フェイタリズム

倉木元貴

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合同親睦会 22

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 そういえば、岡澤君は「恥ずかしながら」そう言っていた。勉強道具を持って来るのが恥ずかしい行為のわけない。もし、岡澤君が勉強道具を遊びの場に持ってくるのを恥ずかしいと思っているのなら、今頃如月さんに「何が恥ずかしいのですか?」なんて問い詰められているに違いない。だが、如月さんはそうはしなかった。ということはつまり勉強道具ではないと言うこと。
 じゃあ、一体何なのか?
 僕の疑問は深まるばかりだったが、如月さんが取り出したA4用紙の長い方を平行に切ったサイズの紙を見た瞬間に何かがわかった。それは、この間のテストの成績表だった。
 
「あれ? 中田さんはどうしたのですか?」
 
 気づかれないようにやり過ごそうとしたがさすが如月さんだ。
 
「ごめん忘れてきてしまった」
 
「もう、何しているのですか。忘れてきてしまったのなら仕方ないですね。中田さんだけ口頭で順位の発表をお願いします」
 
 罰ゲームのようだけど、みんなの順位も見れるならいいかと思い、如月さんの合図に合わせて僕だけ口頭で順位を発表した。
 
「七十五位」
 
 一人何を言っているんだと悔しい気持ちになり、全員の成績表を凝視した。
 それを見て改めて思った。僕の口頭発表は単なる罰ゲームだった。
 山河内さんは、安定の学年一位。続いて堺さんは、学年三位。相澤さんは、学年四位。如月さんは、学年十位。対して男子はボロボロだった。
 中村君が学年三十五位と健闘はしたものの、女子の平均には足元にも及んでいなかった。岡澤君は、言ってあげるのが可哀想だけど、僕より下の八十六位だった。男子の平均は、約六十五位。対して女子の平均は四・五位。圧倒的実力差に男子は完全に萎縮してしまっていた。僕も衝撃的すぎて、開いた口が閉じなかった。
 そんな中、女子は僕達と違ってレベルの高い話をしていた。
 
「私が四位に転落したのは堺さんのせいだったのか。今までは二位しか取ったことなかったのに」
 
「それを言うなら私だって、今まで一位しか取ったことなかったのに。碧ちゃんはやっぱりすごいね」
 
「二人ともいいじゃないですか。私なんて二桁て転落ですよ。こんんなの初めてですよ。やはり高校というのは頭のいい人が集まるのですね」
 
「こんな近くにライバルがいるなんて、今以上に頑張らないといけないじゃん」
 
 僕の目には四人の会話が貴族の会話のように映っていた。
  
「俺ら来るとこ間違えたみたいやな」
 
「今回のテストはそんなにできは悪くなかったのに……」
 
「今回はしかないよ。あの四人にはどう頑張ったって敵わないよ」
 
 肩身の狭い男子は会話に入ることなどもちろんできず、小声でお互いのことを慰め合った。
 
「ああ、そうだ。これから夕食の前の時間までは自由時間にしようと思っていますので、このコテージで過ごすもよし、外に出て辺りを散策するもよしです。私は少し用事があるので外出しますが、みなさんは自由に過ごしてください」
 
 如月さんのその言葉に、僕は心の中でガッツポーズをしたが、次の如月さんの言葉に僕は落胆した。
 
「中田さんは荷物持ちとして私に付いてきてください」
 
 この言葉のせいで、僕の計画は破綻した。
 こうなれば諦めて、何もわからないまま本番を迎えるしかない。頭のいい山河内さんは、春の大三角も春の大曲線も全部知っているはずだから、僕がそれを覚えたところで意味はないと言い聞かせながら。
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