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第2章
午前10時55分 (内閣情報調査室)
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内閣情報官の北中めぐみのデスクの電話に 国立天文台の本堂俊彦から連絡が入ったのは午前11時前の事だった。
内閣官房の中にある内閣情報調査室は、「内調」、あるいは「CIROサイロ」とも呼ばれ、内閣の重要政策に関する情報の収集や分析、その他の調査に関する事務を掌理する機関で、内閣情報官は その内閣情報調査室に所属する国家公務員であり、政府全体の情報機能の強化業務などを扱い、国民の意見や政治情報の収集分析や金融状況の方向性の推察、国内外の新聞・放送・雑誌などのメディアの分析を行ったり、あるいは、国外の政策に対しての情報収集や分析を加え、日本の情報機関の代表として各国の情報機関との情報交換や防衛省などの情報本部から入るシギント(電波傍受)や監視衛星などの情報も扱う 「日本のCIA」ともいわれる情報収集における日本の中心的組織と言える場所だった。
内調の職員は、一般採用の国家公務員と各省庁(警察庁警備局、公安調査庁、防衛省情報本部、外務省国際情報統括官組織)といった我が国のインテリジェンス・コミュニティー等の組織からの出向者で構成され、国家で緊急事態が発生した場合には内閣総理大臣と連絡を取り その事態に対応する為に初動対応体制が整えられる内閣危機管理センターを統括する役割もあった。 内閣危機管理官と内閣官房副長官の指揮の下で内閣情報集約センターを組織して日本の危機管理の中枢となる場所でもある。
内閣情報集約センターは1995年の阪神大震災の時、首相官邸の情報収集体制が機能しなかった反省から改めて組織が再編成され、防衛省、警察庁、消防庁、海上保安庁などから出向した職員20名ほどで構成して日本と言う国家の安全を守るための最も重要な機関としてその責任と指揮権を与えられた組織でもあった。
2011年3月11日の東日本大震災の時には 想定外と言われた原子力発電所の暴走という事態の中で 内調もその課せられた使命の中で大きな役割を課されたが、緊急事態の中で本当に機能したのかはマスコミの中でも大きな議論となったことは記憶に新しかった。
北中めぐみは 9年ほど前に国家公務員上級試験といういわゆるキャリヤ採用で内閣府に入った才媛で、内閣情報調査室の中にあっては内閣情報集約センターの連絡調整役の要ともいえる役割をこなしていた。
「はじめまして、国立天文台で主任研究員をしております。本堂俊彦と申します。」
「国家の緊急事態と思われます事態が発生しましたので、防災上の連絡をさせていただきたいのですが、こちらでよろしいでしょうか。」
電話を受けた北中にとって 防災上の緊急事態という言葉に戸惑いながらも、国立天文台からの連絡という事に、すぐに実感がわくものでは無かった。
「実は 太陽の観測の中で厄介な事象が先ほど発生しまして、国立天文台長の渡辺浩之の方からすぐに政府の関係部署に連絡をしろとの指示を受けましたのでお電話しました。」
地方出身でお茶の水女子大学を卒業した北中は 周囲から身長が170cmを超えるモデルかと思えるほどのスタイルと、その凛とした容姿から、内調の中ではハリウッドスターのアンジェリーナ・ジョリーに似ていると影で噂され、アンジーという愛称をまねて「メグジー」と呼ばれるアイドル的な存在だった。北中自身は30歳を超えた頃からアイドル扱いを受ける周囲の目はちょっとセクハラではないかと感じることもあったのだが、いつものそうした周囲の対応をさらりとかわして切り抜けるスマートさも持っていて 首相の大泉もお気に入りの情報官の一人だった。どんな事態でも適格に冷静な判断が出来て、その経験的な判断力から多くの対応の立案が可能な人材として強い信頼と指導力を発揮することも少なくなかった。 年齢が20歳以上も上のノンキャリヤの係長職のおじ様たちも いつの間にか味方にしてしまうような魅力も持ち合わせていた。 そんな「メグジー」こと北中だったが、突如伝えられた『天文台』や『宇宙』と言う言葉は全く専門外の事で、どのような対応を取ってよい物かわからない要件だった。
