25年前の僕へ、

倉木元貴

文字の大きさ
10 / 16

10話

しおりを挟む
 運命というものは残酷だ。どうしてこうも引き合わされてしまうんだ。

 大規模地方警察本部捜査二課長に就任して1ヶ月。被害総額は1億円にも及ぶ大型詐欺事件が起きた。被害者は7人で、それぞれ1000万円以上を騙し取られている。騙り文句は不動産投資の話だった。受け子やかけ子の容疑で、16歳~29歳の男女15人が逮捕された。全員、身体に暴力を振るわれていた跡があり、かけ子をしていた16~18歳の少女の数人は性暴力を受けたことを証言した。そして、彼らが基地として使っていたのは、僕が襲われたあの倉庫だった。

 初めから違和感があった。受け子やかけ子の証言から、彼らに指示を出していたのが3人であることが判明している。1人は素行が悪く、暴力のほとんどはこの人物によるものだった。1人は知性的だが残虐性があり、暴行の方法を教えていた。最後の1人は、誰も顔を見たことがなく、声を聞いたこともない人物。僕をいじめていた3人にそっくりだ。

 彼らが監禁されていた期間の、玉野たちのアリバイがなければ疑いは強まる。だが、まだ何もわかっていない状態で、昔の因縁から人を疑うのは警察官としてあるまじき行為だ。秘密裏に調べ上げる必要がある。

 捜査二課長の権限を使って深夜に玉野の行動を調べ上げた。だが、玉野にはアリバイがあった。僕も誘われた貿易会社で、外に出ることなく1日中いたことがわかった。代わりに、村山と前田にはアリバイがなかった。

 僕が予想した通りだった。村山と前田は廃工場で15人を監禁し、受け子とかけ子を無理やりやらせていた。バイトだと偽って身分証明書を預かり、逃げれば家族に危害が及ぶと脅していた。卑劣極まりないやり方だった。僕は確信した。間違いなく真犯人は玉野だ。

 逮捕した15人に、村山と前田の高校時代の写真を見せた。疑問を浮かべる者もいたが、全員が頷いた。他にもネット上に投稿されている写真を集めて見せると、やはり全員がこの2人で間違いないと答えた。最後の黒幕は玉野で間違いない。確信を得たその瞬間だった。

 僕は捜査一課長の太田に呼び出された。どうやら僕の母が殺されたらしい。窃盗目的の犯行で実行犯はすぐに逮捕されたが、その実行犯も脅されて犯行に及んだと言われている。最初に聞いたときには悲しさよりも悔しさが優っていた。だが、思っているよりは冷静で、物事を俯瞰して見ることができていた。

 僕の家は裕福でもなく、貯金も大した額はない。なぜ僕の母が狙われたのか。恐ろしいことが頭を掠めていた。誰かが捜査情報を漏らしている。それも、二課の誰かだ。

 捜査一課長の太田と秘密裏に会談を行い、玉野らの情報を全て渡した。お互いに捜査一課は独自に捜査を始めるが、情報はすべて出し合うことで合意した。この情報は課長同士の決定で、他のメンバーや上層部の刑事部長らには、誰一人として共有されていなかった。

 捜査一課からの情報で、実行犯の一人が前田の写真を見て指示役の一人であることを証言した。拘置所内での取り調べであり非公式なものだったが、この情報は僕と太田しか知らない事実だ。すべてが繋がったことに違和感はなく、むしろ納得がいった。

 だが、まだ逮捕には遠い。それ以前に海外にでも逃げられてしまったら捜査は難航する。早く逮捕状を出したいが、玉野は村山、前田をトカゲの尻尾切りで犠牲にするだろう。1人安泰な場所で高みの見物をする。昔と何も変わっていない。僕はすぐさま警察庁に今回のことをメールで送った。主に捜査情報が漏れていることについてだ。

 数日経って、警察庁からメールが届いた。怪しい人物のピックアップ。経歴から捜査の状況まで全てが記載されていた。ひとり、特に怪しい人物がいた。

「赤田翔平《あかだしょうへい》……」

 僕も覚えていなかったが、赤田は玉野たちと同じ学校だった。つまり、1年次は僕も同じだった。年も同じで、高校時代には玉野たちと行動していたこともあったのだという。メールの最後には1枚の写真が添付されていた。そこには捜査期間中に玉野と接触している姿が映されていた。小さな喫茶店の中で、茶封筒を手渡している写真だ。

 彼で間違いない。それと同時に、警察庁の恐ろしさを感じていた。彼らを敵に回すと厄介だ。

 捜査一課の協力も得て、赤田のことを監察に通報した。監察官から逮捕状を受け取り、太田と監察官と共に赤田の逮捕に出た。逮捕状は地方公務員法違反の罪によるものだった。取り調べで赤田は罪を認めた。前田に「家族に危害を加えたくなかったら、情報を渡せ」と脅されてのことだと。赤田は捜査から外され、警察を依願退職した。身柄は拘束されたまま、赤田の捜査は監察に移った。

 これで一安心だと思いたいところだが、赤田の一件があって僕は捜査員に不信を覚えた。公開しても差し支えないものだけ捜査員に共有し、その他は太田と共有しようと心に決めた。

 同時進行で玉野の捜査も続けていた。まだ逮捕状を発行するには情報が足りていないが、必ずどこかに証拠があると確信していた。しかし捜査は難航した。前田に関しては殺人教唆と暴行の罪で逮捕状が取れる。村山に関しても詐欺と監禁の罪で逮捕状が取れる。だが、玉野はまだ証拠がない。

 思い悩みながら実家に帰った。母の葬儀や家の片付けもあった。ひとり残された父は身の危険があるからと、監視の届いたホテルに一時滞在し、名前を変えて小さなアパートに移った。

 実家で一人片付けをしていた僕は、ふと高野に渡されたビデオカメラに目が止まった。僕がいじめられた証拠映像。見たくないが、何か掴めるかもしれないと思い、動画を見返した。

「これは……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...