フェイタリズム

倉木元貴

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合同親睦会 1

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 今日はいつもより二時間くらい早起きをした。始発の次の便でみんなが待つ登久島駅へ向かった。集合予定の時刻よりは早く登久島駅に着くが、早めに行かないと怖い。別に如月さんがとかじゃないけど、僕以外全員が北や西に住んでいるらしく、この汽車に乗るのは僕一人だった。それが何よりも不安だった。朝起きて日付を間違っていないか何度もスマホを確認し、汽車に乗り遅れることも考慮し発車の十五分前に駅に到着し、何なら汽車が来ないことを想定しギリギリ間に合いそうなバスの時間までも調べていた。杞憂かもしれないけど、一人遅れるのだけはどうしても避けたかった。責められるのが怖いとかじゃない。この親睦会は、実は僕を虐めるだけの如月さんの計画で、丁度いい時間に行けば待ちかまえているのは如月さん一人で、人気のない暗い路地にでも誘われ、そこで如月さんが呼んだ応援とともに集団暴行を受けるんじゃないか。なんて、変な夢を見たせいでもあるのかもしれない。正夢にならないことを願うけど、正夢になった時のために帰りの汽車時間もちゃんと調べ済みだ。
 不安で心臓の鼓動を大きく鳴らしながら、約十五分の汽車の旅へと出た。
 一駅また一駅へと登久島駅に近づくに連れて心臓の鼓動は大きくなり呼吸も大きく乱れていた。下手したら過呼吸で倒れそうなくらい全身を使って大きく呼吸をしていた。
 そんな僕の不安の一つは登久島駅に着くと解消された。
 遠くから如月さんの鞄が見えたから、正夢になったかと思われたが、駅構内のベンチに如月さんと隣に堺さんがいた。
 
「き、如月さん、堺さん、おはよう」
 
「中田君、おはよう。今日はよろしくね」
 
「ああ、うん……よろしく……」
 
 堺さんは挨拶を返してくれたが、如月さんは返事をくれなかった。
 
「まさか中田さんが一番に着くとは」
 
 何か驚いた顔を浮かべているなと思っていたけど、まさか嫌味だったとは。
 
「変な夢を見て目覚ましより早くに起きてしまったんだよ」
 
「それはどんな夢を見たのか気になりますね。どんな夢だったのですか?」
 
 如月さんらに集団暴行を受ける夢なんて死んでも本当のことが言えない。本当のことを言ってしまえば、「私をどんな悪者だと思っているんですか?」や「なるほど、中田さんは私のことをそんなふうに思っているのですね」なんて言葉を掛けられた後に、力強いパンチが飛んでくるに違いない。だから僕は嘘を吐いた。夢の内容を改変しありきたりな内容にした。
 
「言わなくてもわかるだろ。僕だけ遅れて置いていかれる夢だよ。最悪の悪夢だよ」
 
「ありきたりすぎて面白みがないですね」
 
 夢の内容が嘘だと言うことは疑ってないようだった。
 
「悪かったな」
 
「本当に遅れて来たら面白かったですのに」
 
「縁起でもないこと言うなよ」
 
「冗談に決まっているじゃないですか」
 
 如月さんの冗談は分かりずらい。どこまで本気でどこまでが冗談なのか。どちらも同じトーンで話すから余計に分かりずらい。
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