電話口の本堂から耳にした「宇宙」からもたらされた災害といえば、数年前にロシアで発生した 小惑星の大きな流星が空を横切って、その衝撃でビルの窓が破壊されたといったニュースの記憶が頭をよぎった。 大好きな映画のストーリーでは、宇宙から襲来する隕石の衝突が大災害をもたらすといったSF映画の内容は覚えているが、宇宙からの災害と突然言われてもピンとくるものはなかった。
国立天文台の本堂と名乗る男の話では、太陽に関する重大な事象が発生したらしいとのことだが、話の展開に対して その後聞くこととなる状況については全く想像する事さえできなかった。
「初めまして 内閣情報室の北中めぐみと申します。」
「太陽で起きた重大な事象と言うのは どのようなことが起きたのでしょうか?」
北中はいつもの電話対応のように努めて冷静に、そして事務的に電話に応対した。
「本日 今から35分ほど前の 日本時間の午前10時20分ごろ、太陽表面で大規模な太陽フレアの発生を観測することとなりました。 太陽フレアというのは 太陽表面にある黒点周辺の電磁波の増加による大規模な爆発現象の事で、日本の太陽観測衛星「ひので」をはじめ世界各国の太陽観測衛星や観測機関、天文台がその現象を確認しました。」
「爆発現象の発生時間は正確には太陽の表面では 10時12分ごろで、地球で確認できたのが発生から8分ほど経った 10時20分ごろというものなのですが、太陽から地球まではその現象が伝わってくるのに光の速さでも8分ほどかかりますので、地球上でこのフレアの発生を確認したのが10時20分と言う事です。」
本堂は電話口の北中に まずその太陽で発生した現象名を伝えた。
「太陽の・・ 太陽フレアですか?」
「黒点の爆発的現象が発生したと言われましても、今一つ理解ができないのですが・・・」
北中には本堂が話したその説明の内容に理解が及ばずに戸惑いだけがよぎったのだった、その返事はピントはずれの質問を返しそうな気がして 口から出そうな言葉を抑えるのが精いっぱいだった。本堂との電話の会話をスピーカー受話に切り替えて、北中は電話の横にあったパソコンを開きインターネットに接続して、検索ページで【太陽フレア】という語句を急いで検索してみた。
「太陽フレアと言ってもすぐには理解できないと思いますが。3年ほど前の2017年の9月に、大きな太陽フレアが発生し携帯電話の通信が乱れたり、GPS衛星の乱れでカーナビゲーションが狂ったというニュースを聞いたことがありますでしょうか?」
「覚えて見えますか?」
北中は、3年前の9月のニュースと言う言葉を聞いて、うろ覚えであったが、そのような話題がニュースで報じられたことを思い出した。
「3年前の時には幸いにも大きな被害は発生しなかったので、大きなニュースになることもなく、ちょっとした話題程度で 皆さんも忘れられていることとは思いますが、太陽フレアとは、太陽の表面にある黒点から強力な磁力線が発せられるもので、現象そのものは日常的に起きている太陽活動なのですが、今回のフレア現象は我々が今までに観測したものとはちょっと規模が違っていまして、これまでに経験したことがない最大級の強さの巨大なフレア現象が発生して、これまで人類が経験したことのない災害がもたらされるかもしれないとの懸念から至急連絡を入れさせていただきました。」
本堂は務めて冷静に要点を伝えた。
「太陽で爆発的な現象が発生したと言う事は、ものすごく熱い熱波が地球に襲来する可能性があると言う事でしょうか?」
北中はインターネットに書かれた語彙の説明と本堂からの話の内容を整理しながら、太陽フレアというこれまであまり聞いたこともない言葉に切実感を感じることができず、「太陽」という言葉から率直に感じた質問を返した。
「いえ、地球は大気や地球自身がもっている地場に守られていますので、地表面で気温が急上昇したり、特別な気象の変化はすぐには考えないで良いと思います。長いスパンでいえば多少の気象的変化はあるかもしれませんが、それはまだ後の事だと思います。直接的な気象現象としては 今夜、東京でもオーロラが見えるかもしれませんが・・・」
本堂はまず 電話口の北中を落ち着かせるような説明をした。
「えっ 東京でオーロラが見えるのですか?」
北中は上ずった驚きの言葉を発した。
「はい、過去の歴史の中では東京や京都でも オーロラが見えたという記録が残されています。あくまで可能性の一つですので、実際にオーロラを見る事ができるかどうかはわかりませんが、ひょっとしたらということで・・・」
