25年前の僕へ、

倉木元貴

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13話

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 僕を、警察官になるように仕向けたのは、上野で間違いない。だが、彼の目的がわからない。
 僕は、警察官僚になって、権力もそこそこ得た。上野にとって、都合の悪い証拠を消すくらいのことは、造作もない。なのに、彼は僕に接触してこない。なぜ、接触してこない。それに、国家の中枢人物に、どうやって接触した。どうして、僕の人生に干渉したんだ。

「……僕は、何か大きなものに巻き込まれているのか。いち警察官ではどうしようもないこと」

 そう思った矢先のことだった。
 上野の調査をしていた班員。後輩の佐久間から緊急連絡が入った。

「日野さん。上野の尾行をしていた田所が、マンションの階段から転落して、頭を強打し、意識不明の状態です」

 田所の事故を現場所轄に任せていたが、事件性はなく、足跡痕もマンション住人と田所のものだけ。争った形跡はなく、足を滑らせたとしか考えられないと。決して天気が悪かったわけでもなく、晴れて乾燥している状態での事故。
 だが、周辺の監視カメラは、都合のいいことに全部故障していた。それも、たったの15分間。その間の映像だけが、どこにも記録されていなかった。
 すぐに調査員を派遣し、防犯カメラを精査し、逃走方向を絞ろうとしたが、逃走方向は広がるばかりで、まるでこうなることが読まれているみたいだった。
 100以上の防犯カメラを、一時的に故障させるなんて、単独犯の仕業ではない。何か大きな組織が絡んでいる。

 その後も、調査員の不吉は続いた。

 現場に派遣した調査員3人全員が、外出先で事故を起こされて骨折したり、食事で中毒を起こし急性胃腸炎を発症し、入院をして捜査を中断。田所の事故調査に向かった調査員5人も全員が同じ理由で調査を中断した。
 合わせて8人、全員入院しているが、命に別状はない。田所も、1週間後には意識も回復し、病院を都内に移した。
 本庁の小会議室で僕は悩んでいた。このまま捜査を続行していいのか。これは何かの警告ではないのか。
 小会議室に佐久間を呼び出し、僕は決断した。

「佐久間。この調査は終わりにしよう」

「日野さん。いいのですか?」

「これだけ調査員が怪我をしているんだ。これ以上、続行はできない」

「ですが──」

「これは命令だ佐久間。命を落とすな」

 佐久間も悔しがっていた。唇を噛み締めながらも、頷いた。

 その夜。僕は、1人で今回の事故資料の整理をしていた。
 ふと、背後に気配を感じた瞬間、首筋に電撃のような衝撃が走った。

「……っ!」

 意識が遠のいて行ったのがわかった。
 床に崩れ落ちる寸前、誰かの足音が近づいてきた。

「ご苦労、佐久間。もう席を外して構わないよ」

 足音が1つ走って離れて行った。
 佐久間……佐久間がやったのか……なぜだ。佐久間は僕の直属の後輩……のはず。

「日野さん。調査をもっと早く終わらせるべきだったね。知り過ぎてからでは遅いんだよ」

 その声には聞き覚えがあった。
 低く、落ち着いていて、どこか機械的な声。

「高野……いや、上野か……」

 25年前に出会ったあの少年。
 そこまで言って、意識が途切れた。

 目を覚ましたのは、翌朝のベッドの上だった。
 側には警察庁長官が座っていた。

「……日野君。目を覚ましたのか」

「ちょ、長官……」

「寝たままで構わない。無理をしてはいけない」

「長官。昨日は……」

「やめたまえ」

 長官の声が、鋭く遮った。
 その目からは、さっきまでの温厚さが消えていた。

「これ以上は、君に危険が及ぶ。彼らには関わらない方がいい。これは忠告だ。君のためを思って言っている。頼む」

 長官が僕に頭を下げた。
 その姿は、どこか怯えているようにも見えた。

「長官。佐久間は……佐久間はどうなりました?」

「佐久間君は、異動になった。異動先は、言えない。そういう約束だから……」

 長官も悔しそうな顔を見せた。
 佐久間……もう会えないのか……。

「長官は、彼らのことを全て知っているのですか?」

「それを知って君はどうするつもりだ」

 僕は答えを出すことができなかった。
 正義のために、真実を暴く。
 そう言いたかったのだが、あの声、あの電撃のような衝撃、そして調査員たちの異変。
 それらが、僕の言葉を喉の奥で詰まらせた。

「日野君。君は優秀だ。これからも警察庁の中枢で活躍してもらわなければならない。だが、これ以上は踏み込むな。君もいずれ、知ることになる。絶対的な権力に。それまでは、大人しくしておいてくれ」

 長官はそう言い残して、病室を後にした。

 僕はベッドの天井を見つめていた。
 25年前に、あの少年に救われたと、ずっと思っていた。
 だが今は、あれが導きだったのか誘導だったのか、わからない。

「25年前の僕……やはり、あの時に死んでおくべきだったのかもしれない」

 正義とは何だったのか。
 誰のための正義だったのか。
 僕は、ただ誰かの計画の歯車として動かされていただけなのか。
 僕自身の正義も実行できないなんて、警察官として生きていく価値はないな。

 答えは出なかった。
 だが、もうこれ以上、踏み込むことはできない。これ以上は、誰かが命を落とす。
 それだけは、はっきりしていた。
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