マッチングアプリの男〜えなりかずきみたいな喋り方の男

椋のひかり~むくのひかり~

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29話 ゴッホよりもゴッホを鑑賞するさちこを鑑賞する男

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ゴッホの絵画はメインであるから一番奥で、
そこまではゴッホと同年代の画家や
ゴッホに影響を与えた画家の絵画がたくさん展示されていた。

入場規制をしているものの観覧者は結構多くて、
はぐれないように手を繋いでいる方が合理的なシチュエーションだった。

しかし彼はあれ以来、さちこの手を繋いでこようとはしないし、
さちこからも繋ごうとしない。

さちこは時折気になる絵画の前で立ち止って夢中で観覧していた。
次の絵画に移動しようとふと見渡すと彼が見当たらない。
更に遠くまでキョロキョロ見渡して探していると
彼は柱や壁の側に立ち、さちこが見終わるのを都度見守っている様子であった。

決して不機嫌な様子ではないが、あまり絵画に興味がなさそうであった。
なんだか不憫に思えてさちこは彼の元へ駆け寄り、話しかけた。

「あんまり絵画好きじゃないの?」
「俺さ、こういう宗教画はあんまり好きじゃない。風景画とかが好き。」
「そうなの?幼児体型好きって言ってたから、
こういうの見てムラムラするのかと思ったわ。笑」
「幼児体型は好きだけど赤ちゃんの絵を見てムラムラはしないよ。
幼児体型の大人の女性が好きなだけ。」
「あ、そっか、本物の幼児は興味ないんだね。笑」
「そりゃそうでしょ。犯罪でしょ。」
「そっか。笑」

小声で不謹慎な会話をしながら奥へと進んだ。

「あ、ここは風景画ばっかりじゃない?良かったね。私も好き。」
「俺、雲の絵を見るのが好きなの。」
「ふーん。私は木とか森の絵が好き。」

それぞれに立ち止まりながら、しかし今度ははぐれないように
時折お互いの感想を述べながら順路を進んだ。

いよいよメインのゴッホのひまわりの展示室に入った。

彼はゴッホの絵を観たことがあるからか、一瞬で絵の前から離れた。

さちこは念願の実物をこんなに間近で観れることに感謝しながら
正面から斜め前からいろんな角度から食い入るように絵画を観察していた。
そんなさちこの様子を彼は遠巻きに観察していた。

彼は絵画ではなく、絵画を観ているさちこを観ていることは
ゴッホの絵に集中しているさちこにもよく伝わってきた。

さちこは念願のゴッホのひまわりを間近で観れたことに感動したまま
美術館をあとにした。

「ゴッホってやっぱ絵上手いね。笑」
「そりゃそうでしょ。笑」
「ひまわりの絵ってさ、よく見ると全部枯れてるんだね。知らなかった。」
「そうだった?」
「うん、今日見たやつは1輪以外全部枯れかけてたよ。
そーいうところを描くセンスがすごいなって思ったわ。」
「ふーん。」

顔がタイプの男と美術館デートした時は、
あの独特な静けさの空間にいるだけでムラムラしたものだが、
こんなにまで絵画鑑賞に専念できるのはゴッホの力か、えなり君の力か、
どうなんだろうな、と思いながら帰路につくさちこであった。
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