「太陽フレアの発生は『太陽嵐』とも呼ばれる現象を引き起こすことが多いのですが、この宇宙空間で太陽からの大きなエネルギーが吹き付けられる太陽嵐あるいは磁気嵐と呼ばれる現象の発生は、オーロラの発生という見てきれいな物ばかりではなく、多くの非常事態を引き起こす可能性があります。大規模な宇宙からの放射線の襲来をはじめ、電波障害を引き起こしたりします。」
「そして、もっとも懸念される非常事態は大停電を引き起こす可能性です。」
電話で本堂との会話をしながら 北中はインターネット検索での『太陽フレア』という語句を読み返しながらその話しの内容を自分なりに理解しようと努めていた。そこで簡易に説明されている語句では この太陽嵐によって、かっては大規模な停電が発生した事例や、アメリカのNASAが先のオバマ大統領在任時の2016年に『大規模な太陽嵐の発生は 現代文明が一夜にして中世の電気の無い世界に引き戻されてしまう可能性への警告。』との称されたメッセージが出されていたことがあることを知って背筋に寒さを感じる事となったのだった。 北中は本堂からの説明を聞きながらインターネットの検索情報を目で追っていく中で 今回の事態の非常性が次第に見えて来るのが分かった。
「本堂さん、今、インターネットで『太陽フレア』のことを検索しながらお話をお聞きしていたのですが、政府としてはどのような対応を取らせていただければよいのでしょうか。 まだ、私自身も いったい何が起こるのかが、充分に理解しかねる点も多いのですが、今回の事態が引き起こしうる災害発生の形としてはどのようなことが考えられるでしょうか?」
北中にとって この太陽フレアが起きたことでどんな災害が引き起こされるのかは まだ充分な想像ができない状況ではあったが、太陽からもたらされた状況がこれまで人類が経験したことのない、地震や風水害とは全く異なった 新しい災害となり得て、人類に降り注いでくることだけは理解した。
「今、天文台長の渡辺がアメリカのNASAと連絡を取りあい現状の把握に努めていますので、およそ10分後をめどに改めて詳細な状況報告と、今後予想される事態の説明を総理に直接お話したいと申しております。緊急事態だと思われますので 大泉総理に説明の為のコンタクトを取っていただけないでしょうか。太陽フレアの発生による太陽嵐の襲来は、日本、いや世界の人類にとって未曽有の事態がもたらされる可能性があります。」
本堂の声は 電話を通じても緊張の色が濃くなっていくことがわかった。
「判りました。至急 総理に連絡が取れるように手配いたします。こちらから連絡を入れますので、電話番号をお教えいただけますか?」
「10分後の 11時15分頃でよろしいでしょうか?」
北中は本堂との電話を切ると、興奮を抑えながらも「太陽フレア」について改めて検索したインターネットの情報をプリントアウトして内閣首席補佐官の中村 徹の部屋へと連絡に走った。
「中村首席 至急報告したい重大事案が発生しました。」
北中は内閣官房室に飛び込むと 中村を捕まえ、本堂から聞いた太陽フレアの発生事案をできる限り簡単に説明して、プリントアウトしてきたインターネットの情報資料を手渡した。
「太陽フレア? 太陽嵐? なんだそれは?」
北中からの報告を受けた中村は 素っ頓狂な声を上げて北中に質問を返した。
東京大学法学部を首席で卒業した中村にとってもその言葉は専門外の言葉で、その状況が何を意味しているのかすぐには理解できなかった。それでも北中から伝えられた説明と共に 用意されたインターネットでの語句の解説を読んで、この事態が日本にとっての非常時であることだけは判った気がしてきた。
中村は 大泉総理にアポイントを取ることもなくインターホンを通じて秘書官に一報を入れると大至急として北中を同行させて内閣総理大臣室に向かった。 大泉総理に対して北中から得た情報を元にして太陽フレアの発生事象についてのポイントの説明をし、手元に持ったインターネットの語句検索の資料を大泉首相に手渡すと、続きの説明を最初に連絡を受けた北中に託した。そして本堂と約束した11時10分まで 3分程度の時間があったため 手に持ったタブレット末端から改めて「太陽フレア」という言葉語句を検索して説明語句を読み返した。
インターネットによる語句の説明では
【太陽で発生している爆発現象のことである。別称は太陽面爆発】と説明され 過去に何度かの大きな爆発の観測事例があり、1859年の「キャリントン・イベント」と呼ばれた事例や 1989年にカナダで発生した「ケベック嵐」と呼ばれた事例、そして2012年の7月に巨大な太陽フレアが地球をかすめたことや、間近では 2017年の9月期に比較的大きな太陽フレアが地球を襲ったことなどが記載されていた。
