手マンの後に手を洗う男 再び

１話 久々の連絡

バレンタインの日、1ヶ月ぶりに彼からラインがきた。
どうやらさちこは
彼のアイコンをブロック削除したつもりが
非表示にしていただけのようだった。

「元気？
学級閉鎖とかで大変でやっと落ち着いてきた。」

（。。。。。どうせ「元気だよ。」とか
気の利いた返信をしても
既読スルーだろうしな。）

さちこはわざわざ返信することがめんどくさくて
未読スルーしていた。

すると翌日の昼に珍しく彼から追ラインがきた。

「おーい。」

（おーいってなんやねん！）

なんか彼に偉そうに言われている気がして
さちこはそのまま未読スルーにした。

2時間後、更に彼からラインがきた。

「嫌われた？」

返信するよりも返信しない方がめんどくさいので
1時間後に既読にして返信した。

「そんなことないけど
いつも返信しても既読スルーされてるから
返信しなくてもいいかなと思っただけ。」

「ごめん。ライン苦手で。」

（ラインの問題じゃなくて
コミュニケーション能力の欠如だろうが。）

彼からは珍しくすぐに返信がきたが
その言い訳にさちこは返信する気にならず、
また既読スルーした。

3時間後、彼は仕事を終えたのか、
家族と夕飯を食べ終わったのか、
またラインしてきた。

「あきれられたってこと？」

さちこは小一時間、どう返信するか考えた。

「そうじゃないけど今それどころじゃなくて。」
「何かあったの？」
「あまり元気がないので。」

やっと彼からのラインがこなくなったので
なぜか安心していた。

（このままフェイドアウトできれば
それでいいや。）

そんな風に考えて眠りについた。

すると翌朝、また彼からラインがきた。

「大丈夫？
仕事とか家事とか休めてる？」
「うん。ありがとう。」

こんなに続けて
彼からラインが来ることはなかったし、
予想外の彼の気遣いの言葉に驚いた。

三日後の晩、またラインがきた。

「ちょっと状況がよくわからないんだけど
無理しないでね。
近場でお茶だけでもいいし、無理なら
保険外交員のコスプレして家まで
お見舞いに行くから。」
「ありがとう。
保険外交員のコスプレできるんだね。笑」
「その時は保険外交員っぽいカバン買う。」
「鞄が違うんだね。笑
お見舞いはいいよ。
気持ちだけありがたく受け取りました。
ありがとう。」
「普段はリュックサックだから
保険の営業っぽくないでしょ。笑
家にお見舞いは冗談だけど、
ほんとにさちと話したいし、心配しています。」
「確かにそうだね～笑
心配してくれてありがとう。
じゃあまた近所に来ることがあったら
ランチかお茶でもしよう。」

彼はさちこの自分に対する気持ちがまだあると
判断したのか、そこから返信は来なくなった。

（やっとまともなラインのやりとりができるかと
思ったから返信してやったのになんやねん。
＜うん。＞とか＜またね。＞とか
２、３文字も打てんのかい！）

さちこは優しく返信したことに少し後悔した。