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記憶をたぐる④

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「莉乃ー!こっちこっち!」
可奈子が呼ぶ。
「オツカレー!」私はヒールの
かかとを鳴らしながら駆け寄った。
「あれ?もう一人来るんじゃないの?」
「それが、ミキちゃんていう子なんだけど、
ちょっと仕事が押しちゃって。私も少し残業したんだけど、ミキちゃんは、あがれそうもなくてさ。」
「じゃあ、2対3?」
「たぶんねー。」
話しながら待ち合わせの店まで歩いていた。

「ここかなー。」
「加奈子ちゃん!」 
男の呼ぶ声だ。
「高田さん!」
そこには、店の前に立つ男二人がいた。
「あれ?そっちも二人なの?」
「ごめん!一人都合が悪くなって。」
「こっちもなの。ちょうどよかった、のかな?」
まぁ、入って話そう、と、店の中へ
案内された。

雰囲気のいい居酒屋の個室。
簡単な自己紹介をしながら席についた。
可奈子の友人が高田、28歳。
もう一人が、西野、28歳。
二人とも同じ商社に勤めている。

「莉乃ちゃんは、何飲む?」
「西野さんおすすめありますかぁ?」
「えー。おれ?おれはね…」
どうやら、西野はお酒に詳しいようだ。
わたしは、お酒は、強くは無いが、
なんでも飲める。おすすめを、一緒に
注文してもらった。

それからは、仕事の内容の話し、
変わったお客さんの話、
商社で扱う変わった商品の話し。
最初は4人で差し支えのない話題で
笑った。お酒もすすんだ。
さすが、商社の営業マンだ。
話を盛り上げるのがうまい。

途中で、加奈子と化粧直しと言うことで
席を立った。
「加奈子さ、高田さんのこと最初から狙ってたでしょう」
加奈子は、バレてたか!と、苦笑いをした。
「そうなの。莉乃、応援頼む!西野さんもいい人じゃない?」
「まぁね、話は面白いよね。」
リップを塗り直しながら答えた。
「莉乃、協力してね~」
私は、はいはい。と答えながら席に戻った。

席に戻ると高田と西野は横並びに座っていたのが
向かい合わせに座っていた。
もちろん、高田の横には加奈子、
西野の横に私。

西野は結構お酒がすすんでいた。
目が少し充血していた。
そして、わたしの太ももを撫でながら
「莉乃ちゃんはかわいいね。今日は期待してなかったんだけど、こんなかわいい子で困ってるよ」
ほんと、口が上手い。
「そんなことないですよ、西野さんも素敵だし、モテるでしょう?」
なんて、上っ面の話を続けていた。

「莉乃ちゃん、おれ、加奈子ちゃんと2軒目いってもいいかな?」
高田が、話しかけている横で
可奈子が私に向けて手を合わせて、
ウィンクしていた。
「もちろんどうぞどうぞ。」

二人は足早に個室を出ていった。
「莉乃ー、また明日ね~」
可奈子は嬉しそうな笑顔で手を振っていた。

ブーッブーッ。
私の小さなバックの中で携帯が鳴った。
「いいよ、見て。」
「じゃあ、ちょっと。」
メールを開いた。矢島だった。
内容も見ずに携帯をおさめた。
「大丈夫?彼氏?」「まぁ。」
「え!莉乃ちゃん彼氏いるの?」
「まぁ。」
「そんなのだめだよ!おれ、莉乃ちゃんタイプ…」
と言いながらキスをしてきた。
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