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学校再開(第29話)
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冬休みが明け、学校が再開した。
校舎に入った瞬間、外に残った冷気が背中を押し返すように感じた。暖房の効いた廊下には、久しぶりに集まった生徒たちの声が重なり、冬特有の白い息がまだところどころに漂っていた。
教室に入ると、冬休みの間に、受験の追い込みをして目にクマをつけている人がちらほらいた。
莉里もその一人だった。
「莉里、大丈夫?」
「何とかね。勉強してたら宿題の存在忘れて、最後に追い込んだ」
「あるあるだね」
心愛が笑いながらいう。
「朝から元気な人に言われても、嫌味にしか聞こえない」
「まあ、これが心愛だから」
莉里が真剣な目で私を見ていた。
「な、何……?」
「仲直りできたんだって思ってさ。玲那と心愛の喧嘩なんて中学生ぶりでしょ。このまま長引いたらどうしようかとは思ったよ。だから、できてよかったなって思って」
「その節はご迷惑おかけしました」
「いいよ。今に始まったことじゃないんだから」
「そうだよ。玲那から謝ってくれて丸く収まったんだから」
「お前はもう少し反省しろ。何があったかは知らないけど、もう二度とするなよ」
楽しい日常が戻ってきた反面、悲しい現実も待ち受けていた。
教室に着くと、鳴沢の席には誰も座ってはいなかった。
いつもなら雑に置かれているはずの筆箱も、椅子に掛けられた上着もない。窓から差し込む薄い冬の光だけが、ポツンと空いた席を静かに照らしていた。
始業式も鳴沢の姿はなかった。授業中も鳴沢はいなかった。
私は職員室に向かった。
職員室の扉を開けると、コピー機の規則的な音と、淹れたてのコーヒーの匂いが混ざり合っていた。
先生たちが忙しなく書類をめくる音が、いつもより遠くに感じる。
「先生。鳴沢は休み?」
「ああ、少し前に休みの届を出して行ったよ」
「それって、何か病気?」
「いや。詳しくは話せないけど、家庭の事情ってことだよ」
机の上に積まれた書類の山や、電話のベルが鳴るたびに誰かが立ち上がる気配。その慌ただしさの中で、先生の「家庭の事情」という言葉だけが妙に静かに響いていた。
マリちゃん先生に聞いていたけど、鳴沢は本気で東京に残っているんだ。あれから何度電話をしても出てくれないし、謝るタイミングを失った。
心愛なら何か知っているかもと思って、昼休みに心愛に相談した。
「心愛。鳴沢のこと何か聞いていない?」
「鳴沢君? 別に何も……あれから連絡取り合っていないから」
「そういえば鳴沢って何で今日来てないの?」
「さあね。玲那は何か知ってる?」
「いや、私も……」
鳴沢が東京に行ってしまったということは話さない方が皆混乱はしない。さすがに卒業式には来るだろうから、そこで本人から打ち明ける方が鳴沢にとってもいいはず。
「そっかー……玲那でも知らないか。じゃあ知っている人はいないか」
心愛が私を見ていた。多分何か話したいことがあるのだろう。
「ごめん。ちょっとトイレに行ってくる」
「じゃあ、私も」
案の定心愛はついてきた。
二人の足音だけが、静かな廊下にコツコツと響く。心愛がついてくる気配が背中に刺さり、胸の奥がざわついた。
「心愛、何か話したいことでもあるの?」
「鳴沢君のこと。玲那、本当は知っているんでしょ。でも、それはいいの。それよりも、仲直りの方はどうなったの?」
心愛には打ち明けても大丈夫な気がした。
トイレの鏡に映った自分の顔は、思っていたよりも疲れて見えた。心愛が隣でじっとこちらを見つめていて、その視線に背中を押されるように口を開いた。
「実は……」
心愛に鳴沢が東京に行ったこと、音信不通になっていることを話した。
「つまり、仲直りをできないまま、鳴沢君は東京に行ってしまって、連絡も一切取れてないと。でも、何で玲那はそのこと知ってるの?」
「実はね。鳴沢のお母さんと私知り合いで、小さい頃にお世話になって、たまに連絡を取りあってるんだ」
「そうなんだ。どうりで鳴沢と仲良くなれているわけだ」
「そんなんじゃないと思うけど……」
「それで、鳴沢君は玲那に何も言わずに東京に行っちゃったわけ?」
「う、うん……」
「鳴沢君も鳴沢君だね。何で、もっと早く私に相談してくれないかな。まあ、少し放置しすぎた私も悪いのかな」
心愛が珍しくため息を吐いていた。
「どこかのタイミングでは帰ってくるから、それまで待っていようよ。私もそれまでは鳴沢を待つつもりだから」
「まあ、玲那がそのつもりなら、私から言うことはないな。でも、曲の方は大丈夫? 送られてきたの聞いたって、私にはわからないからさ」
「うん。曲は大丈夫。鳴沢が私の歌詞に合わせて、ちゃんと作ってくれた」
「あれで完成でいいの?」
「私は大丈夫。鳴沢が納得しているなら……」
俯いた私の肩を心愛は2回ポンッと叩く。
「大丈夫だよ。納得していなかったら、私に送ったりなんてしないから」
「うん。ありがとう」
教室に戻ると、さっきまでの静けさが嘘みたいに、昼休みのざわめきが耳に飛び込んできた。秘密を抱えたままその明るさの中に戻るのが、し腰だけ息苦しかった。
席に戻ると、莉里は、不思議そうな顔をして私たちを見ていた。
