フェイタリズム

合同親睦会 2

　仮に「冗談だろ？」と僕が言ってそれが当たっていればことなきを得るが、もし万が一違った場合、罵声嵐になることは簡単に想像がつく。そんな賭けのようなことは簡単にできないだろ。だからこうやって、軽くあしらうくらいが最適解。
　
「そう言えば、山河内さんは？」
　
「何ですか。碧ちゃんのことがそんなに気になりますか？」
　
　如月さんは何か言いたそうにニヤニヤした顔を浮かべていた。だけど、今回は僕に聞き方が悪かった。伝わっているけど、相手が如月さんだと言うことをどこか忘れていた。
　
「いつも一緒にいるから今日も一緒に来ているのかと思っただけだよ。それに、相澤さんは大丈夫なの？」
　
「一花ちゃんは大丈夫ですよ。そちらを碧ちゃんに任せています。ちゃんと連れて来てくれますよ」
　
　あんなに嫌がっていたのに本当に来るのか。そもそも、何で相澤さんだけ、まあ僕もだけど、強制参加なのだ？　本気で嫌がっているのに連れてくる必要なんてあるか？
　それを如月さんに訊きたいけど、変な方向に捉えられそうだから訊けない。それに、僕自身そこまで気にしていないからこの問題は未解決のままでいいや。考えることをやめた僕は如月さん達が座るベンチの一つ隣のベンチに座った。少し二人から距離はあるけど、話は特にしないし、僕はこれからゲームに集中するから気持ちだけでも一人になりたかった。
　そんな僕を邪魔するかのように、この場に岡澤君がやって来た。
　
「みんな早いな。おはようさん」
　
「岡澤さんおはようございます」
　
「おはよう。岡澤君」
　
　僕も一応挨拶を交わす。
　
「おはよう」
　
「おう」
　
　そ言って岡澤君は僕が座るベンチに座った。
　僕ももちろん同じ行動をとるけど、仲良くない子と席を一つ挟んで隣同士はきつい。ゲームに全く集中できない。あの如月さんに次ぐおしゃべりな岡澤君なのに、流石に話すことが無さすぎてずっと黙り込んでいる。それが余計に気まずい。と、思っていおたら、彼は僕の隣で眠っていた。それも、大事そうにリュックサックを抱えながら眠っていた。なんだ、寝ているのかと安堵していると、そこに中村君は現れた。
　僕が座っているベンチは三人がけで、僕は正面から見て右端。岡澤君は左端。女子のベンチは空きがあるけど、座る勇気はない。僕も同じ行動をとるだろうけど、三人掛けベンチ大量荷物の男三人は狭い。
　
「お、おはよう。中田君」
　
「あ、うん、おはよう」
　
　あまり仲良くないから辿々しい挨拶になった。これでまた僕は集中を切らしてゲーム画面は開いているものの、スマホをただ眺めるだけになっていた。そんな僕が心の中で大きく願ったのは、山河内さん早く来てくれ。だった。そうすれば、このベンチともおさらばできる。歩くのは大変だけど、この気まずい空気よりは幾分マシだ。
　僕の願いが神様に届いたのか、山河内さん達は中村君が来てから数分のうちに来た。
　
「おはよう。みんな早いね。まさか最後になるとは」
　
「みんなおはよう……」
　
　岡澤君は寝ているけど、如月さんも山河内さんも朝早いと言うのに元気だ。だけど、相澤さんだけは元気がなかった。
　
「さあ、みなさん早速移動しますよ！」
　
　これから僕らの一泊二日の旅が始まるんだと。意気込んでいたが、連れて行かれたのはカレー屋さんだった。