内閣官房の中にある内閣情報調査室は、「内調」、あるいは「CIROサイロ」とも呼ばれ、内閣の重要政策に関する情報の収集や分析、その他の調査に関する事務を掌理する機関で、内閣情報官は その内閣情報調査室に所属する国家公務員であり、政府全体の情報機能の強化業務などを扱い、国民の意見や政治情報の収集分析や金融状況の方向性の推察、国内外の新聞・放送・雑誌などのメディアの分析を行ったり、あるいは、国外の政策に対しての情報収集や分析を加え、日本の情報機関の代表として各国の情報機関との情報交換や防衛省などの情報本部から入るシギント(電波傍受)や監視衛星などの情報も扱う 「日本のCIA」ともいわれる情報収集における日本の中心的組織と言える場所だった。
内調の職員は、一般採用の国家公務員と各省庁(警察庁警備局、公安調査庁、防衛省情報本部、外務省国際情報統括官組織)といった我が国のインテリジェンス・コミュニティー等の組織からの出向者で構成され、国家で緊急事態が発生した場合には内閣総理大臣と連絡を取り その事態に対応する為に初動対応体制が整えられる内閣危機管理センターを統括する役割もあった。 内閣危機管理官と内閣官房副長官の指揮の下で内閣情報集約センターを組織して日本の危機管理の中枢となる場所でもある。
内閣情報集約センターは1995年の阪神大震災の時、首相官邸の情報収集体制が機能しなかった反省から改めて組織が再編成され、防衛省、警察庁、消防庁、海上保安庁などから出向した職員20名ほどで構成して日本と言う国家の安全を守るための最も重要な機関としてその責任と指揮権を与えられた組織でもあった。
2011年3月11日の東日本大震災の時には 想定外と言われた原子力発電所の暴走という事態の中で 内調もその課せられた使命の中で大きな役割を課されたが、緊急事態の中で本当に機能したのかはマスコミの中でも大きな議論となったことは記憶に新しかった。
北中めぐみは 9年ほど前に国家公務員上級試験といういわゆるキャリヤ採用で内閣府に入った才媛で、内閣情報調査室の中にあっては内閣情報集約センターの連絡調整役の要ともいえる役割をこなしていた。
「はじめまして、国立天文台で主任研究員をしております。本堂俊彦と申します。」
「国家の緊急事態と思われます事態が発生しましたので、防災上の連絡をさせていただきたいのですが、こちらでよろしいでしょうか。」
電話を受けた北中にとって 防災上の緊急事態という言葉に戸惑いながらも、国立天文台からの連絡という事に、すぐに実感がわくものでは無かった。
「実は 太陽の観測の中で厄介な事象が先ほど発生しまして、国立天文台長の渡辺浩之の方からすぐに政府の関係部署に連絡をしろとの指示を受けましたのでお電話しました。」
地方出身でお茶の水女子大学を卒業した北中は 周囲から身長が170cmを超えるモデルかと思えるほどのスタイルと、その凛とした容姿から、内調の中ではハリウッドスターのアンジェリーナ・ジョリーに似ていると影で噂され、アンジーという愛称をまねて「メグジー」と呼ばれるアイドル的な存在だった。北中自身は30歳を超えた頃からアイドル扱いを受ける周囲の目はちょっとセクハラではないかと感じることもあったのだが、いつものそうした周囲の対応をさらりとかわして切り抜けるスマートさも持っていて 首相の大泉もお気に入りの情報官の一人だった。どんな事態でも適格に冷静な判断が出来て、その経験的な判断力から多くの対応の立案が可能な人材として強い信頼と指導力を発揮することも少なくなかった。 年齢が20歳以上も上のノンキャリヤの係長職のおじ様たちも いつの間にか味方にしてしまうような魅力も持ち合わせていた。 そんな「メグジー」こと北中だったが、突如伝えられた『天文台』や『宇宙』と言う言葉は全く専門外の事で、どのような対応を取ってよい物かわからない要件だった。
電話口の本堂から耳にした「宇宙」からもたらされた災害といえば、数年前にロシアで発生した 小惑星の大きな流星が空を横切って、その衝撃でビルの窓が破壊されたといったニュースの記憶が頭をよぎった。 大好きな映画のストーリーでは、宇宙から襲来する隕石の衝突が大災害をもたらすといったSF映画の内容は覚えているが、宇宙からの災害と突然言われてもピンとくるものはなかった。
