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28話 いたずら

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「へえ、みんな結構コメント長く書いてるね。」
「すごいでしょ。この人なんか見て。何様って感じでしょ?」
「へえーすごいね。
ここまで敵意剥き出しで書いて、いいねくると思ってるのかなあ。笑」
「この人美人じゃん。どう?」
「えータイプじゃない。」
「じゃあこの人は?」
「まあまあね。」
「じゃあ押しといてあげるね。笑」

さちこはいいねを押した。

「ちょ、ちょっと!あんた何してるの?!
今勝手にいいね押したでしょ!?」
「うん。だってまあまあいいって言ってたから。笑」
「いいとは言ってない!どうすんのよ。いいね返ってきたら。」
「そしたらメッセージやりとりすればいいじゃん。笑」
「信じらんない。勝手に押すなんて。」
「じゃあこの人は?」
「ダメ。絶対やめて。」
「この人絶対誰からもいいねもらったことないよ。
押してあげなよ。人助けと思ってさ。」
「嫌だ。」
「優しくないね。」
「そういう問題じゃないでしょ。」
「つまんねえの。じゃあこの人は?」
「だからなんでそんなんばっか選ぶの?わざとでしょ?」
「そんなことないよ。
いいねこなさそうな人だとすぐメッセージきそうだし。笑」
「ちょっとトイレ行ってくるから。勝手に押さないでよ。わかった?」
「うん。」
「絶対だよ。」
「うん。」

(今の完全にフリだよね。笑)

彼がトイレに行っている間、さちこはいたずら心に火がついて
個性的な風貌の女性を片っ端から彼に代わっていいねを押しまくった。

トイレから帰ってきた彼に何食わぬ顔でスマホを返した。

「何も押してない?」
「うん。」

料理を食べ終わりしばらく話していると、
どうやらすぐに彼の元に次から次へといいね返しがきた。

「ちょっと~。」
「ん?どうしたの?」
「あんた殺すから!」
「なんで?」
「押したでしょ?トイレ行ってる間に。きたじゃん。」
「よかったね。」
「よかったじゃないよ。もう知らない。」
「ちゃんとメッセージ送ってあげなよ。待ってるよ。」
「最悪~。あ!またきた!こんなんにも押したの?」
「え?どれ?」
「ほら。」
「あー押したかなあ?覚えてない。笑」
「信じらんない!もうアプリ消す。」
「中にはちゃんとした人もいるかもしれないよ。
綺麗な人も押しといてあげたから。」

酒も呑んでいたせいか小学生並みのいたずらに久々によく笑った。

そろそろ入場予約時刻に近づいたので店を出て美術館に向かった。


美術館に行くのは「顔がタイプの男」と以来であった。

公園をテクテクと散歩するまさに手を繋ぎたくなるシチュエーションでも
彼とは一切そう感じなかった。

美術館に着いて、ロッカーに鞄を預けて、しばらく入り口の列に並ばされた。

列に並んでいるのはほぼ男女のペアで、一目見れば
夫婦か婚外恋愛カップルか独身カップルかおおよその検討はついた。
我々のような恋人でもない夫婦でもないただの友達同士が来るような
ところでない感じはした。

ようやく入場が許可されて順路に沿って進んだ。
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