フェイタリズム

倉木元貴

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合同親睦会 21

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 ジュースを飲み終えて、如月さんは移動を申し出た。
 
「そろそろいい時間なので、コテージの方へ行きますか」
 
 それに反対するものはもちろんおらず、荷物を纏めて最初に寄った管理棟までまた歩いた。
 
「私はまた受付してくるので、みなさんはここで少々お待ちください」
 
 僕らはまた管理棟の前で待たされた。さっき来たときはみんなで案内図を真剣に見ていたけど、もう案内図を見てる人はいなかった。その代わりと言ってなんだが、山河内さんが天体観測について意気込みを語っていた。
 
「今日は絶好の天気だし、このまま晴れが続けば 満点の星空が見えるはずだよ。荷物の関係で大きな望遠鏡は持ってこられなかったけど、目視できる春の大三角や見られる惑星を見て存分に楽しもうね!」
 
 なるほど。如月さんは最初からそれが目的だったのか。
 せっかくあんな分かりやすい画像をもらったのに、それを活かせず如月さんには申し訳ない気持ちになっていた。
 そんなことを考えているタイミングで如月さんは戻ってきた。
 
「鍵を預かりましたので、コテージに向いましょう」
 
 如月さんは先頭を歩き、僕らは二階建てのコテージの前にやってきた。
 
「炭の箱と椅子、テーブルは外に置いて、あとの荷物は中にお願いします」
 
 言われた通り炭の箱と椅子、テーブルは外に置き、それ以外の荷物と共に僕らもコテージの中に入った。
 ある程度荷物を整理したところで、如月さんに自分の荷物を持ってリビングに来るようお達しがあった。
 リビングに集められた僕らは、テレビの前にサークルを作って床に座った。
 
「みなさん。言っていたあれは持ってきましたか?」
 
「もちろん!」
 
「恥ずかしながらやけど持って参りました」
 
 僕以外のみんなは何かを持ってきたようだけど、僕だけはその情報を知らない。如月さんの言う「あれ」が何を指しているのか全くわからなかった。訊いてみたいけど、この空気じゃ僕には訊けない。
 ここは推理でもして導き出してみよう。
 まず、如月さんが言う「あれ」とは言い方的に全員が持っているもの。もしこのキャンプに絶対的に必要なみんなで使えるものなら如月さんが持っていってくれていたはず。そのおかげで僕はこんな普通のリュックサックで今回の荷物が纏まっているのだ。ちなみに、僕のリュックサックには、二日分の服と下着とスマホの充電器、財布、ビニール袋、あと遊ぶかわからないけどトランプ、それくらいしか入っていない。如月さんからの事前のメッセージも、それくらいしか必要物品は書かれていなかった。如月さんの言い方的にも私物は確定。でもそれ以上の情報はわからない。
 こ、今度はみんなの反応から。如月さんはワクワクしているような顔を浮かべている。山河内さんは自信に満ち溢れている顔。逆に岡澤君は自信がないような顔。中村君は不安そうなと言うのが一番しっくり来るような顔。堺さんと相澤さんは、何を考えているのかはわからない顔。
 頭脳明晰で運動神経も抜群な山河内さんが自信のあるものは数えきれないほどある。岡澤君が自身のないものといえば勉強。だけど、それなら中村君が不安そうにしているのが引っかかる。中村君は勉強が苦手ではなかったはずだ。新入生テストもそこそこの順位だった記憶がある。そんな中村君に苦手意識があるのは多分だけど運動。水切りの対決も岡澤君にさえ届いていなかったようだから。だけど、今は室内。できる運動なんて限られている。それに、運動器具なんてみんながみんな持っているとも限らないし、重たくて移動が大変物が多い。となればやはり勉強なのか。そうか、勉強道具。中村君は筆記用具でも忘れてきて不安な表情を……。
 その推理には根本的な間違いがあった。
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