国立天文台の本堂と名乗る男の話では、太陽に関する重大な事象が発生したらしいとのことだが、話の展開に対して その後聞くこととなる状況については全く想像する事さえできなかった。
「初めまして 内閣情報室の北中めぐみと申します。」
「太陽で起きた重大な事象と言うのは どのようなことが起きたのでしょうか?」
北中はいつもの電話対応のように努めて冷静に、そして事務的に電話に応対した。
「本日 今から35分ほど前の 日本時間の午前10時20分ごろ、太陽表面で大規模な太陽フレアの発生を観測することとなりました。 太陽フレアというのは 太陽表面にある黒点周辺の電磁波の増加による大規模な爆発現象の事で、日本の太陽観測衛星「ひので」をはじめ世界各国の太陽観測衛星や観測機関、天文台がその現象を確認しました。」
「爆発現象の発生時間は正確には太陽の表面では 10時12分ごろで、地球で確認できたのが発生から8分ほど経った 10時20分ごろというものなのですが、太陽から地球まではその現象が伝わってくるのに光の速さでも8分ほどかかりますので、地球上でこのフレアの発生を確認したのが10時20分と言う事です。」
本堂は電話口の北中に まずその太陽で発生した現象名を伝えた。
「太陽の・・ 太陽フレアですか?」
「黒点の爆発的現象が発生したと言われましても、今一つ理解ができないのですが・・・」
北中には本堂が話したその説明の内容に理解が及ばずに戸惑いだけがよぎったのだった、その返事はピントはずれの質問を返しそうな気がして 口から出そうな言葉を抑えるのが精いっぱいだった。本堂との電話の会話をスピーカー受話に切り替えて、北中は電話の横にあったパソコンを開きインターネットに接続して、検索ページで【太陽フレア】という語句を急いで検索してみた。
「太陽フレアと言ってもすぐには理解できないと思いますが。3年ほど前の2017年の9月に、大きな太陽フレアが発生し携帯電話の通信が乱れたり、GPS衛星の乱れでカーナビゲーションが狂ったというニュースを聞いたことがありますでしょうか?」
「覚えて見えますか?」
北中は、3年前の9月のニュースと言う言葉を聞いて、うろ覚えであったが、そのような話題がニュースで報じられたことを思い出した。
「3年前の時には幸いにも大きな被害は発生しなかったので、大きなニュースになることもなく、ちょっとした話題程度で 皆さんも忘れられていることとは思いますが、太陽フレアとは、太陽の表面にある黒点から強力な磁力線が発せられるもので、現象そのものは日常的に起きている太陽活動なのですが、今回のフレア現象は我々が今までに観測したものとはちょっと規模が違っていまして、これまでに経験したことがない最大級の強さの巨大なフレア現象が発生して、これまで人類が経験したことのない災害がもたらされるかもしれないとの懸念から至急連絡を入れさせていただきました。」
本堂は務めて冷静に要点を伝えた。
「太陽で爆発的な現象が発生したと言う事は、ものすごく熱い熱波が地球に襲来する可能性があると言う事でしょうか?」
北中はインターネットに書かれた語彙の説明と本堂からの話の内容を整理しながら、太陽フレアというこれまであまり聞いたこともない言葉に切実感を感じることができず、「太陽」という言葉から率直に感じた質問を返した。
「いえ、地球は大気や地球自身がもっている地場に守られていますので、地表面で気温が急上昇したり、特別な気象の変化はすぐには考えないで良いと思います。長いスパンでいえば多少の気象的変化はあるかもしれませんが、それはまだ後の事だと思います。直接的な気象現象としては 今夜、東京でもオーロラが見えるかもしれませんが・・・」
本堂はまず 電話口の北中を落ち着かせるような説明をした。
「えっ 東京でオーロラが見えるのですか?」
北中は上ずった驚きの言葉を発した。
「はい、過去の歴史の中では東京や京都でも オーロラが見えたという記録が残されています。あくまで可能性の一つですので、実際にオーロラを見る事ができるかどうかはわかりませんが、ひょっとしたらということで・・・」
「太陽フレアの発生は『太陽嵐』とも呼ばれる現象を引き起こすことが多いのですが、この宇宙空間で太陽からの大きなエネルギーが吹き付けられる太陽嵐あるいは磁気嵐と呼ばれる現象の発生は、オーロラの発生という見てきれいな物ばかりではなく、多くの非常事態を引き起こす可能性があります。大規模な宇宙からの放射線の襲来をはじめ、電波障害を引き起こしたりします。」
