俺の部屋はニャンDK 

白い黒猫

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濡れ鼠の猫

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 六月二週目の半ばに関東は梅雨に突入した。徒歩通学の俺にとっては面倒な季節。
 しかも今年はかなり真面目に梅雨がきたようで、本当にシトシトジメジメしている。
 大学までの往復で傘をさしていても足下は濡れて、さらに大学やバイト先の効きすぎた冷房で冷やされるという状態の為に若干風邪までひきかけているような気がする。
 洗濯物も部屋で干すしかなく、そうするとどこか生乾きで微妙な仕上がりになる。そこでシングとお金を出し合ってコインランドリーまで足を延ばし乾燥機で態々乾かすという事をしている。

 この季節は地域猫たちにとっても憂鬱な季節なようで、公園にご飯を貰いにいって走って根城に戻るという姿を見かけている。
 サバとモノも雨の中窓の手摺に嵌るとはなく、アパートの横にあるランドリー室か玄関側にアパートに張り付くように居ることが多い。ここだと二階の廊下がひさしとなって濡れないからだ。
 困った時に玄関のドアの前にいることが多く、扉をぶつけて怒られる。
 アパートの構造は熟知しているのだろうに、何故かそこに座っているのか? とも俺は思うものの謝ってはおく。
 ぶつけられて絡み物品を請求するなんて当たり屋ではないだろうか?
 俺はバイトを終わらせ土砂降りの中アパートに戻り、傘を畳自分の部屋の前に来て足を止める。
 俺の部屋の前にグレーの濡れそぼった塊があった。
「お前ら、どうしたんだ!!」
 だってサバとモノが泥だらけで震えているのをみて思わずそう声をかけてしまった。
 俺の声でスアさんとシングが出てくる。そして全身びしょ濡れの二匹を見て目を丸くする。
「濡れ鼠ではないか」
 シングの表現は合っているのだが、猫が濡れ鼠って……なんか面白い。サバとモノには悪いが笑ってしまった。

「おいっ! ブルブルするなよ!!」
 サバが俺の腕の中で暴れながらシャワーを浴びている。
 水気を帯びた身体が不快なのかブルブルと震わせて水を飛び散らす。
 俺達は泥だらけになっていた二匹の猫を洗ってあげていた。スアさんが二匹の状況を見て驚き、ジローさんの家にある猫用シャンプーで二匹を洗うことにしたのだ。
 しかしコイツらは野良、そんな事に慣れている筈もなく大騒ぎになっている。モノは大人しくというか固まってくれたおかげで、そこまで苦労せずに洗う事は出来た。
 それをシングとスアさんに受け取ってもらってタオルとドライヤーで乾かしてもらっている。
 しかしサバは暴れる事、暴れる事。ジローさんと二人がかりでシャンプーをかけている。
 ジローさんがサバの耳とか目に入らないように気を使っているのに、暴れるから顔にもお湯が当たりそれでまた暴れるという事を繰り返している。洗ったことで毛がベッタリとなり一回り小さく貧相になったサバを、俺は外でタオルをもって待ち構えていたシングに渡す。サバのお蔭でジローさんも上半身ビショビショである。
 すっかり濡れてしまったTシャツ脱ぎながら苦笑している。
「ジローさんすいません。濡れてしまって。
 ……俺の服だと小さいですよね?」
 身長差が十センチ以上あるので、俺の服はキツそうだ。
「いや、どうせ上に帰るだけだから裸でも大丈夫だよ」
 確かに濡れたままよりその方が良さそうだ。夜のジローさんは浴衣ではなかったらしい。
 寝相悪くてはだけてしまうからTシャツにステテコを着ているとか。イケメンなせいか上半身裸でステテコ姿でも格好良く見える。まあ、最近室内着として流行っているプリントのついたステテコではあるが、等身が良いと何着ても決まるようだ。
 うっすらついた筋肉がまた良い感じで羨ましい。
「その棚にあるタオルを使って下さい」
 筋肉をいつまでもジロジロ見ているのもおかしいので、俺はカラーボックスで作られた棚の上段に丸めて収納されているタオルを指さす。この部屋の構造だと玄関の棚にタオルを収納してしまうのも仕方がない。
「それより乕尾はそのままシャワー浴びてしまった方がよいのでは、それこそ全身ビショビショだし」
 俺はジローさんの言葉に甘えて、そうする事にする。シャワー浴びている間も、部屋からサバの叫び声やスアさんやジローさんの宥める声とかで賑やかである。アイツはなんで虐待うけているかのような叫び声をあげるのか……。
「壁を走るなよ!」
 とか声を上げているが、何が起こっているのか……。しかもその後日本語でない言語が飛び交っていて、ますます状況が分からない。そもそもそれぞれは自国の言葉一方的に話しているだけで、会話はしていないようだ。いや、サバかモノに対して何か言っているのだろう。
 俺は扉にかかっている手を伸ばしてタオル取り、シャワー室の中で身体を拭く。そうしてから、さてどうするかと悩む。上半身だけシャワー室から出して部屋を見る。広げたバスタオルの上にジローさんがサバを軽く抑え、スアさんがドライヤーを手に優しく乾かしている。
「シング~そこにある俺の服適当にとってくれない?」
 一人暇そうに和室で雑誌を見ているシングに話しかける。しかしシングに不思議そうに首を傾げる。
「トラ、きて自分で取りいくればよいではないか?」
 ジローさんにも助けを求めて視線を向けるけど同じような表情している。スアさんだけが苦笑い。
「貴方達は本当にデリカシーない~! ここにアタシとサバとモノという乙女が三人いるのに、トラオがスッポンポンで歩ける訳がないじゃない!」
 シングとジローさんはスアさんのおどけたような言葉に笑った。
 シングは俺のクローゼットから下着とTシャツと短パンをとって持ってきてくれる。ニヤニヤしながら。
 その空気で、何となくシングとジローさんの不可解な表情の意味を理解した。
 二人にとってもスアさんは、女装している男友達なのだ。性同一性障害であるスアさんに対して偏見も蔑みの心はない。
 しかしスアさんに裸を見せる事が失礼だとか恥ずかしい事とかは思わないのだ。男同志だから。
 こういう問題は難しいなと感じる。まあ、もしかしてスアさんは自分の身体で見慣れているから、俺の肌かなんてみても平気かもしれない。でも俺は女性と思っているスアさんの前で裸では歩けなかった。

 俺はシングから服を受け取りシャワー室で着てから部屋に出る。
 二人の俺が気にしいだと、面白がっている空気どうしたものかも思う。誰も間違えてはいないし、悪い訳でもない。当のスアさんが取り敢えず明るくニコニコと笑っているから良いということにした。
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