻略対象で隠しキャラが第一王子だった。
そしてあのゲームは幼少期の頃に各々が読んだ絵本がきっかけで攻略の分岐が決まっていたはず。さらに特殊だったのは、メインストーリーには全く影響しない絵本を集めるミニゲームがとんでもない量だったのだ。ただ絵本の表紙アイコンや絵本の挿絵スチルが手に入るだけだったからコンプしてる人はそんなにいなかったように思う。
「正直、絵本集めのやり込み要素がありすぎて、メインストーリー覚えてないのよねえ…」
まさかの乙女ゲーではなく、付属要素だったはずのパズルや謎解きゲームに拘ってしまい肝心のストーリーがあまり思い出せない。
主なストーリーは元平民だったヒロインが男爵家に養子入りして学園に入ってからゲームが進むが、ライバル役の私はどうだっただろうか。大筋は婚約破棄され国外追放だったけど、バッドエンドもあったはず。それは第二王子と結婚してその後、恐慌政治でヒロインの家が苦労するって話だったっけ。
どちらにしても、ストーリー通りに行かない方が良いのではないだろうか………私には政なんてわからないし。
脳内で色々とプレイしていた記憶を蘇らせていたところ、部屋の扉から軽いノック音が聞こえ、紅茶の準備を整えたターニャが戻ってきた。
「この後、朝食のお時間ですがお加減はいかがですか」
「………大丈夫よ。ご飯も食べられそうだわ」
「お目覚めになられた時は、悪化してしまったのかと心配いたしましたが………回復に向かいつつあり安心いたしました」
丁寧な手つきで注いでくれた紅茶を飲みながら、未だに心配の色を見せるターニャに苦笑で返すことしかできなかった。そういえば、お母様にも最近の行いについて謝罪しなければ。最近はアロンのことで手一杯だっただろうに、私が我儘を言ってさらに手を煩わせてしまっていたと思う。お父様は朝食の席にあまり見せないが、今日はいるのだろうか?
「本日は公爵様と奥様もご一緒になられるようですよ」
心を読まれたのかと思うくらい、タイミングよくターニャが捕捉した。
「お父様、お母様。おはようございます」
朝食の席に着く前に、両親に挨拶したところその場の空気が一瞬だけ止まった気がした。私は今まで挨拶もまともにしていたのか記憶を辿ってみると、そもそも呼び方がパパ、ママだった。失敗した。
「リディ………ああ、おはよう。体調が回復に向かっていると医師から聞いたが、本当に大丈夫なのかい?」
少し狼狽ながら返事をしてくれたお父様。やはり私の様子が違うことでいつも以上に心配してくれているみたいだ。隣でお母様がくすくすと笑みをこぼしている。
「リディ、ターニャから聞いたわ。誕生日はもう少し後だけど、また一つ大人になったのね。」
お母様はすでに私の朝の様子を知っていたようで、ターニャから聞いた私の変化を素直に喜んでいるようだった。
「は、はい。もうお姉ちゃんになったから………今までわがままばかり言ってごめんなさい………これからは態度を改めて頑張ります。」
何を頑張るのかは濁して、そう伝えた。何を頑張ればいいのかは今の私には正直まだいまいちピンとこないのだ。しかし、その言葉で両親だけではなく控えていた使用人達も私の変化を心から喜んでいるようだった。
そこからしばらく、朝食の時は流れていった。これまで公爵令嬢としての歩みは確かにあったようで、朝食をとる際の最低限のマナーは身に付いていたようだった。特に意識もせず静かにスープを啜り、ナイフとフォークを上手に扱えていることに今となっては不思議な気持ちになる。
「そういえば、今年の誕生日は何がいいかな?ドレスはもちろん用意するが、他は何がいい?」
お父様からそう聞かれ、私はナイフとフォークを持つ手が止まった。今まではドレスやぬいぐるみ、それに沢山の髪飾りを貰っていた。今となってはどれも魅力的に感じなくなってしまった。それよりもこの年齢だからこそ、今のうちに欲しいものがある。
「お父様、ドレスじゃなくていろんな絵本が欲しいです!」
「絵本?絵本か………わかった。リディの年齢にも合った絵本を渡そう」
「あら、ドレスは必須よ。次の誕生日会はたくさんの人を呼ぶのだから沢山おめかししなきゃ」
この世界では7歳でも絵本のプレゼントはまだ通用するだろうか、とドキドキしながら告げたが、どうやらまだお願いしてもいい年齢だったらしい。しかし、お母様の言葉が気になった。
「お母様、次の誕生日会はたくさん人が来るのですか?いつもはお爺様とお婆様、あとはソナリア叔母様の家族でしたけど………」
「そうね、今までは親族だけだったけど今年はアロンも生まれたから他の家門もたくさん来るわ。あと、皇帝陛下と皇后陛下の御子息様である第二王子殿下も来ると思うわよ。他にも同じ年頃の子らもたくさん来るからお友達になれるといいわね。」
お母様はリディとアロンのお披露目だから張り切らなきゃ、と奮起していたが、私はそれどころではない。
どうしよう、攻略対象達との接点はおそらく、いや絶対その誕生日会だわ!
