25時の音楽

倉木元貴

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訪問(第4話)

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 用事を済ませてから、急いで鳴沢の元に向かった。
 廊下ですれ違った亀嶋に、捕まりそうになるが、慌てている様子を見て、ため息を吐きながらも見逃してくれた。

 校門の前に立っていた鳴沢は、何もすることなく、目の前の木をじーっと見ていた。

「待たせてごめん、鳴沢──」

「それで、今日は何?」

「とりあえず帰ろう」

 どこでどう話を切り出すべきなのか。早くしないと、時間も限られているというのに、緊張して、言葉に詰まった。
 ソワソワと歩いていると、もう鳥居が目に入った。

「あ、あのさ、鳴沢……たくさん聞きたいことがあるのだけど、いいかな?」

「答えられる限りでよかったら……」

「本当! じゃあさ、歌作っているとこ見せてもらうのは?」

 鳴沢は戸惑いながらも、小さく頷いた。
 反対に、私の心は高揚していた。エクスネクの本拠地に向かうことができるなんて、夢にも思っていなかったから。

「また、今度でもいい? 時間も遅いし、この辺りは暗いから」

「そんなに時間はかけないから、今日はダメ? 心配しなくても、大丈夫だよ。この辺りずっと通っていたし、庭みたいなものだよ」

「じゃあ、ちょっとだけ……」

 鳴沢はそう言って、神社の参道を登り始めた。私も、その後をついた。

「ねえ、鳴沢。どうして、ラジオで歌を流しているのか聞いてもいい?」

「『聞いてもいい?』って、もう聞いているじゃん」

「本当だ。気が付かなかった」

「まいいけど、別に大した理由はないよ。ただ、歌作れたら、って思って、最初は動画配信にしようと思ったけど、動画作ることができなくて、ラジオにしただけ」

「確かに、動画作りって、難しいイメージあるもんね」

「ネットで調べたりしてみたんだけど、何のこと言っているのかさっぱりで……」

「ああ……わかる。私も、数学でわからないとことかあったら、ネットで調べるけど、前提がわからないってことよくあるもん」

 鳴沢はなぜか静かになった。顔を見上げてみると、どこか驚いた顔をしていた。

「──近藤さんも、ネットで調べたりするんだ」

「え? 何で? わからないことはネットで調べるよ?」

「いや、いつも、放課後、わからないところを先生に聞きに行っていたから、わからないことなんてないと思っていた」

「何で知ってるの⁉︎」

「な、何でって──いつも、本抱えて職員室に行っているから……何となく、かな?」

 特に、隠していたわけではないけど、誰も知らない私のことを、知られているみたいで、恥ずかしい気持ちが込み上げていた。

「……誰にも言わないでね」

「大丈夫。僕、友達いないから」

 そう言った鳴沢は、どこか悲しい笑みを浮かべていた。

「ごめんごめん。言わせたかったわけじゃないから」

「大丈夫。悪いのは僕だってわかっているから」

 鳴沢は、山と川しかない風景で、遠くを見つめていた。何も変わらなくて、つまらない景色だというのに。

 ♢♢♢

 鳴沢の言った通り、鳴沢家は、大熊神社の手前にあった。
 ここずっと、神社の施設だと思っていたけど、鳴沢の家だったんだ。新発見。
 背の高い木々に囲まれた間に、趣のある平屋の木造住宅だった。
 この辺りで多い作り。築も相当数のはずだ。

「近藤さん。あの……部屋、片付けるから、ここで待ってて」

「大丈夫だよ。物が散らばってても気にしないから」

「僕が気にするので、お願いします」

「仕方ないな。じゃあ、1分だけね」

「10分でお願いします」

「長いな。せめて3分くらいで終わらせて」

「すぐ終わらせてきます」

 玄関前で、鳴沢が出てくるのを待っていると、女性が1人現れた。どうやら神社に用事があるようではないようだ。となると、鳴沢の母親。

「──あれ⁈ マリちゃん先生!」

「あら、玲那ちゃん? 久しぶりね。こんなところで何しているの?」

「なるさ……クラスの子と、待ち合わせで」

 マリちゃん先生は、私が幼稚園の頃の先生で、私が一番仲の良かった先生。

「っていうか、マリちゃん先生こそ、何でここにいるの?」

「何でって、ここが私の家だからだよ?」

「え? どういうこと? マリちゃん先生、苗字大上おおがみだったよね? どういうこと?」

「玲那ちゃんが小学生くらいの頃かな、その時に再婚したの。それで、今は“鳴沢”を名乗っているんだ」

「じゃ、じゃあ……なるさ──健助って、マリちゃん先生の子供?」

「あら、健助のお友達? それとも……」

「クラスメイト。え、でも、参観日とか来てないくない?」

「あの子、見られるのが恥ずかしいのか知らないけど、教えてくれないのよ。去年は、旅行券が当たったって、旅行に行かされたのよ」

 鳴沢、意外と頭いいんだな。

「なんか、鳴沢らしい」

「とりあえず、上がっていかない? 玲那ちゃんが好きな、どら焼きくらいなら出せるよ」

 私は迷うことなく中に入る決断をした。決して、どら焼きに釣られたわけではない。積もる話がたくさんあるからだ。

 ♢♢♢

 リビングで、どら焼きを食べながら、マリちゃん先生と話をしていると、引き戸の奥から驚いた顔をした鳴沢が出てきた。

「な、何で! 母さん今日遅いんじゃなかったの⁉︎」

「思ったよりも、早く帰って来れたの。それよりも、玲那ちゃんと同じクラスなんだってね。何でもっと早く言ってくれなかったの?」

「母さんと、近藤さんが知り合いだってこと、今初めて知ったんだけど」

「だって、私たちも幼稚園ぶりだから。もう、けんくんが、参観日の日程を教えてくれないからだよ。近所付き合いだってあるのだから、今年はちゃんと教えてね」

「それとこれとは、別の話でしょ……」

 親子の会話に、割って入っていいのか悩んだけど、マリちゃん先生のためを思って、間に入った。

「じゃあ、私が教えてあげるね。最後くらい、参加したいよね」

「近藤さんも、母に乗らなくていいよ」

「私はマリちゃん先生の味方だから」

 どら焼きをもう一つ渡されたが、決して買収されたわけではない。

 ♢♢♢

 鳴沢の部屋に案内されたが、素早く片付けたにしては、丸めた紙や教科書が雪崩を起こしていた。
 勉強机の椅子に案内されたが、それよりも他のことが気になりすぎて、立ったまま話をしていた。

「いつもどうやって、作っているの?」

「いつもは……普通に作っています」

「その『普通』がわからないから聞いているのに」

「す、スマホで歌は作ってるんです。その、アプリを使って……作ってます」

 何か隠している気がする。
 もちろん、新曲を見せたくないなら、見るつもりはないけど、何か怪しい。

「1曲歌ってくれない?」

「そ、それは……今母さんがいるから……」

 なるほど。マリちゃん先生に歌のことを隠していて、恥ずかしいからソワソワしているんだ。いつ部屋に入ってくるのかわからないから。
 それはわかる。勉強で悩んでいる時とかに覗かれていたらイヤだもんな。普通に考えると恥ずかしい要素なんてないのに、恥ずかしく感じるんだよな。
 鳴沢もそうなら、あまり踏み込んだことを聞くのはよくないか。
 マリちゃん先生に隠し事をするのは心苦しいけど、鳴沢のことも考えてあげないと。

「じゃあさ、いつもどうやって歌っているの? 夜中なら、なおさら、聞こえないんじゃない?」

「いつも、押し入れの中で歌ってる」

 そう言って、押し入れの中を案内してくれた。
 押入れは、至って普通の、1畳くらいの広さ。2段仕様で、1段目の左側。段ボールが積み重なっていた。

「どうやって、歌っているの?」

「その段ボール。積み重なっているように見えて、中を空洞にしていて、声が極力もれないように、箱の中にクッションをしている」

 積み上げられた箱は、ただの断面図で、発泡スチロールの板に段ボールが貼り付けられていただけだった。
 中は、ポツンとマイクがあるだけの、狭い空間だった。

 思っていたものとは違うけれど、エクスネクがいつもここで歌っていると思ったら、興奮が治らなかった。
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