「2人もトイレ長すぎない?」
つい長話をしてしまったが、莉里にはまだ話したことは秘密だ。情報はどこから漏れるかわからないし、鳴沢の活動の邪魔だけは、したくない。
校舎に入った瞬間、外に残った冷気が背中を押し返すように感じた。暖房の効いた廊下には、久しぶりに集まった生徒たちの声が重なり、冬特有の白い息がまだところどころに漂っていた。
教室に入ると、冬休みの間に、受験の追い込みをして目にクマをつけている人がちらほらいた。
莉里もその一人だった。
「莉里、大丈夫?」
「何とかね。勉強してたら宿題の存在忘れて、最後に追い込んだ」
「あるあるだね」
心愛が笑いながらいう。
「朝から元気な人に言われても、嫌味にしか聞こえない」
「まあ、これが心愛だから」
莉里が真剣な目で私を見ていた。
「な、何……?」
「仲直りできたんだって思ってさ。玲那と心愛の喧嘩なんて中学生ぶりでしょ。このまま長引いたらどうしようかとは思ったよ。だから、できてよかったなって思って」
「その節はご迷惑おかけしました」
「いいよ。今に始まったことじゃないんだから」
「そうだよ。玲那から謝ってくれて丸く収まったんだから」
「お前はもう少し反省しろ。何があったかは知らないけど、もう二度とするなよ」
楽しい日常が戻ってきた反面、悲しい現実も待ち受けていた。
教室に着くと、鳴沢の席には誰も座ってはいなかった。
いつもなら雑に置かれているはずの筆箱も、椅子に掛けられた上着もない。窓から差し込む薄い冬の光だけが、ポツンと空いた席を静かに照らしていた。
始業式も鳴沢の姿はなかった。授業中も鳴沢はいなかった。
私は職員室に向かった。
職員室の扉を開けると、コピー機の規則的な音と、淹れたてのコーヒーの匂いが混ざり合っていた。
先生たちが忙しなく書類をめくる音が、いつもより遠くに感じる。
「先生。鳴沢は休み?」
「ああ、少し前に休みの届を出して行ったよ」
「それって、何か病気?」
「いや。詳しくは話せないけど、家庭の事情ってことだよ」
机の上に積まれた書類の山や、電話のベルが鳴るたびに誰かが立ち上がる気配。その慌ただしさの中で、先生の「家庭の事情」という言葉だけが妙に静かに響いていた。
マリちゃん先生に聞いていたけど、鳴沢は本気で東京に残っているんだ。あれから何度電話をしても出てくれないし、謝るタイミングを失った。
心愛なら何か知っているかもと思って、昼休みに心愛に相談した。
「心愛。鳴沢のこと何か聞いていない?」
「鳴沢君? 別に何も……あれから連絡取り合っていないから」
「そういえば鳴沢って何で今日来てないの?」
「さあね。玲那は何か知ってる?」
「いや、私も……」
鳴沢が東京に行ってしまったということは話さない方が皆混乱はしない。さすがに卒業式には来るだろうから、そこで本人から打ち明ける方が鳴沢にとってもいいはず。
「そっかー……玲那でも知らないか。じゃあ知っている人はいないか」
心愛が私を見ていた。多分何か話したいことがあるのだろう。
「ごめん。ちょっとトイレに行ってくる」
「じゃあ、私も」
案の定心愛はついてきた。
二人の足音だけが、静かな廊下にコツコツと響く。心愛がついてくる気配が背中に刺さり、胸の奥がざわついた。
「心愛、何か話したいことでもあるの?」
「鳴沢君のこと。玲那、本当は知っているんでしょ。でも、それはいいの。それよりも、仲直りの方はどうなったの?」
心愛には打ち明けても大丈夫な気がした。
トイレの鏡に映った自分の顔は、思っていたよりも疲れて見えた。心愛が隣でじっとこちらを見つめていて、その視線に背中を押されるように口を開いた。
「実は……」
心愛に鳴沢が東京に行ったこと、音信不通になっていることを話した。
「つまり、仲直りをできないまま、鳴沢君は東京に行ってしまって、連絡も一切取れてないと。でも、何で玲那はそのこと知ってるの?」
「実はね。鳴沢のお母さんと私知り合いで、小さい頃にお世話になって、たまに連絡を取りあってるんだ」
「そうなんだ。どうりで鳴沢と仲良くなれているわけだ」
「そんなんじゃないと思うけど……」
「それで、鳴沢君は玲那に何も言わずに東京に行っちゃったわけ?」
「う、うん……」
「鳴沢君も鳴沢君だね。何で、もっと早く私に相談してくれないかな。まあ、少し放置しすぎた私も悪いのかな」
心愛が珍しくため息を吐いていた。
「どこかのタイミングでは帰ってくるから、それまで待っていようよ。私もそれまでは鳴沢を待つつもりだから」
「まあ、玲那がそのつもりなら、私から言うことはないな。でも、曲の方は大丈夫? 送られてきたの聞いたって、私にはわからないからさ」
「うん。曲は大丈夫。鳴沢が私の歌詞に合わせて、ちゃんと作ってくれた」
「あれで完成でいいの?」
「私は大丈夫。鳴沢が納得しているなら……」
俯いた私の肩を心愛は2回ポンッと叩く。
「大丈夫だよ。納得していなかったら、私に送ったりなんてしないから」
「うん。ありがとう」
教室に戻ると、さっきまでの静けさが嘘みたいに、昼休みのざわめきが耳に飛び込んできた。秘密を抱えたままその明るさの中に戻るのが、し腰だけ息苦しかった。
席に戻ると、莉里は、不思議そうな顔をして私たちを見ていた。
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