他には宰相の息子、騎士団長の息子、王立図書館長の息子、第二王子の側近が攻略対象で隠しキャラが第一王子だった。
そしてあのゲームは幼少期の頃に各々が読んだ絵本がきっかけで攻略の分岐が決まっていたはず。さらに特殊だったのは、メインストーリーには全く影響しない絵本を集めるミニゲームがとんでもない量だったのだ。ただ絵本の表紙アイコンや絵本の挿絵スチルが手に入るだけだったからコンプしてる人はそんなにいなかったように思う。
「正直、絵本集めのやり込み要素がありすぎて、メインストーリー覚えてないのよねえ…」
まさかの乙女ゲーではなく、付属要素だったはずのパズルや謎解きゲームに拘ってしまい肝心のストーリーがあまり思い出せない。
主なストーリーは元平民だったヒロインが男爵家に養子入りして学園に入ってからゲームが進むが、ライバル役の私はどうだっただろうか。大筋は婚約破棄され国外追放だったけど、バッドエンドもあったはず。それは第二王子と結婚してその後、恐慌政治でヒロインの家が苦労するって話だったっけ。
どちらにしても、ストーリー通りに行かない方が良いのではないだろうか………私には政なんてわからないし。
脳内で色々とプレイしていた記憶を蘇らせていたところ、部屋の扉から軽いノック音が聞こえ、紅茶の準備を整えたターニャが戻ってきた。
「この後、朝食のお時間ですがお加減はいかがですか」
「………大丈夫よ。ご飯も食べられそうだわ」
「お目覚めになられた時は、悪化してしまったのかと心配いたしましたが………回復に向かいつつあり安心いたしました」
丁寧な手つきで注いでくれた紅茶を飲みながら、未だに心配の色を見せるターニャに苦笑で返すことしかできなかった。そういえば、お母様にも最近の行いについて謝罪しなければ。最近はアロンのことで手一杯だっただろうに、私が我儘を言ってさらに手を煩わせてしまっていたと思う。お父様は朝食の席にあまり見せないが、今日はいるのだろうか?
「本日は公爵様と奥様もご一緒になられるようですよ」
心を読まれたのかと思うくらい、タイミングよくターニャが捕捉した。
「お父様、お母様。おはようございます」
朝食の席に着く前に、両親に挨拶したところその場の空気が一瞬だけ止まった気がした。私は今まで挨拶もまともにしていたのか記憶を辿ってみると、そもそも呼び方がパパ、ママだった。失敗した。
「リディ………ああ、おはよう。体調が回復に向かっていると医師から聞いたが、本当に大丈夫なのかい?」
少し狼狽ながら返事をしてくれたお父様。やはり私の様子が違うことでいつも以上に心配してくれているみたいだ。隣でお母様がくすくすと笑みをこぼしている。
「リディ、ターニャから聞いたわ。誕生日はもう少し後だけど、また一つ大人になったのね。」
お母様はすでに私の朝の様子を知っていたようで、ターニャから聞いた私の変化を素直に喜んでいるようだった。
「は、はい。もうお姉ちゃんになったから………今までわがままばかり言ってごめんなさい………これからは態度を改めて頑張ります。」
何を頑張るのかは濁して、そう伝えた。何を頑張ればいいのかは今の私には正直まだいまいちピンとこないのだ。しかし、その言葉で両親だけではなく控えていた使用人達も私の変化を心から喜んでいるようだった。
そこからしばらく、朝食の時は流れていった。これまで公爵令嬢としての歩みは確かにあったようで、朝食をとる際の最低限のマナーは身に付いていたようだった。特に意識もせず静かにスープを啜り、ナイフとフォークを上手に扱えていることに今となっては不思議な気持ちになる。
「そういえば、今年の誕生日は何がいいかな?ドレスはもちろん用意するが、他は何がいい?」
お父様からそう聞かれ、私はナイフとフォークを持つ手が止まった。今まではドレスやぬいぐるみ、それに沢山の髪飾りを貰っていた。今となってはどれも魅力的に感じなくなってしまった。それよりもこの年齢だからこそ、今のうちに欲しいものがある。
「お父様、ドレスじゃなくていろんな絵本が欲しいです!」
「絵本?絵本か………わかった。リディの年齢にも合った絵本を渡そう」
「あら、ドレスは必須よ。次の誕生日会はたくさんの人を呼ぶのだから沢山おめかししなきゃ」
この世界では7歳でも絵本のプレゼントはまだ通用するだろうか、とドキドキしながら告げたが、どうやらまだお願いしてもいい年齢だったらしい。しかし、お母様の言葉が気になった。
「お母様、次の誕生日会はたくさん人が来るのですか?いつもはお爺様とお婆様、あとはソナリア叔母様の家族でしたけど………」
「そうね、今までは親族だけだったけど今年はアロンも生まれたから他の家門もたくさん来るわ。あと、皇帝陛下と皇后陛下の御子息様である第二王子殿下も来ると思うわよ。他にも同じ年頃の子らもたくさん来るからお友達になれるといいわね。」
お母様はリディとアロンのお披露目だから張り切らなきゃ、と奮起していたが、私はそれどころではない。
どうしよう、攻略対象達との接点はおそらく、いや絶対その誕生日会だわ!
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる