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記憶をたぐる⑤

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私は、なぜこの男との
居酒屋の個室でキスをしているのだろう。
私は、なぜ、この男のキスに
応えてしまっているのだろう。

「はぁっ」
「莉乃ちゃんかわいい…」

そして、キス。を、
何度も繰り返しする。

「もう一軒、飲みに行こう、いい?」
店を出てから、バーに向かう道で、
西野は、私のノースリーブのワンピースの
上から腰やお尻を撫でていた。
爽やかな営業マンのスマイルで。
わたしは、バーと言いながら
てっきりホテルに連れて行かれるものだと
思っていたが、ほんとにバーについた。

そこでは、また仕事の話や
過去の恋愛の話を、した。

西野との会話は、今まで感じたことない
心地よさだった。
話しても話しても話足りない。
そして、西野は、私の目をじっと見て
話しをしてくれる。
聞いてくれる。
たまに、「かわいいね。」
と、言ってくれる。

矢野との話も楽しいが
西野とのそれは、違う。
年齢の違いのせいか?
それは、未だにわからない。
とにかく、西野は心地よさを与えてくれる。

「莉乃ちゃんは、彼氏いるんだよね?」
「まぁ。」
どう答えていいのか分からなかった。
「さっきも、なんかはっきりしないね。」
わたしは、うーん。と、困った表情を
して見せた。
「いいんだよ、彼氏がいても。おれは。
おれが、莉乃ちゃんのこと好きになっちゃったから。」
そんな甘い言葉も、目を逸らさずに西野は
ぶつけてくる。

西野が席を外したとき、
矢野からメールが来ていたことを思い出した。
「今日は会いに行けないけど、
ちゃんと、ご飯食べて寝るんだよ!
愛してるよ、莉乃。」

少しせつなくなった。
私は、何してるんだろう。
矢野は妻子もいるし、こだわる必要もない。
お互い様な関係だ。
ちょっと胸がキュっとなった。
なんて、私の身体は身勝手で
ころころと表情を変えるんだろう。

「莉乃ちゃん?大丈夫?飲み過ぎた?」
私は、きっと、涙で少し目が潤んでいたはずだ。

ダメだ。
そして、分かった。

わたしは、西野という男の
目に
とり憑かれそうになっていた。
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