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42話
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尾形さんも緊張しているのか、目の前に置かれたお茶を一杯飲み深呼吸をしていた。
「それでは本題の方に入りましょう」
尾形さんが何を言うのか僕は固唾を呑んで見守った。
「単刀直入にお話しましょう。田尾沙也加さんは現在、勝慶寺で眠っています」
津川さんも薄々そう気付きながら必死に涙を堪えていたんだろう、その言葉を聞いた途端に声を出しながら泣いていた。そう言う僕もまた涙が勝手に目から出て来ていた。達川君だけは歯を食いしばって俯いていた。
「私の調査で分かった限りですが、彼女は自殺だったようです。死亡日時は、2024年8月19日でした。実家の裏山で母親の遺体と共に横たわっているのをたまたま通りがかった通行人が見つけました」
尾形さんの話なんてもはや聞いていられなくて、もう何が何だかわからない状態だった。そんな中、泣き声混じりの声で津川さんは僕に言った。
「瀬戸君……去年の8月19日って……瀬戸君のスマホを取りに行った日じゃない……」
そう言われてみればそうだ。と言うことは、沙也加は『ごめん、もう会えない』と書かれた紙は……自殺する前の最後のメッセージだったのか。
もし……もしもの話だけど……僕が沙也加の実家に自殺する前日に行っていたのなら……沙也加を止められていたのかもしれない。何で僕はいつもこうなんだ……大事な時にいつも行動できない……沙也加は最後の最後で僕にヒントを出してくれていた……それなのに……それなのに、僕は沙也加のメッセージに気付かずに沙也加を探そうとしなかった。沙也加は……沙也加は、自殺するのを僕に止めてほしかったに違いない……
考えれば考えるほど自分が情けなかった。自分の行動に後悔しかわかなかった。
隣で落ち着きを取り戻しつつあった津川さんが、尾形さんに話しかけていた。
「尾形さん……1つ質問いいですか?」
「何でしょうか?」
「沙也加のこと……どうして公になっていないのですか?」
そう言われてみれば。山で人の遺体が見つかったならニュースにでもなりそうだが、僕らは誰1人としてその情報を知らなかった。意図的に隠されたとするのが1番納得がいく。
「私も初めはそう思っていたのですが、ニュースにも新聞にも載っていました」
「え……どう言うことですか?」
津川さんは驚いていた。そう言う僕も心臓が飛び出そうなくらいに驚いていた。だって、沙也加の名を僕が見間違えるわけないから、もしどこかで見かけたならすぐにわかる。それに山根さんにも沙也加の名前は伝えている。警察官の山根さんからはそんな情報聞いたことない。
「失礼ですが、お三方は沙也加さんの母親の名前はご存知ですか?」
「いえ……私は知りません……」
「僕も……聞いたことがないです……」
「俺は関わりが深くなかったので、妹がいることも知りませんでした……」
「やはり3人とも知りませんでしたか。では沙也加さんの母親の旧姓を聞いたことはありませんか?」
「私は聞いたことがないです……」
「他お2人も同じですか?」
僕も達川君も頷くことしかできなかった。
「でもそれが何か関係あるのですか?」
「山根さんやあなた方が気付かなかったのはそれが原因です。沙也加さんたちは、父親が亡くなってから自分たちの苗字を変えていたのです。用意周到でまるで誰かから逃げているようですね」
「それで……沙也加たちは、どんな苗字になっていたのですか?」
「沙也加さんの母の旧姓は『富士川』と言います。それで調べてみてください」
そう言われてスマホで(富士川沙也加)と調べてみると、確かに出てきた。山中で自殺した遺体を見つけたという記事が。
『先日、山の中で見つかった遺体の身元が、富士川陽子さん(51)と娘の富士川沙也加さん(21)だと判明した。警察は娘の沙也加さんが母の陽子さんを殺害した後に自殺を図ったとみて捜査を続けている。』
記事の全文はこれだけだった。これ以降の情報は記されていなかった。
「沙也加が……沙也加が、お母さんを殺したということですか!」
津川さんは興奮していた。それを達川君が宥めていたけど、津川さんは収まることはなかった。
「落ち着いてください」
「落ち着いています! 沙也加がお母さんを殺したなんてあり得ません!」
「取り敢えず座っていただけますか?」
そう言われ津川さんは落ち着きを取り戻した。
「それで……沙也加は……」
「本当は見せていいものではないのですが、せっかく手に入ったので……」
尾形さんはそう言って部屋から出て行き、6枚の紙を持って戻ってきた。
「これは田尾沙也加さんが自殺する前に書いたと思われる遺書です。ここにことの全容が記されています。見るも見ないもあなた方の自由です。それと、これは知り合いの警察官の方にコピーをいただきました。外部に漏れるわけにはいかないので、書かれている内容を他人には話さないと約束できますか?」
「沙也加の遺書なら外部に漏らしたりはしませんよ……」
「そうですか。でしたら、私は席を外します。読み終わったら呼んでください」