「そして、もっとも懸念される非常事態は大停電を引き起こす可能性です。」
電話で本堂との会話をしながら 北中はインターネット検索での『太陽フレア』という語句を読み返しながらその話しの内容を自分なりに理解しようと努めていた。そこで簡易に説明されている語句では この太陽嵐によって、かっては大規模な停電が発生した事例や、アメリカのNASAが先のオバマ大統領在任時の2016年に『大規模な太陽嵐の発生は 現代文明が一夜にして中世の電気の無い世界に引き戻されてしまう可能性への警告。』との称されたメッセージが出されていたことがあることを知って背筋に寒さを感じる事となったのだった。 北中は本堂からの説明を聞きながらインターネットの検索情報を目で追っていく中で 今回の事態の非常性が次第に見えて来るのが分かった。
「本堂さん、今、インターネットで『太陽フレア』のことを検索しながらお話をお聞きしていたのですが、政府としてはどのような対応を取らせていただければよいのでしょうか。 まだ、私自身も いったい何が起こるのかが、充分に理解しかねる点も多いのですが、今回の事態が引き起こしうる災害発生の形としてはどのようなことが考えられるでしょうか?」
北中にとって この太陽フレアが起きたことでどんな災害が引き起こされるのかは まだ充分な想像ができない状況ではあったが、太陽からもたらされた状況がこれまで人類が経験したことのない、地震や風水害とは全く異なった 新しい災害となり得て、人類に降り注いでくることだけは理解した。
「今、天文台長の渡辺がアメリカのNASAと連絡を取りあい現状の把握に努めていますので、およそ10分後をめどに改めて詳細な状況報告と、今後予想される事態の説明を総理に直接お話したいと申しております。緊急事態だと思われますので 大泉総理に説明の為のコンタクトを取っていただけないでしょうか。太陽フレアの発生による太陽嵐の襲来は、日本、いや世界の人類にとって未曽有の事態がもたらされる可能性があります。」
本堂の声は 電話を通じても緊張の色が濃くなっていくことがわかった。
「判りました。至急 総理に連絡が取れるように手配いたします。こちらから連絡を入れますので、電話番号をお教えいただけますか?」
「10分後の 11時15分頃でよろしいでしょうか?」
北中は本堂との電話を切ると、興奮を抑えながらも「太陽フレア」について改めて検索したインターネットの情報をプリントアウトして内閣首席補佐官の中村 徹の部屋へと連絡に走った。
「中村首席 至急報告したい重大事案が発生しました。」
北中は内閣官房室に飛び込むと 中村を捕まえ、本堂から聞いた太陽フレアの発生事案をできる限り簡単に説明して、プリントアウトしてきたインターネットの情報資料を手渡した。
「太陽フレア? 太陽嵐? なんだそれは?」
北中からの報告を受けた中村は 素っ頓狂な声を上げて北中に質問を返した。
東京大学法学部を首席で卒業した中村にとってもその言葉は専門外の言葉で、その状況が何を意味しているのかすぐには理解できなかった。それでも北中から伝えられた説明と共に 用意されたインターネットでの語句の解説を読んで、この事態が日本にとっての非常時であることだけは判った気がしてきた。
中村は 大泉総理にアポイントを取ることもなくインターホンを通じて秘書官に一報を入れると大至急として北中を同行させて内閣総理大臣室に向かった。 大泉総理に対して北中から得た情報を元にして太陽フレアの発生事象についてのポイントの説明をし、手元に持ったインターネットの語句検索の資料を大泉首相に手渡すと、続きの説明を最初に連絡を受けた北中に託した。そして本堂と約束した11時10分まで 3分程度の時間があったため 手に持ったタブレット末端から改めて「太陽フレア」という言葉語句を検索して説明語句を読み返した。
インターネットによる語句の説明では
【太陽で発生している爆発現象のことである。別称は太陽面爆発】と説明され 過去に何度かの大きな爆発の観測事例があり、1859年の「キャリントン・イベント」と呼ばれた事例や 1989年にカナダで発生した「ケベック嵐」と呼ばれた事例、そして2012年の7月に巨大な太陽フレアが地球をかすめたことや、間近では 2017年の9月期に比較的大きな太陽フレアが地球を襲ったことなどが記載されていた。
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