合同会社再生屋

倉木元貴

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違う世界 9話

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「私ね。自分の生死を偽造してまで何がしたかったのかと言うとね。さやちゃんと一緒になりたかったの。ずっと二人一緒の世界に行きたかったの。だから、それをどうすればできるのかずーっと考えていたの。で、漸く答えが出たんだ。だから、こうして会いに来たの。さやちゃんとずっと一緒に居られる世界だよ。最高だと思わない?」

 目の前には揺れているナイフが見えているこんな状況じゃあ、嫌でも頷くしかない。
 でも、‘ずっと一緒に居られる世界’ってのは何のことだろう?
 駆け落ちの様に、私を連れて何処かに行くのか? 
 それも悪くはないけど、顔の具合からしてそんなことではなさそうだ。

「ねえ、さやちゃん。一緒に……。一緒に天国に行こう」
 
 寒気? 恐怖? そんな言葉を聞いてしまったら首を横に振るしかできない。ナイフの当たらないギリギリの所で首を横に振り続けた。目からどれだけ涙を流そうとかなちゃんの想いは変わらない様で、視線もナイフもこちらを向いていた。

「か、かなちゃん? 私まだ死にたくないよ。お願いだから考え直してよ!」

 そんな私の訴えもかなちゃんの耳には届かなかった。

「さやちゃん、ごめんね。私、さやちゃんじゃなきゃ嫌なんだ。だれかとずっと一緒に居たいって生まれて初めて思えたんだ。だから、ずっと一緒に居て欲しい。何があってもさやちゃんの側から離れたくない」

 この言葉、好きな異性から言われたならば魅力的な言葉に聞こえるだろうが、状況は最悪だ。私はもうここで死んでしまう。
 尾形は、……外方を向いて黙認するつもりだ。

「じゃあ、さやちゃん。私に殺されてね!」

 もうなす術はない。私はもう殺される。死ぬのは嫌だけど、殺される。逃げ場はないし、そんな気力さえも無い。
 こういう時って目を開けて殺されているところを直に見るのか、それとも、目を瞑って気が付けば死んでいるのとは何方がいいのだろうか?注射や採血をされる時、この二手に大抵別れるだろうが私は目を開けて見るタイプだ。学生時代、友達と血を採りあう際にマジマジと見つめているから緊張して上手くできないと何度も言われた。
 あぁ、今はそんなことは関係ないか。後悔しかない人生だけど、潔く殺されるのは嫌だけど、説得も逃げ道もない。
 私の人生は詰んだのだ。
 目を瞑ったその瞬間、私の首元には今までに感じたことのない激しい違和感を感じた。その違和感は徐々に激しい痛みへと変わっていき、気が付けば痛みすらも感じない、無の世界に足を踏み込んでいた。
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