尾形さんはそう言ってこの部屋を後にした。
僕らは沙也加の遺書を黙々と読んだ。
「それでは本題の方に入りましょう」
尾形さんが何を言うのか僕は固唾を呑んで見守った。
「単刀直入にお話しましょう。田尾沙也加さんは現在、勝慶寺で眠っています」
津川さんも薄々そう気付きながら必死に涙を堪えていたんだろう、その言葉を聞いた途端に声を出しながら泣いていた。そう言う僕もまた涙が勝手に目から出て来ていた。達川君だけは歯を食いしばって俯いていた。
「私の調査で分かった限りですが、彼女は自殺だったようです。死亡日時は、2024年8月19日でした。実家の裏山で母親の遺体と共に横たわっているのをたまたま通りがかった通行人が見つけました」
尾形さんの話なんてもはや聞いていられなくて、もう何が何だかわからない状態だった。そんな中、泣き声混じりの声で津川さんは僕に言った。
「瀬戸君……去年の8月19日って……瀬戸君のスマホを取りに行った日じゃない……」
そう言われてみればそうだ。と言うことは、沙也加は『ごめん、もう会えない』と書かれた紙は……自殺する前の最後のメッセージだったのか。
もし……もしもの話だけど……僕が沙也加の実家に自殺する前日に行っていたのなら……沙也加を止められていたのかもしれない。何で僕はいつもこうなんだ……大事な時にいつも行動できない……沙也加は最後の最後で僕にヒントを出してくれていた……それなのに……それなのに、僕は沙也加のメッセージに気付かずに沙也加を探そうとしなかった。沙也加は……沙也加は、自殺するのを僕に止めてほしかったに違いない……
考えれば考えるほど自分が情けなかった。自分の行動に後悔しかわかなかった。
隣で落ち着きを取り戻しつつあった津川さんが、尾形さんに話しかけていた。
「尾形さん……1つ質問いいですか?」
「何でしょうか?」
「沙也加のこと……どうして公になっていないのですか?」
そう言われてみれば。山で人の遺体が見つかったならニュースにでもなりそうだが、僕らは誰1人としてその情報を知らなかった。意図的に隠されたとするのが1番納得がいく。
「私も初めはそう思っていたのですが、ニュースにも新聞にも載っていました」
「え……どう言うことですか?」
津川さんは驚いていた。そう言う僕も心臓が飛び出そうなくらいに驚いていた。だって、沙也加の名を僕が見間違えるわけないから、もしどこかで見かけたならすぐにわかる。それに山根さんにも沙也加の名前は伝えている。警察官の山根さんからはそんな情報聞いたことない。
「失礼ですが、お三方は沙也加さんの母親の名前はご存知ですか?」
「いえ……私は知りません……」
「僕も……聞いたことがないです……」
「俺は関わりが深くなかったので、妹がいることも知りませんでした……」
「やはり3人とも知りませんでしたか。では沙也加さんの母親の旧姓を聞いたことはありませんか?」
「私は聞いたことがないです……」
「他お2人も同じですか?」
僕も達川君も頷くことしかできなかった。
「でもそれが何か関係あるのですか?」
「山根さんやあなた方が気付かなかったのはそれが原因です。沙也加さんたちは、父親が亡くなってから自分たちの苗字を変えていたのです。用意周到でまるで誰かから逃げているようですね」
「それで……沙也加たちは、どんな苗字になっていたのですか?」
「沙也加さんの母の旧姓は『富士川』と言います。それで調べてみてください」
そう言われてスマホで(富士川沙也加)と調べてみると、確かに出てきた。山中で自殺した遺体を見つけたという記事が。
『先日、山の中で見つかった遺体の身元が、富士川陽子さん(51)と娘の富士川沙也加さん(21)だと判明した。警察は娘の沙也加さんが母の陽子さんを殺害した後に自殺を図ったとみて捜査を続けている。』
記事の全文はこれだけだった。これ以降の情報は記されていなかった。
「沙也加が……沙也加が、お母さんを殺したということですか!」
津川さんは興奮していた。それを達川君が宥めていたけど、津川さんは収まることはなかった。
「落ち着いてください」
「落ち着いています! 沙也加がお母さんを殺したなんてあり得ません!」
「取り敢えず座っていただけますか?」
そう言われ津川さんは落ち着きを取り戻した。
「それで……沙也加は……」
「本当は見せていいものではないのですが、せっかく手に入ったので……」
尾形さんはそう言って部屋から出て行き、6枚の紙を持って戻ってきた。
「これは田尾沙也加さんが自殺する前に書いたと思われる遺書です。ここにことの全容が記されています。見るも見ないもあなた方の自由です。それと、これは知り合いの警察官の方にコピーをいただきました。外部に漏れるわけにはいかないので、書かれている内容を他人には話さないと約束できますか?」
「沙也加の遺書なら外部に漏らしたりはしませんよ……」
「そうですか。でしたら、私は席を外します。読み終わったら呼んでください」
尾形さんはそう言ってこの部屋を後にした。
僕らは沙也加の遺書を黙々と読んだ。
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